夢の時間(とき)

オリジナルの異世界ファンタジー小説【ALCHERA-片翼の召喚士-】連載中です。

当ブログについて 

 

【 ようこそ! 】


初めまして、または、いつもありがとうございます。ユズキです。
当ブログでは、オリジナルの創作物をメインに、小説とイラスト、雑文などを掲載しています。時々マンガっぽいものとかも。
4年目に突入し、超不定期ではありますが、更新頑張りますのでよろしくお願いします。

※この記事は常にTOPに掲載されます。最新記事はこの記事の下から続きます。最新記事情報は、右サイドバーを見てください。


ALCHERA-片翼の召喚士-

ALCHERA-片翼の召喚士-
「片翼の召喚士の少女キュッリッキのハードスペクタクル恋愛ファンタジー」
総勢15名しかいない、世界最強を誇るライオン傭兵団。後ろ盾であるハワドウレ皇国副宰相ベルトルドにスカウトされ、ライオン傭兵団に入団することになった、レアと言われる召喚スキル〈才能〉を持つ少女キュッリッキ。アイオン族であるキュッリッキは、誰にも知られたくない辛いトラウマを抱えている。その為人付き合いが苦手な彼女は、今度こそはとライオン傭兵団の中に、自分の居場所を模索する。
架空の異世界を舞台に、不幸な生い立ちを持つ主人公キュッリッキが、ある事件をきっかけにして、仲間たちとの関係、初めての恋、己のトラウマと向き合っていく姿。そして、もう一人の主人公格ベルトルドの謎の思惑。それらが絡み合い、物語は進んでいく。

物語の傾向はシリアスですが、下ネタもあり、コメディもあり、恋愛もあり、バトルあり、血みどろもあります。長編ですが、難しいお話や言い回しは書けないので、気軽に楽しんでいただければと思います。
小説以外にも、設定やイラスト、ちょっとしたマンガなども公開中。

専用目次記事はコチラ⇒ALCHERA-片翼の召喚士-

《 最新話 》
・最終章:永遠の翼 ベルトルドからの贈り物(最終話)
ベルトルドとアルカネットのお別れ会から一夜明け、メルヴィンは目を覚ますと、隣に寝いていたはずのキュッリッキの姿が消えていることに気づく。探しに出た先でキュッリッキを見つけたメルヴィンは、思わぬ光景に驚きを禁じ得なかった。

 136 最終章:永遠の翼 ベルトルドからの贈り物(最終話) (2017/04/26更新)

※血みどろシーンや、性描写などの表現が含まれます。R指定はとくにしていません。少しでもそうしたシーンが不愉快に感じる方はご注意ください。

ALCHERA-片翼の召喚士- 】のマンガを描いてくださいました。ほんわか優しくて楽しい彼らを是非読みに行ってください!

明さんのブログはこちら⇒【 三日月の詩/はじめての、ファンアート 】

小説

  

眠りの果てに
貴族のお城にご奉公へあがったはずが、勉強やマナーを学ぶ日々。そして…。おとぎ話風をイメージした、15歳の少女インドラの物語。短編で完結済みです。

乗り換えまでには読み終わるかも?
練習に書いている、1話完結の読み切り短編集です。ジャンルはとくに決めてません。思いつくまま。

Counter Attack
更新停止中です。年内再開できる・・・かなあ?


イラスト

イラスト展示場所
当ブログに掲載したオリジナルのイラストを、ここで全てご覧いただけます。イラストだけご覧になりたい場合はご利用ください。

フリーイラスト
ちょっとしたアクセントなどに使って頂ければと、こちらで紹介しているイラストはご自由に使ってやってください。他の記事で載せているイラストはフリーではありませんのでご注意ください。あとたまにお題絵も。

キリ番リクエストイラスト ★現在次キリ番リク中止中★
当ブログの定めたカウンター数字を迎えたら、5名様までリクエストを賜り、描かせていただいています。こんな絵でもよろしければ、リクエスト参加してやってください。キリ番についての説明ページはこちら⇒『キリ番リクエストについて。

その他

twitter
あんまり呟いていないけど、わたしのツイッターです。フォローはご自由に。相互フォロー希望の場合は、必ず連絡を下さい。ナイ場合はしませぬ。

【 ランキング参加 】
しています。押してくださっている皆様、いつもありがとうございます。気が向かれましたら、応援ぽちっとお願いします!
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ 

category: 未分類

thread: 物書きのひとりごと - janre: 小説・文学

tag: ファンタジー  オリジナル  イラスト  小説 

△top

ALCHERA-片翼の召喚士- 136 最終章:永遠の翼 ベルトルドからの贈り物(最終話) 

 


ALCHERA-片翼の召喚士-
最終章:永遠の翼  ベルトルドからの贈り物(最終話) 136



 庭のプールサイドのデッキチェアに座って星空を見上げていると、サーラから声をかけられ、キュッリッキは顔を向けた。

「疲れたでしょう」

 そう言いながら、二つ並んだデッキチェアの真ん中に置かれたミニテーブルに、カットフルーツの皿と飲みもののグラスを置いて、サーラは空いている方のデッキチェアに座った。

「ありがとう」

 キウィジュースをストローで啜って、キュッリッキはニッコリと笑った。

 料理を作るのも男、片付けるのも男、それがウチの流儀! そうサーラが言い切ったので、リクハルドとメルヴィンはキッチンで片付けをしている。

 昼から大量のご馳走を前に、ベルトルドとアルカネットのお別れ会をした。

 もっぱら各両親たちから、彼らの幼い頃の話が披露(ばくろ)され、それに笑ったり、時には泣いたりと、酒の勢いも手伝って、賑やかに夜まで続いた。

 先程までの賑わいを思い出しながら、キュッリッキは少し複雑な気分だった。

 てっきり涙に暮れる、しんみりとした雰囲気に包まれ、厳かな気持ちで帰路に着くのだと思っていた。それなのにしんみりムードはほんのちょっぴりで、あとはもう賑やかに大騒ぎ。内心面食らってしまっていた。

 そのことを素直に話すと、サーラはくすくすと笑う。

「キュッリッキちゃんたちが来る前日にね、いーっぱい泣いたのよ」

 ビールを飲みながら、サーラは星空を見やる。

「多分ね、これから泣く日が増えるんじゃないかしら。今はまだ、本当の意味で実感が沸いていないんだと思う。昨日はリュリュちゃんから念話で知らされて、びっくりしてるうちに勢いで泣いちゃったの。レンミッキもそうだったし、つられ泣き、みたいな」

 寂しげに微笑み、再びビールを一口啜った。

「あの子、キュッリッキちゃんに優しかった?」

「うん、とってもとっても、優しくしてくれたの。いっぱい優しくしてくれて、いっぱい愛してくれた…。ベルトルドさんに出会う前、アタシ、愛してるって言われたことなかったの。だから、とっても嬉しかった」

 両手でグラスを握り、キュッリッキは俯いて表情を曇らせた。

「アタシ、生まれてすぐ捨てられちゃったから、お父さんとかお母さんて、どんなものか知らないの。でも、ベルトルドさんってお父さんみたいな感じで。リッキーって抱きしめてくれると、凄く心地よかった」

「ああ……本星であった、召喚スキル〈才能〉を持つ子を捨てたって事件の…」

 キュッリッキは小さく頷いた。

「あの事件は、本当に今でも腹立たしいわ。本星の連中の非道っぷりは、ヒイシに住むアイオン族の間では、非難ゴーゴーだったのよ」

 ムスッと顔をしかめたサーラに、キュッリッキはビクッと引く。

「アイオン族の美意識過剰ぶりって言うけど、あのことは、美意識なんかじゃないわ。人間として、親として、言語道断の振る舞いよ! 翼に障害がある子を守ることもせずに捨てるなんて……。とても酷いことをされたのに、こんなに良い子に育ってくれて」

 サーラは手を伸ばし、キュッリッキの頭を優しく撫でた。その手のぬくもりが温かくて、キュッリッキは甘えるように目を閉じた。

「アタシが変われたの、ベルトルドさんのおかげなの。ベルトルドさんが愛をくれたから、だからアタシ、メルヴィンに恋ができたの。人を好きになることができた」

「女好きのあの子にしては、上出来ね」

 自慢げにそう言って、サーラとキュッリッキは小さく笑った。

 サーラはベルトルドとキュッリッキが出会ってからの、日々の出来事を聞きたがり、キュッリッキは記憶をたどりながら丁寧に話した。時折サーラは茶化したり笑ったり、怒り出したりと、二人は沢山話を楽しんだ。

「私の知らないベルトルドを沢山聞けて、今日はいい気分。ありがとう、キュッリッキちゃん」

 キュッリッキは照れくさそうに、にっこりと笑った。

「キュッリッキちゃん、その胸の傷痕、自分でやったのね?」

 突如真顔になったサーラに言われ、キュッリッキは咄嗟に服で隠そうとした。

「あの子がキュッリッキちゃんにしたことは、一生許さなくていいのよ。むしろ、一生かけて責めて欲しいわ。ただ……、そこまでしなくちゃならない、そうまで追い込まれていたのかと思うと、哀れでならない。母親としてあの子の心を救ってやれなかったことは、私の一生の後悔よ。本当に、ごめんなさい」

 キュッリッキは小さく頷き、俯いた。

「31年……。あれからもう31年もの月日が経って、やっと解放されたんだわ…」

 リューディアへの想いからも、アルカネットの束縛からも。死ぬことで自由になれた一生は、なんと切なく虚しいのだろう。それでも、ベルトルドなりに生き抜いたのだと、サーラは強く頷いた。

「葬儀の時ね、ベルトルドさんとアルカネットさんの幽霊が出てきたの。でね、二人共笑顔で旅立っていったよ」

「そう……」

 サーラは悲しげな笑みを、キュッリッキに向けた。

「私もその場にいたら、きっと鉄拳を顔のど真ん中に見舞っていたでしょうね」

「えっ」

 霊体に攻撃をあてるなど、と思いつつ、サーラの拳ならきっと当たるかもしれない。そう思ってキュッリッキはガクブルしながら生唾を飲み込んだ。

 悲しさ半分、色々プラス怒り半分、というのが、今のサーラの心境だろうとキュッリッキは思った。

「ふぅ~、今日は星空も大盤振る舞いね。ほら見て、星の大河もあるでしょう」

 二人はデッキチェアに深々と寝そべり、空を彩る星星を見つめた。

 濃紺の夜空に煌く星たちは、皇都から見るよりもずっと明るく綺麗で、大きさも輝きも全然違っていた。光が雨のように降ってきそうで、それを想像すると自然と笑みがこぼれた。

「レディたち、お風呂が沸いたよー。一緒に入ってきたらどうかな」

 家の方からリクハルドが叫んでいた。

「そうね、一緒に入りましょうか。ウチのお風呂結構広いのよ」

「はいっ」



 キュッリッキとメルヴィンは、とても広いゲストルームに案内された。

 大きな窓が海に面していて、開け放たれた窓からは、潮騒が絶えず聞こえていた。

 ベビードールの寝巻きに着替えたキュッリッキは、蚊帳をめくりあげてベッドに飛び込む。洗いたての枕カバーやシーツからは、おひさまの匂いがした。

「気持ちがいいの~」

 うつぶせになってはしゃぐキュッリッキを見て、メルヴィンも微笑んだ。

「ベルトルドさんは、ここで生まれ育ったんだね。青い海で遊んで、明るい星空を見上げて。リクハルドさんの美味しいご飯を食べて、サーラさんに怒られて」

「そうですね」

 キュッリッキの横に寝そべり、メルヴィンは天井を見上げた。

「サーラさんと話してるとね、ベルトルドさんと話してるみたいな気分になっちゃった。ベルトルドさんって、サーラさん似なんだね」

「リクハルドさんにもよく似てましたよ……とくにこう、女性関連の話題になると、物凄く親子だなあ……と」

 二人は顔を見合わせ、そして吹き出した。

「ベルトルドさんは、両方に似てるんだね」

「紛れもなく親子ですね、ホント」

 ひとしきり笑うと、二人はなんとなく黙り込んだ。

 小さな灯りがなくても、星と月明かりでこんなにも室内は明るい。穏やかな波の音も、聞いていると癒される気分になった。

「アタシね、本当はここへくるの、ちょっとイヤだったの…」

 メルヴィンに腕枕をしてもらいながら、キュッリッキはメルヴィンにぴったりと寄り添った。

「ベルトルドさんやアルカネットさんのことを思い出して、涙が止まんなくなっちゃうって思ったから。いろんなこと思い出して、頭グチャグチャしちゃうって……でもね、来てよかった」

「リッキー…」

「サーラさんにいっぱい話をして、聞いてもらったからかな。ちょっとだけ心が軽くなった気持ちがするの」

「”母親”というものに、安心感を持ったんでしょう、多分ですが」

「……うん、そうだね。きっと、そうだと思う」

 ベルトルドやアルカネットとは違い、もっとキュッリッキの気持ちに寄り添ったアドバイスや回答をしてくれた。女同士というのもあるし、サーラは母親という立場に身を置くから、母親としての視点から言ってくれたこともあるだろう。

「そっかあ…あれが、お母さん、ていうものなんだね」

 父親も母親も、キュッリッキはどんなものか知らない。自分を捨てる存在だとしか認識していないからだ。

 いつか、自分も母親という存在になる日がくるのだろうか。もしそうなったとき、自分は母親として、やっていけるのだろうか。

 今は自信が持てそうもなかった。

「さあ、寝ましょう」

「うん。おやすみメルヴィン」

「おやすみなさい」

 メルヴィンはキュッリッキをしっかり抱きしめ、頭にキスをして目を閉じた。



 ――さあリッキー、目を覚ましてごらん。



 寝返りをうったところで、メルヴィンは目を覚ました。

 暫く薄ぼんやりとした目で天井を見上げていたが、隣に寝ているはずのキュッリッキがいないことにようやく気づいた。

「リッキー?」

 身体を起こして、蚊帳越しに室内を見回す。

 窓から白い光が柔らかく射し込んでいて、室内を薄く照らしているが、キュッリッキはいなかった。

 メルヴィンはベッドから降りると、ズボンを履いてシャツを羽織って前も留めず、部屋を飛び出した。

 階下へ降りてリビングを見てもいない。お風呂好きなのを思い出して、風呂場へ行くがそこにもいない。

 散歩に出かけたのかと思って外に出る。

 夜が明けてきて、外は穏やかに明るさに満ちようとしていた。

 適当にあちこちを歩き回り、ビーチにたどり着いたとき、ようやくキュッリッキを見つけた。そして声をかけようとして、メルヴィンは動きを止めた。

 キュッリッキは海の方を向いていて、じっと佇んでいる。細い足首が、波の中に沈んでいた。

 こちらに背を向けているが、その後ろ姿にメルヴィンは心底驚いた。

 大きく開かれた、純白の翼。陽の光に照らされて、不可思議な輝きを放つ虹色の光彩。

 右に開いた大きな翼。そして、左に開かれた、小さな翼。

 やがて、何かの気配を感じたのか、キュッリッキはゆっくりと振り向いた。

「メルヴィン…」

 キュッリッキは戸惑うような笑みを、メルヴィンに向けた。

「あ、あのね…、急に背中がムズムズして痒くなってきて、目が覚めちゃったの。それでね、どんどんムズムズするから、外に出てきてね、それで、それで…」

「リッキー」

 メルヴィンはキュッリッキに駆け寄ると、ギュッと抱きしめた。

「あのね、翼がね、あのね、あのね」

「生えてます。白くて、小さくて可愛らしい翼が」

「うん…」

 感極まって、メルヴィンは全身が震えた。

 キュッリッキはまだどことなく呆けたように、自分の身に起こったことを理解できずにいるようだった。

 以前見たときは、羽をむしり取られ残骸のような形をしていた左側の翼。しかし目に映る左側の翼は、小さくて子供が生やすような大きさだが、紛れもなく美しい白い翼なのだ。

「どうやら、無事生えたようね」

 ハッとして二人は声の方を向く。笑顔のリュリュが立っていた。

「無事生えたって、どういうことですか?」

「小娘の、その左に生えた翼のことヨ」

 キュッリッキは不安そうにリュリュを見つめた。

「以前、ナルバ山の遺跡で大怪我をしたでしょ」

「うん」

「怪我も治ってきて、一度ハーメンリンナの病院に、検査入院をしたことがあったわね。その時に、ヴィヒトリがちょちょいと治しちゃったの」

「……治し…た?」

「そうよん。治してくれたのよ」

「誰にも、治せないんじゃないの…?」

 怪訝そうに言うキュッリッキに、リュリュは微笑みながら首を横に振る。

「ちゃんと治してもらってるじゃない」

「だ…だって…」

 それなら、自分はどうして捨てられたのだろうか?

「あーたの両親が、医者にも見せなかったってことネ。もし見せていれば、もっともっと早い段階で、治っていたかもしれないっていうのに」

 ますます複雑な表情を浮かべ、キュッリッキは足元に視線を落とした。

「ベルがね、言ったのよ。”リッキーが本当に幸せになるためには、どうしても片方の翼を治してやらないといけない。リッキーの不幸の原因を取り除いてやらないと、あの子には一生、本当の意味での幸せは訪れないんだ”ってね」

「ベルトルドさんが…」

「ナルバ山での怪我の治療をさせる一方で、左側の翼の原因をヴィヒトリに調べさせて、それで検査入院の時に、傷痕の治療をしながら背中もちょろっといじったのよ」

 リュリュはくねっと腰を曲げて、そばの木の幹にもたれかかる。

「いつ結果が反映されるか、ヴィヒトリも判らないって言ってたわ。1年先か2年先か。でもどっこい、案外早かったわね」

 くすくすっとリュリュは笑った。

「ベルはいつもあーたのことを考えてたわ。その翼は、ベルからの贈り物よ。おめでとう小娘、良かったわね。もう片翼じゃない、両翼になったのよ」

「おめでとう、リッキー」

 大きく見開いた目から、大粒の涙が沢山沢山、波の上に落ちた。信じられない、といった顔で、メルヴィンを縋るように見上げる。

「アタシ、空を飛べるようになるの?」

 憧れた、あの、高くて青い青い空。風を受け、鳥のように羽ばたきたいあの大空へ。

「ええ」

「本当に?」

「はい」

 メルヴィンは嬉しそうに返事をした。

 涙目でメルヴィンを見上げながら、キュッリッキの脳裏には、幼い頃の日々が蘇っていた。

 片方の翼がないことで、同族から心無い仕打ちを受け続け、虐められてきた。

 守ってくれる大人もいない、蔑みと冷たい目が常に向けられていた。鏡に映る自分を見つめ、いつか右側と同じような翼が生えてくると信じていた。でもそれもいつか諦めとなり、翼のことを隠して孤独に生きてきたのだ。

 翼は嫌な思いしかもたらさない。全ての不幸の象徴だった。

 そんなみっともないと言われ続けた片翼の自分を受け入れて、愛してくれた最初の人はベルトルドだった。

 いつも度を超すほどの愛情で、優しく包み込んでくれた。

 今はメルヴィンと結ばれて、身も心も幸せだ。不幸な事なんて、もう何一つないと思っていた。――その筈だったのに。

 片翼であることは、心の奥底でずっと錘となって、常に苛まれていた。これまでの不幸な生い立ちの、最大の原因だからだ。メルヴィンと幸せになったとは言え、まだこんなに大きくて忘れることもできない傷として、心に巣食っているのだから。

 ベルトルドには、そのことまでもお見通しだったのだ。

「ベルトルドさん…」

 キュッリッキはメルヴィンのシャツをぎゅっと握り締め、もっと涙をあふれさせる。

「ベルトルドさん、ベルトルドさん」

 ありがとう、ありがとう、ありがとう。心の中で何度も何度も、繰り返しありがとうを言った。感謝と恋しさと、会えない寂しさで、心の奥底から奔流のように溢れ出して止まらない。

 異性としての愛情はもてなかったが、今でもこんなに大好きでたまらないと痛感する。

 あとはもうメルヴィンの胸に顔をうずめて、ひたすら泣きじゃくった。

「リッキー…」

 メルヴィンはキュッリッキを強く抱きしめ、頭をそっと撫でてやった。

 まだまだベルトルドにはかなわない、そうメルヴィンは思って自嘲する。

 キュッリッキと出会ってからは、ベルトルドと同じだ。恋をして、愛を深める期間はメルヴィンのほうが若干遅い。しかし、今は愛する深さと重みは負けないつもりだった。

 心の奥深くでキュッリッキを苦しめる元凶に、気づいてやれなかったことを、悔しく思うし自分が情けない。たとえサイ〈超能力〉があったとしても、果たして自分は気づいてあげられたのだろうか。

 まだまだ自分は人間として、男として、キュッリッキの恋人として、未熟なのだと改めて思い知らされた。

 最後の最後まで、ベルトルドに完敗したような気分にさせられてしまう。でも、これまでのキュッリッキを救ったのはベルトルドでも、これからのキュッリッキを愛し、守り続けていくのは自分だけなのだ。

 自分のやり方で、自分にしかできない愛し方で、この先ずっとキュッリッキを守り続ける。そう決意を新たにし、メルヴィンは誓うように天を仰いだ。

 リュリュは二人に優しく微笑み、そして空を見上げる。

「よくやったわ、ベル。あーたの想い、ちゃんと花開いたわよ。これであーたの罪が許されるわけじゃないけど、好感度は戻してあげてもよくってよ」 


最終章:永遠の翼 ベルトルドからの贈り物(最終話) 終わり



135 最終章:永遠の翼 シャシカラ島の家族

目次へ戻る

category: ◆ALCHERA-片翼の召喚士-

thread: オリジナル小説 - janre: 小説・文学

tag: オリジナル  ファンタジー  小説 
tb: 0   cm: 0

△top

ALCHERA-片翼の召喚士- 135 最終章:永遠の翼 シャシカラ島の家族 

 

御大たちのご両親が登場です。そして、次回で最終回。の予定。

今月中に書き上げられるかな・・・頑張って書こう!




ALCHERA-片翼の召喚士-
最終章:永遠の翼  シャシカラ島の家族 135



 明るい陽の光に起こされて、メルヴィンはゆっくりと目を覚ました。プライベートバルコニーのほうから、室内いっぱいに陽光が射し込んでいる。寝る前にカーテンを閉め忘れたようだ。

 腕の中を見ると、キュッリッキはまだ眠っていた。とても穏やかな寝顔だ。

 無防備で愛らしい寝顔を見つめ、起こさないようにじっとする。

 リュリュが手配してくれたこの部屋は、この船で最上級のスイートルームだった。とても船の中とは思えないほど、贅を凝らした内装である。一介の傭兵風情が泊まれるような部屋ではないが、キュッリッキと一緒になるということは、こうした上流環境もセットでついてくるということになるのだ。

 一昨日見せられた書類の中身を思い出し、メルヴィンは軽いめまいを感じてため息をついた。

「う…ん…」

 身じろぎして瞼を震わせると、キュッリッキは目を覚ました。

「すみません、起こしちゃいましたね」

 申し訳なさそうに言うメルヴィンの顔を見上げ、キュッリッキは小さく微笑む。

「……んーん、もうそろそろ6時じゃないかな」

 サイドテーブルに置かれた時計を見て、メルヴィンは苦笑する。

 黄金でできた針は、まさに6時を指そうとしていたからだ。

「リッキーの体内時計は、ほんと正確ですね」

「えへへ、習慣だもん」

 キュッリッキはくすっと笑い、そして自分からメルヴィンにキスをした。

「もうちょっと、こうしていたいなあ~」

「かまいませんよ」

 嬉しそうに微笑むと、キュッリッキを抱き寄せ、額に口付ける。

 二人はしばらく抱き合いながら横たわっていたが、突然ドアをノックする音がして顔を見合わせた。

「オレが出てきます」

 メルヴィンは身体を起こすと、裸の上にバスローブを羽織ってドアを開けた。

「オハヨウ、よく眠れたかしらん?」

「おはようございます。とてもよく眠れました」

 すでに身支度を整えているリュリュだった。

 その姿をじっと見つめ、メルヴィンは目を瞬かせる。

「ん?」

「あ、いえ…その…」

「なぁによぅ?」

「……私服も男物を着るんですね…」

 リュリュは表情を動かさず、メルヴィンの頭をチョップした。

「オカマが男物着ちゃ悪い?」

「い、いえ、そんなことは」

 淡い若草色のコットンの半袖シャツに、白いスラックス姿である。ごく普通の、夏場の男性の服装だ。

 いつも化粧はバッチリしているが、女性の服装をしている姿は一度も見たことがなかった。

「外見で性別を主張することはヤメたの。ベルたちとハワドウレ皇国の学校へ進学する頃にね。どんなに外見を変えようと、身体は男だもの。でも、アタシは女よ。自分でそのことがちゃんと判っていればいいわ。メイクは欠かせないけどネ」

 なるほど、とメルヴィンは生真面目な顔で頷いた。

「性転換しようかとだいぶ悩んだンだけど……て、ンもう、話が脱線しちゃったじゃない。7時には朝食が食べられるから、支度していらっしゃい」

「判りました」

「それとあーた」

「はい?」

「昨夜は小娘に手を出さないようにって言ったでしょ」

 バスローブからはだけて見える鍛えられた逞しい胸に視線を固定させ、リュリュは叱るように言う。

「ちっ、違いますって! 暑いので裸で寝ていただけです。やってません!」

 顔を赤らめて慌てるメルヴィンに、リュリュはくすくすと笑う。

「あーたのアレ、ベルのモノに匹敵するほど立派だから、あんまり毎日やると、小娘壊れちゃうからホドホドにネ」

「リュリュさんっ!」

「ハイハイ。早く着替えていらっしゃいね」

 からかうような笑い声を立てて、リュリュはダイニングのほうへ歩いて行った。

 渋面でリュリュを見送って部屋に戻ると、ベッドの上に座って、キュッリッキが首をかしげていた。

「何を話していたの?」

 たっぷり間を置いて、メルヴィンはガックリ肩を落とした。

「……ええと……朝食は7時からだそうです」

「ふにゅ?」

「あと30分くらいですね、着替えましょうか」

「うん…」

 思いっきり疲れた表情で言うメルヴィンを、キュッリッキはひたすら不思議そうに見つめていた。



 着替えてダイニングへ行くと、ブッフェで好きなものをトレイにのせ、バルコニーの席に3人は座った。朝でも陽射しが強いので、白い布の張られた大きな傘がさされていた。

「小娘にこれ渡しておくわ」

 そう言ってリュリュは日傘を渡した。

「すでにもう陽射しの強さで判ると思うけど、火傷しちゃうから日傘さしてなさいね。あと、UVケアの日焼け止めも、ちゃんと塗っておくのよ」

「うん、ありがとう」

 真夏のような気温になっていて、ノースリーブのワンピースの上に、薄手のカーティガンを羽織って陽除けをしていた。

「あーたは平気そうね」

 メルヴィンの方を見て、リュリュは鼻を鳴らす。

「オレは大丈夫です」

 帰る頃には真っ黒に日焼けしていそうだと、メルヴィンは苦笑した。

「ゼイルストラは1年中こんな暑さよ」

「よく生きてられますね…」

 手でパタパタ顔を扇ぎながら、メルヴィンがげっそりと言うと、リュリュはくすくすと笑った。

「住めば都よ。ほら、アーナンド島が見えてきたわ」

 リュリュが進行方向を指すと、煌く光をまぶした青い海の向こうに、大きな島が見えていた。

「あれがアーナンド島。ゼイルストラ・カウプンキの中心島よ」



 豪華客船が港に接岸すると、続々と沢山の人々が下船していった。

 メルヴィンに手を引かれながら桟橋を降りきったとき、素っ頓狂な声がかけられて、キュッリッキは目を瞬いた。

「リューディアちゃん!?」

 ドスドスと駆け寄ってきた女性は、キュッリッキの双肩を掴むと、グイッと顔を突き出してマジマジとキュッリッキを見つめた。

「ンもー、早とちりしないでよ、サーラおばちゃん」

「リュリュちゃん!」

 女性はキュッリッキから離れると、すかさずリュリュに抱きついた。

「久しぶりねサーラおばちゃん」

「ホントだわ、何年ぶりかしら。すっかりいい大人になっちゃって」

「おばちゃんは相変わらず、若くて美人ね」

「おほほ、ありがとう」

 面食らって目を瞬いているキュッリッキとメルヴィンを向いて、リュリュが女性の両肩に手を置く。

「あーたたちに紹介するわね。こちらはサーラ、ベルトルドのお母さんよ」

「は、初めまして。メルヴィンと申します」

 メルヴィンは鯱張って頭を下げる。やけに若いなと、内心つぶやきながら。

「キュッリッキです」

 以前ベルトルドの記憶で見せられたサーラの姿と、ほとんど変わっていない。

 アイオン族は成人すると、外見の老化がとても遅くなる。ヴィプネン族と比べると、20歳前後の開きが出てくるのだ。

 快活そうな美人で、ベルトルドと同じ髪の色をしていて、オシャレに短くカットしている。こんな強い陽射しの強い国で暮らしているだろうに、肌は日焼けもしておらず綺麗に白い。

 半袖のラフなシャツにデニムの短パンを履いている姿は、ほっそりとしているが躍動的で、じっとしていることを由としない雰囲気をまとっていた。

 こうして改めて見ると、ベルトルドは母サーラに似ているような気がすると、キュッリッキは思った。

「いきなりごめんなさいね。初めまして、サーラです。遠くからようこそ」

 明るい声とにっこり笑う顔は無邪気で、ますますベルトルドとよく似ていた。

「リュリュちゃんたちがくるって連絡もらってたから、迎えに来たのよ。みんな島で待っているわ。行きましょう」

 笑顔のサーラに促されて、3人は頷いた。



 サーラの操縦するクルーザーに乗って、4人はシャシカラ島を目指した。

 真っ青な空と紺碧色の海。船がたてる波しぶきは、太陽の光に反射して白銀色に煌き、今が秋だという雰囲気は微塵も感じない。何もかも色が濃くて明るさに満ち溢れている。

 大きさが様々な小島の間を縫うように、クルーザーは突き進んでいた。

「懐かしい風だわあ」

 風で帽子が飛ばされないように両手で押さえ、リュリュは気持ちよさそうに息を吸った。

「10年くらい前かしら? 一度戻ってきたっきり、ベルトルドもアルカネットちゃんもリュリュちゃんも、全然里帰りしてこないんだから」

「皇国の要職に就いてるから、色々忙しくって」

 リュリュは短く言うにとどめた。実際目の回るような忙しい日々で、仕事に忙殺されていたのもある。ベルトルドたちの計画の妨害工作もまた、忙しかったのだ。

「それにしても、キュッリッキちゃんは本当にリューディアちゃんにそっくりね。クスタヴィもカーリナも、びっくりしちゃうわよ」

「そうねん…。――元気にしてるかしら、あの二人」

「ええ、見た目は随分老け込んだけど、元気に働いているわよ」

 二人の会話を黙って聞きながら、キュッリッキは以前ベルトルドに見せられた過去の記憶の中で、リューディアが死んだあとのリュリュ親子の、悲しい場面を思い出していた。

 リュリュの口調やサーラの表情から察するに、あれ以来あまり良好な関係には戻れていないようだ。

 親に酷い言葉と態度で拒絶される悲しみを、リュリュも味わっていたのだと思うと、キュッリッキは自分のことのように胸を痛めた。

 捨てられたわけではないから、リュリュには生まれ故郷がある。しかしこうして不本意な帰郷を果たすことになり、リュリュもまた沢山の複雑な想いを背負っているのだと、キュッリッキはそのことを、ようやく思いやれるようになっていた。

 他愛ないお喋りをしながら、クルーザーはシャシカラ島へたどり着いた。

「やあ、おかえりサーラ」

 島の小さな港で、背の高いハンサムな男が笑顔で手を振っていた。

「ただいまリクハルド」

 サーラも笑顔で手を振り返し、器用にクルーザーを接岸させる。

「みんな家に集まってるよ。――おかえりリュー君、遠いところ疲れただろう」

 手を差し出しながら、リクハルドがリュリュを出迎えた。

「お久しぶりね、リクハルドおじさん。改めて来ると、ホント遠いわ、ここ」

 苦笑しながら手を握り返し、リュリュは後ろを振り向く。

「お客様を二人連れてきたわ。おじさんの美味しい昼食が楽しみね」

 次にメルヴィンが名乗りながら降りて、最後にキュッリッキが降りる。

「えっ!? リューディアちゃん???」

 青灰色の瞳がこぼれ落ちそうなほど目を見開き、リクハルドはキュッリッキの顔を食い入るように見つめた。

「違うわよ、ンもう。夫婦揃っておんなじ反応で笑っちゃうわね」

「えっと……キュッリッキです」

 どんな表情をとればいいか困りながら、キュッリッキは肩をすくめ名乗った。

「小娘、あと4人分同じリアクションが待ってるから、覚悟なさい」

「……」



 リクハルドに案内されて、彼の家へと向かう。

 ログハウスのような、大きくて素敵な家が出迎えてくれた。

「さあ、遠慮しないでくつろいでくれ」

 ドアを開けてスタスタ入っていくリクハルドに続いて、3人は家へと入る。

 家の外観は見たままの丸太を積んだようなものだったが、内装は真っ白な漆喰を壁に塗り固め、天井などはログの雰囲気を生かした作りになっている。濃い緑の観葉植物が所々に置かれて、目に優しく明るく綺麗だ。

 広々としたリビングに通された3人は、新たな4人の人物に迎えられた。

「リューディア!?」

 いの一番に素っ頓狂な声を上げたのは、白い毛が混じった頭髪の男だった。そして、それに呼応するかのように、次々に「リューディア」と声があがる。

「チガウわよ、パパ」

 ずいっと身を乗り出し、片手を腰に当てたリュリュがぴしゃりと言い放つ。

「小娘も困ってるでしょ。この子はキュッリッキっていうの。そしてこっちはメルヴィンよ」

 紹介されて、二人は軽く会釈した。

「そ……そうか…」

 驚きの表情を浮かべたまま、男は自らに言い聞かせるように何度か頷いた。

「紹介するわね。こっちがアタシのパパでクスタヴィ、ママのカーリナ。こっちはアルカネットのパパのイスモ、ママのレンミッキよ」

 イスモとレンミッキは、ベルトルドの記憶で見た姿とあまり変わっていない。二人もまたアイオン族だ。

 一方リュリュの両親は、すっかり年老いている。しかし、記憶で見た若い頃の面影は健在だった。

 紹介された4人は動揺はそのままに、それぞれ短く挨拶をして座った。

「さあ、3人とも座りなさい」

 リクハルドがすすめてくれたソファに、3人は並んで座った。

 丸いガラスのテーブルを挟んで、7人は向かい合って黙り込んだ。相変わらず両親たちはキュッリッキをマジマジと見つめ、その視線に落ち着かない気分で、キュッリッキは内心ため息の連続だ。

 延々会話の糸口が見つからないまま、静かなリビングには波の音と、時折小鳥のさえずる声が聞こえてくるだけだった。

「喉が渇いただろう。俺特製のスペシャルハーブアイスティーをどうぞ」

 大きなグラスに琥珀色のアイスティーがなみなみと注がれ、氷がカランっと音を立てて涼しげだ。

 リクハルドは3人の前にそれぞれ置くと、一人用のソファに座る。

「お待たせー……って、なあにこの辛気臭い雰囲気は」

 サーラはリビングの雰囲気にちょっとひきつつ、リクハルドの座るソファの肘掛に腰を下ろした。

「まあ、アタシたちが来たのは、辛気臭い用事でなんだケド…ね」

 リュリュは軽く肩をすくめ、そして足元に置いてあったカバンの中から、二つの小さな柩のような箱を取り出し、テーブルに並べた。

「察しは付いていると思うケド、こっちはベルトルド、こっちはアルカネットの遺灰が入っているわ」

 サーラ、リクハルド、イスモ、レンミッキの4人は、形容しがたい表情で、我が子の遺灰の収められた箱を見つめていた。

 ベルトルドとアルカネットが死んだ旨は、あらかじめサーラとレンミッキに伝えてある。詳細は報せていないが、葬儀の都合で連絡する必要があったのだ。

「そう…。こんなになっちゃったのね…」

 サーラはベルトルドの柩を手に取ると、そっと頬ずりした。

「俺たちより早く逝くんだろうな、とは、もうだいぶ前から漠然と思っていたんだよ。片方の翼を引きちぎって、リューディアちゃんの墓前に供えたって姿を見たときに」

 リクハルドは悲しげに顔を歪め、我が子の柩に片手を乗せる。

「死ぬなら好きな女の上で励んで死ねよ、って言い含めておいたんだけどなあ。違うんだろ?」

「ええ、残念ながらチガウわ…」

 悲しみの表情と言動が一致しないリクハルドを見て、メルヴィンは内心、

(親子だ……)

 と、ため息をついた。

「アルカネットは、どの人格で死んだのかしら…?」

 目に涙をいっぱい浮かべたレンミッキが言うと、リュリュはキュッリッキを見た。

「えと、優しいアルカネットさんだよ」

 アルカネットが多重人格であったことは、キュッリッキはまだ聞かされていない。しかし人格、という言い方で、薄々察しが付いていた。

「そう……」

 涙をこぼしながら、レンミッキは我が子の柩を胸に押し抱き、イスモは妻の肩を抱き寄せ泣いていた。

「強大な魔法スキル〈才能〉を持ち、訳のわからない人格が色々出てきて、怖かったんだ…。自分の子だというのに。だから家を出て遠い学校へ進学すると聞いたときは、正直ホッとしてしまった。――手元に置いて育てた時間のほうが短いのに、やっぱり悲しいな」

 後から後から、涙がこぼれて服を濡らしていく。

 イスモの本音は、リュリュやサーラ達にも理解出来た。たとえ我が子だとしても、深い部分まで理解しあうのは難しい。ずっと離れて暮らしていたからなおさらだ。こんな灰の姿で帰郷されてしまい、イスモもレンミッキも、沢山の無念と後悔を噛み締めていた。

 リュリュはゆっくりと、これまでの経緯を語りだした。

 ベルトルドとアルカネットの両親には、聞く義務がある。そして、包み隠さず報告する義務もまた、リュリュにはあった。

 一連の事件の始まりは、このシャシカラ島から起こったのだから。



 リュリュから話を聞き終えた6人の親たちは、様々な表情をたたえて黙り込んでしまった。

「オレたちのリューディアの死が、二人をそこまで追い込んでしまったなんて…」

 真っ先に口を開いたクスタヴィは、沈んだ表情で、手にしていた古ぼけた写真をそっと撫でる。

「気にすることはないのよクスタヴィ。ベルトルドもアルカネットちゃんも、もう立派な大人よ。自分たちで選んだことで死んだのなら、本望でしょう」

 どこか拗ねるような顔をしながら、サーラはきっぱりと言い切った。

「それに、なんの関係もなかったキュッリッキちゃんを巻き込んで、辛い目に遭わせてしまったことを、あの子の親として心からお詫びするわ。本当にごめんなさいね」

 サーラに頭を下げられ、キュッリッキは小さく首を横に振った。

「大丈夫なの。ベルトルドさんもアルカネットさんも、謝ってくれたし。今はメルヴィンが一緒にいてくれるから、もう大丈夫」

 キュッリッキはメルヴィンの手をきゅっと握ると、サーラに柔らかく微笑んだ。そんなキュッリッキの顔を見て、サーラは救われたように微笑み返し、何度も頷いた。

「あの子がここにいたら、ジャンピング・ニーパットからムーンサルトプレス、とどめにパイルドライバーね」

「あらあらサーラちゃん、逆エビ固めも使っておかなきゃ…」

 握り拳で物騒なことを言うサーラに、レンミッキが暗い笑みを浮かべて参戦する。

「ベルトルドとアルカネットが生きてここに帰ってきたら、100パーセント実行されるところだよ」

 小声でリクハルドが言い、イスモも同意するように深く頷いた。

「深い血のつながりを感じるかも…」

 薄笑いを浮かべ、キュッリッキは呟いた。ロキの血は、この二人の母親が継いでいるのだから。

「ところでリュリュ、今日は泊まっていけるんだろう?」

 遠慮がちにクスタヴィが割って入ると、リュリュは壁にかけられた時計に目を向ける。

「そうねえ……今から急げば船に間に合うから、泊まっていく必要はないかしら」

「そんな」

 カーリナが悲しそうに声を上げると、

「もう! 泊まっていきなさい3人とも!」

 ずずいっと身を乗り出し、サーラが奮然と言う。

「リュリュちゃんは自分の家へ、キュッリッキちゃんとメルヴィン君は、ウチに泊まってちょうだいね」

「皇都復興やら他にも業務があ…」

「いい加減もう、許してあげなさい!」

 両手を腰に当てて、サーラは深々とため息をついた。

「あれからもう31年も経ったのよ。二人はずうっと反省しているし、それに私たちも老いたわ。外見はどうあれ、寿命はヴィプネン族もアイオン族も、同じなのよ」

 クスタヴィとカーリナは、縋るようにリュリュを見つめた。

「ベルトルドもアルカネットちゃんも死んでしまった。この島の子供で生きているのはリュリュちゃん、あなただけになってしまったわ」

「サーラおばちゃん…」

「全部でなくていいの、ちょっとずつ話をして、今度帰ってくるときに笑顔でただいまって言えるように、今日から話し合っていきなさい」

 リュリュはちらりと両親を見て、小さく嘆息した。そしてサーラを見上げ、苦笑し頷く。

「そうね、そうするわ」

 サーラはにっこりと笑った。

「でも、明日には帰らせて。アタシほんとに仕事が山積みなのよ、ベルとアルのせいで」

「そのことはもう、ごめんなさいね。この箱、生ゴミ捨て場に埋めてきていいわよ」

 我が子の遺灰の詰まった箱を取り上げ、リュリュに差し出す。

「……さすがにお墓に埋めてあげて、サーラおばちゃん…」

「あら、そう? 残念ねえ」

(やっぱり親子だ……)

 メルヴィンは背中で汗をかきながら、内心げっそり呟いた。

「さあさあみんな、こっちへおいで。ベルトルドとアルカネットのお別れ会をしよう」

 キッチンからリクハルドが大声で呼んだ。

「昨日から沢山料理を仕込んであるんだ。沢山食べて、沢山飲んで、懐かしい話でもしようか」

「そうね、そうしましょ」

 サーラはキュッリッキとメルヴィンの手を取ると、ニッコリと笑った。

「さあ、いらっしゃい」


最終章:永遠の翼 シャシカラ島の家族 つづく



134 最終章:永遠の翼 葬儀のあとで

目次へ戻る

category: ◆ALCHERA-片翼の召喚士-

thread: オリジナル小説 - janre: 小説・文学

tag: オリジナル  ファンタジー  小説 
tb: 0   cm: 0

△top

ALCHERA-片翼の召喚士- 134 最終章:永遠の翼 葬儀のあとで 

 

ちょっと前から、右カラフの整理整頓をしています。著作表示のとこなど、文字色変えたけど見栄えが悪いので、キャラアイコンを入れて見やすくしてみて、カテゴリーも整理しました。

小説は専用の目次ページを作って、そこへ導線を引いているんだから、カテゴリーを複雑にしたってしょうがないよなあと。

カテゴリーの整理をする気になったのは、もうじき【 ALCHERA-片翼の召喚士- 】が終わり、新作などを追加していくうえで、また縦にびろーんと長いのもわかりづらいかなって思ったから。それに、案外TOP固定記事からのリンクに慣れてるヒトが多いらしいし。ことこうした小説掲載ブログだと。ゲームのプレイ日記になると、固定記事ってほとんどナイけど(笑)

あと2話くらいで終わるかな、て感じです。




ALCHERA-片翼の召喚士-
最終章:永遠の翼  葬儀のあとで 134



「っとに、あのオヤジどもおおおおおおおおお!」

 握り拳を作り、片足をテーブルに乗せ、椅子の上に立つザカリーが吠えた。

「なぁにが『さらばだ! 愛すべき馬鹿ども!!』だってゆー!」

「いやあ~、最後の最後まで、ベルトルド様らしくって、貫いてたよねえ~」

 テーブルに頬杖をつきながら、ルーファスが感慨深げに何度も頷く。

「しんみり、とか、感傷に浸る、て気分が、一瞬にして吹っ飛びましたね」

 簾のように長い前髪を払い除け、カーティスは呆れたように呟いた。

 ライオン傭兵団は、葬儀のあったハーメンリンナからキティラの屋敷に戻ってくると、食堂に集まって愚痴大会を催していた。

 使用人たちが軽食や飲み物などを運んできて、更に酒も追加されて気分はエキサイトだ。

「まぁ~さぁ~、おっさんらしぃい最後の締めくくりでえ、ブルーベル将軍腹を抱えて笑ってたわよぉ」

 綺麗な形の爪に真紅のマニキュアを塗りながら、マリオンがケラケラ笑いながら言う。

「あんな状況の中で笑ってられんのは、将軍くらいなもんだろう。神経が丸太並だからよっ」

 ビールをひっかけながらギャリーが言うと、食堂のあちこちから頷きが返ってきた。

 葬儀の中でキュッリッキが召喚の力を使い、呼び出した巨人には驚愕ものだった。これまで様々な奇跡を見せてくれたり、フェンリルやフローズヴィトニルなどの巨狼も目の当たりにしたし、フリングホルニではロキという名の神まで見せられた。今更何を見せられたって驚くものか、そうライオン傭兵団の皆は思っていた。

 しかしあの3体の巨人には、圧倒的な威厳を感じ、キュッリッキに声をかけることすら憚られた。壇上だけ別の世界の出来事になっているような、そんな錯覚さえ覚えるほどに。

 ところがである。

 3体の巨人が消えたあと、現れたのはベルトルドとアルカネットの幽霊。

 昨日フリングホルニで死闘を演じ、その死を見届けたばかりだというのに、もう化けて出てきているから、驚くよりも何故か腹が立っているライオン傭兵団の面々だ。しかも、死んで幽霊となっても、相変わらずの高慢で傲慢な居丈高で高飛車な上から目線の態度。それがより怒りを煽っている。

 さすがに幽霊の出現は、召喚の力によるものじゃないだろう。

「あのオヤジども、死んでちょっとは悲しい、とか思って損したぜ」

「化けて出てきちゃうほど、キューリちゃんが大好きすぎたってことだね」

 ザカリーを宥めながら、ルーファスはにっこりと笑った。

 キュッリッキを抱きしめている時のベルトルドの幸せそうな顔を思い出すと、気持ちが表れすぎて、切ないほど微笑ましい。キュッリッキにだけ見せていた特別な笑顔。本当に心の底から、愛していたんだとよく判る。それだけに、キュッリッキを傷つけ、死んでいったことが悔やまれた。

「なあ、巨人やおっさんたちとキューリが話してた、飛行技術を返せってのなんだ?」

 ザカリーは思い出したように誰にともなく言うと、カーティスは頷きながら座り直す。

「フリングホルニに向かう前に、リュリュさんから今回の事件の発端を話してもらった内容は、覚えていますね?」

「ああ。リュリュさんの姉貴が飛行技術を思いついて、それで神に殺されたって」

「ええ。ベルトルド卿はその飛行技術を、人間たちの手に返してもらうために、今回のような無茶なことをしでかしました。でも、志半ばで、我々に阻まれて失敗しましたよね。しかしその意思はキューリさんに引き継がれ、キューリさんは神々に訴え、飛行技術は人間たちの手に取り戻すことができた、ということです」

 それまで愚痴や酒に意識を傾けていた皆が、カーティスに視線を向ける。

「私は魔法スキル〈才能〉を持っていますから、空を飛ぶことは自由自在です。不便を感じたことはありません。だから、魔法やサイ〈超能力〉、アイオン族以外の人間たちが、空を飛べないことを、不思議だと感じたことがないんです」

 紅茶を一口すすって、カーティスは肩で息をつく。

「1万年前の出来事、というのは、リュリュさんからの話でしか判りませんが、人間たちから飛行技術を奪って、それを不思議にも思わせないようにしていた神々の意思もよくわかりません。けど、ベルトルド卿はあらゆる犠牲を払ってでも、それを取り返そうとして皮肉にも、傷つけた少女の手により飛行技術は取り返されました」

 あれだけ溺愛していたというのに、傷つけてまで成そうとした。そして、命を賭して成就した。

 あんなことまでして取り返した飛行技術が、この先人間たちにどんな幸運や不幸を与える事になるのかカーティスには興味がない。取り返せたといっても、今日明日にすぐ結果が出てくるわけではないからだ。

 もしかすると、飛行技術はついでで、リューディアという人の願いを叶えたいだけに無茶をしたのだと、そうカーティスは解釈しようとした。あのベルトルドにそこまでさせるリューディアという存在に、カーティスは若干の興味を惹かれたが、今となっては所詮儚い人たちになっている。

 自身が死ぬことを想定して、事後処理や諸々をリュリュに託していたことが、なんとも言い難い。死ぬつもりでやっていたのかと思うと、殴りたい衝動に駆られる。

 最後まで無茶苦茶を押し付けられたが、ベルトルドがライオン傭兵団に遺してくれた金銭的なものは、計り知れない額である。それに今後リュリュが後ろ盾となり、軍や行政との渡りもつけてもらっている。仕事の依頼も変わらず困ることはなさそうだ。

 非道な態度を見せつけられた割には、細かいところまで気遣いが行き届いているから、心底憎めないのが残念だった。なんだかんだ言われながらも、ベルトルドに守られていたのだ。

 カーティスはずっと、ベルトルドが目の上のたん瘤だった。

 自分で作ったライオン傭兵団を私物のように扱い、偉そうに口を出してきて仕切るし、迷惑この上ない仕事まで遠慮の欠片もない態度で押し付けていく。断りたいのに断れないジレンマと戦う4年近くだった。

 ベルトルドと決別したくてしょうがなかった。それが、念願かなって死んで関わりを断ってくれた。それなのに心は晴れ晴れとせず、やりきれないイヤな重みがのしかかっていた。

 でも――。無事葬儀も済んだし、イララクス復興に伴ってアジトの再建も行う。明日から気持ちを切り替えていかなくてはならない。

 自分たちはこの先も、生きていくのだから。

「発端となった飛行技術云々も無事解決を見たようですし、我々はアジトの再建と仕事を再開していかなければなりません。明日から土地買収の交渉やギルドとの連絡、忙しくなりますよ」

 カーティスの笑みを受けて、皆ニヤリと口の端しを歪める。

 いつまでもしんみりムードはライオン傭兵団には似合わない。ベルトルドとアルカネットは死に、葬儀で化けて出た二人があの世へと旅立つのをきちんと見送った。今日は二人への愚痴を散々言い合って、それで彼らのことは思い出に仕舞い込む。

 皆が気持ちの向きをそう変えていたとき、ルーファスはふと気がつく。

「そいえば、さっきからキューリちゃんとメルヴィンが見えないけど、部屋にいるのかな?」

「いや、あいつらはゼイルストラ・カウプンキに行ったらしい。2,3日留守にするってよ」

 ギャリーが答えて、ルーファスは眉をひそめた。

「自由都市になんで?」

「ゼイルストラはベルトルド卿たちの故郷なんですよ。リュリュさんに連れられて行ったようです」

 お墓はそこにたてるそうです、とカーティスが言った。

「そっかあ…」

 ぽつりと呟き、ルーファスはため息をつく。

「自由都市はエグザイル・システムがなかったよね。昨日の今日で、キューリちゃん体調大丈夫かな」

「リュリュさんとメルヴィンがついてますし、疲れるでしょうが、大丈夫でしょう」

「うん、そうだね」



 ウエケラ大陸から大型客船が1日に1回、ゼイルストラ・カウプンキに向けて出航している。

 約半日の航海になるため、夕方に出航だった。これに間に合わせるために葬儀が済むと、リュリュは説明もそこそこに、あらかじめリトヴァに用意させていた荷物を持って、キュッリッキとメルヴィンを拉致るようにして、間に合うように出発した。

 正規の移動手段だと到底間に合わないので、キュッリッキに移動できる召喚を頼んでの強行軍だ。

 ほとんどギリギリに船に飛び乗った3人は、客室にそれぞれ案内されると、ベッドに沈んでしまった。

「目が回るう…」

 仰向けにベッドに寝転がっていたキュッリッキは、同じベッドに腰掛けるメルヴィンを見上げた。

「ホントですね…。強行軍にも程があります」

 キュッリッキの頬を優しく撫でて、メルヴィンは苦笑を漏らす。葬儀直後だというのに、感傷に浸るまもなく、リュリュに尻を叩かれる勢いで飛んできたのだった。

「とにかく疲れたでしょう。もうゆっくり休んでください」

 にっこりと言うメルヴィンに、キュッリッキはちょっと眉を眇める。

「寝る前に何か食べたいかも。お腹すいちゃった…」

 キュッリッキが空腹を訴えることは珍しい。ということは、余程お腹がすいているのだろう。メルヴィンは立ち上がると、入口のそばに掛けられていた案内状を見る。

「夕食は20時からだそうです。あと1時間は我慢してください」

「うにゅー」

 ころんっと向きを変えて、キュッリッキは口を尖らせた。

「いっぱい食べるんだから…」

 まだ見ぬ夕食に、キュッリッキは食欲を燃やした。その様子を見て、メルヴィンは苦笑する。

 キュッリッキの”いっぱい食べる”は、通常の大人の平均的摂取量より、実は少ない事を知っている。痩せの大食いとは、キュッリッキには無縁な言葉なのだ。

「リッキー、あの…」

「うん?」

「その……」

 道中メルヴィンはずっと気になっていたことがある。

 葬儀の時の、飛行技術が戻るとかどうの、ということ。

 なんとなく、そのことだと察して、キュッリッキは頷いた。

「1万年前の出来事で人間たちから取り上げちゃった飛行技術を、今後誰かが発明できたとき、見守ってくれるって約束してくれたの。今はまだ誰も閃いていないし、発明も出来ていないけどね」

「そうなんですか…」

 キュッリッキは両腕を伸ばして大の字になると、低い天井を見上げる。

「9千年の時を費やして、丁寧に人間たちの中から、生活の中から、飛行技術に関する全てを消し去ったの。遺伝情報から記憶から何から何まで。でもね、それから千年の時をかけて、人間たち自身は気づくの。空を飛びたい、どうやったら空を飛べるのか、身体一つでじゃなくて、乗り物や道具を使って空を飛ぶにはどうしたらいいか。ほんの小さな想いや願いは、やがてリューディアの中で芽生えたの。千年で初めて」

「……」

 人間たちにとっては、途方もない年月。それだけの時を経て、ようやく自力でたどり着いたというのに、神は無残にも摘み取ってしまった。

「リューディアのことがあったから、ベルトルドさんは奮闘したの。だから、それがなかったら、人間たちの手に飛行技術が戻るなんて、一生なかったかもしれない。あるいは、リューディアやベルトルドさんたちのような悲劇が、別の誰かに起こったかも…」

「そうですね…」

「飛行技術が返ってきて、その後どう人間たちが使っていくか。ユリディスの時のような悲劇になるか、別の悲劇に繋がるのか、それは判んない。でも悪いことばっかり考えちゃってたら、なんにも出来なくなっちゃうもん。だからティワズ様は、見守ろうって言ってくれたの」

「使う人間次第ですね」

「うん。それにね、どうせアタシたちが生きてる間に、危険になるほど空が飛べるようには、さすがにならないと思う」

 悪戯っ子の笑みを浮かべて、キュッリッキは伸びをする。

「でも、機械工学スキル〈才能〉持ちの人たちが、昔の遺産を発掘したり調べたりしているんですよね。基礎が見いだせたら、開発運用発展は早そうですけどね」

「う…にゃー」

 メルヴィンの指摘に、キュッリッキは神妙に眉をひそめた。

「まあ、ティワズ様が折れてくれたのには、ある理由があるの」

「理由?」

「ベルトルドさんたちが掘り出したフリングホルニ、まさに1万年前、神の領域を侵そうとした元凶であるあの船を、壊し忘れちゃってたこと」

「……ああ…」

「モナルダ大陸が半壊しちゃうほど深く深く眠っていたから、気付かなかったのか、忘れちゃったのか。だからアタシが指摘してツッコミ入れる前に折れてくれたんだよ」

 にこりと笑ったキュッリッキの笑顔を見たら、神々は大いに凹むだろう小悪魔な笑みだった。

「神を脅迫するなんて、巫女っていうのはすごいんですね…」

「アイオン族はロキ様が創った種族だしね~」

 フリングホルニやハーメンリンナで見た金髪の美丈夫を思い出す。確かにどこか人懐っこい笑顔と、意地の悪そうな笑みを同居させる表情をする神だった。

「ベルトルドさんとアルカネットさん、安心して旅立ってくれて良かったの。ニヴルヘイムにいるリューディアも、きっと喜んでくれると思う……」

 いくらお気に入りの巫女の頼みとは言え、重大な神々の決定を覆すのは容易ではないはずだ。それがああも簡単に了承を得られたのは、トールの失態によりリューディアという尊い犠牲を払ったこと、キュッリッキの身に降りかかった悲惨な出来事、ベルトルドとアルカネットの抱えた大きな悲しみと憎しみ。それによって歪ませてしまった世界。

 神々の思惑が招いた結果が、マイナスに傾きすぎたのだ。それもあって、ティワズの決断を促したとも言える。

 キュッリッキ自身、交渉は長引くと覚悟はしていたのだ。しかし蓋を開けてみたらあっさり願いは叶った。

 ベルトルドたちの心と想いを救い、送り出せて本当に良かった。

 見つめていた天井が急にメルヴィンの顔になって、キュッリッキは目を見開いた。

「そういえば、フェンリルとフローズヴィトニルはどうしたんですか? 彼らを見かけないんですが」

「アタシたちに遠慮して、アタシの影に潜んでいるんだって」

「え」

「それくらいの気、ちゃんと使うんだぞって言ってたよ」

「な、なるほど」

 今にして思えば、キュッリッキを初めて抱いた昨日の夜、あの2匹の神は同じ部屋にいたようなと気づいて、メルヴィンは赤面した。

 絶頂を迎えてキュッリッキが意識を失うまで、熱く激しく睦みあったのだ。素面では到底口に出せない言葉も、たくさん言った気がする。

 メルヴィンは再びベッドに腰を下ろすと、困ったように頭を抱えた。

「どうしたの? メルヴィン」

「い…いえ…」

 キュッリッキは身体を起こすと、メルヴィンの背中に抱きついて、横から顔を覗き込んだ。

「フェンリルたちに会いたいなら呼ぼうか?」

「……そのままずっと、危険が起こるまで影に潜んでいてください」

 そう言って、メルヴィンは長い長い溜息を吐きだした。



 夕食の時間が近づいて、リュリュが迎えに来てくれた。

 荷物の中には、船で着るドレスも入っている。それを着ろとリュリュに言われて、キュッリッキはどうにかドレスを自力で着た。一人で着られるデザインを、リトヴァが選んでくれていたのだ。

 薄手のシルクで作られた、ノースリーブのシンプルなドレスだ。丈は膝上までしかなく、肩から裾に向けて、青の濃淡が綺麗なグラデーションになっている。胸元には、本物のダイアの粒が、銀砂のように散りばめられ、キュッリッキの白い肌と金色の髪がより映えて美しかった。

 リュリュとメルヴィンは、シンプルな半袖の白いシャツとスラックス姿で、3人はダイニングの特別席へ通された。

 豪華なフルコースが振舞われ、3人はとにかく無言で手を動かし続けた。

 忙しすぎて、食事もまともに食べていなかったのである。酒はそっちのけで、デザートまで全て平らげると、湯気の立つ紅茶を美味しそうに飲みながら、ようやくリュリュは言葉を発した。

「食欲なんてナイ、なんて思っていたけど、案外空腹だったのね。ひさしぶりにまともに食べた気がするわ」

「アタシも。一生懸命食べちゃった」

「そうですね。普段の倍くらい、食べきりましたねリッキー」

「えへへ」

「そんくらい普段からちゃんと食べなサイ。あーた細りすぎて貧血連発しちゃうわよ」

「ううん……あんまりお腹空かないから」

「目指せ子豚体型! て思いながら、高カロリーの甘いものでも毎日毎日食べてなさい」

「ぇー」

「それはちょっと……」

「どーせ、アイオン族は太らないんだから」

 肥満体型のアイオン族など、少なくとも惑星ヒイシでは見たことがない。

「ねえリュリュさん、ゼイルストラ・カウプンキってどんなとこ?」

 少し冷めてきたアップルティーを飲みながら、キュッリッキはサラリと話題を変える。

「そうねえ、惑星ヒイシで一番の海洋リゾート地ってとこかしら。この惑星に5つある自由都市の中で、一番外に開かれた自由都市ね」

 都市としての機能が全て集う大きなアーナンド島を中心に、住人たちの暮らす無数の小さな島々が集まる群島。別名ミーナ群島と呼ばれるそこを総称して、ゼイルストラ・カウプンキという。

「アタシ仕事でラッテ・カウプンキなら行ったことがあるよ。大陸の中にあったから、普通にちょっと大きい都市だったけど」

「そうね。海のど真ん中にあるのはゼイルストラくらいなものよ。リゾート地だから、年がら年中賑わってるし、アーナンドに着いたら、そこから小型クルーズで1時間移動になるわ」

「ベルトルドさんの記憶で見たよ、シャシカラ島」

「ええ。アタシたちの生まれた、懐かしいあの島へね」

 ベルトルド、アルカネット、リュリュたちの両親3家族だけが暮らす島。

「アーナンド島の敷地はとても高いし、観光客で溢れかえってるから、アタシたちの家族はシャシカラ島を買って、生涯シャシカラ島で暮らすって決めたの。だから、ベルとアルのお墓は、シャシカラ島へ建てるのよ」

「リューディアのお墓もあるんだよね」

「ええ。ひさしぶりにお墓参り出来るわ、お姉ちゃん」

 リュリュは様々な感情をいり混ぜて、表情に浮かべていた。

 幼馴染で親友だった二人の遺灰を持って帰郷するのは、さぞ複雑な思いがあるだろう。両手で紅茶のカップをはさみ、もうからになった中身をジッと見つめ、時折苦笑いのようなものも口元に浮かんでいた。

「さて、アタシはバーで一杯引っ掛けて寝るから、あーたたちはもうお風呂に入って、ゆっくりおやすみなさいナ」

「うん、そうする」

「それとメルヴィン」

「はい?」

「小娘結構疲れてるから、今夜は手出しせず寝かせてあげなさいネ」

 ムフッとウインクされて、メルヴィンは耳まで顔を真っ赤にさせた。

「そ、そのくらいの分別はついてますっ!」

 声が裏返りながら言い返すと、キョトンとするキュッリッキの手を掴み、メルヴィンは憤然とダイニングを出て行った。

「案外、小娘からかうよりメルヴィン弄ったほうが楽しいかもねん」

 去りゆく二人の後ろ姿を見送りながら、リュリュは優しく微笑んだ。


最終章:永遠の翼 葬儀のあとで つづく



133 最終章:永遠の翼 貴方に手向ける黄金の炎:後編

目次へ戻る

category: ◆ALCHERA-片翼の召喚士-

thread: オリジナル小説 - janre: 小説・文学

tag: オリジナル  ファンタジー  小説 
tb: 0   cm: 2

△top

ALCHERA-片翼の召喚士- 133 最終章:永遠の翼 貴方に手向ける黄金の炎・後編  

 


ALCHERA-片翼の召喚士-
最終章:永遠の翼  貴方に手向ける黄金の炎:後編 133



 すでに壇に上がっていたリュリュに手招きされて、キュッリッキはゆっくりと階段をのぼった。一歩一歩のぼるたびに、心と身体が重く感じる。

 リュリュのもとへたどり着いたら、ベルトルドとアルカネットと、本当に最後のお別れになってしまうから。だから、ゆっくり、ゆっくりと歩いた。

 リュリュの傍らに立つと、泣きはらした目で、ガラスの柩をじっと見つめる。

 ベルトルドとアルカネットは、別々の柩におさめられていた。

 血の汚れも綺麗に清められ、軍服も新しいものを着せられていた。こうして見つめていると、二人はただ、眠っているだけのよう。

 ベルトルドがいつも望んでいたキスをしてあげれば、すぐにでも目を覚ますかもしれない。そんな風に思うと涙ぐんでくる。

 二人が死んで、まだそんなに日が経っているわけではない。

「ベルもアルも、綺麗になってるでしょ。ひと晩かけて綺麗にしてあげたのよ…」

 キュッリッキにしか聞こえないほどひっそりとした声で、リュリュは悲しげに呟く。

 どんな想いを持って、死体となった彼らと過ごしたのだろう。リュリュの横顔を痛ましく見つめた。

「……アタシね、ベルトルドさんに見せてもらったの。ベルトルドさん、アルカネットさん、リュリュさん、そしてリューディアの子供の頃の4人の思い出」

「そう…」

「リュリュさんが、一番辛いね」

「ふふっ、そうね……。長い分想いと記憶があって。でもね、うまく言葉に紡げないのよ。言いたいこと、沢山あるはずなのに」

「アタシは誰よりも付き合いが短いけど、ずっとずっと、昔から一緒にいたって思っちゃうくらい、二人がそばにいるのが、当たり前みたいに思ってた…。んーん、当たり前だった」

「とくにベルは、小娘と一緒にいる時が、一番幸せそうだった。あーたとメルヴィンがくっついたときは、そりゃもう花嫁の父みたいな表情(かお)して悔しがってたくらいネ」

 キュッリッキは引きつった薄笑いを浮かべた。

「さあ、お別れを言ってあげて」

 リュリュはキュッリッキの肩にそっと手を置いて、そして少し下がる。

 大広場に居並ぶ人々が、キュッリッキを静かに見守る。

「ベルトルドさん、アルカネットさん、アタシ、こんな時、どんな風に言えばいいのか知らないの。作法とか教わったことないし、……葬儀って初めてだし、判んない……」

 こぼれ落ちてくる涙を、手の甲で拭う。

「色んなこといっぱい言いたいけど、ちっとも整理できてない。だから、それはまた今度言うね。今は、ベルトルドさんとの約束を、果たそうと思う」

 俯かせていた顔を上げると、キュッリッキは前方の空間に、ひたと目を向けた。

 葬儀を行うと言われた時から、考えていたこと。

「絶対に、約束、守るの……」

 虹色の光彩を散りばめた神秘の瞳が、光をどんどん強める。

 キュッリッキの目は、アルケラを見ていた。

 幾重にも折り重なる厚い雲をかきわけ、光り輝く黄金の雲の間をくぐり抜け、やがてその姿を捉え、それぞれ目が合う。

「来てください、ティワズ様、トール様、ロキ様!」

 キュッリッキが叫ぶと、突如大広場の空間がぐにゃりと湾曲し、強烈な黄金の光が乱舞した。そして、大量の光の粒子を大広場に降り積もらせ、気づいた人々がギョッと目を見張るほどの巨人が3体、姿を現していた。



「やれやれ、我らをこんな場所に呼び出すとは、相変わらずキュッリッキは突拍子もない子だね」

 なんだか嬉しそうな表情で、ロキが笑った。

「ごめんなさい」

 肩をすぼめて、キュッリッキは素直に謝る。そして真ん中に立つ初老の男を、喉を反り返して見上げた。

「お久しぶりです、ティワズ様、トール様」

「キュッリッキよ、何用じゃ」

 大地も海も震わせることのできる、雷のようなずしりとした声でトールが言い放つ。

 ティワズは優しい瞳でキュッリッキを見つめ、小さく頷いた。

「今日はね、ティワズ様とトール様にお願いがあるの。そして、ロキ様はその証人になってもらうの」

「なんじゃとぉ?」

 モップのようにゴワゴワと垂れ下がる黒い眉毛の下から、紫電の光をまとわりつかせた漆黒の瞳が、ギョロリとキュッリッキを見据える。

「証人かあ、それは面白そうだね」

 対照的に明るい青い瞳のロキは、人懐っこい笑顔をトールに向けた。

「まずはトール様。そこにいるリュリュさんに、いっぱい謝って!」

 少しも怯まないキュッリッキが、細い人差し指を呆気にとられているリュリュに向ける。

「なぜ儂が、あの人間に謝らねばならん?」

 トールは不思議そうに目を瞬かせた。

「トール様のミョルニルが、リュリュさんのお姉さんを殺したからだよ」

 リュリュはハッとなってキュッリッキを見つめ、次いでトールを見上げる。

「人間たちの世界でいうと、31年前にキミが一発振り下ろしたあの雷だね」

 思い出せずにいるトールに、ロキが嫌味っぽい笑みを口の端しに乗せて言った。

「……ああ、禁忌を犯そうとした、あの娘のことか」

「そうそう、キミの咄嗟の判断で殺してしまった人間。そのせいで後になって我らの可愛いキュッリッキが、大迷惑を被ることになったんだよ」

「なにィ!?」

「アタシの大迷惑なんかどうだっていいのっ!! ちゃんと謝って、トール様!」

「ぐぬぬ…」

「ほらほら、謝りなよトール。じゃないと、キュッリッキに嫌われちゃうよ?」

「嫌っちゃうよ」

 ロキとキュッリッキに畳み掛けられ、トールは巌のような体躯を不快そうに揺すった。そして、ずっしりと鈍い動作で片膝を折ると、真っ黒な双眼でリュリュを見据えた。

「命を奪ったことは謝る。すまぬ」

 あまりにもサックリと素直に謝られ、リュリュは目をぱちくりさせて硬直した。

 神が非を認めて、人間に向けて謝った。

 目の前の巨人が、神であるということはイマイチ理解できていないまでも、なぜかリュリュは納得してしまっていた。謝ってもらったところで、リューディアは帰ってこないし、31年の時間も巻き戻ってこない。それでも、理不尽に姉を殺した真犯人が謝ったことで、ほんの少し、色々なことが報われたような思いも去来していた。

「あっはははは。神だって人間に謝ることあるんだよ。あのことは、やり過ぎだったって、トールも反省するトコがあったからね」

「そうなの?」

「ああ、対処法は色々あったのに、反射的に雷落としちゃったんだ。飛行技術をほかの人間の目に触れさせる前に、焼き捨ててしまおうとして、人間ごと…ネ」

 意外そうにするキュッリッキに、ロキが苦笑を滲ませ説明する。

「神でも、過ちはおかすものなのさ。でも、その過ちのせいで、後々キュッリッキが大変な目に遭ってしまって、キュッリッキにも謝らないといけないな、トールよ」

「むぅ…」

「アタシには謝らなくっていいよ。――ティワズ様には、お願いがあるの」

 先程から一言も発さないティワズを向いて、キュッリッキは真剣な眼差しを注いだ。

「人間たちに、飛行技術を返して欲しいの」

 リューディアの純粋な願い、ベルトルドの悲願。

「……1万年前の悲劇が、再びこの世に訪れるやもしれぬぞ?」

 低い優しさの溢れる声が、キュッリッキにそっと降り注ぐ。

「そなたもユリディスから見せられたであろう、1万年前の世界の有り様を。そして、彼女が被った悲劇を」

「そうだよキュッリッキ、人間たちは好奇心旺盛で、発明も開発も大好きな生き物だ。けど、それは時として負の副産物を撒き散らす。ただ自由に空を飛びたかった、それだけの願いも、邪な企みを抱く人間の手にかかれば、命を奪う兵器にもなるし、欲望を満たすためだけの道具に成り下がるんだ」

 ティワズとロキから穏やかに反対されたが、キュッリッキはキッと目に力を込めて神々を見上げる。

「だったら、悪いことに使うようになったら、また人間たちを作りかえちゃえばいいじゃない!」

 両手を腰に当てて、キュッリッキはふんぞり返る。

 1万年前の出来事に端を発し、その後の人間たちは自由に空を飛ぶ権利を、理不尽に奪われてしまった。閃きすら叩き折られてしまったのだ。

「アタシ難しいことはさっぱり判らないけど、空が飛べなくったって戦争も殺人も起きるんだよ。それに、魔法やサイ〈超能力〉で空は飛べるから、空からだって攻撃は飛んでくるんだもん。宇宙ってところは行き来できないけど、エグザイル・システムがあるから惑星間の移動だって楽勝だし!」

「……まあ、確かにそうだね…」

 足元の小さなキュッリッキの気迫に、思わず引き気味にロキが頷く。

「ユリディスの一件があったから、人間たちの能力を限定したって聞いた……そうまでしたのに、飛行技術だけ奪うの、おかしいと思うの。スキル〈才能〉に関係なく、空飛んでみたいよ…。アタシも、自分の翼で空、飛んでみたかったよ……」

 両翼を持つアイオン族。本来自由に飛べる民だから、青い青い空も思いのまま羽ばたける。キュッリッキもアイオン族だから、その翼で空を飛べるはずだった。

 人間たちの貪欲な手から逃すため、アルケラの巫女として生まれてきたキュッリッキの背から、片方だけ翼が取り上げられてしまった。

 空に憧れて、飛んでみたくて、飛行技術を閃いたリューディアは、命を摘み取られてしまった。

 どちらも、神々の思惑によって。

「ベルトルドさんは、リューディアの願いを叶えてあげたかったの。アルカネットさんはリューディアを返して欲しかったの。すごく無茶苦茶なことしたけど、でもでも、二人とも想いは純粋だったの。ただやり方がちょっと悪かっただけ。――お願い、ティワズ様、ベルトルドさんの、リューディアの願い、聞き届けて!」

 キュッリッキのまっすぐな視線を、ティワズはじっと見つめ返した。トールもロキも、ただ黙ってティワズを見つめた。

 ライオン傭兵団も、大広場の人間たちも、黙って見守っている。

 静かな時間が、大広場をゆっくりと流れていった。

 やがて、ティワズは目を閉じて顎を引くと、目を開いてキュッリッキを見つめた。

「次に閃く者が現れたとき、我々は黙って成り行きを見守ろう。キュッリッキよ、そなたが死して後、いつか生まれいでる巫女が、その運命に絡め取られたとき、どうするかは、そうなったときに検討しよう」

「ティワズ様……」

 花開くような笑みが、キュッリッキの顔に咲いていった。

「ありがとう、ティワズ様」

 ティワズの衣の裾にすがり、キュッリッキは喜んだ。

「やっぱりティワズは、キュッリッキに甘甘だね。――この件に関しては俺が証人だ。ついでに、トールもだぞ」

「ふんっ」

 意地の悪い笑みを浮かべるロキを、トールは忌々しげに睨みつけた。

「さてキュッリッキ、俺たちもう帰ってもいいかな?」

 ロキに優しく言われ、キュッリッキは頷いた。

「落ち着いたらアルケラに遊びにおいで。沢山、話をしよう」

「はい、ティワズ様」

 キュッリッキの了解を得たロキは、巨大な漆黒の翼を生やし、その翼でティワズとトールを包み込んだ。そして黄金の光に包まれると、神々は光の粒子を残してその場から姿を消した。

「良かった」

 キュッリッキが微笑んだ時、再び大広場がどよめいた。

「うん?」

 なんだろうと後ろを振り返ると、キュッリッキは大きく目を見張った。

「えっ? ベルトルドさん、アルカネットさん??」



 8月に見たこともない巨大な化け物を見せつけられた。そして今度は巨人である。

 召喚士の呼び出す様々なものに、人々は驚嘆させられっぱなしだ。

 巨人とキュッリッキのやりとりは、大広場の人間たちには意味不明であった。壇のそばに控えていたライオン傭兵団も、いまいち判っていなかった。しかし、次に現れたものに騒然と人々は沸き立った。

 見覚えがありすぎるからだ。

 蒼天の空のもと、太陽はまだ中天にある。そんな真昼間に、あれは…。当人たちの遺体が目の前にあり、しかしなんとよく見える姿だろう。

「あやつら、早々に化けて出てきおったわい…」

 壇から少し離れたところに設けられた特別席で、事の成り行きを見守っていた皇王は、怖がるどころか妙に納得したような顔で見つめていた。

「ベルトルドさん、アルカネットさん、どうして…」

 驚きの表情を浮かべるキュッリッキに、ベルトルドがにっこりと笑いかけた。

「ありがとうリッキー。俺たちの願いを叶えてくれて」

「感謝しますよ、リッキーさん」

 アルカネットも、いつも見慣れたあの優しい顔で微笑んでくれた。

 まさかの思わぬ出現に、とにかくキュッリッキは驚いた。

「ホントに本物の、ベルトルドさんとアルカネットさん?」

「ああ、世間で言うところの幽霊…かもしれんな」

「ちょ、あーたたち、化けて出てくるの早くってよ!?」

 リュリュはまろびつつ、身を乗り出し目を剥く。

「仕方なかろう、葬儀をこんな真昼間からやってるんだからな。夜まで待てなかったのか、しょーのない奴らめ」

 心外そうに表情を歪め、ベルトルドはリュリュを睨みつけた。

「っとにもー! あーたたちに言ってやりたいことが山ほどあんのよっ!」

「まあ、それはお墓の前でしてくださいリュリュ。私たちにはあまり時間がないのです」

 間に入ったアルカネットが、苦笑いを浮かべて言う。

「ロキとかいう俺たちの遠すぎる先祖が、ほんの少し、リッキーと別れの時間をくれたんだ。お前のようなオカマに割く時間はこれっぽっちもない」

「ぐぎぎぎぎぎ」

「リッキーさん、本当にありがとうございました。リューディアの願いを取り返してくれて」

「んーん、アタシはお願いをしただけ。決めたのはティワズ様だもん」

「可愛いリッキーがお願いしたんだ。そりゃあ聞き入れるだろう、神とて」

 ベルトルドは自分のことのように得意げに言うと、申し訳なさそうに表情を歪める。

「初めから、こうしてリッキーにお願いして、神に談判すればよかったんだがな…。リッキーを傷つけずに済んだのに」

「私の中の復讐心が、ベルトルドを進ませていたのです。本当に済みませんでした、リッキーさん」

「ベルトルドさん、アルカネットさん…」

 アルカネットはキュッリッキを抱きしめた。

 幽霊で実体がないのにアルカネットの感触がして、キュッリッキは懐かしさを感じて涙ぐんだ。

 いつもの優しい優しい、アルカネットのハグ。キュッリッキのよく知る優しいアルカネットのハグだった。

「ずるいぞアルカネット!」

 横でベルトルドが喚き、アルカネットは冷たい目でベルトルドを睨みつける。

「名残を惜しんでいるんです。邪魔しないでください鬱陶しい」

「お前が惜しむなお前が! 早く俺のリッキーを離せむっつりスケベ!!」

「えーっと…」

 いつものやり取りが始まって、薄笑いが漏れる。

 幽霊になっても変わらない二人。相変わらずなことに呆れてしまうが、もうこのやり取りさえ最後なのである。その事に気づき、キュッリッキの涙は止まらない。

「リッキー…」

 ベルトルドはアルカネットの手からキュッリッキを奪い取ると、キュッリッキを優しく抱きしめた。

「こんなに綺麗で可愛い顔を、涙でいっぱいにしてしまったな。リッキーを傷つけた俺たちのために、悲しんで泣いてくれて、本当にありがとう」

「…うん」

「俺自身の手で、リッキーを幸せにしたかった。それができないことが、唯一の未練だな。――自業自得だが…」

 自嘲を浮かべ、ベルトルドは本当に悔しそうに苦笑った。

「この先リッキーが本当に危機に陥ったとき、俺が必ず助けに来る。本当だぞ? 未来永劫、リッキーを愛し続ける。死していてもな」

「ベルトルドさん…」

「メルヴィンと幸せになりなさい、誰もが羨むほど幸せに。俺はリッキーを傷つけることしかできなかったが、誰よりもリッキーの幸せを願っている」

 いつもキュッリッキにのみ向けていた、穏やかで優しい笑顔でベルトルドに言われて、キュッリッキは大きくしゃくり上げた。

「幸せに……なるよ…メルヴィンと絶対に」

「ああ」

「ありがとうベルトルドさん、ありがとう、ありがとう…」

 あとはもう喉が詰まって言葉が出ない。言葉以上に涙が溢れて、視界が滲んでいった。

 ベルトルドはにっこり微笑むと、キュッリッキの額に優しく口づけた。そしてキュッリッキから離れると、今度はアルカネットがキュッリッキの頬に口付ける。

「これで本当にお別れです。どうかいつまでも幸せに」

「アルカネットさんも…ひっく…ありがとう」

 アルカネットもにっこりと微笑んで、ベルトルドの傍らに立った。

「あの世で、お姉ちゃんにヨロシクネ」

「ああ、ちゃんと伝えるさ」

「リューディアと再会出来るのが楽しみです」

「リューにも、すまなかったな。後片付け、頼む」

「ホントよ! もお、山積みなんだからっ」

「片付けが終わるまでは、絶対にこっちには来ないでくださいね」

「死んでる暇なんかナイワヨ!」

 本気で怒っているリュリュを見て、ベルトルドとアルカネットは苦笑した。

「さて、もう時間だな」

 天を仰いで、ベルトルドはぽつりと言った。

「リッキー、俺たちを送ってくれるかな?」

「お願いします、リッキーさん」

 キュッリッキは両手の甲で涙を何度か拭うと、涙でくしゃくしゃな顔で頷いた。

 アルケラへと向けられた神聖な瞳は、ウトガルドを飛び、ロギの姿を捉えた。

「全てを喰らい尽くす幻影の炎ロギ……」

 キュッリッキが両手を前に差し出すと、繊細な掌に黄金の炎が宿った。そしてその手の向こうには、微笑むベルトルドとアルカネットの霊体が立っている。更にその後ろには、二人の遺体がおさめられた柩があった。

 キュッリッキは泣き声を上げそうになり、堪えて口をワナワナと震わせる。その表情を見て、ベルトルドとアルカネットは、強く頷いた。

「…彼らの肉体を清め、その魂をニヴルヘイムへと導いてください」

 黄金の炎はキュッリッキの掌から離れると、ゆっくりと柩に向かい、突如大きな炎となって二人の柩を包み込んだ。

 熱は少しも感じない。青い空に映えるほどの黄金の色を煌めかせ、柩を燃やしていく。

「さらばだ! 愛すべき馬鹿ども!!」

 大広場にベルトルドの声が響き渡った。

 黄金の炎は更に勢いを増し、臭い一つたてず、あっという間に柩と遺体を燃やし尽くして、灰に変えてしまった。

 同時に、ベルトルドとアルカネットの霊体も消えていた。


最終章:永遠の翼 貴方に手向ける黄金の炎:後編 つづく



132 最終章:永遠の翼 貴方に手向ける黄金の炎:前編

目次へ戻る

category: ◆ALCHERA-片翼の召喚士-

thread: オリジナル小説 - janre: 小説・文学

tag: オリジナル  ファンタジー  小説 
tb: 0   cm: 2

△top

ALCHERA-片翼の召喚士- 132 最終章:永遠の翼 貴方に手向ける黄金の炎・前編 

 


ALCHERA-片翼の召喚士-
最終章:永遠の翼  貴方に手向ける黄金の炎・前編  132



 僅かに瞼を震わせ目を開けると腕が見えて、それをたどって上に目を向けるとメルヴィンの横顔が見えた。

 そのままジッと見ていると、メルヴィンはぐっすりとよく眠っている。

 端整な寝顔を見つめながら、キュッリッキはほんのりと顔を赤らめる。

 昨夜メルヴィンに愛された。

 心も身体も全てメルヴィンの愛で満たされ、幸せを迸らせるように意識が真っ白になり、気づいて今に至る。なので、どの時点で意識が途切れてしまったのか判らない。そのくらい夢中で愛に溺れていたのだった。

「メルヴィン……」

 身体を起こすと、引き締まった胸に顔をうずめるようにして、ぽつりと名を呟く。耳を押し付けると、トクン、トクンと心臓の鼓動が聞こえた。

「大好き、メルヴィン」

 キュッリッキは嬉しさを訴えるように、メルヴィンの胸に愛おしそうに頬ずりした。

 こうして身体に触れていても、メルヴィンは目を覚まさない。

 昨日は命を張った戦いをしていたのだ。相当疲れているのだろう。それが判って、キュッリッキはベッドから出ると、裸のままバスルームへと向かう。

「………」

 ふと立ち止まり、やや困惑げに眉を寄せ、首をかしげつつ再び歩く。そしてまた立ち止まった。

「なんか、まだ股間に何か挟まってるみたいな感じがするかも……」



 熱いシャワーを浴びながら、キュッリッキは胸元の傷にそっと触れる。

 湯が当たっても滲みなかった。昨夜シビルが塗ってくれた薬のおかげだろう。

 複雑な気持ちで傷を見ていると、背後でドアが開く音がして、ギョッと後ろを振り向いた。

「めっ、メルヴィン」

「おはようございます」

「もお、びっくりしたんだから」

 後ろからメルヴィンに抱きしめられ、キュッリッキは愛らしく唇を尖らせた。

「ちゃんと声はかけましたよ?」

「……聞こえなかったもん」

「じゃあ、しょうがないです」

 耳に軽くキスをして、メルヴィンはふとキュッリッキの胸元の傷に目を向ける。

「滲みませんか?」

「うん、大丈夫。薬が効いてるみたい」

「それは良かった」

 ホッとしたように、メルヴィンは肩の力を抜いた。

「ねえメルヴィン」

「はい?」

「股間にまだメルヴィンの挟まったままみたいな感じがするの。これいつになったらおさまるんだろう? 歩きにくいの」

 物凄く困った表情で見上げられて、メルヴィンは顔を真っ赤にする。

 感触が残っていて感じてしまうから困る、なら判るが、歩きにくいと言われたのは生まれて初めての経験だった。なんだか視点がズレてる気がして、心の中でガックリ肩を落とすメルヴィンだった。

「もう、そんなことを言う口はこうです!」

 そう叫ぶように言って、目を丸くするキュッリッキの顔を片手で押さえ、塞ぐようにして唇を重ねた。



 メルヴィンは着替えのために一旦自分の部屋へ戻り、キュッリッキもバスタオルを身体に巻いたまま衣装部屋に向かう。

 衣装部屋の扉を開けて入ると、全て秋・冬ものに入れ替わっていた。

 ベルトルドとアルカネットが、キュッリッキのために用意してくれた沢山の衣装。どれもキュッリッキに似合うものばかり。キュッリッキの身体にぴったり合うように誂られたものだ。

 下着を身に付け、何を着ようか選んでいると、衣装部屋の開けっ放しの扉がノックされた。

「おはようございます、お嬢様」

「おはようリトヴァさん、アリサ」

 この屋敷のハウスキーパーのリトヴァと、メイドの一人アリサが笑顔で立っていた。

「お疲れは取れましたか?」

「うん、大丈夫だよ」

「それはようございました」

 リトヴァは微笑んで、アリサのほうへ顔を向ける。

「お嬢様、今日から正式にこのアリサが、お嬢様専属の侍女となり、お嬢様のお世話を担当いたします。これまではわたくしが担当を兼任しておりましたが、アリサに一任致します」

「どうぞよろしくお願いします、キュッリッキお嬢様」

「そうなんだ、よろしくね、アリサ」

 キュッリッキは小さく頷いて了解した。この屋敷に来てから、アリサを始め幾人かのメイドたちも世話をしてくれたが、中でもアリサとは一番仲良しなのだ。年が近いこともあり、色々話しやすかった。

「それからお嬢様、わたくしのことは、リトヴァと呼び捨てになさってください」

「え、どうして?」

「わたくしは使用人です。お嬢様はこのお屋敷の女主人でございます。使用人たちは全て、呼び捨てでようございます」

「……ううん……」

 キュッリッキは難題を押し付けられたような顔で唸り、しかし、ふと目を瞬かせた。

「なんでアタシが女主人なの? ここはベルトルドさんが主じゃないの?」

 不思議そうにキュッリッキに見つめられ、リトヴァとアリサは表情を曇らせてキュッリッキを見つめた。

「――そうでございましたね。ですが、お嬢様も主のお一人なのです。慣れてくださいませね」

 僅かに悲しげな笑みを浮かべながら、リトヴァは頭を下げた。

 もともとキュッリッキは誰彼構わず呼び捨てにしている。しかし、皇王など身分の高い相手には様を付けるし、ベルトルドやアルカネット、リトヴァのようにずっと年長者にはさん付けする。誰かにそうしろと言われたわけじゃなく、自然とそんな風にわけて呼んでいた。

「うん、頑張ってみる」



 襟と袖口に白いレースをあしらった、濃紺のベルベット生地のワンピースを選んで、濃紺色のリボンを髪に結んでもらう。こうして身支度が整うと、追い出されるようにして食堂へ向かわされた。

 部屋の主が朝食をとっている間に、メイドたちが数名で掃除やベッドメイクなどを終わらせるのだ。それが判っているので、キュッリッキは素直に食堂へと向かった。

 食堂へ入ると、メルヴィンとタルコットとランドンの3人しかいない。棚の上に置かれた時計を見ると、もう朝の8時を回っている。

 タルコットもランドンも、まだ疲れた顔をしていた。二人とも朝は早い方なので、習性で起きてしまったのだろう。

 キュッリッキは自分の席に着くと、ふと斜め前のベルトルドの席を見る。

「ベルトルドさん、まだ寝てるのかな。アルカネットさんも」

 ハッとした空気が食堂に漂う。

「それに、お皿とか食器が並んでないよ? なんで?」

 首を傾げたキュッリッキは、向かい側に立つセヴェリを見る。

「それは…」

 心底困ったようにセヴェリが言い淀んでいると、

「ベルもアルも、もう食事をする必要がなくなったからよ」

 そう言いながら、リュリュが颯爽と食堂に姿を現した。その後ろから、ライオンの残りの仲間たちも食堂に入ってくる。

「食事をする必要がないって……どうして?」

「だって、もう死んじゃってるんだもの」

「え…」

「リュリュさん!」

 リュリュを咎めるようにメルヴィンが席を立つ。しかしリュリュは目もくれず、キュッリッキをタレ目でしっかりと見据えた。

「あーたも看取ったんでしょ、二人を。フリングホルニの中で、ベルトルドとアルカネット両名は死んだの」

 キュッリッキは暫くほうけたような顔でリュリュを見つめた。食堂にいる仲間たちも、固唾を飲んで二人を見守っている。

 脳裏では、フリングホルニの中での出来事が、ゆっくりと再生されていく。

 胸に大きな穴を開けられ、血だまりの中で絶命していたアルカネット。そして、指先一つ動かせず横たわって、静かに息を引き取ったベルトルド。

 ちゃんと、二人の死を見た。

 二人は、死んでしまったのだ――。

「あぅぁ…アァ…」

 キュッリッキの呼吸が急に荒くなり、目を大きく開いて、大粒の涙をこぼし始めた。

 身体がガクガクと震えだし、ついには椅子から落ちて倒れてしまった。

「リッキー!」

「小娘!」

 リュリュは慌ててキュッリッキを抱き起こしたが、激しく胸を突き飛ばされて、後ろに尻餅をついた。

「ウソだ! ウソ! ウソ! ベルトルドさんもアルカネットさんも、死んでなんかないもん!」

 怒りで顔を真っ赤にして、涙をあふれさせながらキュッリッキは怒鳴った。

「ベルトルドさんもアルカネットさんも、寝てただけだもん! すぐ起きてくるんだからウソ言わないでよ!!」

 ハア、ハア、と肩を激しく喘がせて、キュッリッキはリュリュを睨みつける。

 頭の中では、二人の死んだ姿がフラッシュバックしている。それでもキュッリッキの心は二人の死を拒絶し続けた。

「リッキーって言いながら、抱きしめてキスしてくるんだから。それで二人ともいつも喧嘩して、でもやっぱり毎日そうしてきて」

 そんな当たり前の日々が、続いていくだけなのに。

「アタシに酷いことしたのに、したのに…」

 もう、帰ってこない。

「ベルトルドさん……アルカネットさん……」

「小娘…」

「わあああああああああああっ!」

 ついにキュッリッキは二人の死を認め、絶叫した。

 リュリュは身体を起こし、目の前で泣き崩れるキュッリッキをしっかりと抱きしめた。

「イイ子ね。今はとにかく沢山泣きなさい」

 キュッリッキの頭を優しく撫でながら、リュリュは沈痛な面持ちで目を伏せた。



 10分くらい泣くに泣いたキュッリッキは、いつもなら疲れて寝てしまうが、ぐすりながらも寝なかった。

 リュリュはキュッリッキをメルヴィンに任せ、アルカネットの席だった椅子に座る。

「昨日の今日で、まだまだ疲れてるところ悪いんだけど、大事な話があるからゴメンナサイネ」

 両肘をテーブルについて、組んだ手の上に顎を乗せると、朝食をもそもそ食べるライオン傭兵団に顔を向ける。

「ベルトルドとアルカネットの葬儀なんだけどね、もう国の要職を辞している二人だし、死に方も死に方、世界に大迷惑をかけてるし――そこは秘密だけど――大っぴろにやるわけにもいかないから、密葬で済ませようと思ってたの。そしたら二人の死がダエヴァたちから漏れたのか、聞きつけた軍や行政、皇王様までが葬儀に参列したいと言い出しちゃって」

「そらあ……」

 ギャリーがうんざりした顔で肩をすくめると、ルーファスも頷く。

「なんで死んだのかとか、めんどくさいコトが発生しちゃいますね」

「そうなのン。だから密葬にすると強調したんだけど、だ~れも聞き入れてくれなくって。なので、事情は聞かない約束で、参列者込みで葬儀を行うことにしたわ」

「慕われてたんですね……二人とも」

 ペルラがぽつりとこぼすと、リュリュは苦笑する。

「驚くことに結構ネ」

「そうなると、随分と要人ばっかりが並びますよね、どこでやるんです?」

 首をかしげたルーファスに、リュリュは頷く。

「ハーメンリンナの中の大広場でやるわ」

「まあ、そうなりますよね……」

 尻尾をほたほた振りながら、シビルが苦笑気味に呟いた。

「あーたたちもしっかり参列するのよ」

 ええええええっ!? と食堂に絶叫が沸く。

「あったりまえでしょ! 恩知らずな悲鳴をあげるんじゃないわよ!!」

 ドンッと拳でテーブルを叩き、リュリュは一同を睨みつける。

「そして小娘、あーたは二人の最も近しい身内として参列するのよ」

「え…」

 腫れぼったくなった目でリュリュの顔を見つめ、キュッリッキは小さく首をかしげる。

「あーたは二人にとって大切な家族だったのよ。――男と女の関係に持っていく、とか言い張っていたけど、どっからどう見ても親娘だったわ」

 可愛くって可愛くってしょうがない、とキュッリッキを構う姿は、周りからは本当の親子だと見られていたベルトルドとアルカネット。血のつながりは全くないが、二人にとってキュッリッキは娘のようなものだ。

「あの二人のご両親は今も健在なんだけど、葬儀に間に合わないから、アタシと小娘が遺族代表として立ち会うの」

「葬儀はいつなんですか?」

 メルヴィンの問いにリュリュはチラリと時計に目を向け、

「今日の正午よ」

「へ?」

「しょーがないのよ。葬儀に詰めかける面々の予定が全然合わなくて。今ダエヴァと軍の連中が総出でセッティングしてる頃ねん」

「いきなりすぎだろ……」

 ギャリーがゲッソリと言う。

 遺体は人間でも動物でも、必ず火葬にする。土葬にしないのは、疫病などの蔓延を避けるためであり、死者の魂が未練を残さないようにとの意味合いもある。

 葬儀では火葬も同時に行い、その魂を参列者たちで見送る。灰は小箱のような柩に収められ、墓に埋められるのだ。

 墓に収めるのはいつでもいいので、たいてい参列者が死者を弔う場は葬儀のみだ。

 葬儀に使う場所は、街などに必ずある神殿で行う。神殿には火葬のための設備もある。しかし今回はハーメンリンナの中であり、ハーメンリンナにも神殿はあるが、参列者の数が神殿では収まりきれない。なので、急遽大広場にて行われることになり、軍は早朝から作業に取り掛かっていた。

「10時には迎えの馬車がくるわ。それまでにちゃんと用意して喪服着てらっしゃいね。アタシは準備があるから、もう行くわ」

 渋面を作る面々を見て苦笑を浮かべると、リュリュは食堂を出て行った。

 視線でリュリュを見送った一同は、思い思い食事を再開しつつ、ため息をもらす。

「感傷に浸る時間もあんまりないなあ…」

 ルーファスはフォークでオムレツをつつきながら、端整な顔を悲しげに歪めた。

「もうちょっとしんみりしていたかったけど」

「灰になっても、しんみりできるだろ」

 ザカリーは肩をすくめる。

「ン~まあねえ」

 食の進まないフォークを置くと、ルーファスは頬杖をついた。

「世界中の美姫たちが大号泣するだろうなあ、正午には。ベルトルドさんもアルカネットさんも、すっごーいモテモテだったから」

「別に美姫だけじゃなく、醜女も普通も大号泣するんじゃね」

 呆れたように言うザカリーに、食堂のあちこちから小さく乾いた笑いが漏れた。

「ベルトルドさんとアルカネットさんに、ちゃんとお別れ言えてない…」

「リッキー」

 小さな声でぽつりと呟き、キュッリッキは空席になったベルトルドとアルカネットの席を見る。

「いつも優しく笑いかけてくれたの。優しい声でリッキーって呼んでくれたの。もう、笑いかけてくれない……リッキーって呼んでくれない……」

 そう言って、再び泣き出してしまった。

 キュッリッキの泣く姿を見ながら、胸に去来する想いに、皆それぞれの表情を浮かべて押し黙る。

「部屋へ戻りましょう、リッキー」

 メルヴィンに優しく促され、小さく頷くと、キュッリッキは席を立ってメルヴィンと一緒に食堂を出て行った。

 二人の姿を見送り、カーティスは紅茶のカップを皿に戻す。

「我々も遅れないよう、シャワーでも浴びて喪服に着替えましょうか。セヴェリさんすみません、我々の喪服か、以前着ていた軍服はありますか?」

「リュリュ様からお預かりして、皆様のお部屋に揃えて置いてございます」

「ありがとうございます」

 カーティスは軽く頭を下げて礼を述べると席を立ち、それを合図に皆も席を立った。



 蒼天の元、喪服に身を包んだライオン傭兵団は、迎えに来た馬車にそれぞれ乗り込み、ハーメンリンナに連れて行かれた。

 葬儀のために急遽セッティングされた大広場は、かつてモナルダ大陸戦争において、ベルトルドが盛大に式典を開いた場所でもある。

 軍人たちはすでに整列し、乱れ一つ無い人間畑を築いていたが、その隣には黒いドレスに身を包んだ貴婦人たちが、手にハンカチを握り締め泣きじゃくっていた。

 馬車から降りたライオン傭兵団は、所在無げに突っ立っている。

「お久しぶりですねえ、お嬢さん」

「あっ」

 泣きはらした顔を声の方へ向けると、陽の光に白い毛を艶やかに光らせる、ブルーベル将軍が歩いてきた。

「白クマのおじいちゃん」

 反射的にキュッリッキは、ブルーベル将軍のどっしりとした身体に抱きついた。

「可哀想に、目が真っ赤になっていますねえ」

「うん…」

 キュッリッキの頭を優しく撫でながら、ブルーベル将軍は痛ましそうにキュッリッキを見つめる。

「久しいな、伯父貴」

 腕を組みながら、ガエルが小さく会釈する。

「ガエル…。お前たちが閣下を止めてくれたんだね」

「止めたのはキューリだ」

「そうか……」

 ベルトルドたちの企みを知っていながら、ブルーベル将軍は止めるどころか協力してきた。その犠牲にキュッリッキがなることも知っていた。だから、キュッリッキも無事帰還した報告を聞き、その姿を見た瞬間、心の底から安堵した。自らの罪が許されたような錯覚に陥るほどに。

「さあお嬢さん、火葬が始まる前に、お二人にお別れをしてきなさい」

 そっと促され、キュッリッキは壇上を振り向いた。

 透明なガラスの柩に白い百合の花が敷かれ、その上にベルトルドとアルカネットが、それぞれ寝かされていた。

「うん…」


最終章:永遠の翼 貴方に手向ける黄金の炎・前編 つづく



131 最終章:永遠の翼 優しい夜

目次へ戻る

category: ◆ALCHERA-片翼の召喚士-

thread: オリジナル小説 - janre: 小説・文学

tag: オリジナル  ファンタジー  小説 
tb: 0   cm: 4

△top

寒い春ですねえ 

 

寒いんだか暖かいんだか、ハッキリしない春。

自分は若いんだ、まだまだイケル! と思い込みつつも、やっぱあ、トシだしぃ、と気温の変化に体調がビンカンすぎてワロエないです(・ω・)


最近アルファポリスのほうへ、【眠りの果てに】をぶっ込んできました。

登録していてカレコレもう2~3年? くらい経つのかな。つい最近気づきました。


直接作品投稿できるって((((;゚Д゚))))


そもそもアルファポリスの存在を知ったのは、親しくしていただいているブロガーさんたちの所のバナーリンクだったのよね。なので、自分とこのブログなどURL登録をして、更新するたびに、マメマメしく管理画面で更新しました~ってやるんだと。

思っていたのに!!

更新って欄に、全然載らないじゃん(・ω・)

【ALCHERA-片翼の召喚士-】とか【眠りの果てに】なんかは、各目次記事のURL登録をしているから、ブログの更新しました~って欄にも当然ノラナイヨネ。だって記事の中身いじるだけだし!w

そこ全然気づいてなくて、リンク貼っとくだけ無駄じゃね・・・って思いながら、ちょっとほかのヒトの漫画作品を楽しもうと色々見ていると、皆さんほぼ直接投稿しているんですよね。漫画なんかはあの表示機能イイヨネ。

てことは、もしかすて、小説も直接投稿?w

それでようやく気づいてデスネー><w

ヤダヤダ(´_ゝ`)

さすがにもう【ALCHERA-片翼の召喚士-】は量も多いし、リメイクしたくてしょうがないから外部リンクのまま。【眠りの果てに】は短いし、お試しに直接投稿し直してみました。

おかげさまで、またちょこちょこ目に留めていただけているようでありがたいです。児童書部門だと、ファンタジーなんかと比べると圧倒的に少ないですし>< わたしにとって初の短編完結作品だけに、色々なヒトに読んでもらえると嬉しいな。


ウチは更新超絶不定期なので、新作だ更新だしても、そんな見てもらえないですから(自業自得)、今後はSNSサイトへの投稿活用も頑張ろう。

あと、ようやく新作タイトルが決まりましたーわーいわーい(ぱちぱち

キャラクターを詰めていけば詰めていくほど、なんかこう、自分を書いているような気が猛烈にします( ̄▽ ̄;) 外見じゃなく中身がデスネー・・・。

キュッリッキさんは独特な女の子なので、うまく書き現せていないんですが、新作の主人公はたぶん書きやすいかもしれない。・・・暴走させやすそうで(バキッ

地獄の夏が来る前に、なんとか色々送り出せるようにしたいデス。

category: ◆雑談

thread: 物書きのひとりごと - janre: 小説・文学

tb: 0   cm: 2

△top