夢の時間(とき)

オリジナルの小説とイラスト等を掲載。新連載【アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」】開始です。

【眠りの果てに】目次 

 



おとぎ話風ハートウォーミング物語 ※短編・完結済み
眠りの果てに

読者対象を小学校高学年くらいから、大人までを意識して綴ってみました。
難しい言い回しを避け、かつ、余計な描写を省き、世界観を読者のイメージに委ねる形に挑戦しています。
貴族・純愛・ファンタジックなどの要素がある、童話のような物語にしてみました。

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当ブログだけでは日の目を見ることがなくなってしまうため( ̄▽ ̄;) 小説投稿SNSサイトへも投稿しています。携帯端末などの都合で、ブログ表示だと厳しい方は、SNSサイトのほうでも読んでいただけると幸いです。

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ライン

◎大まかなあらすじ◎

その日の食事も満足に得ることのできないほど貧しい家庭に育った、15歳の少女インドラ。ある日幼い弟妹と 山へ薪取りへ行って帰ってくると、たくさんの金貨が詰まった袋が粗末なテーブルの上にあった。
「貴族のお城へ奉公へ上がってみる気はないか?」
そう父親に言われる。 貧しい家庭の事情と家族のため、奉公へあがることを決意する。
何故メイズリーク伯爵家は大金を支払ってまでインドラを買ったのか、伯爵家でどんな仕事に従事することになるのか。


登場人物紹介

[インドラ]
貧しい木こりの家に生まれた15歳の少女。伯爵家に大金で買われて奉公へ。

[ドラホスラフ]
メイズリーク伯爵家のバトラー(執事)。

[アネシュカ]
メイズリーク伯爵家のハウスキーパー(家政婦長)。

[パヴリーナ]
メイズリーク伯爵家のガヴァネス(家庭教師)。

[アンジェリーン]
メイズリーク伯爵家にアルバイトにきている大学生。

[クローデット]
インドラ専属のレディーズ・メイド。

[イザーク]
伯爵家に仕えるグレート・デーン。アンジェリーンとインドラの友。

[伯爵様]
メイズリーク伯爵家の当主。

[レディ・ヴェヌシェ]
”眠れる魔女”の通り名を持つ偉大な魔女。伯爵と契約した。


■ 本編 目次 ■

■ 第1話 家族との別れ

■ 第2話 メイズリーク伯爵家

■ 第3話 パヴリーナとアンジェリーン

■ 第4話 伯爵様との対面

■ 第5話 優しい森の中で

■ 第6話 ティーパーティー

■ 第7話 メイズリーク伯爵家の秘密

■ 第8話 夏至の夜・前編

■ 第9話 夏至の夜・後編

■ 第10話 光と闇の精霊

■ 第11話 眠りの魔女

■ 最終話 眠りの果てに得たもの

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【眠りの果てに】 第1話 家族との別れ 

 

数ヶ月前からちょこちょこ考えていた、新しいお話(・ω・)

短編よりちょろっと長い程度になる予定です。最近ちょっとおとぎ話っぽいゆるいお話が書いてみたくなって。その練習用といってはなんですが。

【ALCHERA-片翼の召喚士-】とはぜーんぜんノリの違うお話になると思いますw ちょっと【Counter Attack】のほうが超放置になるけど(笑) 書きたいものを書く、で居直りました(´_ゝ`)


月刊Stellaの6・7月合併号参加作品




眠りの果てに
第1話 家族との別れ



 * * *

 優しい春の空には、綿のような雲がゆったりと浮かび、小鳥たちが楽しげに歌いながら飛んでいた。

 色とりどりの草花が生い茂る草原を、小さな女の子と男の子が笑いながら走っている。そして、その二人の様子を温かい眼差しで見つめる、少女が一人。

「おねーちゃん」

 小さな男女が声をあげながら少女に走り寄る。そして明るく微笑みながら両手を広げる少女。

 ――見つけた。

 馬車の中から三人の様子を伺っていた紳士が、口元に小さな笑みを浮かべた。

 * * *

 インドラは細い背に太さもバラバラな枝を入れた大籠を背負い、右手で弟の手を引き、左手で妹の手を引いていた。

 朝から山へ枝を拾いに出かけて、もう夕方にさしかかろうとしている。三人ともくたくたで、お腹もぺこぺこだった。

「たくさん枝拾えたね、おねーちゃん」

 泥汚れを顔にいっぱいつけた弟が、にっこりと見上げてきた。

「そうね。明日はこれを町へ持って行って売りましょう」

「そしたらおっきなパン買えるかな?」

 左側から妹がパッと顔を明るくして身を乗り出した。

「ええ、1個くらいきっと買えるわ」

 やったーと、弟妹が大はしゃぎで飛び跳ねた。

 そんな様子を見て、インドラは嬉しそうに微笑んだ。

 大きなパンは無理でも、弟と妹に1個ずつならパンが買えるかもしれない。

 昨年から薪や木炭の値段がとても高くなって、こうした枝もまとめるとそこそこの値段で売れるようになった。薪も木炭も、半分以上は上流階級や貴族のお屋敷に流れていってしまうからだ。

 枯れ枝でも燃料として十分役に立つ。なるべく太めの枝をまとめておけば、いくらかのパンや野菜を買うことが出来るのだ。

 インドラの家は貧しい木こりだ。家名すらなく、町でも村でもない、山の麓に小さな小屋をかまえているだけ。

 学校へも行ったことがない15歳のインドラにとって、毎日こうして山に枝を取りに行ったり、小さな畑を耕して家計を支えることで精一杯だ。幼い弟と妹の面倒をみるのもインドラの仕事である。

 それを不幸だの不運だのと考えたことはない。

 毎日満足に食べられなくても、綺麗な着物を着られなくても、父母と弟妹に囲まれて幸せだ。そうインドラは心から思っていた。



「ただいま」

 家に帰ると暖炉の前の粗末なテーブルの前に、沈んだような面持ちの父母が座っていた。

「ああ…おかえり」

 顔を上げた母親は、どこか疲れたように薄く笑った。

 インドラは枯れ枝を入れた大籠を部屋の隅に置いて、粗い織りの布をかぶせた。そして洗い場で鍋に水を汲んでいると、父親に呼ばれた。

「インドラ、お前ももう15歳だ。……貴族のお城へ奉公へ上がってみる気はないか?」

「え?」

 なるべくインドラと目を合わせないようにして、父親は不機嫌そうに言った。

「でも父さん、あたし、満足に読み書きもできないし、弟や妹たちのめんどうだって」

「あちらさんは、それでも構わないと言っている」

 おどおどと顔も上げずにいた母親は、チラリとテーブルの上に置かれた袋に目をやった。それに気づいてインドラも視線を向ける。

 模様はなかったが、綺麗な青い布袋はゴツゴツとした凹凸作って膨らんでいる。それが3つもあった。インドラはその一つを引き寄せ中を開いて目を見張った。

 見たこともない眩いばかりの金貨がギッシリと詰まっている。

「父さんこれ……」

 呆然としたインドラの声に、父親は渋面を作って顔を背けた。母親はこらえきれず、エプロンで目を覆って嗚咽を漏らす。

 インドラは袋の中の金貨を黙って見つめた。

 これだけのお金があれば、家族みんなが一生食うに困らず暮らしていける。

 もっといい家に住めるし、毎日お腹を空かせなくてもいい。あまり身体が丈夫でない母親も苦労せずに済む。

 なにより、食い扶持一つ減るだけでも大きな違いがあるのだ。

 インドラはにっこりと父母に微笑んだ。

「あたし、ご奉公へ行ってみるね」

 父親はハッとして顔を上げ、力なくうな垂れると小さく頷いた。そして母親は今度こそ大声を上げて泣いた。



 インドラがあがることになっている貴族のお城は、この辺りを領地として治めているメイズリーク伯爵家だった。

 巨万の富と広大な領地を有する、国内では有力な貴族の家柄らしい。それ以外のことをインドラは知らない。

 奉公へあがることを決めてから一週間後、メイズリーク伯爵家から迎えの馬車が到着した。

 四頭だての立派な馬車で、ワニスが塗られた光沢のある木彫に、黄金細工が施されている。窓には天鵞絨のカーテンがかかり、磨きぬかれた玻璃が埋め込まれていた。

 インドラは迎えに来た伯爵家の使用人が持ってきた質素なドレスに着替え、あらためて外に出た。

「元気でね……」

 涙に暮れる母親と抱き合い、そして幼い弟と妹を抱きしめる。

「お父さんと、お母さんを、よろしくね」

 そう言って立ち上がると、むっすりと黙りこくった父親の頬にキスをして、インドラは扉の開かれた馬車に乗り込んだ。

 そつなく一礼して使用人も馬車へ乗り込むと、御者は轡を軽く叩いて馬車を出した。

 泣きながら馬車を追いかける弟妹たちの声が聞こえてくる。

(振り向いてはダメ)

 もし振り向いて、弟妹たちの姿を見たら、胸がつぶれるほどの悲しみに包まれて泣いてしまう。

 今生の別れというわけではないが、当分会うことは出来ないだろう。

 自分は大金でメイズリーク伯爵家に買われたのだということを、インドラは理解していた。買われたその家で、自分がどんな仕事をすることになるのかまでは想像できない。

 しかし。自分がその運命を受け入れることで、家族が豊かになる。

 ――一生懸命働こう。

 期待と不安を胸に、インドラは毅然と頭を上げた。


第1話 家族との別れ つづく



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【眠りの果てに】 第2話 メイズリーク伯爵家 

 

2話目。たぶんみなさんの想像を片っ端からぶっ壊しながら進んでいきそうなヤカンがしないでもないですが(゚д゚)! 読んでやってくだちゃい☆

小説で参加するのって勇気いるなあ・・・て当初は思っていましたが、こう1年以上自作ショーセツをさらしてると居直り根性も芽生えてきたので(´_ゝ`) 月刊誌Stellaさんへこの【眠りの果てに】で参加しようと思います。リンク場所間違ってないかな・・。

片翼の召喚士のほうで参加したい気持ちはあるんだけど、なんだかんだ長くなってしまったから、今から追いかけてもらうにはちょいタイヘンなので><


月刊Stellaの6・7月合併号参加作品




眠りの果てに
第2話 メイズリーク伯爵家



 村を通り、町を通り、森を二つ通り、平原を走り抜けたところでようやく馬車の窓から城の姿が見えてきた。

 メイズリーク伯爵の住むエルド城と呼ばれる、森林に囲まれた白くて優美な城だった。

 思わず身を乗り出して見入るインドラに、それまで一言も口を開かなかった使用人がくすりと笑う。それに気づいたインドラは、はしたない行動をしてしまったと、急に恥ずかしくなって慌てて座り直して俯いた。

 耳まで真っ赤になって恥じ入るインドラの様子に、使用人の笑みはさらに深まっていった。



 大きな門を通り、さらに暫く走ると、城の入口前に馬車は停まった。

 インドラはドアを開けて出ようとすると、サッと使用人の手がドアに触れて、インドラを妨げた。それに首をかしげていると、外からドアを開けるものがいた。

「おつかれさまでございます」

 ややお腹が出っ張った男が、窮屈そうに恭しく一礼し、インドラに手を差し伸べた。

 困惑したように使用人に目を向けると、使用人がにっこりと笑って頷いた。

 インドラは差し伸べられている手を取ると、裾の長いドレスをたくしあげるようにして馬車を降りた。そして目の前の光景に目を丸くしてしまった。

 黒い服をしっかり着込み、髪を整えた無表情の男の使用人、黒いドレス風の服に真っ白なエプロンをした女の使用人たちが、左右に列を作って並んでいるのだ。

 初めて目にするその光景に、インドラは圧倒されて軽い目眩を感じてしまった。そして、いずれ自分もあの列に加わり、お客様をお迎えするようになるのかしら、と思って身が引き締まる。

「では、ご案内いたします」

 降りるときに手を貸してくれた男が、インドラを導くように先頭に立って城の中へいざなった。

「はい」

 裾を踏まないように注意しながら、男の後ろを早足で追いかける。男の歩調はインドラには若干早かったのだ。

 大きな鉄の扉を通り、玄関ホールへと入る。そこもまたインドラにとっては別世界が広がっていた。

 驚いて周りをキョロキョロと見回しているインドラにはおかまいなしに、男は正面の階段をあがりはじめた。インドラはそれに気づいてあとを追う。

 あまり窓は多くなかったが、通路の壁のいたるところに、透明なガラスで囲んだランプにローソクが灯されていて明るかった。

 赤い絨毯の敷かれた長い廊下を歩き、ようやく男は足を止めた。そして目の前の白くて大きな扉を軽くノックする。すると、中から女性の声で返事があり、男は扉を内側に開いた。

「ご到着致しました」

「ご苦労でしたね、セバスチアーン」

 セバスチアーンと呼ばれた男は、出っ張った腹を窮屈そうに曲げて、女性にお辞儀をした。

「ようこそおいでくださいました。わたくしはこの家のハウスキーパーをしているアネシュカと申します。このひとはフットマンのセバスチアーンです」

 アネシュカは白い毛の混じった茶色い髪の毛を後ろで一つにまとめてネットで覆っている。着ているドレスはベージュ色の模様のない質素なドレス。無駄な肉のついていない顔は薄く化粧をはいているだけで、ちょっと細い目がキツイ印象を与えていた。

「そしてこの部屋は、今日からインドラ様がお過ごしになるお部屋です」

 にこやかに言われて、インドラは呆気にとられた。

「あ、あの、アネシュカさん」

「はい」

「あたし、このお城にご奉公へきたんですが、こんなに素敵なお部屋で、寝起きするんでしょうか……?」

 アネシュカとセバスチアーンは顔を見合わせ首をかしげた。すると、

「そうですよ」

 温厚そうな声が後ろからして、インドラは振り向いた。

 長身で体格もよく、温かな雰囲気を顔にたたえた、おじいさんと呼ぶには少し若い男が、にこやかにインドラを見て一礼した。

「初めまして。わたしはこの家のバトラーをしているドラホスラフと申します。――セバスチアーン、お前はもう下がっていいですよ」

 セバスチアーンは小さく頷くと、やはりお腹を窮屈そうに曲げて礼をして行ってしまった。

「今日からお嬢様――インドラ様のことは、”お嬢様”とお呼び致します。このお城でお過ごしいただきますが、お嬢様には特別なお仕事をしていただきます」

「と、特別ですか?」

 不安が急にこみ上げてきて、インドラは思わず胸元を抑えて息を呑む。

 ドラホスラフはいたずらっぽい笑みを浮かべて頷いた。

「勉強をしていただきます。算数、語学、作文、行儀作法、ピアノ、ダンス。これを週5日みっちりやっていただきますよ。そして土曜日と日曜日は礼拝がありますので、お仕事はお休みです」

 想像していた仕事内容とは大きくかけ離れすぎて、インドラは目を丸くしてドラホスラフを見上げてしまった。そんなインドラの反応がよほど面白かったのか、アネシュカとドラホスラフはプッと小さく吹き出してしまっている。

 たくさんの金貨で買われてきたのだから、さぞ辛い仕事が待ち受けていると覚悟を決めていたのだが。”お嬢様”と呼ばれ、素敵な部屋を与えられ、勉強を教わる。

 これは一体、どういうことなのだろう。

「勉強は手加減いたしませんぞ。当家のガヴァネスは厳しいことで有名ですからね。毎日泣きたくても逃げられませんから、今からしっかり気を引き締めてください」

「は、はいっ!」

 そんなにすごい家庭教師(ガヴァネス)なのかと、インドラは心臓が飛び上がりそうになった。

「しかし今日は長旅でお疲れでしょう。ゆっくりとお部屋でおやすみください。あとでお嬢様専属のメイドたちをご紹介させていただきます。それではアネシュカさん」

 アネシュカは頷くと、ドラホスラフとともに礼をして下がった。

 一人部屋に取り残されたインドラは、頭の中が混乱しながら、座りたくなって椅子を求めた。

「なんて素敵なお部屋なんだろう…」

 城は石造りだが、少しも冷たい感じがしない。

 床は温かみのある赤い絨毯が敷き詰められ、いたるところに白い毛のマットも敷かれていた。壁にも風景画やタペストリーが飾られ、調度品も白に金の装飾が施されたもので統一されている。年若い女性に向いた内装になっていた。

 四角い箱のように、金の柱で天蓋を支えているベッドに腰をかけ、インドラはホウッとため息をついた。どっしりとした重たいカーテンと、こんなフカフカしたベッドなんて初めてだ。

「きっと、お城で働く人たちにも、こんな素敵なお部屋があたえられているのだわ」

 こんなに大きなお城なら、使用人にも個室が与えられて、快適に過ごせているに違いないとインドラは思った。

「でも、勉強することがお仕事なんて、貴族って不思議なお仕事をさせるのね」

 自分の置かれている立場に戸惑い、ため息しか出てこなかった。

 インドラにとって、世界とは小さな小屋と周辺の山や草原だけだ。時折村や街にいくが、滅多に行かない。

 貴族や上流階級を知らないインドラにとっては、もはや別世界のことだったのだ。

 しかしドラホスラフは、この部屋で過ごし、週5日勉強することがインドラの仕事だと言った。ならば、与えられたその仕事を、あのたくさんの金貨に見合うだけしっかりとやり遂げなければならない。そうしないと、金貨は家族から取り上げられ、自分は城を追い出されてしまう。そんなことになったら、家族にまたひもじい思いをさせることになる。

 城へくる途中、一生懸命働こうと自らに誓ったことを思い出し、インドラはしゃんと背筋を伸ばした。



第2話 メイズリーク伯爵家 つづく


第1話 家族との別れ

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【眠りの果てに】 第3話 パヴリーナとアンジェリーン 

 

おとぎ話風、と自分では位置づけているけど、いざ検索だのランキングだのに登録する際に、そういうカテゴリーはないから、一体何に当てはまるのかしら? と(・ω・)

ファンタジーの類に括ってもいいかもしれないけど、自分的にはあまりファンタジーという感じがしないンダヨネ。そう言えるシーンも後々出てくるけど、文体はちょい違うけど、一応童話、と位置づけることにしました。

自分で首をひねるくらい、今回の物語は自分的には珍しいのかもです|д゚)




眠りの果てに
第3話 パヴリーナとアンジェリーン



「お城の生活には慣れましたか?」

 鏡台の前で丁寧に髪をすきながら、クローデットは陽気に話しかけた。

「まだまだよ。でも、クローデットが起こしにきてくれるまで、我慢できるようになったわ」

 やや情けない口調でインドラが言うと、クローデットはふふっと笑った。

 エルド城にくるまで、インドラの朝は早かった。日の出とともに起きて、家事の手伝い、野良仕事、たきぎ拾いに山へ出かけたりしたのだ。ところが今は、インドラの専属となったレディーズ・メイドのクローデットが起こしに来るまで、フカフカなベッドの中で必死に待機していなくてはならない。エルド城に来た翌朝、日の出とともに起きて寝巻きのままソファに座っていると、クローデットに怒られてしまったのだ。

 上流階級の子女は、メイドが起こしに来るまで寝ていなくてはならないという。

 15年間身体に染み付いた習慣を変えることは、中々に苦労を強いられているが、自らに課せられた仕事の一つだと割り切って耐えている。

「しぶとく枕にしがみついていないのは、お起こしする身としては、とても助かります」

 そばかすの浮いた顔を明るく笑いに包み込むと、インドラの身支度を整え終えたクローデットは部屋を辞した。

 インドラは鏡台の前から立ち上がると、朝食をとるために部屋を出て食堂へ向かう。

 エルド城へ来てから、早一週間が過ぎていた。

 昨日まで食事は部屋に運ばれて、クローデットに付き添われて食べていた。勉強もまだ開始されておらず、城の中を案内されたり散策することで終わっていたのだ。新しい環境に、身体を馴染ませるためだという。しかしいよいよ今日から勉強が始まると、バトラーのドラホスラフに言われた。しかも朝食から行儀作法の勉強になるらしい。

 食堂に入ると、そこには一人の若い女性が立って待っていた。そしてインドラを見ると、優雅な仕草でお辞儀をした。

「おはようございます、お嬢様。わたくし今日からお嬢様に勉強や行儀作法をお教えすることになりました、ガヴァネスのパヴリーナと申します」

「よろしくおねがいします、パヴリーナさん」

 ぎこちない仕草で挨拶を返すと、早速パヴリーナから注意が飛ばされた。

「そういうときは、わたくしのことは”先生”、とお呼び下さい」

 別段声を荒らげてはいないが、ピシャリと言われたような気がして、インドラは背筋が伸びる思いだった。

 赤毛に近いブロンドで、柔和な面差しをしたとても綺麗な女性だ。シンプルなデザインの紺色のドレスを着ていて、よりブロンドが映えて美しかった。

「さあ、朝食をいただきましょう。ただし、行儀作法を学びながら、ですよ」

 パヴリーナはにっこりと言ったが、インドラは行儀作法と聞いて、緊張から食欲が消えてしまったのを感じていた。



 フォークやナイフの種類や、食べる順番を覚えながらの食事は困難を極め、食事が怖いものだと錯覚しそうになって、初日から大変な思いを味わった。

「ふふふ、行儀作法といったものは、最初は大変かもしれませんが、慣れてくると自然に振る舞えるようになりますよ」

「はい、努力します」

 慰められながらパヴリーナに案内されダンスホールへ行くと、オリエル窓の棚状部分に座り込んで本を読んでいる青年が待っていた。

「お待たせしました」

 パヴリーナが青年に声をかけると、俯いて本を読んでいた青年は顔を上げて小さく頷いた。

「紹介しますね。彼はアンジェリーン、大学生ですがここでアルバイトをしています。彼にはお嬢様のダンスのお相手をつとめてもらうことになります」

 アンジェリーンと呼ばれた青年は、本を閉じて棚状部分から降りると、無言で歩いてきた。そしてインドラの前に跪くと、手の甲に軽くキスをした。手の甲から伝わってくる、柔らかな唇の感触に、インドラはドキリとして顔を赤らめる。こんなふうに男の人から挨拶をされるのは初めてのことだから。

 艶やかな明るい茶色の髪と、やや線の細い整った顔立ちをしている青年。スッと立ち上がるとインドラの頭二つ分は背が高く、見上げるようにしてアンジェリーンの顔を覗き込んだ。

「よろしく」

 そう短く発する声は低く、どこか寒々しい響きを帯びている。

「よろしくおねがいします」

 慌てたようにインドラが挨拶を返すと、アンジェリーンはにこりともせず、インドラの手を取り、もう片方を背に回す。

「え、あの」

 狼狽えるインドラにはお構いなしに、アンジェリーンはいきなりワルツのステップを踏み出した。

 音楽は流れていないが、アンジェリーンの耳には聞こえているかのように、流麗なステップでホールの中を優雅に舞っている。しかしインドラはワルツなど当然踊ったこともないので、アンジェリーンに振り回されながら、まるで人形のようにくるくる舞わされていた。

 ようやくアンジェリーンが足を止めると、インドラは荒く息をつきながらアンジェリーンにしがみついていた。

「いきなり一曲分を通しで踊らせるなんて、無茶ですよアンジェリーン」

 パヴリーナが嗜めると、アンジェリーンは軽く肩をすくめただけだった。

「たいへん失礼しました。今のがワルツです、お嬢様」

 申し訳なさそうにパヴリーナに謝られて、インドラは首を横に振った。

「ちゃんと踊れなくてすみませんでした。難しそうだけど、頑張って覚えます」

 インドラがあまりにも真剣な表情で言うので、これまで表情が乏しかったアンジェリーンが、堪りかねたように顔を歪めて吹き出した。

「笑うなんて失礼です!」

「想像以上に素直だな」

 おかしそうにひとしきり笑うと、インドラに向けたその表情(かお)は、とても優しい色に包まれていた。

「基礎を教えるから、しっかり着いてこい」

「は、はい!」



 ダンスのレッスンが終わると、次は再びパヴリーナと二人に戻り、ピアノのレッスンになった。楽譜の読み方やピアノの弾き方を触りだけ教わり、もう昼食になった。やはり昼食も行儀作法を教わりながらとなって、何を食べたかすぐ忘れてしまうほど、色々なことを学んだ。

 少し休憩時間が与えられ、そして書斎に移って午後は語学や計算などの勉強になる。

 目まぐるしいほどたくさんの授業だが、インドラはとても楽しかった。

 これまでのインドラは、勉強する機会すら与えられない環境に身を置いていた。それを不満に思ったことはないが、学びたいと思う気持ちは持ち続けていたのだ。でも今はこうして色々なことを教えられ、学ぶことができる。読み書きが出来るようになり、計算もできるようになる。今まで以上に世界が広がったような気がしていた。

 行儀作法という夕食を終えた頃、ようやくインドラの勉強という名の仕事が終わった。

「ありがとうございました、先生」

「おつかれさまでございました。毎日大変だと思いますが、頑張ってついてきてくださいね」

「はい」

 パヴリーナは去り際に、一冊の絵本をインドラに差し出した。

「今日お教えしたことで、読める簡単な物語です」

「まあ、ありがとうございます」

 インドラは両手でその絵本を受け取る。表紙にはリスとネズミが可愛く描かれた、装丁の綺麗な本だ。

「はじめての……おるすばん?」

「はい」

 パヴリーナはにっこりと微笑む。インドラが正しくタイトルを読めたのが嬉しいのだ。

「明日物語の感想を教えてくださいね。それでは、おやすみなさいませ」

「はい。おやすみなさい」

 食堂を出て行くパヴリーナを見送ると、インドラは絵本をギュッと胸に押し抱いた。

 本が読めることは、小さい頃からの憧れの一つだった。読み書きの出来ないインドラにとって、本とは無縁だったからだ。

 でも、これからどんどん字を覚える。そうなれば、沢山の本を読むことができるのだ。

「頑張らなくっちゃ」

 にっこりと絵本の表紙を見つめると、軽やかな足取りで部屋に戻っていった。


第3話 パヴリーナとアンジェリーン つづく



第2話 メイズリーク伯爵家

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【眠りの果てに】 第4話 伯爵様との対面 

 

ダラダラ長く書かない! の練習を兼ねているので、何やら半端なところで終わってしまいました((((;゚Д゚))))

ていうか冒頭の《はじめての おるすばん》で、いつもの予定より長くなっただけとも言う・・w

一応《はじめての おるすばん》はオリジナル、なんだけど、昔こんなよーな話を読んだことがあるよなあ…と思いながら書いているので、似たような話があると思います(笑)

小さい子供がひとりで片付けをすれば、こうなるよね~ww はお約束ですねヽ(・∀・)ノ
平仮名祭りで読みにくいと思います!(´_ゝ`)

ついにメイズリーク伯爵出番です(ラストにひっそり)




眠りの果てに
第4話 伯爵様との対面


「《はじめての おるすばん》

 リスくんの、おとうさんと、おかあさんは、ごようがあって、おでかけすることになりました。
 リスくんは、おうちでひとりでおるすばんです。
「ひとりで、だいじょうぶ?」
 おかあさんはとてもしんぱいそうです。
 でも、リスくんは、むねをはってこういいました。
「ボクはもう、ひとりでおるすばんだってできるんだ! しんぱいしないで」
 リスくんのことばに、おとうさんとおかあさんは、うれしくてうれしくて、あんしんしておでかけしました。

 ひとりになったリスくんは、おうちのことをして、おかあさんをおどろかせようとしました。
 ハタキとホウキをもってくると、リビングのおそうじをはじめました。でも、ひとりでおそうじをしたことがないので、かびんをひっくりかえしたり、カーペットがしわくちゃになって、まえよりひどくなってしまいました。
 こんどは、だいどころのおそうじをはじめました。ホウキがおさらをしまっているたなにあたって、たくさんのおさらがおちて、われてしまいました。
 いっしょうけんめいがんばれば、がんばるほどしっぱいしてしまいます。
 そこに、おともだちのネズミくんがあそびにきました。
「どうしたのリスくん? どろぼうがはいったのかい!?」
 おうちのなかをみて、ネズミくんはしっぽをとがらせておどろいてしまいました。
 すっかりおちこんでしまったリスくんは、おかあさんをおどろかせたくてやったことをネズミくんにはなしました。
「これじゃあ、たしかにおどろいちゃうね」
 ますますげんきがなくなってしまったリスくんがかわいそうになって、ネズミくんはリスくんにこういいました。
「ボクもてつだってあげるから、おかたづけがんばろう」
 リスくんはうれしくなって、ネズミくんといっしょにおかたづけをがんばりました。

 ゆうがたになって、ごようをすませたおとうさんと、おかあさんがおうちにかえってきました。そして、おうちのなかが、ピカピカになっていて、とてもびっくりしてしまいました。
 ソファには、くたくたになったリスくんとネズミくんが、ぐっすりねむっていました。

 おしまい」

「はい、よく一晩で、朗読できるまで覚えましたね。とても上出来ですよ」

 パヴリーナはにっこりと微笑んでインドラを褒めた。

「ありがとうございます。何だかとても、懐かしい気持ちになって読んでしまいました」

 どこかしみじみとした口調のインドラに、パヴリーナは怪訝そうに首をかしげた。

「あたしには幼い弟と妹がいるんですが、リスくんとネズミくんが、二人に重なってしまって……」

 手伝う手伝うと、いつもまとわりついて、失敗ばかりしていた幼い弟妹たち。物語を読んでいたら、弟妹たちと過ごした日々が懐かしい。まだそんなに日が経っているわけではないが、もう昔のような感じがしてしまって、インドラは心に小さな痛みを感じて表情を曇らせた。

 インドラの表情から察したパヴリーナは、努めて明るい笑顔を浮かべると、そっと手を重ねた。

「永遠に会えないわけではありませんから、いつか会える時まで頑張りましょうね」

 パヴリーナの心遣いに、インドラは感謝を込めて微笑んだ。

 その時、突然バトラーのドラホスラフが書斎に現れ、パヴリーナを手招きして何事かを耳打ちしていた。

「まあ、随分とお早いのですね」

「ええ。なので予定の方を少し変えていただくということで」

「判りました」

 インドラは教科書に目を通しながらも、断片的に聞こえてくる二人の会話が気になってしょうがない。

 やがて話が終わると、ドラホスラフは会釈をして下がり、パヴリーナが小走りに戻ってきた。

「お嬢様、少しスケジュールを変更して、行儀作法や言葉遣いなどを最優先で学んでいただきます。語学などはそれらが落ち着いてからで」

「はい、先生。でも、どうしてですか?」

「実は、メイズリーク伯爵はお仕事でずっと国外にお出かけになっているのですけど、急遽予定を繰り上げて、お城にお戻りになるそうなのです」

「まあ、では伯爵様にお会いできるんでしょうか?」

「ええ、ご挨拶をしなければならないですね」

 ついに伯爵と会うことができる。インドラの心はドキドキと高鳴っていた。

 伯爵は、一体どんな人なんだろう? あんな大金を支払ってまで、自分を奉公に雇った人だ。きっと、懐の広い人に違いない。

 それから一週間、みっちりと行儀作法、言葉遣い、立ち居振る舞いなどを徹底的に叩き込まれた。伯爵の前で粗相がないように。ダンスとピアノのレッスンも中止されていた。そのため、歳が近いアンジェリーンと会えないのは寂しく感じている。初対面の時は冷たい印象を受けたが、ぶっきらぼうなだけで、笑うと笑顔がとても綺麗なのだ。

 これまで男性は父親か弟、時折町や村ですれ違う人たちだけだった。こんなに身近に、しかも笑顔が綺麗な男性は初めてである。まだ2回しかダンスのレッスンは受けていないが、インドラの心の中には、アンジェリーンへの想いが、小さく芽生えていた。



 伯爵が帰ってくる当日、出迎えるため城中大騒ぎに包まれていた。使用人たちがバタバタ走り回り、バトラーのドラホスラフも、ハウスキーパーのアネシュカも、使用人たちへの指示でてんてこ舞いの有様だ。

 自室で身支度を整え、パヴリーナとクローデットと一緒に待機しているインドラも、心の中がドキドキでパンクしそうになっていた。

「伯爵はとても厳格な方です。あまり笑顔を見せることはありませんが、怖がらずに、堂々とご挨拶なさいませ」

 パヴリーナは励ましているつもりだが、それでは余計怖がらせているだけでは、とクローデットは思ったが黙っていた。とうのインドラは、椅子に座り、ぎゅっと膝のドレスを掴んで緊張で硬直している。

 やがて部屋の扉がノックされ、メイドの一人が伯爵の帰宅を告げた。

「お嬢様、参りましょう」

 若干上ずった声でパヴリーナが促すと、ぎこちない動作でインドラは立ち上がった。



 伯爵と面会する応接間の前まで来ると、アネシュカが待っていた。

「お待ちになっておりますわ。さあ、どうぞ」

 手ずから扉をノックし、扉を開ける。

「失礼いたします」

 緊張のため硬くなった声で言うと、恐る恐るインドラは部屋に入った。

 顔を上げると、目の前のソファに、身なりの立派な紳士が座り、傍らにはバトラーのドラホスラフが立っていた。

「あ、あの…初めまして…」

 緊張で萎縮してしまったインドラは、消え入りそうな声でそれだけを言うと、あとは喉が詰まってしまい、小さく震えだしてしまった。

 そんな様子を見ていたドラホスラフは、助けてやりたかったが、主の前で勝手に言葉を発することもできず、またアネシュカも同じ気持ちでインドラを見守っていた。

 何も言わず、青い瞳でじっとインドラを見ていた伯爵は、ダークブラウンの頭髪と同じ色をした口髭を軽く撫でると、ソファから立ち上がった。そして何も言わずにインドラの横を素通りすると、颯爽とした歩調で応接間を出て行ってしまった。

「あ、旦那様!」

 ドラホスラフはアネシュカに目配せすると、伯爵を追って駆け出していった。


第4話 伯爵様との対面 つづく



第3話 パヴリーナとアンジェリーン

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【眠りの果てに】 第5話 優しい森の中で 

 

オンゲーで使っているマクロ(戦闘やなにやらを円滑に遊べるようにコマンドなどをまとめた指示うんたら・・・げふ)の作り直しが半分だけ終わり、実戦しながら試し試し直し直し、BCでテストしていたら床ペロした☆魔法名を思いっきりマチガエてたよこれじゃ発動しないだろ><


片翼の召喚士を差し置いてこっちの更新が進んでいますが、アルファポリスさんで来月あるコンテストに出してみようかな、と思っているので、ある程度書いておかないと流石になあ・・・なのでちょっと優先しています。

犬出てきます犬(・ω・) なんで犬? ああした場面じゃ猫じゃないよなあ…て。

わたしは鳥派デス。誰がなんと言おうと、鳥が大好きです(食べるのも!w

でも鳥でもないのはタシカデス☆




眠りの果てに
第5話 優しい森の中で



 パヴリーナとアネシュカに支えられ、慰められながら自室に戻ると、インドラはベッドに崩れるようにして伏して泣き出してしまった。

 たくさん練習をしたというのに、いざ伯爵と対面すると、緊張のあまり頭が真っ白になってしまったのだ。

「きちんとご挨拶、できなかった…」

 伯爵に会ったら、まずお礼を言いたかった。

 家族に払ってくれた沢山の金貨、自分がそれに見合うだけの価値があるとは到底思えない。この城にくるまで字も読めない子供だったのだ。あの金貨で家族は一生食うに困らないだろうし、贅沢だって出来る。そして、空腹に耐える貧困の中から連れ出し、この城で貴族の令嬢のように扱ってもらい、色々なことを学ぶ仕事を与えてくれた。勉強も行儀作法もまだまだスタートラインに立ったばかりだが、毎日充実してとても楽しい。

 貧しい人々はたくさんいる。その中で自分を見出し、素晴らしい機会を与えてくれたことを、伯爵に感謝し、そのことを伝えたい。伯爵に会える日を待ち望みながら、ずっと心の中に抱き続けていたことだったのに。

「初めから、ちゃんとできるひとはいませんよ」

 インドラの傍らに座り、頭を優しく撫でながらパヴリーナが慰める。

「伯爵の前に立てただけでも、立派でございましたよ」

 アネシュカもいたわるように言う。

 パヴリーナもアネシュカも、普段のインドラを見ているので、まさかの失敗に軽い驚きを禁じ得なかった。飲み込みも早く、教えたことはきちんとこなしている子なのに。

 二人は失念しているが、インドラは数週間前まで貧しい木こりの家の子供だった。それが貴族の城にきて、大急ぎで行儀作法などを教え込まれて、伯爵の前に出されたのだ。

 15歳の少女にとって、それはとてつもなく大変なことなのだから。

 少しそっとしておこうということになり、パヴリーナとアネシュカは部屋を出て行った。

 一人になったインドラは暫く泣き続けていたが、やがて泣くことに疲れてベッドに座り直した。

 気持ちが落ち着いてくると、足元からだんだんと不安が這い上ってきた。

 先ほどのことで伯爵様のご機嫌を損ねて、家族から金貨を取り上げ、自分は城を追い出されてしまうのではないか。そのくらいの失礼をしてしまったのではと、とても怖くなった。

「どうしましょう、わたし、どうしたら……」

 急に落ち着かない気分になり、部屋の中をウロウロ歩き回る。それでも落ち着かず、インドラは部屋を出た。

 城の中を歩き回り、やがて庭へ彷徨いでた。

 外はすっかり陽が落ちて世界は暗かったが、大きな欠けた月から溢れる光が、庭を柔らかく照らし出していた。

 庭は花より木々が多く、小さな森のようになっている。まるで故郷にある森を彷彿とさせ、インドラは懐かしい気持ちになり、少しだけ心が落ち着いてきた。

 庭の森に入り込み、あてどなく歩いていると、開けた場所に小さな白亜の四阿が建っていた。

 生い茂る木々の隙間から、優しい月明かりが白亜の四阿を照らし、幻想的な光を放っている。暗い森の中なのに、そこだけが青緑色のうっすらと明るい空間を作り出していた。

 引き寄せられるように四阿に近づくと、そこに思わぬ人物を見つけてインドラは驚いた。

 アンジェリーンである。

 最初にインドラに気づいたのは、彼の足元に身を伏せていたグレート・デーンだ。

 尖った耳をピクピクと動かし、くるりと首を巡らせインドラを見る。その様子に気づいたアンジェリーンが、閉じていた目を開いてインドラに向けた。

「インドラ…?」

 不思議そうに名を呟かれ、インドラはサッと頬が熱くなるのを感じた。そして、名を呼ばれただけで急に胸がドキドキしだした。

「あ、あの、起こしてしまってごめんなさい」

 慌てたように言う声は上ずり、どうしていいか判らずその場に立ちすくした。

 アンジェリーンは立ち上がると、インドラの前まできて、胸の前で不安げに組み合わせている手をとり、四阿まで引っ張っていった。伏せていたグレート・デーンが、二人のために場所を譲る。

 それまで自分が座っていた場所にインドラを座らせ、アンジェリーンは近くの柱に背中をあずけた。

「どうしたんだ? こんな時間にこのような場所まで、一人きりでくるなんて」

 咎めるような音を含んだ声に、インドラの心から急にドキドキが抜けて、たよりなくしぼんでしまった。

「気持ちを落ち着かせようと思って、その……歩いていたら、ここまできてしまいました」

 すっかり落ち込んでいる様子に、昼間の伯爵との対面がうまくできなかった話を、パヴリーナから聞いていたことを思い出した。

「気にするな」

「え?」

「伯爵は誰に対しても態度が冷たい。上手に挨拶できなかったからといって、子供を責めるほど器量の狭い男じゃないさ」

 肩をすくめながらアンジェリーンが言うと、インドラは表情を曇らせたままアンジェリーンを見上げた。

「でも、先生からたくさん挨拶の作法や色々なことを教わったのに、伯爵様に何一つ成果を見せることもできなくて。ガッカリなさったでしょうし、先生にお咎めがあったら申し訳なく思います…」

 それに、とインドラは両手を組み合わせて口元に当てる。

「家族からお金を取り上げ、わたしは城から追い出されてしまうのではないかしら。そうなったら、家族にまたひもじい思いを味わわせてしまう。わたしはかまわないけれど、両親や弟妹たちを、もうそんな辛い生活には戻したくない」

 きちんとできなかった自分だけが、罰を受ければいい。家族にはどうか、お咎めを向けないで欲しい。インドラは祈るような気持ちで呟いた。

 アンジェリーンはもたれていた柱から離れると、インドラの足元に膝まづいて彼女を見上げた。

「笑顔を見せろ」

 小さく「え?」と言って、インドラは目を瞬かせた。

「ボクはきみの笑顔を殆ど見ていない。緊張したり沈んだり、生真面目だったり余裕がなかったり、そんな表情ばっかりだ」

 悔しそうに言うその表情は、どこか少年のように拗ねている。

「本気できみを追い出す気があるなら、対面の時にとっくにやっている。伯爵はそういう男だ。だから、きみは笑顔でいればいい」

「……ほんとうに? ほんとうに大丈夫?」

「ああ」

 アンジェリーンは力強く頷いた。

「クゥ~ン」

 それまでずっと黙っていたグレート・デーンが、アンジェリーンをからかうように鼻を鳴らした。

「なんだいイザーク」

「イザーク?」

「こいつの名前さ」

 アンジェリーンはイザークの首に手を回し、ガシガシと頭を撫で回してやる。イザークのほうは迷惑そうに全身をブルブルと激しく振って、面白がるアンジェリーンから離れた。

「つれないな。――イザークはこの庭の森の番人、そしてこの四阿はイザークの家なんだ」

「まあ、そうなの」

 インドラは柔らかく微笑みながら、イザークの頭にそっと手を乗せた。

「ご挨拶もしないで、勝手に上がり込んでしまってごめんなさいね。わたしはインドラというの、よろしくねイザーク」

 イザークは嬉しそうにクンクン鼻を鳴らし、軽快に尻尾を振り回して歓迎の意をあらわした。

 こんなふうに、自然と伯爵に挨拶できるようになりたい。微笑みながら感謝を込めて、お礼を述べたい。

 ――今日は失敗してしまったけれど、次の機会には堂々と挨拶できるように頑張ろう。

 月明かりが照らす優しい森の中で、アンジェリーンとイザークに慰め励まされながら、インドラの心は穏やかな光で満たされていった。


第5話 優しい森の中で つづく



第4話 伯爵様との対面

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【眠りの果てに】 第6話 ティーパーティー 

 

眠れなくて起きて続きを書き上げた(・ω・)

最近寝つきが悪い&寝ないで平気で夜更かしコースとか、暑いのはキライデス(#゚Д゚)


よくあるある展開ですけど、まあ、わたしが書いているものなので、あるある話にはしないと思います。でも、ありそうだけど(´_ゝ`)

伯爵様と再びお目にかかる機会ができましたよ。




眠りの果てに
第6話 ティーパーティー



「お嬢様、お嬢様、良い報せですよ!」

 常に冷静で、はしゃぐことがないパヴリーナが、喜びと驚きを混ぜたような表情で、慌てた様子で部屋の中に飛び込んできた。

「どうなさったのですか、先生?」

 クローデットにドレスを着せてもらっていたインドラは、不思議そうに首をかしげてみせた。まだ行儀作法を習う朝食までには時間がある。

「今日の午後、伯爵がティーパーティーにお招きくださるそうです」

 嬉しそうにパヴリーナが言うと、クローデットがにこやかにインドラの片手を握った。

「それはようございましたね、お嬢様」

 しかしインドラは硬直したまま、ぽかんと口を開けてパヴリーナを見ていた。

 伯爵と初めての対面は、緊張したインドラが上手に挨拶できずに終わっている。直後はたくさん泣いて落ち込んでいたインドラだったが、翌日からは普段通り元気に意欲的に勉強に励んでいた。それから1週間経った今日、突然伯爵自らパヴリーナを呼び、午後の ティーパーティーに招待する旨を伝えたのだ。

 アンジェリーンが言ったように、伯爵はインドラを城から追い出す気はなかったようで、インドラはどこかホッとしたようにその場に崩れ落ちてしまった。

「まあまあ」

 クローデットは慌ててインドラを支えながら立ち上がらせ、近くの鏡台前の椅子に座らせた。

「腰が抜けるほど、驚かれたんですね」

 くすくすと笑い、ドレスを整えてやった。

「伯爵様が……お招きくださったのね、わたしを」

 恐る恐るといったふうに、パヴリーナに顔を向ける。

「はい。おめかしして行きましょうね」

 パヴリーナはそう言い、優しく微笑んだ。



 日よけのためにかぶせられたツバ広の大きな帽子は、緊張に包まれたインドラの顔をすっぽり隠していた。雲一つない晴天で、6月になった陽射しは眩しかった。

 伯爵のティーパーティーは庭で催されるということで、インドラはグレート・デーンのイザークが護る庭の森の中かと思っていた。しかしドラホスラフに案内された場所は、美しく整えられた明るく開けた庭だった。くるのは初めてである。

「旦那様、お連れいたしました」

 籐で編まれた椅子に白いクッションを背に敷いて座っている伯爵が、片手を上げてドラホスラフに下がるように命じた。そして給仕のためにいた若いヴァレットも下がるよう命じられ、ドラホスラフと共に城へ戻っていった。

「座りなさい」

 低いがよく通る声で、伯爵は立ったままのインドラに座るように命じた。

「は、はい、失礼いたします」

 ドレスの裾を小さくつまんで腰を折ってお辞儀をすると、インドラはすすめられた椅子に座り、帽子を取ろうとした。

「日よけの為だ、帽子はそのまま、かぶっていなさい」

「はい」

 伯爵もまたパナマ帽をかぶり、白いスーツに身を包んでいた。

 それきり伯爵は口を閉ざし、辺りには時折小鳥のさえずる声だけが、静かに響いているだけだった。

 丸いテーブルには、レースや刺繍の施された上品な白いクロスがかけられ、水色の磁器のカップには、透明な紅茶が注がれている。そして中央には、一口サイズの綺麗で美味しそうなケーキがいくつも並んでいた。でも、伯爵もインドラも、カップにもケーキにも手を伸ばそうとはしない。

 やがて長い沈黙を破るように、インドラはおずおずと顔を上げ伯爵を見た。

「あ、あの、伯爵様」

「なんだね」

「あの、先日は、失礼をいたしました。きちんとご挨拶をしなければならないのに、言葉を詰まらせてしまいました…」

 表情を少しも動かさず、伯爵は黙ってインドラが続きを話すのを待っていた。

「家族に……家族に、あんなにたくさんのお金をありがとうございました。それに、わたしにも素敵なお仕事を、ありがとうございました。心から感謝しております」

 ――ちゃんと、言えたわ!

 インドラは肩の荷がおりたように、心底安心して頭を下げた。しかし、

「仕事?」

 とても不思議そうに伯爵が呟き、インドラは顔を上げた。

「はい。ダンスやピアノのレッスン、行儀作法や語学や計算などの勉強のことです。勉強がわたしの仕事なのだと、ドラホスラフさんに教えていただきました」

 感極まったように言うインドラの顔を見て、伯爵は小さく渋面を浮かべた。

「ドラホスラフめ、悪戯心をおこしおって」

 しょうのないやつだ、と伯爵はため息をついた。それから少し考えるような素振りを見せたが、小さく「コホンッ」と咳払いをして、青い瞳でインドラを見つめた。

「やり方はあまり良いとは言えないが、君の家族に支払った金は、支度金だと思ってくれればいい。そして、君はあの日から、我がメイズリーク伯爵家の養女になったのだ。まだ正式な手続きは終わっていないが、近日中には正式に養女となる」

 インドラは目を瞬かせながら、淡々とした伯爵の顔を見つめた。

 勉強は仕事ではなく、家族へのお金は給金ではなく支度金、自分が伯爵家の養女…? インドラの頭の中は激しく混乱し始めた。これは一体、どういうことなのだろう。

 黙り込んだインドラの表情から察した伯爵は、小さくため息をついて、冷めた紅茶を一口すすった。

「私には後継者がいないのだ。後継の息子は幼い頃に病死してね…。そのため君を養女として迎えることになったのだ」

「……でも……、そういうのは、貴族のお家や、家柄の良いところのお子様を迎えるのでは?」

 その程度のことはインドラにも判る。何故、家名もないような貧しい木こりの家から、養女を迎えることになったのか。どうして伯爵家と縁もゆかりもない自分が。とても不思議な話だ。

 ――何故、自分でなくてはならなかったの?

「貴族、上流、中流家庭から子供を迎えると、色々と厄介なことが多いのだよ。メイズリーク伯爵家と縁を持った、などとつまらんことを考える輩が多い。――たまたま君を迎えることになったが、不服かね?」

「いえ、いえ、とんでもございません……。むしろ、わたしなどが伯爵家の人間になる方が、申し訳なく思います」

 これは本心だった。それに、まだインドラは納得できずにいる。何故自分が選ばれたのか、ということに。

 しかし全身から拒絶するような雰囲気を漂わせる伯爵の態度からして、言う気はないようだ。

 再び沈黙が降り、二人はただテーブルや庭の景色に目を漂わせていた。

 そこへヴァレットが伯爵を呼びに小走りにやってきた。

「どうやら、時間切れのようだな」

 懐から時計を出し時間を確認すると、伯爵は立ち上がった。インドラも立ち上がる。

「仕事があるのでね、私は失礼するが、君はゆっくりしていきなさい」

「お招き、ありがとうございました」

「今度は食事を一緒にしよう」

 伯爵は城のほうへ踵を返すと、大股で颯爽と歩いていってしまった。

 見えなくなるまで伯爵を見送り、インドラは困ったように小さくため息をついた。


第6話 ティーパーティー つづく



第5話 優しい森の中で

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