アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」:episode04

アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」 記事用ヘッダー

アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」

旅は道連れ編:ヴェガルド語り_episode04

 本当に一瞬で森のあちこちに大きな火があがって、ゴウゴウと音を立てて燃えだしたんだ。そして、動物たち――魔獣たちが、猛り狂う火の中から躍り出て、女めがけて襲いかかってきた。

「ヴリシカムの爪よ、毒針とともに、哀れなケダモノに死の導きを!」

 今度は左手の甲を魔獣たちに向けて、女は叫んだ。すると、突如現れた赤い軌跡が、幾重にも空間を踊り走って、魔獣たちは地面に血を撒き散らして転がった。断末魔の声が耳に突き刺さる。

 お前は一体何者なんだ? ボクは恐怖とそう思いを込めて、女を見上げた。

 紅蓮の炎に照らされて、女の髪はオレンジ色になっていた。白い面(おもて)は揺らめく炎の影を映しながら、愉悦に浸っているように見える。

 女による殺戮は延々続き、何もできず放心状態になったボクは、友達が倒れていく様を見続けることしかできなかった。

「おーっほほほ、凄い金策になったわあ」

 ご機嫌な女の笑い声で、ボクはハッと気がついた。

「あら、気がついたのね」

 女は振り向き、ボクに無邪気に笑いかける。

 森は静けさを取り戻していたけど、木々は焼け焦げて葉もなくなって、水色の空を大きく映し出してた。辺は焦げ臭さと、僅かな水の匂いがした。

「魔獣の身体は、結構なお金になる素材でいっぱいなの。旅の資金もそろそろ乏しくなってきていたし、助かっちゃった。次の町へ着いたら売りさばかなきゃ」

 たくさん詰め込まれて膨らむ袋を手に、女は上機嫌で笑っていた。

 あの袋の中には、友達の身体の一部が入っているのか。ボクの友達を、金儲けの材料にするなんて、なんて非道なんだろう。

 罵倒してやりたいのに、怖くて一言も出ない。ボクって情けない!

「さーってとっ、今から出発すれば、次の町へ夜には着けるわね」

 女は袋をいきなりボクに放ってきた。条件反射で慌ててキャッチする。

「あわわっ」

「無くさないでよ、大金になるものが、いーっぱい入ってるんだから」

「へ?」

「行くわよ、下僕(しもべ)一号」

「…………はあ??」

 しもべ? 下僕(しもべ)ってなに!?

 不思議そうにするボクに、女はニヤリと笑みを深めた。

「あたくしの下僕に召し上げてやったのよ。感謝しまくりながら着いてらっしゃい!」

 だ、誰も頼んでませんけど!!! 下僕っていうのが、そもそも判りませんが!?

「それと、あたくしのことは、アストリッド様とお呼びなさい」

「ボク嫌だよ!」

 逆らえば怖いけど、友達を殺して森を焼いた、こんな女に命令されるなんてまっぴらだ!

「なんですって? この栄えあるスヴェンセン伯爵家次期当主たるアストリッド・グエナエル・スヴェンセン伯爵令嬢自ら、下僕に召し上げてやったのよ! 嫌がるなんて無礼の極み、光栄に打ち震えながら、感謝を垂れ流して着いてくることね!!」

 うっ…、なにこの逆らえない威圧的オーラ。

 逆らい続けたら、どこまでも追いかけて首を縦に振らされそう。

 い…行くしかないのか……ボク。

 ボクは辺りをゆっくり見渡した。

 静かで穏やかで優しかったヒュトネンの森は、真っ黒焦げになっちゃってる。友達の気配も一切ない。

 もう、ボクの暮らせる場所では、なくなってしまったんだ。

 突然訪れた不幸。幼かった頃、突然襲いかかってきた不幸ふたたび、だ。

「ほら、モタモタしない。行くわよ!」

 急かされながらボクはノロノロと立ち上がって、深々とため息をついた。

 ああ…、ボクの人生って、なんて波乱万丈なんだろう!?

「そうだわ、あんた、名前なんていうの?」

 いきなり立ち止まって、アストリッドは振り向いた。そういえば、名乗ってなかったかも。

「ヴェガルド、ヴェガルド・イプセン」

「……イプセン?」

 アストリッドはいきなり眉を寄せて神妙な顔になって、やがて驚いたように目を見開いた。

 な、なに??

「イプセンって、あの有名なイプセン一族!?」

「?」

「ああ、あんたまだ小さかったから知らなかったのね。――イプセン一族ってね、フラフトストラとしては超優秀で超有名で、ある時を境に雲隠れしちゃって、その存在は伝説級になっていたのよ。そうだったの、そうだったのねえ……。雲隠れしたんじゃなくて、吹っ飛ばされていたのね」

 複雑そうな顔をして、アストリッドは唸ってた。なんか一人で納得してるけど、ボクの両親や村人たちって、有名人だったんだ?

「魔術協会に報告しなきゃだわ。さっ、行きましょ」

「う、うん…」

 ボクはそっとヒュトネンの森にさよならをして、逆らえない恐怖を噛み締めながら、この高飛車なアストリッドの旅に巻き込まれたのでした。

旅は道連れ編:ヴェガルド語りepisode04 つづく

フッター
関連記事
オリジナルファンタジー小説

Comments 0

Leave a reply