夢の時間(とき)

オリジナルの小説とイラスト等を掲載。新連載【アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」】開始です。

当ブログについて 

 

いらっしゃいませ

初めまして、または、いつもありがとうございます。ユズキです。
当ブログでは、オリジナルの創作物をメインに、小説とイラスト、雑文などを掲載しています。時々マンガっぽいものとかも。
4年目に突入し、超不定期でマイペース更新ですが、緩々とよろしくお願いします。
※この記事は常にTOPに掲載されます。最新記事はこの記事の下から続きます。最新記事情報は、右サイドバーを見てください。

●作品傾向●
基本は架空の異世界を舞台にしたファンタジーものです。トリップや転生ではありません。R-18に抵触する表現(残酷・性描写等)が登場する作品もあります。書いてる当人が意識していないから、女性向け、男性向けなどの線引きはしていません。
恋愛・魔法・異能力・シリアス・コメディ・バトル・ストーリー重視・ハートウォーミング等等。
まだまだ拙い文章表現ですが、筆者の頭が悪いため、難しい言い回しや漢字が使えないので、そういう意味では読みやすいかもしれません。

以下、メインコンテンツ紹介!

各コンテンツには、専用目次ページを設置しています。そこから小説やイラストなどお楽しみください。




てんやわんや冒険ファンタジー 新連載・長編予定new
アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」

アウレリア神聖国現筆頭魔術師スヴェンセン伯爵家、7代目次期当主アストリッド・グエナエル・スヴェンセンは、16歳の誕生日に当主である父から、エインヘリャル6枚を渡され、しきたりに則って、新たなエインヘリャル・コントローラを探すこと、そして自分だけのエインヘリャルを作る為の旅に出る。

人里以外は森ばかりの世界ヴィンドフロトを舞台に、魔術師アストリッドと、その旅に巻き込まれる個性あふれる面々の、楽しい(?)冒険が始まる。

専用目次ページはこちら⇒
アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」



ハードスペクタクル恋愛ファンタジー ※本編完結済み
ALCHERA-片翼の召喚士-

当ブログ初の長編連載小説。R18
レアと言われる召喚スキル〈才能〉を持つ少女キュッリッキは、総勢15名しかいない世界最強を誇るライオン傭兵団に入る。もうひとりの主人公格ベルトルドと関わることで、様々な出来事に巻き込まれながらも、仲間たちとの絆、初めての恋を通じて成長していく。
3年以上に渡ってダラダラ書き綴った物語の他、イラストやぷちマンガなども公開中。

専用目次ページはこちら⇒【ALCHERA-片翼の召喚士-


おとぎ話風ハートウォーミング物語 ※短編・完結済み
眠りの果てに

その日の食事も満足に得ることのできないほど貧しい家庭に育った、15歳の少女インドラ。ある日幼い弟妹と 山へ薪取りへ行って帰ってくると、たくさんの金貨が詰まった袋が粗末なテーブルの上にあった。
「貴族のお城へ奉公へ上がってみる気はないか?」
そう父親に言われる。 貧しい家庭の事情と家族のため、奉公へあがることを決意する。
何故メイズリーク伯爵家は大金を支払ってまでインドラを買ったのか、伯爵家でどんな仕事に従事することになるのか。
おとぎ話風をイメージした、インドラの物語。

専用目次ページはこちら⇒【眠りの果てに



練習しながら綴る1話完結読み切り短編集
乗り換えまでには読み終わるかも?

短い文章に不慣れなので練習に書いている、1話完結の読み切り短編集です。ジャンルはとくに決めてません。アイデア思いつくまま。
今のところ、現代日本を舞台にしたものが並んでいます。シリアス・コメディ・ほのぼのといった感じです。

専用目次ページはこちら⇒【乗り換えまでには読み終わるかも?


※小説はSNSサイトへも投稿しています。端末や環境などで、読みやすい場所で読んでください。SNSサイトへのリンク(QRコード有り)は、各小説の目次ページに記載してあります。



イラスト展示

ブログに掲載したイラストをまとめています。サムネイルをぽちっとすると、lightboxでイラストが表示されます。※ラクガキ程度に描いたものは省いてます。

YUZUNOKI

オリジナルと版権二次絵をまとめた、イラスト展示のみに特化した別サイトを公開しています。
スマホなどの携帯端末でも見やすいかもデス。



企画モノ

キリ番・お題・他サイト参加作品などを、専用ページにまとめました。



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tag: ファンタジー  オリジナル  イラスト  小説 

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アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」 episode07 

 

アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」 記事用ヘッダー

《前回のあらすじ》
 東の大陸を南下するため、タリントの町からトロッコ列車に乗ったアストリッドたち。そこへ突如謎の怪しい男が自転車に乗って現れて、自らをエイステイン・イヴァルセイと名乗る。そして、自転車に人間をひとり括りつけてぶら下げており、アストリッドは驚きの絶叫を上げた。

ライン画像

アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」
《旅は道連れ編》
episode07:「アナタの同行を許します」語り:アストリッド



 風光明媚な景色を楽しみながら、トロッコ列車の旅を楽しむつもりでしたけど。空中を自転車に乗って颯爽と現れた、謎の変人エイステイン・イヴァルセイなる男と、自転車に括りつけられた謎の人物の登場により、あたくしたちはただただ、唖然と終点ハフト村に着きました。

 無用な衆目は集めまいと心がけているというのに、エイステインのせいで大注目されているじゃありませんか!

 トロッコ列車を降りたあたくしたちは、小さな駅の改札を出たところで、再びエイステインに捕まりました。

 紳士風の出で立ちをしていますが、身の丈2メートル以上はありそうな長身で、ヘラヘラと笑いを貼り付けた顔で大声であたくしたちを呼ぶんですもの。駅前広場に集まる人々が、何事かとエイステインとあたくしたちを見ていますわ。しかも、自転車に括りつけられていた者を、片手で引きずってきているし。笑顔で…。

「なあ、そいつまだ寝てんのか?」

 ヘリュがエイステインの後ろにまわり、動こうとしない者を指差す。

「たぶん~、美味しい匂いを嗅がせると、目を覚ますと思うんだよね~」

 朗らかに言って、エイステインは近くにある露天に顔を向ける。その露天では、目にも鮮やかで可愛らしいクレープが売られていました。もしかして、このあたくしに買えと言いたいわけ?

「吾輩お金なくってですねえ、是非とも美しいレディに買ってほしいなあ、なんて~」

「ごしゅじんさまあ、たかられてましゅ」

 本当にっ!

 こんな怪しい男に恵んでやるなんて、虫酸が走るというもの。けど、長引かせていると、もっと人だかりが大きくなりそうで…。こんな小さな観光地の村で、出鱈目に長身な男が立ってるだけで、好奇の視線を釘付けよっ!

 はぁ…、スヴェンセン伯爵家の後継ともあろうあたくしが、何故こんな施しを。忌々しい…、心底忌々しいですわ!

「すみません、上から下までのメニューのクレープを、一つずつ下さるかしら」

 好みを聞くのも癪ですので、全部買って差し上げます!

「毎度ありがとうございます!」

 大して年も変わらないだろう店員の少年が、喜々として大急ぎでクレープを包み始めました。その作業を見つめながら、いっそ、具材に毒でも仕込んでやろうかしらって思いますわよ。それに、あらあら…、ヴェガルドとヘリュが、目を輝かせてこちらを見てる。ええ、ええ、あたくし心の広い主人(あるじ)ですもの、ちゃんとあなたたちの分も買ってあげます。今にもヨダレが滝のように流れ落ちそうな顔で、あたくしのほうを見ないでくださいな。

「お待たせしました」

 大きな蓋のない箱に、綺麗に並べられたクレープを受け取り、代金を支払って振り向くと、真後ろにエイステインとヴェガルドとヘリュが、両手を握り締めて立っていました。

 意地汚い…。

「先に、そこの寝ている者に、匂いを嗅がせてからですわよ」

 噴水に背を預けて、ぐーすか寝ている者の前にしゃがむ。

 少し年上なのかしら? ひょろりと長い手足に、筋肉はついているけど、でも割と細身ですわね。それになにより、この少年、怖いくらいに美形。ちょっと長めの金髪に、完璧な輪郭を描く顔。目を閉じているけれど、開くと魅了されそうな雰囲気を漂わせていて、肌も艶々と綺麗で白い。

 あたくしは重たいクレープの箱を、この美少年の前に突き出しました。すると、

「食いモンの匂ーーーーーーーーいっ!」

「きゃっ」

 ガバッと顔を上げて、いきなり叫び出しましたわ。びっくりして尻餅ついてしまいましたわよ。そして、あたくしから箱をひったくると、箱に顔を突っ込んでクレープを貪り食い始めました。

「あっ! オレのクレープ!」

「ボクも食べたいのにい~~~~」

 ヘリュは顔を真っ赤にして怒り出し、ヴェガルドはしくしく泣き出して、ヨナスにしがみつきました。

「いやはや、凄い食べっぷりだねえ」

 修行時代に見た、森で死肉に群がるハイエナを思い出してしまいましたわ。クレープを巻いている紙は、器用に避けて食べていますけど。

 興味本位で見入っていた野次馬たちも、飽きたのか散り始めてくれました。

 口の周りにクリームやジャムをいっぱいつけて、美少年は美味しそうにもぐもぐ食べてます。まるで小さな子供みたいね。なんだか苦笑いが漏れそうですわ。

 あたくしは立ち上がると、ヴェガルドとヘリュに小銭をあげて、好きなクレープを買ってくるよう言いました。

「サンキュ!」

「わーい、ありがとう」

 二人は大喜びで、クレープ屋の露天へと走って行きました。ヨナスが二人に付き添い飛んでいく。素直でよろしいこと。

 ちょっと目を離したすきに、もう食べ終えた美少年は、口の周りを腕で豪快に拭って、ゲップしました。

「生き返ったー! サンキューねーちゃん」

 無邪気、とでも言うのかしら。屈託のない笑顔で、満足そうにあたくしを青い瞳で見上げてくる。美顔にはドキッとこないけど、子供のような無邪気さに、キュンッときますわね。

「ところでアナタ、名前はなんとおっしゃるの?」

「俺様か? 俺様はヴァルト・スオサーリ。セカイサイキョーの格闘家だぜ!」

 握り拳を作って、ビシッと前に突き出す。とても様になっているのですけど、何故かしら、ひどく”バカ”に見えてしまうのは。

「その世界最強の格闘家が、何故こんな変人に連れられているの?」

「変人は酷いなあ~」

 あはは~って、笑いながら言うんじゃないわよ腹が立つっ!

「ンー……、ここって、俺様のいたセカイじゃない」

 突如真顔であたくしを見つめ、ヴァルトは腕を組んで唸り出しました。

「俺様イララクスの街ん中ブラブラしてたんだけどなー、気がついたら、シラネー街で倒れてて、このオッサンが拾ってくれた」

 ん~、嘘を言っているようには見えません。イララクスなる名称も初めて耳にしますし。

 あたくしには、心当たりがありますの。

 召喚系の一種で、異なる世界から、何かを招き寄せる魔術。あたくしはそのテの魔術は専門外ですが、父の門下に扱える魔術師が数名います。

 このヴィンドフロト以外にも、世界というものは無数にある。神々の世界だけではなく、異なる場所にある世界。魔術師だけは、その存在を信じているんですのよ。

 ただ、異世界召喚と言われる魔術では、場所を特定することが100%不可能なのです。異なる世界の存在は信じていても、誰ひとり見たことがありません。異世界召喚の魔術は発動すると、ランダムに次元を超えて、異なる世界から人だったりモノだったりを引き寄せてしまいます。

 このヴァルトなる者も、そうしてどこかの魔術師に招き寄せられたのではないかしら。そして、ポイッと捨てられたに違いありませんわ。

 異世界召喚魔術を扱う魔術師は、遊びでするわけではありません。――多分ね――何かの研究や、追求のために行うものだと聞いています。だから、ヴァルトを召喚した魔術師の眼鏡に、彼は適わなかったのでしょうね。

 せめて帰してやればいいのにと思いますが、さきにも説明したとおり、場所を特定することができないので、招き寄せた世界へと、こちらから帰すことは無理なの。

 それなのに、放り出すなんて、無責任さこのうえありませんけど。酷い話ですが、そういう被害にあっている人々が、このヴィンドフロトには居るんです。

 それを思うと、あたくしまで見捨てて放っておくのは、なんだか忍びないですわね。

「さて美しいレディ、吾輩たちを連れて、共に旅をしましょうよ、ね~?」

「……」

 ぬわぁにが「ね~?」っだっ!

 さっきからニコニコニコニコ……何故こうも神経逆撫でするような笑顔なんでしょう!

 あたくしは両手を腰に当ててエイステインを振り向き、顔を上げて思いっきり鋭く睨みつけました。

「このヴァルトは仕方ないようですから、あたくしが引き受けてもいいのですけど、アナタのような怪しい者はお断りです!」

「そんなあ~~~」

「あたくしは大事な旅をしているの、動機が不十分で怪しさ大爆発なアナタなんかを、連れて行けるわけがないでしょうがっ!」

 どすんっ! と石畳の地面を右足で踏みつける。

 フーフーと荒く息を吐き出し、あたくしは呼吸を整えます。

「吾輩ホントに、天才発明家なんですよ?」

 小首を傾げ、困ったように言う。

「じゃあ、その天才発明でお金を儲ければよろしいのではなくって? 何故クレープも買うお金がナイのすか?」

「いやあ……売れなくって」

 またもや語尾にハートマークでもつきそうな言い方っ! 売れないことなんて、全然気にしちゃいないってことね。

 ああ、もう、見上げていると首が痛くなっていきましたわ。

 あたくしは一旦顔をあげるのを止め、エイステインの靴を穴が開くほど凝視する。ホントに開けばいいのに。

 このテのタイプは、首を縦に振らないと、執念で付きまとってきますわ。仮にヘリュの推測通り、妖精族なら尚更です。でも、先程からの様子を見ていると、どうも妖精族とは違うと思うの。

 あたくしの怒りを煽ったり、クレープを買わせたり、ヴァルトに情を向けさせるような持っていきかた。あのヘラついた顔の皮の下に、姑息な計算をしている顔がありそうな気がするのです。

 そう、このエイステインは、全て計算づくで動いている。あたくしそう思いますの。

 どういうつもりであたくしに近づいてきて、何を目論んでいるのか。それが判らない以上、姑息に周囲をまとわりつかれても、面倒くさいだけですわね。

「気がかわりましたわ。いいでしょうエイステイン、アナタの同行を許します」

「えー、ほんとー? やった~!」

 両手を上げて大喜びするエイステインを、ヘリュが指差して怒鳴る。

「おい、いいのかアストリッド!?」

「ええ、まあ同行人が増えようと、あたくしの懐はまだまだ大丈夫ですから」

「マジか…」

「ヴァルト、アナタもあたくしたちと一緒に来なさいな」

「ぬ?」

「もと居た世界へ帰せるかどうか保証は出来ないのですけれど、その手がかりなりチャンスなりが訪れるまで、あたくしがアナタの面倒を見ますわ」

「おー! そーなのかー、サンキューな、ねーちゃん!」

 今気付きました。ヴァルトは口を開くと、”バカ野郎”になってしまうんですわ…。


episode07:「アナタの同行を許します」 つづく

episode06:「アナタどなた!?」

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category: 旅は道連れ編

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アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」 episode06 

 

アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」 記事用ヘッダー

《前回のあらすじ》
 宿場町イマテラを出発し、目指すは大陸の南にある、ヴェンター王国レヴァル地方。ヘリュは色々なことを思いながら、アストリッドたちと目的地へ向かう。

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アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」
《旅は道連れ編》
episode06:「アナタどなた!?」語り:アストリッド



「アストリッド様すごーい! 箱が走ってるよ!」

 吹き抜けていく風に髪を踊らせながら、ヴェガルドはずっと窓枠の外に首を出して大喜び。

「落ち着きなさいヴェガルド、危ないですわよ」

 何度も注意しているのですけれど、全然聞いちゃいませんわ。――まあ、無理もありませんけどね。ヴェガルドにとっては、初めての乗り物ですから。

 あたくしたちは宿場町イマテラを出発して、三日ほどの距離を歩いて、タリントという観光が目玉の町に着きました。ここからはいくつかある峡谷を越えるために、トロッコ列車に乗って移動です。

 東の大陸を南下するためには、遠回りをせず、タリントの町から南へ続くクオファラ山地をトロッコ列車で抜けるのが早道。歩いていけなくもないですけどね、あたくしの類まれなサバイバル能力なら。でもヴェガルドとヘリュもいることですし、たまには優雅でラクチンな旅もいいかしら。

 観光のために改装された車両は2両編成で、内装が木目を活かしたカントリー風のデザインに統一され、座席はアイボリー系の色柄のパッチワークカバーがかかっている。窓には半分だけガラスが貼られていて、外の風を十分取り込んでくれます。峡谷を走るとき、橋には手すりなんてついていませんから、乗客が落ちないように工夫しているんですのね。なので、窓ガラスは固定されていて、全部開けられないようになってました。ヴェガルドはその上半分から顔を出して、ところかまわずはしゃいでいるのです。幸いなことに、乗客はあたくしたちだけでなにより。

 相変わらず緑ばかりが目立つ景色ですけど、クオファラ山地は観光地としても有名だとか。ゆっくりと走るトロッコ列車から眺める峡谷は、風光明媚で美しいですわ。よく晴れた青空のもと、緑と切り立った岩肌が織り成す自然美。道々に続く森の中で見る風景とは、ちょっと違って見えます。

「あら?」

 そこになにか、場違いなものを見つけた気がして、あたくしは目を凝らしました。

「……え?」

 あたくしの反応に気づいたヘリュが、あたくしと同じ方向を見る。そしてなんとも言えない表情を浮かべた。

「なあ、アストリッド」

「なんでしょう」

「オレは目が疲れてるのか?」

「あたくしのほうこそ、目が疲れているのだと思いましてよ…」

 あたくしとヘリュは、揃って目をゴシゴシと擦った。そして改めて窓の向こうを凝視した。

 そう、アレをどう説明すればいいのかしら? その説明に困るものが、こちらに颯爽と近づいてきましたわよ!

「ご機嫌よう~、美しいレディたち」

「……」

「……」

「どうしたの?」

 反対側へ行っていたヴェガルドが、戻ってきて不思議そうに窓の外を見る。

「うわわわわわっ!?」

 ええ、そう。その驚きの反応が、一番正しいんですのよ!

「てっ! アナタここどこだとお思いなの!?」

 思わずあたくしは立ち上がって、喚くようにして怒鳴ってしまったわ。

「いえね~、天気があんまりイイもんだから、ついついサイクリングしてたら、トロッコ列車が見えるじゃないですか~」

 そうね、いい天気ですわね。サイクリング日和ですこと。

「そんで、3人のレディたちを見つけて、ふと寄ってみたわけなんですよ」

「オイ、コイツは男だぞ、一応」

 ヘリュがヴェガルドを指差して訂正する。

 い、いえ、訂正するところは、そこじゃありませんことよ!! そしてあたくしも、冷静にツッコミ入れてる場合じゃありません!!

「アナタどなた!?」

 そうよ、まずはココから解決しなければならないんです!

「ああ、申し遅れました。吾輩はエイステイン・イヴァイセル、今年40歳になったばかりの麗しいオジサンです。エイスたん、って呼んでね」

 クラウンが普通のものよりも高い、淡いパープルグレーのオペラハットを被り、その顔は綺麗な金髪に彩られた、とても若い顔立ち。40歳なんて言っているけど、まだ20代後半でじゅうぶん通りそうですわ。それにスラリとした体躯で、同色のテールコートを着込み、そう、自転車を漕いでいるんですの。

 前方の車輪がやたらと大きく、比例して後輪は小さいアンバランスな自転車を!

 なんというか、往復ビンタを見舞ってやりたいほど、美しい顔立ちをニコニコさせて、腹が立ってきますわ。

「あ、オレ知ってる、名前だけ」

「えっ?」

「クソの役にも立たない、奇妙奇天烈な発明をするバカ、って新聞で読んだことあるぞ」

 ヘリュは腕を組んで、大真面目な顔で断言した。

「酷いなあ~、クソとかバカとか、レディの口から言われると傷ついちゃう」

 傷ついている割には、ヘラヘラ笑ってますわよ。更にムカつきますわね…。

「発明家とかなんとか、書いてあった気がする」

 天井を見上げ唸りながら、ヘリュはひとり頷いている。

「そう! 吾輩は天才にして、偉大な発明家なんですよ~!」

 どことなく間の抜けた響きのある声で、ポーズだけは偉そうに右手を握って天に掲げてます。

 トロッコ列車は馬を普通に走らせたくらいの速度で走っていますけど、このエイステインの漕いでいる自転車は、もしかして魔術で動かしているのかしら。人間の脚で漕いでも、さすがにこの速度は出せません。

 となると、この男、魔術師なのかしら?

 ああ…、嫌だわあたくし、うっかり見落としています。あの男、線路を走っているわけではなく、宙を滑走しているじゃない!!

「アナタ魔術師ですわね!! そんな人間離れしたことをなさっているってことは!」

「違いますよ~、これ、吾輩の発明した空飛ぶ自転車なんですってば」

 語尾にハートマークでもつきそうな言い方っ!

「嘘おっしゃい! 魔術を使わず、空を飛ぶことなど出来ません!」

「だからこれは…」

「おだまり!!!」

 このあたくしに口答えも反論も、許しませんことよ!

「落ち着けアストリッド」

「アナタに言われたくないわ!」

「まあ、落ち着けっ!」

 ガバッと腕で首を掴まれて、ヘリュはあたくしの耳元で声を顰めて話し始めた。ちょっと痛いわよ…。

「見た感じ魔術とはちょっと違うかもしれん、魔力の波動を感じないんだ。それに、発明がどんなものか判らんが、ありゃかなり怪しいぞ」

「言われなくても怪しすぎますわよ…」

「列車と同じ速度で移動しながら、ああやってマイペースに会話してくるだろ。表情もずっとニコニコさせてるし、気味が悪い」

 ええ、本当に。

 何かを感じているのかしら、ヴェガルドは渋面を作りながら、黙って窓の外の男を見ていますわ。

「これはオレの想像なんだが、あの男、妖精族じゃねえかな?」

「妖精族…」

 妖精族とは、神々の力の破片に寄生された人間の魂が、化身した存在ですの。これの厄介なところは、死んだ魂ではなく、生きた魂に寄生してしまうこと。人それぞれですけど、寄生された人間は、変わった力を得たり、外見が大きく変化するそうです。滅多にあることではないのですが、稀にそんな不幸にめぐり合う人間がいます。

 40歳と言いながら、まだ20代後半のような若い顔立ち、魔術ではなく発明であんな人間離れした動きをしている。そして妖精族になった人たちの共通することは、自分のしていることを自覚できないということ。

 極端な例を出すと、子供を嬲り殺している間中、笑顔で世間話が出来てしまう、というような感じかしら。自分が人殺しをしているという自覚がないので、服についた毛玉を取り除くような感覚で殺っている。そこに善悪の判断など存在せず、気の向くまま手をあげるといった調子ですの。

 改めてあの男を見ると、たしかに妖精族と言われると納得できますわ。奇妙だし薄気味悪い。

 街中で出会っていれば、タダの変人で済みますけど、ここはトロッコ列車の外の出来事。あまり長時間かかわっているのは、かえって危険な気がしてきましたわ。

「エイステインとやら、あたくしたちは大切な旅の途中です。もう御用もお済みのようですし、どこへなりとも消え去ってくれると嬉しいのですが」

「ええ~~~、せっかくお近づきになれたんだから、吾輩も旅についていきたい~」

「だが断る!!!」

 ダンッ!! と、思わずあたくし、車両の壁に片足を叩きつけてしまいましたわ。ヘリュとヴェガルドがビビってます。けど、そんなことは今は気にすべきことじゃありません。

 こんな訳の判らん男を同行させる、このあたくしだと思って!? 舐めてもらっちゃ困るってもの。

「レディだけの旅は危険だよ~? だから、吾輩がついていってあげるから、ね?」

 ぺっ! なにが「ね?」よっ!! まだ16歳だと思って甘く見ているわね!!

 あたくしが誰なのかということを、この無礼者には思い知らせてやる必要があるようね。そう、必須!!

「我が怒りの槍を振り落とせ、ベフォール!!」

 右手を天に向けて掲げ、あたくしは木星(ベフォール)の力を召喚。

 ズッドオオンッ!! 青く晴れた空から、エイステイン目掛けて10本の雷の柱が振り落ちてきた。紫電の光が車両内に満ちる。これを喰らって死ねばいいのよ! そ、それなのに…

「えっ!?」

 雷はエイステインを外さず貫き落ちたわよ!? なのになんでこの男、無傷でヘラヘラ笑っているのーー!!!?

 お、落ち着くのよアストリッド。相手が変人だから、きっと錯覚したんだわ。どちらも動いているのですもの、外したんだわ。なのに…

「もういっちょベフォール!!」

 今度は当たったわよ! なのに……

 うっそおおお!?

 雷はちゃんとエイステインを貫いていったのに、この男、何故感電死しないの!? どうして元気に自転車漕いでいるの!

「あはは~、さっきから雷落ちてくるけど、晴れてるのにヘンだね~」

「イヤ、ヘンなのはテメーだろ…」

 あたくしの代わりに、ヘリュが真顔でツッコむ。

 ああ…あたくしの魔術が通用しない。間違いなくこの男、妖精族なのよ。ええ、きっとそう。だって妖精族は魔術を無効化する力を持つ者がいるって、先生から聞いたことがあるし。

「あー、そーそー、コレも一緒に旅に加えてね~」

 エイステインは下の方をツンツン指差している。

 あたくしは指し示すほうへ疲れた顔を向け、そしてギョッと目を剥いた。

「ちょっと、人、人っ!」

 自転車の後輪に長いロープが結ばれていて、その先には人間が括りつけてありました。意識がナイのかしら、ブラーン、ブラーンと風に揺らされているだけ。

「アレ生きてんの??」

 ヘリュも窓の外を覗き込み、誰に言うともなく呟く。死体なんてお断りよっ!

「うん。腹減ったから、動かないように寝てるんだって~」

「……」

 寝てるってアナタ、寝てるってアナタ……。空腹を耐えるために、宙吊りになりながら寝てるって、

「どういう神経してますのよーーーーーーーーーっ!!」

 あたくしは天に向かって吠えました。


episode06:「アナタどなた!?」 つづく

episode05:「これも修行した……のか?」

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category: 旅は道連れ編

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アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」 episode05 

 

アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」 記事用ヘッダー

《前回のあらすじ》
 宿場町イマテラに一日留まり、アストリッドはヴェガルドに買い物を命じる。
 幼い頃から森の中で、人間世界と隔絶して生きてきたヴェガルドにとって、初めての買い物である。アストリッドの使い魔ヨナスと共に、ヴェガルドは鞄や旅に必要なものを買い込んで、旅に出かける準備が整った。

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アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」
《旅は道連れ編》
episode05:「これも修行した……のか?」語り:ヘリュ



 朝8時、宿屋の前に揃ったヴェガルドとオレを見ながら、アストリッドは握り拳を太陽に向けて掲げると、もう片方の手を腰に当てた。

「さあ、気合入れて行きますわよ!」

 見るからに居丈高を丸出しにした女アストリッドの下僕に自ら下った、オレの名はヘリュ・フプリ。エレメントを操るリボン魔術師だ。こんな喋り方をするが、ちゃんと女だぜ。歳は16だ。

 今日からオレたちは、大陸の南を目指し、旅を始める。

 目的地はヴェンター王国の南に位置するレヴァル地方だ。アストリッドが師匠と言う魔術師から占ってもらった場所を地図で確認したが、だいたいレヴァル地方を示していたんだ。その辺に、エインヘリャル・コントローラになる適正者がいるらしい。

 この宿場町イマテラからレヴァル地方までは、だいたいひと月くらいの道程になるだろう。途中、山あり谷ありだしな。汽車の通っているところもあるが、何せ森が多い世界だ。汽車でショートカット出来たとしても、やっぱりひと月は見ないとなんねえ。

 まあ、ここ東の大陸はオレも土地勘があるから、旅の役には立つだろう。案内出来る場所も多いしな。

「ちょっとヘリュ、ぼーっとしてないで、早く行きますわよもう」

 半分眠ってる脳みそに、あの高慢ちきな声はノイズにしかならん。

 あーあ……朝は苦手だ。所謂低血圧、ってやつ。ちっちぇーガキんちょの頃から、朝だけは苦手なんだよ。けど、アストリッドの下僕になっちまったから、これから毎日たたき起こされるんだろうなあ…。だりぃぜ。

 途中で拾ったっていうヴェガルドは、すっかり餌付けされた感じがする。

 聞けば魔獣たちと森でずっと暮らしていたそうだから、人間世界の飯は美味いだろう。実際よく食べてたしよ。それに、相変わらず服が窮屈そうだが、じき慣れるだろうな。

 魔獣使い(フラフトストラ)の才能を持っているらしいコイツを、アストリッドはいずれ、ちゃんとしたフラフトストラの元へ預けるつもりらしい。フラフトストラは数がそう多い方じゃないし、そのほうがいいだろう。それに、アストリッドが成人したら、正式に後見人に就くことも考えてるそうだ。

 世界的に有名な、由緒あるスヴェンセン伯爵家の後継が後見人なら、ヴェガルドの将来は安泰。羨ましくはないが、良かったと思う。

 しかし、衝撃の事実だったよなあ。まさか、アストリッドの旅が過酷なものを秘めているたあ、オレでも想像がつかなかった。

 光か闇の神をふん捕まえて、エインヘリャルってえカードに封じる。しかも、歴代の当主たちが捕らえたところから、レベルを下げるわけにはいかねえ。同等かそれ以上の格を持つ神じゃねえとな。

 格下の神ですら、オレには無理だ。オレは、そこまで強くねえ。

 オレの生まれたのは、この東の大陸にある王国の一つ、ハミナ王国ってところだ。

 林檎が名産品ってだけの、のどかで小さな国だ。そしてオレの親父は宮廷付きの魔術師だった。

 まだオレが3つの頃に、親父は死んじまった。死んだ理由は、単に病死だ。元々心臓が悪かったらしい。オフクロはオレを産んですぐ逝っちまったそうだから、親父が死んだ時点で、天涯孤独になったんだ。親類縁者はいなかったって話だ。

 親父は魔術師としては並で、宮廷でもとくに地位が高かったわけでもない。オレも優れた実力を示せていなかったのもあって、家は断絶された。没収される財産もほとんどなかったって。そして孤児院に送られる寸前で、ある魔術師に引き取られた。

 エサ・フプリ。もうとっくに引退した老魔術師。オレにとっては育ての親で、魔術の師匠でもある。

 エサ爺はカード魔術の達人だったけど、元々防御や強化の魔術に特化してて、オレ好みの戦闘魔術は疎かった。なので、実を言うと、オレの得意な魔術は防御と強化系だったりするんだな。そこは、まだアストリッドにゃ言ってねーけどっ。

 何とか攻撃系魔術を覚えたくて、エサ爺からエレメント魔術の手ほどきは受けた。ンが、弱いんだ……。自分で言いたかないけど!!

 なーんか、魔術にも相性があるらしくって、エサ爺曰く、オレは防御や強化系魔術とは相性がいいらしい。だから、オレを引き取ったって死に際に言いやがった。まあ、おかげでそっち系の魔術は結構スゲーんだが。オレ的には、エレメント魔術がスゲーと嬉しいんだがよ。

 だから、アストリッドの手助けをする、となると、防御や強化になるだろうな。果たして神々相手に、オレの魔術が通用するか、サッパリ想像できねーけど。エサ爺仕込みとはいえな。

 けど、自分で選んだことだからな。戦うときは、しっかりやるぜ。

 それに、アイツの、アストリッドの強さもこの旅を通じて判るだろう。

 いくらオレのエレメント攻撃とは言え、魔術単体の時間を止めたり、あの「でしゅ~」って喋る羊の使い魔といい、並大抵の力じゃねえ。

 惑星霊を召喚したってことだが、あの若さでだぞ? 大人顔負けだろう。土星(アヴァトロン)ってことだから、時の神の力だ。惑星には神が宿り守護するもんだ。その力を引き出して扱ってるんだから、相当な実力を持っているってこと。

 かのイーヴァル・スヴェンセンの血筋、侮れねえな。エサ爺からスヴェンセン伯爵家の話を聞かされたときは、手合わせしたいとは思わなかったが。エサ爺が死んじまって、独りになったときによ、箔みたいなモンあると仕事しやすいだろうなって思ったから、魔術協会で話を聞いて、すっ飛んでったんだ。跡取りのお嬢様お一人旅なら、倒せるんじゃないかってな。

 けど、港町では思いっきりスルーされ逃げられて、イマテラでは勝負を挑んで負けた。情けないくらいあっさりと。

 弱いオレが言っても説得力ゼロだが、神と対等に渡り合えるだけの修行を収めた、ってのは嘘じゃねえ。だが、それでも自身が不安に思っているほど、やっぱ神を捕らえるってことは、並大抵じゃないんだな。

 神を探して歩き回るよか、さっさとエインヘリャル・コントローラを見つけ出す方が懸命だぜ。

 お、町の出口が見えてきた。あんま広い町じゃねえし、宿からすぐだ。

 ファァ~~~ア……、あー…ちっきしょー、アクビが止まんねえ。

「ヘリュさんアクビばっかりしてる」

 くすくすとヴェガルドに笑われた。

「夜ふかしせずに、ちゃんと寝るようにと言ったのに」

 口を尖らせた顔で、アストリッドにまで鼻で笑われた。なんか、ムカつくな、ブス。

「ねえ、ねえ、今日は野宿になりそう?」

 地図を広げながら、ヴェガルドがはしゃぐように言う。昨日旅の道具を一式揃えてもらって、楽しそうだ。テントで寝てみたいとか言ってたな。

「そうですわねえ……、この地図通りなら、恐らく野宿ですわね」

「わーい、テントで寝られるね~」

「そうでしゅね~」

「テントで寝ることに、喜びを感じてもらえてケッコウですわ」

 若干肩を下げて、アストリッドはため息をついた。まあな、テントが楽しいのは、寝て5分ってとこだ。場所にもよるが、別に安全ってわけじゃねえし、片付けがめんどいんだよ。それに、アストリッドと一緒なら、宿のランクは下げないだろうし、下僕だからタダ飯ありつけるしな~。そこだけは、感謝する!

「どんなに頑張って歩いても、次の町までは3日かかる」

「そうなんだ~、じゃあ、3日の間テントだテント~」

 語尾に音符でもつきそうな、ご機嫌なヴェガルドを見て、あることに気づいた。

 こいつ、ずっと森で生活してたんだよな。

 まあ森にもよるだろうが、野宿ならヴェガルドは天才じゃねえか。急に頼りがいがあるように見えてきたぞ。見た目は軟弱な優男なんだがな!

 イマテラを出たオレたちは、まっすぐ南へ向けて足を進めた。



 日が暮れる頃に、オレたちは野宿しやすい場所を探し、森の中にある川のほとりにキャンプした。

「ほーんと、森ばっかりなんだね~」

 薪拾いに行かされたヴェガルドが、両手いっぱいに薪を持って帰ってきた。さすが森育ち、薪拾い上手いじゃん。オレは石を積んで、竈もどき作成担当だ。

「ご苦労様でしたヴェガルド、そこへ薪を置いてくださいな」

「はーい」

「この世界は大半が森だからな、人里も時には周辺の森を伐採していかないと、すぐに飲み込まれちまう」

「へえ~、そうなんだあ」

「神々の力の破片(ラザネイト)は常に世界に漂っていますから、森の成長速度は尋常ではありませんのよ」

「昨日ヨナスに教えてもらったよ」

「ハイでしゅ」

「人間がどんなに必死に伐採しても燃やしても、森はその成長を止めません。だから、遠慮なんてするのが間違いというもの」

 そこまで言って、急にアストリッドが凄絶な笑みを浮かべた。

 うっ……なんか、イヤな予感が……。

「今夜のおかずを炙り出せ! ファレッグ!」

 いきなり右手の甲を顔の高さに上げ、アストリッドが叫んだ。その瞬間、キャンプの周りを囲むようにして、火の壁が出現しやがった。そして、獣の絶叫が辺に轟く。

「アストリッドさまあ……」

 ヴェガルドがしくしくと泣き出した。おそらく、住んでた森を焼かれたトラウマか!?

 まだ日がそんなに経ったわけじゃねえもんな、同情するぜ。

「そろそろいいかしら。盛る火を鎮めよ、フィエル」

 すると、火の壁が消火され、木の焦げた臭いと、獣の肉の焦げた臭いが漂ってきた。

 この女……。

「さあ、お夕飯にしましょうね」

 にこっと笑って、アストリッドはスタスタと肉の焦げた臭いのほうへと行き、2メートルはありそうなでけえイノシシの焼死体を、片手で担いで持ってきやがった。

 なんちゅー馬鹿力。顔を上げたヴェガルドが、ギョッと目を見開いている。そりゃそうだろ…。

 ドサッとイノシシの死体をその場に下ろし、腰に下げていた鞄からサバイバルナイフを取り出すと、更に笑みを深めた。その表情(かお)マジ怖いからヤメレ!

「肉をさばくのは、だ~い得意なの」

 ふふふっと微笑しながら、ためらいなく切っ先をズブリとイノシシに刺して、見事な手つきで焼けた皮を剥ぐと、肉を綺麗に切り分け、大皿の上に乗せていく。

「な、なあ、随分と手馴れてるが、これも修行した……のか?」

 おっかなびっくり聞くと、アストリッドは胸を張った。

「もちろんですわ。こうしてあたくしが旅に出ることは、生まれた時から判っていること。なので、一人でも立派に旅ができるよう、サバイバル方面も、それはもう徹底的に仕込まれましたの。野宿の仕方、山歩き森歩き谷歩き、登山水泳、獲物の狩り方、獣や魚の捌き方、武器の扱い、戦闘各種訓練、毒植物の見分け方、野草の知識、夜間移動訓練などなど、スパルタ大好きサド嬢ベデリア先生に」

「あのヒトは、ごしゅじんさまを嬲り殺すかの如き所業で、徹底的にいじめ抜いてましたでしゅよ~」

 うんざりしたように、ヨナスはため息をつく。

 なるほど……、アストリッドのあの態度は、そのベデリアって先生から影響されたんだな、きっと。

 いや、絶対だな!!

「修業中は毎日が地獄でしたけれど、こうしてたくましく旅を続けられているのも、ベデリア先生のシゴキの賜物ですわね…」

 切り分けた肉を皿にてんこ盛りにして、骨と内蔵を草むらの焼け跡に放り投げる。ゴミ処理も大胆だな。ベデリア先生とやら、絶対会いたくねえ。

「さっきの町で買ってきたソースをかけて、食べましょう」

「はーい」

「いただきます」

 貴族出身のお嬢様が、こうもサバイバル慣れしてると、世も末だなって思っちまった。

 ま、肉、美味いけどな。

 食後はヴェガルドにテントの張り方を教えてやった。アストリッドは優雅に紅茶なんざ飲んでるが、飲み終わるとすげー速さでテントを組んじまった。な、慣れてやがる。

 ヴェガルドのテントを張り終え、オレもテントを張り、腰のポーチから盥を取り出した。

 こんな森の中で堂々と水浴びするのは危険だからな、テントの中で身体を拭くためだ。一応オレも女だし、身奇麗にしておかねえと。

「アストリッド様、ボクもう寝ていい?」

 テントの小窓から顔を出し、ヴェガルドが眠そうにアストリッドに呼びかけている。

「ええ、歯は磨きましたか?」

「うん。ちゃんと磨いたよ」

「では寝なさい」

「はーい。おやすみなさい、アストリッド様、ヘリュさん、ヨナス」

「おやすみなさい」

「おやしゅみでしゅ~」

「おう、オヤスミ」

 ヴェガルドが寝たあと、なにやらバラの匂いが漂ってきた。アストリッドのやつ、ソープまで使ってやがんのか…。余裕あるな。

 バスタブ持ち歩いていたって、オレは驚かねえぞ。

 ってえ、ホントだったらマジ怖いわ。つか、ひくわ。

 オレはテントの中で寝そべりながら、どんな奴がエインヘリャル・コントローラになるんだろうと、少しワクワクしながら、そのうち眠りについた。


episode05:「これも修行した……のか?」 つづく

episode04:「旅に使う大きな鞄が欲しいんだけど」

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アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」 episode04 

 

アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」 記事用ヘッダー

《前回のあらすじ》
 リボン魔術を扱うヘリュ・フプリなる女に戦いを挑まれたアストリッドは、早く夕食にありつきたくて受けて立つ。
 実力差を見せつけあっさり勝利したアストリッドは、ヴェガルドと共に夕食を食べ終え寛いでいると、ヘリュの訪問を受けた。そしてヘリュは強くなりたくて、自らアストリッドの下僕になる。

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アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」
《旅は道連れ編》
episode04:「旅に使う大きな鞄が欲しいんだけど」語り:ヴェガルド


「ふわぁ~……」

 身体を起こして、大きなあくびをする。そして、朝日を浴びて痒い目をゴシゴシ擦る。

 うーん、気持ちよかったあ。ボク、こんな気持ちのいいベッドで寝たの、初めて。シーツの感触がスベスベして気持ちがいいの。

 村が吹っ飛ばされてみんな死んじゃってから、ずっとヒュトネンの森の動物……魔獣たちと暮らしてたでしょ。だから魔獣の背中の上とか腹の枕とかが、ボクの寝床だったの。アレはアレで心地よかったけど、ベッドのほうが寝やすいや。だって動かないもん。

 村で暮らしていた頃は、たぶんベッドで寝てたと思うんだけど、もう忘れちゃった。

 ベッドを出て、ボクは両腕を上に伸ばして身体を伸ばす。すっかり疲れも取れたみたい、良かった。

「ヴェガルド、起きてますか? 入りますわよ」

 ノックがして、アストリッド様が入ってきた。

「きゃあ!!」

 ボクを見て、いきなり悲鳴を上げて後ろを向いちゃった。……なんで?

「は、はしたないっ! ちゃんと下着と寝間着を着て寝なさい全く!!」

 そう怒鳴って、アストリッド様はドアをバッターンと閉めると、足音を轟かせて行っちゃった。

 そいえば、裸で寝てたんだった。だって、服って窮屈なんだもん。寝るときは誰もいないし、裸で寝てもいいよね、別に。

 グゥゥゥゥ…。

「あ、お腹鳴った」

 朝ごはん、朝ごはん。ボクはしょうがなく下着を履いて、昨日買ってもらった服を着た。やっぱり、服って窮屈だなあ。

 アストリッド様に教えられたとおり、鏡の前で髪をとかす。抜け落ちた髪の毛はゴミ箱に捨てて、ブラシについた髪の毛もゴミ箱に捨てる。洗面器に水を入れて顔を洗って、歯をしっかり磨く。

「よし、仕度出来た」

 これで怒られないぞ。

 ボクは意気揚々と、食堂へ降りていった。



「おはよう、アストリッド様」

「”おはようございます”、ですわよ。――おはようございます、ヴェガルド」

「おはよ~ございましゅ」

 もうテーブルについているアストリッド様と、アストリッド様の肩に乗っているヨナスが挨拶を返してくれた。

 ボクはアストリッド様の向かい側の席に座る。

「よく眠れましたか?」

「うん、とっても気持ちよかったよ」

「それは良かったですわね」

 そう言ってにっこり笑う顔は、あの、鬼のようなアストリッド様とは別人に見える。普段からそうしてればいいのに、って思う。

「オーッス」

 大きな口を開けてあくびをしながら、ヘリュさんが眠たそうにやってきた。

「おはようございます。朝から品がありませんことよ」

 眉間に皺を刻んで、アストリッド様がたしなめる。

「オレ、朝早いの苦手なんだよ……普段は、昼に起きるから」

 ボクの隣の席にドッカリ座ると、ヘリュさんはまた大あくびした。ホント、眠そう。

「もう7時を回りましたわよ、けっして早くなんてありません。あたくしの下僕になったのなら、毎日しっかり規則正しい生活をしていただきますわ」

「……がんばりまーふ」

 全然頑張りそうもない返事。でも、そこがヘリュさんらしいと、ボクは思っちゃった。

 ボクは正面のアストリッド様と、隣のヘリュさんをじっと見る。

 アストリッド様の髪の毛って、とっても特徴がある。前髪の部分が、後ろの髪の毛よりも薄い色をしているんだよね。ヘンじゃないけど、不思議だなって思う。

 わざとそうしているのか、生まれつきなのか、今度聞いてみようっと。

 そしてヘリュさんも、とっても特徴があるの。全体的にくすんだ濃い金髪なんだけど、毛先だけが赤毛。前髪も、ツインテールにしている毛先も赤毛になってる。もしかして、魔術師って髪の毛に特徴があるのかな? くすっ、なんだか面白いね。

「なんですのヴェガルド、ニヤニヤしちゃって」

「えっ、いえ、なんでもないよ」

 危ない危ない、顔に出ちゃってたんだ。気をつけよっと。

「おかしな子。ほら、朝食が来ましたわ」

 宿の人が大きなお皿を沢山もってきた。

 わあ、いい匂い。焼きたてのパンの匂いが、食堂いっぱいに広がった。

 これまでのボクの朝ごはんって、木の実とか草とかをそのまま食べていたから、こんなふうにちゃんとした食べ物って、色んな味があって美味しい。

 この具がいっぱい入ったスープも美味しい! 鳥肉とか野菜がゴロゴロいっぱい入ってて、何杯でもおかわりできちゃいそう。目玉焼きも美味しいなあ。

 ボク、幸せだあ。

「オマエ、美味そうに食べてるなあ」

 フォークで目玉焼きの黄身を突っつきながら、ヘリュさんは眠そうに目を瞬いてる。食べないなら、ボクがもらっちゃおうかな。

「朝食を作って下さった、宿の方に失礼ですわよ。美味しいんですから、ちゃんと召し上がってくださいな」

「へーい…」

「ヴェガルド、このサラダも食べるのよ」

「うん」

 アストリッド様がボクの前に置いたお皿には、赤や緑や黄色い野菜がいっぱい入ってた。そこに、ドレッシングっていうものをかけてくれる。

 森で食べてた草と似た色だけど、味も食感も全然違って美味しい。この、ドレッシングっていうものが、美味しいのかなあ~。でも、野菜も色んな味があってシャキシャキ美味しい。

 こんなに美味しいものをいっぱい食べられて、ボク、アストリッド様に下僕にされて良かったかも。

 ゆっくり朝ごはんを食べたあとは、アストリッド様の部屋に集まった。

「下僕も増えたことですし、あたくしの旅の目的の詳細を、話しておかなければなりませんわね」

「そうだな、オマエの下僕になって、具体的にどうすればいいのか判んねえし」

 オマエ、て部分に引っかかったようだけど、アストリッド様は黙殺した。ヘリュさんもだいぶ目が覚めてきたみたい。目つきが全然違うっていうか、眠気のある目つきじゃなくなった。

 アストリッド様は腰に下げている鞄から、前に見せてくれたエインヘリャル? ってカードを取り出した。今度は6枚だ。

「これは、代々スヴェンセン伯爵家の当主が引き継いできた、エインヘリャルというものです」

 薄い青紫色のカードに、金色で綺麗な模様がいっぱい描いてある。そして、カードの表面には、色を失った不気味な人物画が描いてあった。なんだか、今にもカードの中から飛び出してきそう。

「す、スッゲエ、魔神か!?」

「さすがは魔術師の端くれ、お判りになったのね」

「端くれは余計だっ」

 ヘリュさんは身を乗り出して、食い入るようにエインヘリャルを見つめている。青い瞳がキラキラしだした。

「当主となる者はその代で、1枚エインヘリャルを作るの。そして、魔神や神を捕らえて、エインヘリャルに封じ込める。そうして、歴代の当主たちが作り上げたエインヘリャルがこの6枚。そしてあたくしは、7枚目のエインヘリャルを作るために旅をしています」

「マジか……。魔神とかと戦うのかよ…」

 心底驚いたように、ヘリュさんは顔を強ばらせた。正直ボクは、ピンとこないけど。

「神々と戦うための修行はおさめてきたわ。けど、難敵になればなるほど、危険レベルは計り知れない。だから、本音を言うと、先にエインヘリャル・コントローラを見つけ出したいの」

 真剣そのものの表情で、アストリッド様は抑えるように言った。なんだか無敵そうに見えるのに、アストリッド様でも怖いものってあるんだなあ。

「その、エインヘリャル・コントローラってのは、そのエインヘリャルを使う者だよな? どうやって見つけ出すんだ?」

「適正者が居れば、エインヘリャル自身が教えてくれます。この町の規模なら、町内にいれば反応するでしょう」

「なるほどな。じゃあ、暫く町に滞在して、適正者が現れるのを待つのか?」

「そう、悠長に構えているわけにもいきません。あたくしが受けた占いでは、この東の大陸の南を目指せ、とのことだったので、今日は疲れを取るためにこの町に。明日、出発します」

「判った。そのエインヘリャル・コントローラってのを見つけるもの、もう一つの旅の目的なんだな」

 アストリッド様は黙って頷いた。それを見て、ヘリュさんも頷く。

 二人の会話を黙って聞いていたけど、ボクにはイマイチ判んない。それに、適正者ってどんな人が適正者なのかな?

「ねえアストリッド様、どんな人が、そのエインヘリャルを扱うことができるの?」

「そうですわねえ、24時間肉体労働を休まずやり遂げられるような、底なしの体力を有した健康な若者ね」

 そ、そんな変人、本当にいるの!?

「魔術なのに、魔力じゃなく体力が必須なのか……」

「ええ……。そこは、同じくツッコミたいところね」

 難しそうに顔をしかめながら、二人は長いため息をついていた。



 話の後、アストリッド様は一枚のメモを書くと、ボクにお金を渡して買い物をしてこいって命じてきた。下僕の初仕事なんだって。でも当然だけど、買い物なんてしたことないから、ヨナスが一緒に買い物について行ってくれることになった。

「良かったあ、ヨナスが一緒に来てくれて」

「ハイでしゅ~。ヴェガルドしゃんは、わたくしめと同じ赤い瞳をしていましゅからね~。親近感がわいたんでしゅ」

「あ、ホントだ」

 ボクもヨナスも、赤い瞳をしてる。

「お買い物の仕方は、ちゃんと教えてあげましゅから、安心してくだしゃいね~」

「うん、頼りにしてる!」

 ヨナスを頭の上に乗せて、メモを片手にお店を探す。今日も人がいっぱいで、賑やかなところだなあ。それに、建物がいっぱいだ。

「ねえヨナス、建物って全部木で出来てるんだね」

「そうでしゅね~、だいたいの建物は、木造建築でしゅ」

 色を塗ってる建物もあるんだけど、この町は木の匂いがするんだよね。ヒュトネンの森も木のいい匂いでいっぱいだった。だから、そんなことがちょっと気になっちゃった。

「大きな街へ行くと、石造りの建物なんかも多いんでしゅよ。一般的には木材で作る建物が多いでしゅが、それはこの世界の大半が、森で出来ているからなのでしゅ~」

「どうして大半が森なの?」

「我々の住むこの世界ヴィンドフロトは、神々の世界に挟まれたところにあるのは知ってましゅね?」

「うん」

「光の神々の世界アルスキールスキンと、闇の神々の世界デュープルマニョール、この二つの神々の世界から、影響を受けていると聞いていましゅ。そして、戦うために神々がヴィンドフロトに降臨して、戦いで使う神力が世界に撒き散らされて、森の育成に一役買っている。そう、言い伝えられているのでしゅよ~」

「へ~、じゃあ、神様たちが森を育ててるんだね」

「まあ、そうとも言えましゅかねえ」

 ヨナスはくすくすと笑った。

「ちなみに、ヴィンドフロトに漂う神々の力の破片を、ラザネイトと呼ぶんでしゅ。ラザネイトは燃料に加工されて、人間たちの生活の一部に使われていましゅね~」

「部屋や道の灯りとかも、ラザネイト燃料で?」

「その通りでしゅ。ソルヘイム社というところが、ラザネイトを燃料に加工して、売り出しているのでしゅよ。そして、生活機器や汽車や船を動かす燃料にも回しているんでしゅ。便利でしゅね~」

「神様たちは人間に、いっぱい恵みを与えてるってことなのかなあ。ボクの住んでいた村は吹っ飛ばしたけど」

「意図して恵んでいるのか、単に人間が勝手に燃料にして使っちゃってるのか、それはわたくしめには判りませんが~、ヴェガルドしゃんが好きなように受け取ってもいいことだと思いましゅよ」

「ふむ~」

 ボクは足元を見る。

 この道は、石で平に舗装されてるの。見た目も綺麗だし、歩きやすいんだけど、石って冷たい感じがするんだ。でも木は温かい感じがするし、匂いもあって、ボクは木で作った建物とかが好きだなあ。

「ほらほら、あのお店でまずお買い物でしゅよ~」

「え、あ」

 目的のお店の前に着いてたみたい。ここは、鞄屋さんだって。

「えーっと、大きな鞄を1個買いなさいって書いてある」

「そうでしゅね。ヴェガルドしゃんの好きな鞄を選びましょう~」

「んー、でもなんで鞄を?」

「これから旅をするから、必要なものを入れて持ち歩ける鞄が必要になるからでしゅよ」

「そっか、色んなもの入れる鞄、ボク持ってないものね」

「でしゅでしゅ」

 お店の扉を開けて中へ入ると、白髪のおじいさんが出迎えてくれた。

「いらっしゃい、坊や」

「旅に使う大きな鞄が欲しいんだけど」

 そう言うと、おじいさんはフンフン頷いて、店の右奥を指した。

「あっちに目的の鞄があるよ。勝手に見ていい」

「ありがとう」

 おじいさんの示した棚には、色んな形や色の鞄が置いてある。

「ヨナス、どんなものがいいんだろう?」

 好きに選べと言われても、よく判んない。

「そうでしゅねえ~、手に持って歩くと片方の手が塞がってしまいましゅし、重いものを入れると手が疲れちゃいましゅ。こういう、肩にかけられるタイプの鞄が良いと思いましゅよ~」

 棚の高いところに置いてある鞄を、ヨナスが小さな手で掴んで持って来てくれた。ヨナスって凄い力持ちなんだ。

「こうやって掛けるの?」

「そうでしゅ、そうでしゅ」

 長い紐を肩にかけて、腕を通して見る。斜めに紐がかかった感じ。

「服の色にも合いましゅし、お似合いでしゅよ」

 ニコニコっとヨナスに言われて、ボクもこれでイイなと思った。

「ではこれを、あのおじいさんに渡して、お金を払うんでしゅ」

「うん」

 ボクは言われたとおり、おじいさんに鞄を渡して、鞄の代金を支払った。高いのか安いのかは、正直判らない。でも、ヨナス曰く、ちょうどいいくらいの値段なんだそう。

「値札は外しておいたから、肩にかけていくといい」

「うん、ありがとう」

 今日からボクの旅のお供になる鞄、よろしくね。

「次は、細々としたものを買いにいきましゅよ~」

「はーい」



 両手いっぱーいに買い物をして、宿に戻る頃には夕方になっていた。お昼ご飯は、街頭販売のサンドイッチってものを食べた。お肉や野菜がパンで挟んであって、食べやすくて美味しかったよ。

「ただいま~」

「ただいま戻りましたでしゅ~」

「二人共、おかえりなさい」

 テーブルに広げていた地図を見ていたアストリッド様とヘリュさんが、笑顔で出迎えてくれた。

「お買い物はどうでしたか?」

「ヨナスが色々教えてくれたから、メモのものは全部買えたよ」

 紙袋に入れてあったものを、ベッドの上に並べる。

「うん、ちゃんと買えてますわね。ヨナスもご苦労様でした」

「えへへでしゅ~」

 下着の替え、洋服の替え、日用品色々、護身用のナイフ、携帯ランプや燃料、水筒、携帯食料少々、寝袋、お財布、地図、大小の袋、毛布、テント一式、お薬各種、あとボクが欲しくて買ったお菓子。

「ねえアストリッド様、こんなにいっぱい、この鞄には入らないよ」

 下げていた鞄を、ボクはアストリッド様に示す。すると、アストリッド様はにんまりと笑った。

「悪くないデザインですわね。物もしっかりしているようですし、ちゃんとファスナーもついてる。良い鞄を選びましたね」

「ヨナスが選んでくれたの」

「なら、問題ありませんわ」

 そう言ってクスッと笑うと、アストリッド様は自分の鞄から、小さな紙切れを出した。

「鞄を貸してちょうだい」

「はい」

 下げてた鞄を取って、アストリッド様に渡す。

 小さな紙切れに何かを呟いて、鞄を開けると、鞄の中にその紙切れをくっつけちゃった。

「さあ、これでいいわ。ベッドの上の物を、この鞄の中に入れてご覧なさい」

「う、うん」

 首をかしげながら、ボクは一つずつ鞄に入れてみた。

「えっ!?」

 あ、あれ? アレアレ? なんか、スルスル鞄の中に入っていくのに、鞄は少しも膨らんでこないし、どんどん入るよ!

 ビックリしているボクの様子に、ヘリュさんがケラケラ笑った。

「種明かししてやれよ、ビビってんぞ」

「しょうがありませんわね」

 アストリッド様も面白そうに、クスクス笑っている。

「さっき貼り付けた紙切れはね、この鞄の中を亜空間と繋げましたの。もちろん範囲限定ですけれど。だから、これだけ沢山の物を仕舞えて、しかも重たくならないんですのよ。便利な魔術でしょう」

 すっごーい!

「取り出したいものを心に念じれば、すぐに取り出せますわ」

「魔術師は色々な物を持ち歩くし、だけどコンパクトが信条だからな。オレもそうしてる」

「魔術は万能ではありませんけど、便利に応用出来るものですわ。これで、明日からの旅の備えは出来ましたわね」

「はい、ありがとうアストリッド様」

 えへへ、何だか嬉しいな。

「さあ、お夕飯を食べに行きましょうか」

「はいっ!」


episode04:「旅に使う大きな鞄が欲しいんだけど」 つづく

episode03:「嘘でしょ~~??」

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アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」 episode03 

 

アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」 記事用ヘッダー

《前回のあらすじ》
 新たに下僕(しもべ)にしたヴェガルドを連れて、アストリッドは宿場町イマテラに辿り着く。そこで、アストリッドの使い魔ヨナスが合流し、二人と1匹は仕立て屋でヴェガルドの衣服を調達。そして夕食をとろうと店へ向かうと、いきなり「女狐」と怒鳴られた。

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アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」
《旅は道連れ編》
episode03:「嘘でしょ~~??」語り:アストリッド


 東の大陸から探し始めるといいだろう。そう、宮廷魔術師の占いを受け、あたくしは東の大陸へ出発した。ちなみに宮廷魔術師とは、あたくしの父、ディラン・ニルス・スヴェンセン筆頭魔術師の弟子であるリカルド先生。

 リカルド先生はまだ30歳と若いんだけど、父の右腕であたくしの魔術の先生でもあるの。顔は綺麗なのに性格は超サドそのもの、鬼のような修行を幼い頃から課してきて、涙と血反吐をまき散らしながら修行したものよ…。思い出すだけで冷や汗が出るというもの。ああ、懐かしいわ。あの頃には帰りたくないくらい。

 屋敷を出てからまっすぐ港を目指し、東の大陸に渡るための船に乗って、1週間ほどの航海で東の大陸に着いてみれば、港町でいきなり絡まれたのよ。忘れもしない……、いえ、本当は今の今まで忘れていたけれど。思いっきり。

「見るからに変質的で、脳内イカれてて、美的センスもなくて、バッカじゃないのってくらいみっともなくて、アホ丸出しで品の欠片もなくて、声をかけられるとタダの迷惑だって気づきなさいよアホンダラで、知り合いだと思われたら恥ずかしくて旅が出来なくなるわって思うほどの、この女に」

「てぇ、そういうコトは声に出して言うんじゃねえよ!!」

 握り拳で唾を飛ばしながら怒鳴る。ホント、品がないわ。

「あら、ナレーションしてたつもりなんだけど、心の声が出ちゃっていたのね、ごめんあそばせ」

 にこっ。

「ぐぎぎぎぎっ……、相変わらずムカつくなクソアマ」

「下品を丸出しにして、あたくしに話しかけないでいただきたいわ。お腹がすいているのよ…」

 今日は森で大暴れしたし、ずっと歩きっぱなしだから疲れているの。お腹が鳴らないように気合で耐えているけど、そろそろあたくしも限界だわ。それに、嫌ねえ…、あの下品な女が騒ぐから、遠巻きに人だかりが出来ちゃってるじゃない。こういう目立ち方は避けたいのに、恥ずかしいわ全くもう。

 リカルド先生の占い、思いっきり外れているんじゃなくって? アレはどう見ても、エインヘリャル・コントローラにはならない。

 お腹もすいているし、マトモに相手をするよりは、一発ガツンと吹っ飛ばしたら消えてくれるかしら。二度と目の前に現れないほど徹底的に。――あら、空腹のあまり、思考回路が物騒になってしまったわね。

「いいか、スヴェンセン一族に勝って、オレのリボン魔術の凄まじさを魔術協会に認めさせてやるんだ! ぶっ倒す!!」

 下品な女はそう言って、少し後ろに控える中年の男を指差す。

「……魔術協会の人を、わざわざ買収してきたの?」

「いええ……拉致られました」

 トホホと肩を落としながら、中年の男は泣き出す。なるほど、問答無用で連れてこられた挙句、承認するまで帰らせてもらえないわけね。ほんのちょっと哀れには思うけど、正直空腹の前には関係ないわ。

「リボン魔術って、なあに?」

 ヴェガルドが不思議そうに首をかしげて、あたくしの腕をツンツンとつついてきた。まあ、名前だけ聞いたらファンシーな響きよね。

 あたくしは目の前で仁王立ちする下品な女を、つま先から頭のてっぺんまで、ジロジロと観察する。

 その姿を、なあんて表現すればいいのかしら。

 大小様々なデザインのリボンを、服にくっつけているの。色も共通性もなく、言葉通り色んな色のリボン。あのグラデーションのかかったカラフルな三段スカートっぽいものも、髪に結んでいるものも、肩や胸元や手足に巻きつけているあのリボンも、魔術用のものねきっと。

 はぁ、っとため息をついて、ヴェガルドの方へ顔を向ける。

「リボン魔術、なんて魔術名称は無いのだけど、所謂符術の類型みたいなものかしら。あの色とりどりのリボンに術式を記しておいて、魔術を発動させるのね。ご丁寧に、色でなんの術が発動するか、あの能無し女は区別しているようよ」

「能無し言うな! 工夫、って言うんだ!!」

「へ~、魔術ってアストリッド……様の使うものとか、色んなのがあるんだあ」

「アストリッド様、と、間を開けずに言いなさい」

「……はぃ」

「あたくしの使う魔術は、由緒正しきスヴェンセン伯爵家のもの。あんな、テキトーにアレンジした紛い物魔術と一緒にしては、いけませんことよ」

「紛い物だとおおおおっ」

「仕方ありません、魔術協会のかたもいらっしゃることだし、ヴェガルドにもあたくしの扱う魔術の一端を、きちんと見せておかなくては。ヨナス」

「はい、オマカセください、ごしゅじんさま~」

 それまで黙って成り行きを見守っていたヨナスは、人だかりのところへ飛んでいくと、羊の鳴き声をあげた。

「メェ~、メェ~、みんな眠くなっちゃうの~」

 すると、ヨナスの周りに居た一般人たちが、立ったままスッと眠りに落ちていった。あたくしの使い魔であるヨナスは、眠りの魔術を扱えるの。ギャラリーが多いと、色々とやりにくいし、魔術戦は見世物ではないしね。

 あたくしは二の腕まである、長い手袋を両方脱いだ。そして、両手の甲をヴェガルドに見せる。ヴェガルドは素直に覗き込んできた。

「複雑な、記号みたいなのが描いてある」

「あたくしは天空の星霊を召喚し、使役することができます。右手は惑星霊、左手は十二星座霊の召喚術式よ」

「へえ……」

「魔術を発動するためには、場所、時間、供物、魔力、呪文などの儀式が必要になってくる。でも、あたくしのように旅をしていると、そんな儀式をしている暇はないでしょう。いきなり敵に襲われて、儀式しているとかありえません。そこで、儀式を省略し、召喚魔術が即発動できる術式を、こうして刺青にして手に記してあるの」

「……これでボクの友達を、滅殺しちゃったんだね…」

「……」

 案外この子、根に持つタイプ!? そういう理解の仕方もあるってわけね…。

「コホン。さあ、秒殺して差しあげてよ」

 ビシッと下品女を指差し、あたくしは左手の甲を女に向ける。

「へっ! やっとやる気になったかクソアマ。ヘリュ・フプリ様のリボン魔術の真髄を思い知りやがれっ!!」

 ヘリュ・フプリっていうの。初めて名前を聞いた気がする。まあ、前に名乗っていたとしても、もう覚えていませんけど。

 ニヤリと笑みを浮かべるヘリュは、三段スカートに結んである、赤い小さなリボンを解いた。色で何が飛んでくるか判るのは親切ね。

「ファイア!!」

「消火よろしくっ、宝瓶宮(クンバー)!」

 ゴオッと飛んできた火は、宝瓶宮(クンバー)の化身の水に包み込まれ、呆気なく消えてしまった。最低ねえ、なあにあの火力。よくある見世物で、松明に酒を吹きかけて、火炎放射みたいに撃ちだす火みたい。手品か芸レベルじゃないの。

 はあ…、あんなちゃちな火炎手品の消火に、十二星座霊を呼び出すとか。ナメクジをいたぶり殺すのに、高級岩塩をまぶすようなものね。

「やるじゃねえか……」

 ヘリュはこめかみをヒクヒクさせながら、あたくしを睨みつけている。あの程度をやるじゃないかと言われても、あたくしが困るわ。

「リボン魔術の真髄を見せてくださるのでしょう? 準備運動にもならないような、手品芸を披露なさらず、ドッカンと盛大にお願いしますわ」

「手品だとお!?」

 両手の拳を強く握り締め、ワナワナと口を震わせて、ヘリュは地団駄を踏んだ。

 あら、勘に触りましたのね? だって、本当のことですもの。

「今度はこうだっ!!」

 三段スカートについている青緑黄の3つのリボンをほどき、あたくしに投げつけてきた。

「ウォータ、エアロ、ストーン!!」

 さっきのファイアと威力は同じですわね。全く、本当に手品レベルね。

「小さき力を粉砕せよ! 巨蟹宮(カルカタ)!」

 三種のエレメントは、あたくしが召喚した巨蟹宮(カルカタ)の巨大な爪に打ち払われ、霧散してしまった。

「ちょっと、お腹すいているのよ! さっさと本気出して下さるかしら!?」

 このままじゃお腹が鳴っちゃうじゃないの! 真面目に相手をしてあげているんだから、いい加減本気の魔術を見せてちょうだいもう!!

「ボクももう限界……、アストリッド様、ちゃちゃっと吹っ飛ばしちゃったら…」

 あたくしの後ろにしゃがんで、ヴェガルドが物騒なことを呟きだしたわ。

「そうでしゅね~、あまり遅い時間にお食事すると、太っちゃいますもんね~」

 ヨナスも飽きてきたようで、ヴェガルドの頭に座ってニコニコ笑っている。そうね、早く食べないと太っちゃうわ。

「ということで、さっさとして!」

 ビシッとヘリュに向けて人差し指を突きつけ、あたくしは怒鳴った。

「わーったよ…、そんなに死にたきゃ、ぶっ殺す!!」

 ヘリュは三段スカートを腰から剥ぎ取って、バサバサッと両手で何度か扇ぐ。

「この町ごと吹っ飛ばしてやらああ!!」

「ちょっとヘリュさん!?」

 ヘリュの後ろで状況を見ていた魔術協会のおじさんは、急に慌ててヘリュの両肩を鷲掴みにしていた。

「いいですかヘリュさん、協会としてはそんな魔術の使用を認めません! 町を吹っ飛ばすなど、もってのほかです」

「じゃあかあしいいい!! あの居丈高で尊大で鼻持ちならねえクソアマをぶっ殺すには、これくらいやらねえとダメなんだよっ!」

 凄絶な笑みを浮かべ、ヘリュは魔術協会のおじさんを払い除けた。

 あらあら、短気ねえ。

 魔術師である以上、魔術協会に楯突くのはご法度なんですけど。頭に血が上って、そんなことも忘れているのね。まあ、どんな規模の魔術を発動するつもりかは知らないけど、このあたくしを、誰だと思っているの?

「喰らいやがれクソアマああああああああっ!」

 ヘリュは三段スカートを、勢いよく地面に叩きつけた。すると、地面が激しく振動し、ヨナスが寝かせた一般人が次々倒れていく。

 あの三段スカートは、上から土、水と風、毒と炎のエレメント魔術が仕込んであると思う。そして乱暴に発動させたということは、リボンっていうか布の大きさのぶん、さっきの小さいリボン以上の威力はあるってわけね。

 一度に5つのエレメントの力を発動するんじゃあ、確かにほっとけば町は吹っ飛んじゃうわ。

 でも、そうはさせない。だって、お腹すいているんですもの!!

「時間を操作し、あの者の魔術を止めよ、アヴァトロン!!」

 やむを得ずあたくしは右手の甲をかざし、惑星霊を召喚した。

 目に見えない土星(アヴァトロン)の星霊が、ヘリュが発動させようとしている魔術の時間を止めた。

「あ、アレ? 魔術が動いてねえっ」

 バサバサと何度もスカートを振って、ヘリュは首をかしげていた。

「ヨナス」

「はい~、ごしゅじんさまあ」

 ヨナスは大きく空気を吸い込み、そしてヘリュの手にしている三段スカートに向けて、物凄い勢いで息を吹き付けた。

「うぎゃあああっ」

 三段スカートにボッと火がついて、瞬く間にスカートはメラメラと焼けて灰になっていった。ヨナスの火炎魔術よ。

 ヘリュはその場にへたり込み、目を瞬かせてあたくしを見上げてきた。さっきの勢いはどこへいったのやら、情けない顔ね。

「あなたの魔術自体の時間を止めて、発動を阻止したの。あたくし個人を狙うならまだしも、町全体を巻き込んだら、あなた犯罪者になるところだったのよ」

「う……」

「あたくしの善意に大感謝して、金輪際目の前に現れないと誓いなさい。そうすれば、今日のことは下水に流して差しあげてよ」

 ヘリュはムッとした顔をしたけれど、すぐにしゅんっと下を向いて黙り込んだわ。

「それと魔術協会の職員の方」

「あ、はい」

「そんなわけで、もうよろしいかしら? あたくしたち、とーってもお腹がすいてますの。早くお夕食をとりたいわ」

「はい、はい、ようございます。さすがはスヴェンセン伯爵家の次期当主様、御当主の伯爵様も、良い後継を持たれましたな」

 聞き飽きたお世辞を言いながら、魔術協会のおじさんは頭を下げてきた。

 魔術協会の職員も、スヴェンセン伯爵家の名に頭を下げるのよ。それだけ世界規模で、あたくしの家は影響力を持っているわけね。

 もっとも、今のあたくしは、スヴェンセンという名の七光りで、チヤホヤされているだけなのだけど。悔しいけど、それが事実だわ。

「じゃあ行きましょう」

 あたくしはヴェガルドとヨナスを連れて、店の中へ入った。ヨナスが眠らせていた一般人は、もう目を覚まして各々の目的へ向けて歩き出していた。



 店内はこじんまりとしているけど、テーブルには真っ白なクロスがかけられ、小さな花瓶にはピンクの薔薇の花が活けてある。床にはクリムゾンの絨毯が敷かれ、可愛らしいシャンデリアが天井を照らしていた。

 宿場町にしてはいいお店。それに、なんといってもお料理が美味しいわ。

 あたくしはお肉料理のフルコース、ヴェガルドはお魚料理のフルコースを注文。ヴェガルドにテーブルマナーを教えながら、あたくしたちは一心不乱にお料理を平らげた。あたくしには珍しく、パンのおかわりもしちゃったわ。

「惑星霊を召喚すると、ものすご~く魔力を使いましゅものね。今日は沢山使ったんでしゅね、ごしゅじんさま」

 テーブルの上でコロコロ転がりながら、ほんわか言うヨナスに指摘される。

「ええ、今日はちょっと大暴れしちゃったのよ…」

「あれだけの戦利品でしゅものね~」

 ふふ、ヨナスはなんでもお見通しね。

「すごく美味しかった」

 生クリームで口のまわりをデコレーションしたヴェガルドが、可愛らしい笑顔で満足そうに言う。そりゃあ、ずっと野生生活だったもの、たぶん生肉とか食べていたんだろうし。

「それは良かったわね。ほら、これで口のまわりを拭きなさい」

 ナプキンでヴェガルドの口まわりを拭く。

「ヨナスは何も食べなくてもいいの?」

「わたくしめは、ごしゅじんさまの魔力をムシャムシャしているので、物は口にしないのでしゅよ~」

 不思議そうにするヴェガルドに、あたくしは頷いてみせる。

「ヨナスはあたくしの使い魔なので、あたくしの魔力と繋がっているの。なので、あたくしの魔力が枯渇しない限り、ヨナスは元気なのよ」

「ふ~ん、そうなんだあ」

 最後に出された紅茶をいただきながら、のんびり寛いでいると、さっきのヘリュ・フプリが突然現れた。

「まだなにか、御用がおありなの?」

 思いっきり迷惑そうに言うと、ヘリュは拗ねたような表情で、目だけを明後日に向けている。

「お前、さ、なんでそんな強いんだよ」

 そう不満そうに言われましても?

「同い年のくせに、大人の魔術師みたいに」

 正直ヘリュが何を聞きたいのか判りませんけど、あたくしとの実力差の秘密でも知りたいのかしら。秘密なんてものは、ないですけどね。

「あたくしは、しきたりのために旅をしているの。無事与えられた課題をクリアするために、物心着く頃には猛烈な修行をしてきたわ。もちろん魔術の修行だけじゃなくて、ありとあらゆるコトを躾けられてきた。どんなものとも渡り合えるように。それでたぶん強いんじゃないかしら」

「しきたり…?」

「ええそうよ。スヴェンセン伯爵家のしきたり」

「そっか…」

「そういえば、あなた、何故あたくしのコトを知っていたの?」

 ふと気づいた、このヘリュ・フプリは、どうしてあたくしがスヴェンセン一族だと知っていたのかしら。今更間抜けなんだけども、急に気になったわ。

「ああ、オレの地元の魔術協会で知ったんだ。アウレリア神聖国のスヴェンセンの跡取りが旅に出たって。んで、容姿とか教えてもらって、港町で待ち構えてた」

 こ…個人情報ダダ漏れじゃない! これは早急に抗議を出しておかなくっちゃ。

 魔術師と認められた者は、子供でも大人でも、必ず魔術協会に登録をするの。魔術協会に登録しておけば、色々な便宜を図ってくれるし、困っていると助けてくれる。とくにあたくしのような名家の子女が一人旅なんかに出ると、必ずそのことを魔術協会に報告し、旅先で何かあったときは、魔術協会が間に入ってくれる。

「スヴェンセン一族は有名じゃん。だから、勝てばオレの名が一気に有名になると思ってさ。――どうせ、貴族のご令嬢サマだろ。魔術師とか言っても、ぜってえ弱いと思ってたんだが」

「ご想像とはかけ離れていて、申し訳ありませんでしたわ」

「オレの家、ハミナ王国の宮廷魔術師だったんだが、オレが3歳の時に親父死んじまってよ。オレ以外後を継ぐやつがいなくて、でもオレちっさかったから、家督を取り上げられちまった」

 なるほどね、それで名を挙げたかったってわけね。

 スヴェンセン一族を倒せば、そりゃ名はあがるでしょう。それがたとえご令嬢様でも、魔術師であればいいのだから。

 ハミナ王国といえば、この東の大陸にある国のひとつね。

 同情するのはタダだから、いくらでも垂れ流して差し上げるけど、倒されて宣伝に使われるのは御免こうむるわ。

「なあ、あんたの旅に、オレを加えてくれないか?」

 ブッ! あたくしは飲んでいた紅茶を、向かい側のヴェガルドの顔に吹き付けちゃったじゃない。ヴェガルドが迷惑そうにナプキンで顔を拭いている。しかし何故そうなるの!?

「あんたの旅についていったら、なんか強くなりそうでさ。頼むよ」

 ヨナスがニヤニヤと、あたくしのことを見ている。ヘリュは真剣そのものであたくしを見ていた。

 ううううん……、どうしましょう。

「ねえヘリュさん、アストリッド様についていくってことは、下僕にしてほしいってことなんだよ」

「下僕(しもべ)?」

「うん。ボクもヨナスも下僕なんだ。ヘリュさんも下僕になるの?」

 ならないならない。だって、プライド高そうだし、無理よ、無理。

「判った、下僕になる」

 マジっすか!?

「やったー、下僕仲間が増えたね~、ヨナス」

「はいでしゅ~」

 ちょ、ちょっとっ! 何そこで話が進んでいるの!?

「よろしくな、アストリッド」

 あたくしを呼び捨てにしつつ、ヘリュは律儀に頭を下げてきた。

 嘘でしょ~~~~??

 紅茶のカップを握ったまま、あたくしは暫く硬直してしまいました。



episode03:「嘘でしょ~~??」 つづく

episode02:「またオマエか……」

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category: 旅は道連れ編

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アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」 episode02 

 

アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」 記事用ヘッダー

《前回のあらすじ》
 ヒュトネンの森で、動物たちと静かに暮らしていた13歳の少年ヴェガルド・イプセンは、突如現れたアストリッド・グエナエル・スヴェンセンという少女に絡まれ、そこから自分がフラフトストラ(魔獣使い)であることが判明。
 動物だと思い込んでいた魔獣たちは全て倒され、森は焼き尽くされた。そしていきなり下僕(しもべ)にさせられたヴェガルドは、拒否することさえ叶わず、アストリッドの下僕として、旅に同行することになった。

ライン画像

アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」
《旅は道連れ編》
episode02:「またオマエか……」語り:アストリッド


 あたくしの名は、アストリッド・グエナエル・スヴェンセン。16歳になったばかりの、美しくて可憐な乙女よ。

 生まれは西の大陸にある大国の一つ、アウレリア神聖国。光の神々を敬い奉っている国のひとつね。

 アウレリア神聖国には、武力を行使する軍隊と、光の神から啓示を受けた聖なる乙女率いる神聖騎士団、類稀な魔術で国政を司る評議会の3つの勢力がある。その評議会の筆頭魔術師の家柄でもあるスヴェンセン伯爵家が、あたくしの生家。

 あたくしは、そのスヴェンセン伯爵家の次期当主。

 何故そんな尊い身分のあたくしが、こーんな辺鄙で物騒なところを歩いているかって?

 スヴェンセン伯爵家は、かなり古い魔術師の家柄なんだけど、元は爵位も持たない家だったのですって。

 でも、イーヴァル・スヴェンセンという、伯爵位を賜った初代スヴェンセン伯爵が誕生したことで、スヴェンセン伯爵家は現在の地位を不動のものにしたと言われているわ。

 そのイーヴァル伯は稀代の天才で、しかも凄まじく強かったそうよ。並み居る名家の魔術師たちを退け、実力を世界中に轟かせ、時の国王すら逆らえなかったという。想像するだけで痺れちゃうわよね。

 そしてなによりも凄かったのは、新しい魔術を生み出したこと。

 古くから世界には色々な魔術があるけど、そこからまた新しく生み出すことは、本当に凄いことなの。昔から伝えられる魔術を、自己流にアレンジするくらいは誰でも出来るんだけど。どんなに天才と言われていても、実現は不可能に近いわ。だからイーヴァル伯は凄い人なのよ。

 ただね……。

 新しく生み出されたその魔術、かな~~~り特殊仕様で。

 魔術というものは、本来魔術師しか扱えないものよ。魔術師の起源は曖昧な説しかないのだけど、魔術師の血を引いて、修行を収めた者だけが扱える。でも、魔術師ってそう多くはないの。国に仕える魔術師や野良魔術師など、全体の一掴みくらいしかいないわ。だから結構、国宝級だったりする。

 そのことをイーヴァル伯は憂いていたのか、単にこういう構造になったのか、そのあたりは知らないけども。

 エインヘリャル、そう名付けられたこの魔術は、魔術師には扱うことができない。

 ね、それだけ聞くと「は?」って滑稽でしょ。

 魔術というものは、魔力がないと発動しないの。魔術師と呼ばれる人々は、その魔力をもって生まれてきている。魔力があれば、魔術師になることはできるけど、持っていない人は一生魔術師にはなれない。そこでイーヴァル伯は、エインヘリャルを魔力ではないもので発動する仕様にした。

 なにで発動するか、それは、体力。

 更に笑えるでしょ、何故体力なの? と。体力なら魔術師だって持っているわよ。

 でもね、イーヴァル伯は標準的に備えている体力では、扱えないレベルに作り上げてしまったの。

 年齢は18歳から29歳までで、底抜けのアホレベルの体力じゃないと、エインヘリャルは発動しない。そういう制限を設けてあるの。つまり、もっとも体力が豊富なお年頃で、24時間ノンストップで肉体労働出来ちゃうくらいの体力量じゃないと、ダメってことね。

 まあ、自分で説明しておいてなんだけど、魔術師よりも使える人が限定されると思うのよね…。しかも、恐ろしく希少だと思うわ。国宝級を通り越して、すでに天然記念物よ!

 エインヘリャルの使用規格は激しく敷居が高いけど、エインヘリャル自体は素晴らしいモノなの。

 スヴェンセン伯爵家は、代々召喚系魔術を得意としているの。もちろんほかのジャンルも網羅しているけど、召喚系魔術においては、右に出るものはいないとされているわ。

 イーヴァル伯は、カード魔術と召喚系魔術を合体させて、新魔術エインヘリャルを作った。

 作り方は企業秘密だけど、一枚のカードを作り、そこへ自ら捕まえた力を封じ込める。ここまではスヴェンセン伯爵家の者がやる。それは代々当主の座を継ぐ、後継者がやることになっているわ。

 現在エインヘリャルは6枚。

 ここまで話せば、もうお判りね?

 そうよ、あたくしは7枚目のエインヘリャルを作るために、旅をしているの。

 ちなみにエインヘリャルは、一人で何枚も作れないわ。企業秘密だから作り方は教えられないけど、一人一枚のみよ。

 家のしきたりでね、16歳になったら、新たなエインヘリャルを作るための旅に出なくちゃいけないこと。そして、エインヘリャルを扱うことのできる、底抜けの体力を持つ若者を探すこと。その二つを達成しないと、家には帰れないってわけ。

 イーヴァル伯が作ったしきたりですって。

 あたしは腰に下げている鞄から、6枚のエインヘリャルを取り出した。トランプカードより二回り大きいくらいね。タロットカードのようなデザインだけど、中央には封じ込められた、魔神たちの容姿が写っている。

 歴代の当主たちが集めたエインヘリャル。どれも凄い力を封じたものばかり。

 エインヘリャルを作り出すのはスヴェンセン伯爵家の者だけど、このエインヘリャルを扱うことのできる者、エインヘリャル・コントローラと呼ばれる使役者がいないと、エインヘリャルは封印される。

 エインヘリャル・コントローラが新たに見つかったとき、エインヘリャルは契約して目覚めてくれる。そうなれば、エインヘリャルと話が出来るんだけどねえ。

 イーヴァル伯が作った最初のエインヘリャルを、あたくしはジッと見つめた。

 闇の神々の中で、最高位に属する魔神イブリースを封じているの。

 この世界ヴィンドフロトには、大勢の神々が降臨して戦っているけど、その中から大物を見つけ出して捕らえて封じるなんて、どれほど凄い実力を兼ね備えていたのかしら。

 尊敬と同時に、嫉妬もしちゃう。

 あたくしはどんな魔神を捕らえ、封じることになるのかしら。

 7枚目のエインヘリャルが完成するのが先か、それともエインヘリャル・コントローラが見つかるのが先か。

 本音を言えば、エインヘリャル・コントローラが先に見つかると、戦力的にも助かるんだけどね…。

 そりゃあ、神々に対抗するだけの魔術を身につけているわよ。でも、用心に越したことはないしね!

 弱音なんかじゃないわよ!

「それ、なあに?」

 ヴェガルドが横から、珍しそうにエインヘリャルを覗き込んできた。ずっと下ばかり向いて歩いていたけど、こういうものには興味を示すのね。

「エインヘリャルっていう、魔術を扱う特殊な道具よ」

「ふーん…」

 ついさっき下僕に召し上げた、無自覚な野良魔獣使い(フラフトストラ)の少年ヴェガルド・イプセン。あたくしより3つ年下の13歳。

 顔は中々に綺麗で、将来が楽しみな感じね。連れて歩くのに、申し分のない顔立ち。

 ただ……この子、野生生活が長いせいか、着ているものが何かの獣の毛皮を身体に巻いて、それを草の蔓で縛ってるだけなの。おそらく下着なんて履いてないだろうし。

 原始人じゃあるまいし、このままじゃダメよ! 何とかしなきゃ。

 下僕(しもべ)の主人として、衣食の面倒を見るのが責務。住は旅の途中だから、安定したものは無理だけど。

 それに美少年連れて歩くなら、それなりの格好をさせないと、あたくしの品位が疑われるわ! だって、何かの変態プレイと勘違いされたら困るじゃない。

 そうこうしてる間に、目的地が近づいてきたわね。石で組まれた小さな橋の向こう側の道は、綺麗に舗装されている。空はもう濃紺色に染まってきているから、ラザネイトの道路灯が助かるわ。そして沢山の灯りが見える。

「ほら、町が見えてきたわ」



 東の大陸にある、宿場町の一つイマテラ。そこそこ大きくて、店もいっぱいあるわね。

 街灯で明るい町の中は、旅人や町人たちで賑やか。ずっと人気のない所を歩いていたから、こういう場所へ来ると、ホッとできるってものね。

「さあってと、魔獣の素材を売り払って、お買い物しましょう」

 ヴェガルドは複雑そうな顔をしながら、袋をあたくしに寄越した。

 ふふふ、珍しい種類の魔獣が沢山いたおかげで、貴重な素材がいっぱい。かなりの額になるわね。

 魔獣の素材を専門に扱う店は、宿場町には必ず一軒あるの。魔獣は主に森に生息するんだけど、旅の途中魔獣と出くわして、襲われたり襲ったり、素材を入手する機会があるのね。爪や角や骨なんかは日数を気にせず持ち歩けるけど、内蔵とか血とか皮とか、鮮度命な部位はすぐに売りたい。そこで必ず宿場町には、大小問わず専門店が置かれることになっているの。魔獣の素材は、薬、装飾品、武器、魔術アイテム、道具など、色々な用途があるから大人気よ。

 すぐ近くにある果物の露天のおじさんにお店の場所を聞いたら、町の東側にあるって。

「あっちみたいね、行くわよ」

「ごしゅじんさまああ」

「ん?」

 露天から離れた途端、可愛らしい声が空から降ってきた。この聴き慣れた声は…

「ヨナス!」

「ごしゅじんさまあ! ただいま戻りましゅた~」

 ピンク色の翼をパタパタさせて、アイボリーの毛玉が差し出した手の中に飛び降りてきた。勢いよく突っ込んできたから、掌の上でポンッと軽く跳ねる。

「お帰りなさい、ヨナス」

「ただいまです、アストリッドおじょうさまあ」

「うわあ、可愛い~」

 それまで黙っていたヴェガルドが、目をキラキラさせて、手の中のヨナスを見つめている。あら、興味があるのね。

「この子はヨナス、あたくしの使い魔なの」

「使い魔?」

「はいぃ~。アストリッドおじょうさまに作られた、おじょうさまにお仕えする下僕なのですよ~」

「キ、キミも下僕なんだ……」

 なに、その憐れみに満ちた目は! 失礼しちゃう!

「荘園の牧場で飼っていた羊が生んだ仔羊が、狼に襲われて死んじゃったの。その可哀想な魂を核にして、あたくしが作ったのよ、ヨナスを」

 魔術師は自ら使い魔を作り出すことができるの。ヨナスを作ったのは、あたくしが7歳の頃だったかしら。以来ずっと一緒、下僕以上に大事なお友達。

「いつもの定期報告、御当主さまに届けてきました」

「おつかいご苦労様」

 ヨナスは嬉しそうに、ピンクの翼をパタパタ羽ばたかせた。褒めてあげると、いつもこうして喜びを表現するのよ。

「ほんと、可愛いなあ~」

「えへへでしゅ~」

 普通の人間だったら、どんなに見た目が可愛くても、喋るとびっくりするものなんだけど。さすが、魔獣に囲まれて育っただけあるわね、この子。ヨナスを見ても、怖がるわけでもなく、気味悪がるわけでもなく。まっ、そのほうが助かるけど。

「ごしゅじんさま、それは戦利品でしゅか?」

 もう片方の手で持っていた麻袋に、ヨナスが目を向ける。

「ええ、そうよ、目ざといわね」

「魔獣の臭いが、プンプンしてましゅもの」

「ふふっ、これを売り払って買い物をするから、お店へ行くわよ」

「ハイでしゅ~」



 鑑定、値段交渉、精算するまで、だいたい30分くらいで終わったわ。比較的大きめの専門店だったから、あまりケチらず買い取ってくれて嬉しい。町の賑わい方から見ても、割と人の往来が多いので、羽振りがいいのね。

 必要になる旅の資金は実家から出ているんだけど、所持金は多いほうがいいし、あたくしはこうして所持金を増やしているの。食い扶持が増えたし。

 良家の子女だって、甲斐性あるんだからっ!

「さて、ヴェガルドの服を買いに行きましょう」

 毛皮を胴に巻いただけの姿は、人目を惹きまくっていて、あたくしのほうが恥ずかしいんですもの。なまじ顔がイイだけに、余計よ!

「このままじゃ、ダメなの?」

「ダメに決まっているでしょ!!」

 不満そうに言ってくるヴェガルドを一喝して、さっき見つけておいた仕立て屋に入る。

「いらっしゃいませ」

 ニコニコと営業スマイルを浮かべた店主が、ススッと寄ってくる。

「この子の旅装をお願いしたいの」

 ヴェガルドを前に出すと、店主はギョッとした顔をして、しかしすぐ営業スマイルに戻す。この切り替えの速さは、さすが商売人ね。

 まあ、ね、この反応は正しいわ。今時毛皮を胴に巻いただけの客とか、ビックリしないほうが驚くわよ。

「最近大都市のほうから入荷した、ステキなお服があるんです。少々お待ちを」

 店主は一旦奥へ引っ込むと、何着かの服を腕に携えて戻ってきた。

 胴だけのマネキンに、持ってきた服を着せて、あたくしたちに見せた。

「いかがでございましょう~」

「あら、素敵なデザインね」

 東の大陸のセンスも、悪くないわね。男物だけど、いいなあ、これ。

「はい~。生地もしっかりしたものを使っており、過酷な旅でも傷まないお仕立てになっておりますよ」

「ふむふむ」

 あたくしは4着ある服を、一つ一つ生地の丈夫具合などを確かめた。旅は安全なものではないし、常に危険と隣り合わせ。しっかりした生地と仕立てじゃないと、お金は出せないわ。

「うん、とてもいい服ね、生地も縫い取りもしっかりしているし。――ねえヴェガルド、あなたどれが着てみたい?」

 ぽつんと取り残されたような顔をしていたヴェガルドは、あたくしに促されて、マネキンの前に立った。暫く迷いながら、2体目のマネキンを指差す。

「うーんと、……コレがいいかなあ」

 ベージュ系で配色された生地に、黒いラインがオシャレに入っているジャケットと、ズボンのセット。うん、そうね、悪くないかも。

「これをいただくわ。ついでに、下着もいくつか見繕ってくださいな。そして、奥で着せてきてあげて」

「ありがとうございますお嬢様。ささ、おぼっちゃま、奥でお召かえしてきましょう」

「はあ…」

 選んだ服をマネキンから脱がせ、困惑気味のヴェガルドを引っ張るようにして、店主は奥へ消えていった。

 これで、ヴェガルドの衣服は一件落着。

「魔獣使い(フラフトストラ)を下僕にするなんて、さすがごしゅじんさまですね~」

「ただのフラフトストラじゃないのよ。あの伝説級になった、イプセン一族の末裔なの」

「ひえええ~~」

「どこかの大都市に寄ったら、魔術協会に報告しなくちゃね。いつかは、ちゃんとしたフラフトストラに弟子入りして、立派なフラフトストラにならないと、せっかくの貴重な才能が台無しになってしまうわ」

「えへへ、ごしゅじんさまは、そういうところはお優しいでしゅね~」

 ほんわか褒められると、気恥ずかしいわよ。あたくしは照れ隠しに、明後日の方向に視線を泳がせた。

 あたくしも魔術師の端くれ、その程度の常識は弁えていてよ!

 でも、暫くはあたくしの下僕。

「お待たせしました~。見違えましたよ」

「おー」

「ホントでしゅね~」

 ちゃんとした服を着せられたヴェガルドは、美少年度を90%はアップさせたわね! これはもう、連れ歩くのには合格よ! 羨む女たちの視線を想像して、あたくしは心で握り拳を作った。

 でも当のヴェガルドは、服に馴染めないのか、襟元をいじったり、袖をまくろうとしたり落ち着かない様子。

 無理もないわね、10年近くも野生動物のような生活レベルだったんですもの。そこは諦めて、慣れてもらうしかないわ。

「お支払いするわ」

「毎度ありがとうございます」

 店主にお代を支払って、あたくしたちは店を出た。

「もうお夕飯時ね。お腹がすいたわ」

「ボクもお腹すいた」

 窮屈そうな表情(かお)で見上げてきて、ヴェガルドはお腹をグウ~っと鳴らした。

 あたくしは思わず「ぷっ」と吹き出しちゃった。こういうところは、素直でよろしい。

「寛げる、美味しいお料理のお店を探しましょう」

「それならもう、バッチリでしゅ。こっちですよ、ごしゅじんさま~」

 ヨナスはパタパタと西の方へと飛んでいった。

 あたくしの好みを知り尽くしているヨナスだから、もう目星をつけていたのね。さすがは、あたくしの使い魔。

「行きましょう」

「うん」

 ヨナスの飛んでいった方へ、あたくしたちも続いた。



「ごしゅじんさまあ、ここでしゅ~」

 白い建物で、品のいい外観をしている。看板も店の外のレイアウトも、中々に洒落ているわね。

 店の扉の前を、ヨナスはクルクル回りながら、パタパタと飛んでいた。

 人の多い往来で、堂々と飛んでいられるのは、ヨナスがあたくしたち以外には見えないよう、自身に魔術を施しているから。

 魔術師個々の趣味で、とても人目にさらせない姿をした使い魔なんかもいるから、これは魔術師の義務でもあるの。もっとも、ヨナスは可愛いから、黙っていれば大抵平気なんだけどね。

「お店に入りましょう」

 一歩踏み出した途端、

「やっと追いついたぞ、この女狐!!」

 あたくしたちの反対側から、いきなり怒鳴り声を浴びせられた。

 女狐?

 往来には、今のところ女性は、あたくししか居ないわね…。

 女狐ですってぇ?

「今日こそ決着をつけてやる! 覚悟しろゴルァ!!」

 品の欠片もない話し方をするそいつを、た~っぷりとあたくしは見つめた。

 ああ…思い出したかも。

「またオマエか……」


episode02:「またオマエか……」 つづく

pisode01:「下僕一号になりました」

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category: 旅は道連れ編

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