アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」:episode10

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アストリッド様と「行くわよ愉快な下僕たち!」

旅は道連れ編:アストリッド語り_episode10

 お腹もすいているし、マトモに相手をするよりは、一発ガツンと吹っ飛ばしたら消えてくれるかしら。二度と目の前に現れないほど徹底的に。――あら、空腹のあまり、思考回路が物騒になってしまったわね。

「いいか、スヴェンセン一族に勝って、オレのリボン魔術の凄まじさを魔術協会に認めさせてやるんだ! ぶっ倒す!!」

 下品な女はそう言って、少し後ろに控える中年の男を指差す。

「……魔術協会の人を、わざわざ買収してきたの?」

「いええ……拉致られました」

 トホホと肩を落としながら、中年の男は泣き出す。なるほど、問答無用で連れてこられた挙句、承認するまで帰らせてもらえないわけね。ほんのちょっと哀れには思うけど、正直空腹の前には関係なくってよ。

「リボン魔術って、なあに?」

 ヴェガルドが不思議そうに首をかしげて、あたくしの腕をツンツンとつついてきた。まあ、名前だけ聞いたらファンシーな響きよね。

 あたくしは目の前で仁王立ちする下品な女を、つま先から頭のてっぺんまで、ジロジロと観察する。

 その姿を、なあんて表現すればいいのかしら?

 一言で表すなら、派手、ですわね。

 大小様々なデザインのリボンを、服にくっつけているの。色も共通性もなく、言葉通り色んなカラフルなリボン。あのグラデーションのかかった三段スカートっぽいものも、髪に結んでいるものも、肩や胸元や手足に巻きつけているあのリボンも、魔術用のものねきっと。

 はぁ、っとため息をついて、ヴェガルドの方へ顔を向ける。

「リボン魔術、なんて正式な魔術名称は無いのだけど、所謂符術の類型みたいなものかしら。あの色とりどりのリボンに術式を記しておいて、魔術を発動させるのね。ご丁寧に、色でなんの術が発動するか、あの能無し女は区別しているようよ」

「能無し言うな! 工夫、って言うんだ!!」

「へ~、魔術ってアストリッド……様の使うものとか、色んなのがあるんだあ」

「アストリッド様、と、間を開けずに言いなさい」

「……はぃ」

「あたくしの使う魔術は、由緒正しきスヴェンセン伯爵家のもの。あんな、テキトーにアレンジした紛い物魔術と一緒にしては、いけませんことよ」

「紛い物だとおおおおっ」

「仕方ありません、魔術協会のかたもいらっしゃることだし、ヴェガルドにもあたくしの扱う魔術の一端を、きちんと見せておかなくては。ヨナス」

「はい、オマカセください、ごしゅじんさま~」

 それまで黙って成り行きを見守っていたヨナスは、人だかりのところへ飛んでいくと、羊の鳴き声をあげた。

「メェ~、メェ~、みんな眠くなっちゃうの~」

 すると、ヨナスの周りに居た一般人たちが、立ったままスッと眠りに落ちていった。あたくしの使い魔であるヨナスは、眠りの魔術を扱えるの。ギャラリーが多いと、色々とやりにくいし、魔術戦は見世物ではないですしね。

 あたくしは二の腕まである、長い手袋を両方脱いだ。そして、両手の甲をヴェガルドに見せる。ヴェガルドは素直に覗き込んできた。

「複雑な、記号みたいなのが描いてある」

「あたくしは天空の星霊を召喚し、使役することができます。右手は惑星霊、左手は十二星座霊の召喚術式よ」

「へえ……」

「魔術を発動するためには、場所、時間、供物、魔力、呪文などの儀式が必要になってくる。でも、あたくしのように旅をしていると、そんな儀式をしている暇はないでしょう。いきなり敵に襲われて、儀式をしているとかありえません。そこで、儀式を省略し、召喚魔術が即発動できる術式を、こうして刺青にして手に記してあるの」

「……これでボクの友達を、滅殺しちゃったんだね…」

「……」

 案外この子、根に持つタイプ!? そういう理解の仕方もあるってわけね…。学んでしまいましたわ。

「コホン。さあ、秒殺して差しあげてよ」

旅は道連れ編:アストリッド_episode10 つづく

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