夢の時間(とき)

オリジナルの異世界ファンタジー小説【ALCHERA-片翼の召喚士-】連載中です。

ALCHERA-片翼の召喚士- 133 最終章:永遠の翼 貴方に手向ける黄金の炎・後編  

 


ALCHERA-片翼の召喚士-
最終章:永遠の翼  貴方に手向ける黄金の炎:後編 133



 すでに壇に上がっていたリュリュに手招きされて、キュッリッキはゆっくりと階段をのぼった。一歩一歩のぼるたびに、心と身体が重く感じる。

 リュリュのもとへたどり着いたら、ベルトルドとアルカネットと、本当に最後のお別れになってしまうから。だから、ゆっくり、ゆっくりと歩いた。

 リュリュの傍らに立つと、泣きはらした目で、ガラスの柩をじっと見つめる。

 ベルトルドとアルカネットは、別々の柩におさめられていた。

 血の汚れも綺麗に清められ、軍服も新しいものを着せられていた。こうして見つめていると、二人はただ、眠っているだけのよう。

 ベルトルドがいつも望んでいたキスをしてあげれば、すぐにでも目を覚ますかもしれない。そんな風に思うと涙ぐんでくる。

 二人が死んで、まだそんなに日が経っているわけではない。

「ベルもアルも、綺麗になってるでしょ。ひと晩かけて綺麗にしてあげたのよ…」

 キュッリッキにしか聞こえないほどひっそりとした声で、リュリュは悲しげに呟く。

 どんな想いを持って、死体となった彼らと過ごしたのだろう。リュリュの横顔を痛ましく見つめた。

「……アタシね、ベルトルドさんに見せてもらったの。ベルトルドさん、アルカネットさん、リュリュさん、そしてリューディアの子供の頃の4人の思い出」

「そう…」

「リュリュさんが、一番辛いね」

「ふふっ、そうね……。長い分想いと記憶があって。でもね、うまく言葉に紡げないのよ。言いたいこと、沢山あるはずなのに」

「アタシは誰よりも付き合いが短いけど、ずっとずっと、昔から一緒にいたって思っちゃうくらい、二人がそばにいるのが、当たり前みたいに思ってた…。んーん、当たり前だった」

「とくにベルは、小娘と一緒にいる時が、一番幸せそうだった。あーたとメルヴィンがくっついたときは、そりゃもう花嫁の父みたいな表情(かお)して悔しがってたくらいネ」

 キュッリッキは引きつった薄笑いを浮かべた。

「さあ、お別れを言ってあげて」

 リュリュはキュッリッキの肩にそっと手を置いて、そして少し下がる。

 大広場に居並ぶ人々が、キュッリッキを静かに見守る。

「ベルトルドさん、アルカネットさん、アタシ、こんな時、どんな風に言えばいいのか知らないの。作法とか教わったことないし、……葬儀って初めてだし、判んない……」

 こぼれ落ちてくる涙を、手の甲で拭う。

「色んなこといっぱい言いたいけど、ちっとも整理できてない。だから、それはまた今度言うね。今は、ベルトルドさんとの約束を、果たそうと思う」

 俯かせていた顔を上げると、キュッリッキは前方の空間に、ひたと目を向けた。

 葬儀を行うと言われた時から、考えていたこと。

「絶対に、約束、守るの……」

 虹色の光彩を散りばめた神秘の瞳が、光をどんどん強める。

 キュッリッキの目は、アルケラを見ていた。

 幾重にも折り重なる厚い雲をかきわけ、光り輝く黄金の雲の間をくぐり抜け、やがてその姿を捉え、それぞれ目が合う。

「来てください、ティワズ様、トール様、ロキ様!」

 キュッリッキが叫ぶと、突如大広場の空間がぐにゃりと湾曲し、強烈な黄金の光が乱舞した。そして、大量の光の粒子を大広場に降り積もらせ、気づいた人々がギョッと目を見張るほどの巨人が3体、姿を現していた。



「やれやれ、我らをこんな場所に呼び出すとは、相変わらずキュッリッキは突拍子もない子だね」

 なんだか嬉しそうな表情で、ロキが笑った。

「ごめんなさい」

 肩をすぼめて、キュッリッキは素直に謝る。そして真ん中に立つ初老の男を、喉を反り返して見上げた。

「お久しぶりです、ティワズ様、トール様」

「キュッリッキよ、何用じゃ」

 大地も海も震わせることのできる、雷のようなずしりとした声でトールが言い放つ。

 ティワズは優しい瞳でキュッリッキを見つめ、小さく頷いた。

「今日はね、ティワズ様とトール様にお願いがあるの。そして、ロキ様はその証人になってもらうの」

「なんじゃとぉ?」

 モップのようにゴワゴワと垂れ下がる黒い眉毛の下から、紫電の光をまとわりつかせた漆黒の瞳が、ギョロリとキュッリッキを見据える。

「証人かあ、それは面白そうだね」

 対照的に明るい青い瞳のロキは、人懐っこい笑顔をトールに向けた。

「まずはトール様。そこにいるリュリュさんに、いっぱい謝って!」

 少しも怯まないキュッリッキが、細い人差し指を呆気にとられているリュリュに向ける。

「なぜ儂が、あの人間に謝らねばならん?」

 トールは不思議そうに目を瞬かせた。

「トール様のミョルニルが、リュリュさんのお姉さんを殺したからだよ」

 リュリュはハッとなってキュッリッキを見つめ、次いでトールを見上げる。

「人間たちの世界でいうと、31年前にキミが一発振り下ろしたあの雷だね」

 思い出せずにいるトールに、ロキが嫌味っぽい笑みを口の端しに乗せて言った。

「……ああ、禁忌を犯そうとした、あの娘のことか」

「そうそう、キミの咄嗟の判断で殺してしまった人間。そのせいで後になって我らの可愛いキュッリッキが、大迷惑を被ることになったんだよ」

「なにィ!?」

「アタシの大迷惑なんかどうだっていいのっ!! ちゃんと謝って、トール様!」

「ぐぬぬ…」

「ほらほら、謝りなよトール。じゃないと、キュッリッキに嫌われちゃうよ?」

「嫌っちゃうよ」

 ロキとキュッリッキに畳み掛けられ、トールは巌のような体躯を不快そうに揺すった。そして、ずっしりと鈍い動作で片膝を折ると、真っ黒な双眼でリュリュを見据えた。

「命を奪ったことは謝る。すまぬ」

 あまりにもサックリと素直に謝られ、リュリュは目をぱちくりさせて硬直した。

 神が非を認めて、人間に向けて謝った。

 目の前の巨人が、神であるということはイマイチ理解できていないまでも、なぜかリュリュは納得してしまっていた。謝ってもらったところで、リューディアは帰ってこないし、31年の時間も巻き戻ってこない。それでも、理不尽に姉を殺した真犯人が謝ったことで、ほんの少し、色々なことが報われたような思いも去来していた。

「あっはははは。神だって人間に謝ることあるんだよ。あのことは、やり過ぎだったって、トールも反省するトコがあったからね」

「そうなの?」

「ああ、対処法は色々あったのに、反射的に雷落としちゃったんだ。飛行技術をほかの人間の目に触れさせる前に、焼き捨ててしまおうとして、人間ごと…ネ」

 意外そうにするキュッリッキに、ロキが苦笑を滲ませ説明する。

「神でも、過ちはおかすものなのさ。でも、その過ちのせいで、後々キュッリッキが大変な目に遭ってしまって、キュッリッキにも謝らないといけないな、トールよ」

「むぅ…」

「アタシには謝らなくっていいよ。――ティワズ様には、お願いがあるの」

 先程から一言も発さないティワズを向いて、キュッリッキは真剣な眼差しを注いだ。

「人間たちに、飛行技術を返して欲しいの」

 リューディアの純粋な願い、ベルトルドの悲願。

「……1万年前の悲劇が、再びこの世に訪れるやもしれぬぞ?」

 低い優しさの溢れる声が、キュッリッキにそっと降り注ぐ。

「そなたもユリディスから見せられたであろう、1万年前の世界の有り様を。そして、彼女が被った悲劇を」

「そうだよキュッリッキ、人間たちは好奇心旺盛で、発明も開発も大好きな生き物だ。けど、それは時として負の副産物を撒き散らす。ただ自由に空を飛びたかった、それだけの願いも、邪な企みを抱く人間の手にかかれば、命を奪う兵器にもなるし、欲望を満たすためだけの道具に成り下がるんだ」

 ティワズとロキから穏やかに反対されたが、キュッリッキはキッと目に力を込めて神々を見上げる。

「だったら、悪いことに使うようになったら、また人間たちを作りかえちゃえばいいじゃない!」

 両手を腰に当てて、キュッリッキはふんぞり返る。

 1万年前の出来事に端を発し、その後の人間たちは自由に空を飛ぶ権利を、理不尽に奪われてしまった。閃きすら叩き折られてしまったのだ。

「アタシ難しいことはさっぱり判らないけど、空が飛べなくったって戦争も殺人も起きるんだよ。それに、魔法やサイ〈超能力〉で空は飛べるから、空からだって攻撃は飛んでくるんだもん。宇宙ってところは行き来できないけど、エグザイル・システムがあるから惑星間の移動だって楽勝だし!」

「……まあ、確かにそうだね…」

 足元の小さなキュッリッキの気迫に、思わず引き気味にロキが頷く。

「ユリディスの一件があったから、人間たちの能力を限定したって聞いた……そうまでしたのに、飛行技術だけ奪うの、おかしいと思うの。スキル〈才能〉に関係なく、空飛んでみたいよ…。アタシも、自分の翼で空、飛んでみたかったよ……」

 両翼を持つアイオン族。本来自由に飛べる民だから、青い青い空も思いのまま羽ばたける。キュッリッキもアイオン族だから、その翼で空を飛べるはずだった。

 人間たちの貪欲な手から逃すため、アルケラの巫女として生まれてきたキュッリッキの背から、片方だけ翼が取り上げられてしまった。

 空に憧れて、飛んでみたくて、飛行技術を閃いたリューディアは、命を摘み取られてしまった。

 どちらも、神々の思惑によって。

「ベルトルドさんは、リューディアの願いを叶えてあげたかったの。アルカネットさんはリューディアを返して欲しかったの。すごく無茶苦茶なことしたけど、でもでも、二人とも想いは純粋だったの。ただやり方がちょっと悪かっただけ。――お願い、ティワズ様、ベルトルドさんの、リューディアの願い、聞き届けて!」

 キュッリッキのまっすぐな視線を、ティワズはじっと見つめ返した。トールもロキも、ただ黙ってティワズを見つめた。

 ライオン傭兵団も、大広場の人間たちも、黙って見守っている。

 静かな時間が、大広場をゆっくりと流れていった。

 やがて、ティワズは目を閉じて顎を引くと、目を開いてキュッリッキを見つめた。

「次に閃く者が現れたとき、我々は黙って成り行きを見守ろう。キュッリッキよ、そなたが死して後、いつか生まれいでる巫女が、その運命に絡め取られたとき、どうするかは、そうなったときに検討しよう」

「ティワズ様……」

 花開くような笑みが、キュッリッキの顔に咲いていった。

「ありがとう、ティワズ様」

 ティワズの衣の裾にすがり、キュッリッキは喜んだ。

「やっぱりティワズは、キュッリッキに甘甘だね。――この件に関しては俺が証人だ。ついでに、トールもだぞ」

「ふんっ」

 意地の悪い笑みを浮かべるロキを、トールは忌々しげに睨みつけた。

「さてキュッリッキ、俺たちもう帰ってもいいかな?」

 ロキに優しく言われ、キュッリッキは頷いた。

「落ち着いたらアルケラに遊びにおいで。沢山、話をしよう」

「はい、ティワズ様」

 キュッリッキの了解を得たロキは、巨大な漆黒の翼を生やし、その翼でティワズとトールを包み込んだ。そして黄金の光に包まれると、神々は光の粒子を残してその場から姿を消した。

「良かった」

 キュッリッキが微笑んだ時、再び大広場がどよめいた。

「うん?」

 なんだろうと後ろを振り返ると、キュッリッキは大きく目を見張った。

「えっ? ベルトルドさん、アルカネットさん??」



 8月に見たこともない巨大な化け物を見せつけられた。そして今度は巨人である。

 召喚士の呼び出す様々なものに、人々は驚嘆させられっぱなしだ。

 巨人とキュッリッキのやりとりは、大広場の人間たちには意味不明であった。壇のそばに控えていたライオン傭兵団も、いまいち判っていなかった。しかし、次に現れたものに騒然と人々は沸き立った。

 見覚えがありすぎるからだ。

 蒼天の空のもと、太陽はまだ中天にある。そんな真昼間に、あれは…。当人たちの遺体が目の前にあり、しかしなんとよく見える姿だろう。

「あやつら、早々に化けて出てきおったわい…」

 壇から少し離れたところに設けられた特別席で、事の成り行きを見守っていた皇王は、怖がるどころか妙に納得したような顔で見つめていた。

「ベルトルドさん、アルカネットさん、どうして…」

 驚きの表情を浮かべるキュッリッキに、ベルトルドがにっこりと笑いかけた。

「ありがとうリッキー。俺たちの願いを叶えてくれて」

「感謝しますよ、リッキーさん」

 アルカネットも、いつも見慣れたあの優しい顔で微笑んでくれた。

 まさかの思わぬ出現に、とにかくキュッリッキは驚いた。

「ホントに本物の、ベルトルドさんとアルカネットさん?」

「ああ、世間で言うところの幽霊…かもしれんな」

「ちょ、あーたたち、化けて出てくるの早くってよ!?」

 リュリュはまろびつつ、身を乗り出し目を剥く。

「仕方なかろう、葬儀をこんな真昼間からやってるんだからな。夜まで待てなかったのか、しょーのない奴らめ」

 心外そうに表情を歪め、ベルトルドはリュリュを睨みつけた。

「っとにもー! あーたたちに言ってやりたいことが山ほどあんのよっ!」

「まあ、それはお墓の前でしてくださいリュリュ。私たちにはあまり時間がないのです」

 間に入ったアルカネットが、苦笑いを浮かべて言う。

「ロキとかいう俺たちの遠すぎる先祖が、ほんの少し、リッキーと別れの時間をくれたんだ。お前のようなオカマに割く時間はこれっぽっちもない」

「ぐぎぎぎぎぎ」

「リッキーさん、本当にありがとうございました。リューディアの願いを取り返してくれて」

「んーん、アタシはお願いをしただけ。決めたのはティワズ様だもん」

「可愛いリッキーがお願いしたんだ。そりゃあ聞き入れるだろう、神とて」

 ベルトルドは自分のことのように得意げに言うと、申し訳なさそうに表情を歪める。

「初めから、こうしてリッキーにお願いして、神に談判すればよかったんだがな…。リッキーを傷つけずに済んだのに」

「私の中の復讐心が、ベルトルドを進ませていたのです。本当に済みませんでした、リッキーさん」

「ベルトルドさん、アルカネットさん…」

 アルカネットはキュッリッキを抱きしめた。

 幽霊で実体がないのにアルカネットの感触がして、キュッリッキは懐かしさを感じて涙ぐんだ。

 いつもの優しい優しい、アルカネットのハグ。キュッリッキのよく知る優しいアルカネットのハグだった。

「ずるいぞアルカネット!」

 横でベルトルドが喚き、アルカネットは冷たい目でベルトルドを睨みつける。

「名残を惜しんでいるんです。邪魔しないでください鬱陶しい」

「お前が惜しむなお前が! 早く俺のリッキーを離せむっつりスケベ!!」

「えーっと…」

 いつものやり取りが始まって、薄笑いが漏れる。

 幽霊になっても変わらない二人。相変わらずなことに呆れてしまうが、もうこのやり取りさえ最後なのである。その事に気づき、キュッリッキの涙は止まらない。

「リッキー…」

 ベルトルドはアルカネットの手からキュッリッキを奪い取ると、キュッリッキを優しく抱きしめた。

「こんなに綺麗で可愛い顔を、涙でいっぱいにしてしまったな。リッキーを傷つけた俺たちのために、悲しんで泣いてくれて、本当にありがとう」

「…うん」

「俺自身の手で、リッキーを幸せにしたかった。それができないことが、唯一の未練だな。――自業自得だが…」

 自嘲を浮かべ、ベルトルドは本当に悔しそうに苦笑った。

「この先リッキーが本当に危機に陥ったとき、俺が必ず助けに来る。本当だぞ? 未来永劫、リッキーを愛し続ける。死していてもな」

「ベルトルドさん…」

「メルヴィンと幸せになりなさい、誰もが羨むほど幸せに。俺はリッキーを傷つけることしかできなかったが、誰よりもリッキーの幸せを願っている」

 いつもキュッリッキにのみ向けていた、穏やかで優しい笑顔でベルトルドに言われて、キュッリッキは大きくしゃくり上げた。

「幸せに……なるよ…メルヴィンと絶対に」

「ああ」

「ありがとうベルトルドさん、ありがとう、ありがとう…」

 あとはもう喉が詰まって言葉が出ない。言葉以上に涙が溢れて、視界が滲んでいった。

 ベルトルドはにっこり微笑むと、キュッリッキの額に優しく口づけた。そしてキュッリッキから離れると、今度はアルカネットがキュッリッキの頬に口付ける。

「これで本当にお別れです。どうかいつまでも幸せに」

「アルカネットさんも…ひっく…ありがとう」

 アルカネットもにっこりと微笑んで、ベルトルドの傍らに立った。

「あの世で、お姉ちゃんにヨロシクネ」

「ああ、ちゃんと伝えるさ」

「リューディアと再会出来るのが楽しみです」

「リューにも、すまなかったな。後片付け、頼む」

「ホントよ! もお、山積みなんだからっ」

「片付けが終わるまでは、絶対にこっちには来ないでくださいね」

「死んでる暇なんかナイワヨ!」

 本気で怒っているリュリュを見て、ベルトルドとアルカネットは苦笑した。

「さて、もう時間だな」

 天を仰いで、ベルトルドはぽつりと言った。

「リッキー、俺たちを送ってくれるかな?」

「お願いします、リッキーさん」

 キュッリッキは両手の甲で涙を何度か拭うと、涙でくしゃくしゃな顔で頷いた。

 アルケラへと向けられた神聖な瞳は、ウトガルドを飛び、ロギの姿を捉えた。

「全てを喰らい尽くす幻影の炎ロギ……」

 キュッリッキが両手を前に差し出すと、繊細な掌に黄金の炎が宿った。そしてその手の向こうには、微笑むベルトルドとアルカネットの霊体が立っている。更にその後ろには、二人の遺体がおさめられた柩があった。

 キュッリッキは泣き声を上げそうになり、堪えて口をワナワナと震わせる。その表情を見て、ベルトルドとアルカネットは、強く頷いた。

「…彼らの肉体を清め、その魂をニヴルヘイムへと導いてください」

 黄金の炎はキュッリッキの掌から離れると、ゆっくりと柩に向かい、突如大きな炎となって二人の柩を包み込んだ。

 熱は少しも感じない。青い空に映えるほどの黄金の色を煌めかせ、柩を燃やしていく。

「さらばだ! 愛すべき馬鹿ども!!」

 大広場にベルトルドの声が響き渡った。

 黄金の炎は更に勢いを増し、臭い一つたてず、あっという間に柩と遺体を燃やし尽くして、灰に変えてしまった。

 同時に、ベルトルドとアルカネットの霊体も消えていた。


最終章:永遠の翼 貴方に手向ける黄金の炎:後編 つづく



132 最終章:永遠の翼 貴方に手向ける黄金の炎:前編

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ALCHERA-片翼の召喚士- 132 最終章:永遠の翼 貴方に手向ける黄金の炎・前編 

 


ALCHERA-片翼の召喚士-
最終章:永遠の翼  貴方に手向ける黄金の炎・前編  132



 僅かに瞼を震わせ目を開けると腕が見えて、それをたどって上に目を向けるとメルヴィンの横顔が見えた。

 そのままジッと見ていると、メルヴィンはぐっすりとよく眠っている。

 端整な寝顔を見つめながら、キュッリッキはほんのりと顔を赤らめる。

 昨夜メルヴィンに愛された。

 心も身体も全てメルヴィンの愛で満たされ、幸せを迸らせるように意識が真っ白になり、気づいて今に至る。なので、どの時点で意識が途切れてしまったのか判らない。そのくらい夢中で愛に溺れていたのだった。

「メルヴィン……」

 身体を起こすと、引き締まった胸に顔をうずめるようにして、ぽつりと名を呟く。耳を押し付けると、トクン、トクンと心臓の鼓動が聞こえた。

「大好き、メルヴィン」

 キュッリッキは嬉しさを訴えるように、メルヴィンの胸に愛おしそうに頬ずりした。

 こうして身体に触れていても、メルヴィンは目を覚まさない。

 昨日は命を張った戦いをしていたのだ。相当疲れているのだろう。それが判って、キュッリッキはベッドから出ると、裸のままバスルームへと向かう。

「………」

 ふと立ち止まり、やや困惑げに眉を寄せ、首をかしげつつ再び歩く。そしてまた立ち止まった。

「なんか、まだ股間に何か挟まってるみたいな感じがするかも……」



 熱いシャワーを浴びながら、キュッリッキは胸元の傷にそっと触れる。

 湯が当たっても滲みなかった。昨夜シビルが塗ってくれた薬のおかげだろう。

 複雑な気持ちで傷を見ていると、背後でドアが開く音がして、ギョッと後ろを振り向いた。

「めっ、メルヴィン」

「おはようございます」

「もお、びっくりしたんだから」

 後ろからメルヴィンに抱きしめられ、キュッリッキは愛らしく唇を尖らせた。

「ちゃんと声はかけましたよ?」

「……聞こえなかったもん」

「じゃあ、しょうがないです」

 耳に軽くキスをして、メルヴィンはふとキュッリッキの胸元の傷に目を向ける。

「滲みませんか?」

「うん、大丈夫。薬が効いてるみたい」

「それは良かった」

 ホッとしたように、メルヴィンは肩の力を抜いた。

「ねえメルヴィン」

「はい?」

「股間にまだメルヴィンの挟まったままみたいな感じがするの。これいつになったらおさまるんだろう? 歩きにくいの」

 物凄く困った表情で見上げられて、メルヴィンは顔を真っ赤にする。

 感触が残っていて感じてしまうから困る、なら判るが、歩きにくいと言われたのは生まれて初めての経験だった。なんだか視点がズレてる気がして、心の中でガックリ肩を落とすメルヴィンだった。

「もう、そんなことを言う口はこうです!」

 そう叫ぶように言って、目を丸くするキュッリッキの顔を片手で押さえ、塞ぐようにして唇を重ねた。



 メルヴィンは着替えのために一旦自分の部屋へ戻り、キュッリッキもバスタオルを身体に巻いたまま衣装部屋に向かう。

 衣装部屋の扉を開けて入ると、全て秋・冬ものに入れ替わっていた。

 ベルトルドとアルカネットが、キュッリッキのために用意してくれた沢山の衣装。どれもキュッリッキに似合うものばかり。キュッリッキの身体にぴったり合うように誂られたものだ。

 下着を身に付け、何を着ようか選んでいると、衣装部屋の開けっ放しの扉がノックされた。

「おはようございます、お嬢様」

「おはようリトヴァさん、アリサ」

 この屋敷のハウスキーパーのリトヴァと、メイドの一人アリサが笑顔で立っていた。

「お疲れは取れましたか?」

「うん、大丈夫だよ」

「それはようございました」

 リトヴァは微笑んで、アリサのほうへ顔を向ける。

「お嬢様、今日から正式にこのアリサが、お嬢様専属の侍女となり、お嬢様のお世話を担当いたします。これまではわたくしが担当を兼任しておりましたが、アリサに一任致します」

「どうぞよろしくお願いします、キュッリッキお嬢様」

「そうなんだ、よろしくね、アリサ」

 キュッリッキは小さく頷いて了解した。この屋敷に来てから、アリサを始め幾人かのメイドたちも世話をしてくれたが、中でもアリサとは一番仲良しなのだ。年が近いこともあり、色々話しやすかった。

「それからお嬢様、わたくしのことは、リトヴァと呼び捨てになさってください」

「え、どうして?」

「わたくしは使用人です。お嬢様はこのお屋敷の女主人でございます。使用人たちは全て、呼び捨てでようございます」

「……ううん……」

 キュッリッキは難題を押し付けられたような顔で唸り、しかし、ふと目を瞬かせた。

「なんでアタシが女主人なの? ここはベルトルドさんが主じゃないの?」

 不思議そうにキュッリッキに見つめられ、リトヴァとアリサは表情を曇らせてキュッリッキを見つめた。

「――そうでございましたね。ですが、お嬢様も主のお一人なのです。慣れてくださいませね」

 僅かに悲しげな笑みを浮かべながら、リトヴァは頭を下げた。

 もともとキュッリッキは誰彼構わず呼び捨てにしている。しかし、皇王など身分の高い相手には様を付けるし、ベルトルドやアルカネット、リトヴァのようにずっと年長者にはさん付けする。誰かにそうしろと言われたわけじゃなく、自然とそんな風にわけて呼んでいた。

「うん、頑張ってみる」



 襟と袖口に白いレースをあしらった、濃紺のベルベット生地のワンピースを選んで、濃紺色のリボンを髪に結んでもらう。こうして身支度が整うと、追い出されるようにして食堂へ向かわされた。

 部屋の主が朝食をとっている間に、メイドたちが数名で掃除やベッドメイクなどを終わらせるのだ。それが判っているので、キュッリッキは素直に食堂へと向かった。

 食堂へ入ると、メルヴィンとタルコットとランドンの3人しかいない。棚の上に置かれた時計を見ると、もう朝の8時を回っている。

 タルコットもランドンも、まだ疲れた顔をしていた。二人とも朝は早い方なので、習性で起きてしまったのだろう。

 キュッリッキは自分の席に着くと、ふと斜め前のベルトルドの席を見る。

「ベルトルドさん、まだ寝てるのかな。アルカネットさんも」

 ハッとした空気が食堂に漂う。

「それに、お皿とか食器が並んでないよ? なんで?」

 首を傾げたキュッリッキは、向かい側に立つセヴェリを見る。

「それは…」

 心底困ったようにセヴェリが言い淀んでいると、

「ベルもアルも、もう食事をする必要がなくなったからよ」

 そう言いながら、リュリュが颯爽と食堂に姿を現した。その後ろから、ライオンの残りの仲間たちも食堂に入ってくる。

「食事をする必要がないって……どうして?」

「だって、もう死んじゃってるんだもの」

「え…」

「リュリュさん!」

 リュリュを咎めるようにメルヴィンが席を立つ。しかしリュリュは目もくれず、キュッリッキをタレ目でしっかりと見据えた。

「あーたも看取ったんでしょ、二人を。フリングホルニの中で、ベルトルドとアルカネット両名は死んだの」

 キュッリッキは暫くほうけたような顔でリュリュを見つめた。食堂にいる仲間たちも、固唾を飲んで二人を見守っている。

 脳裏では、フリングホルニの中での出来事が、ゆっくりと再生されていく。

 胸に大きな穴を開けられ、血だまりの中で絶命していたアルカネット。そして、指先一つ動かせず横たわって、静かに息を引き取ったベルトルド。

 ちゃんと、二人の死を見た。

 二人は、死んでしまったのだ――。

「あぅぁ…アァ…」

 キュッリッキの呼吸が急に荒くなり、目を大きく開いて、大粒の涙をこぼし始めた。

 身体がガクガクと震えだし、ついには椅子から落ちて倒れてしまった。

「リッキー!」

「小娘!」

 リュリュは慌ててキュッリッキを抱き起こしたが、激しく胸を突き飛ばされて、後ろに尻餅をついた。

「ウソだ! ウソ! ウソ! ベルトルドさんもアルカネットさんも、死んでなんかないもん!」

 怒りで顔を真っ赤にして、涙をあふれさせながらキュッリッキは怒鳴った。

「ベルトルドさんもアルカネットさんも、寝てただけだもん! すぐ起きてくるんだからウソ言わないでよ!!」

 ハア、ハア、と肩を激しく喘がせて、キュッリッキはリュリュを睨みつける。

 頭の中では、二人の死んだ姿がフラッシュバックしている。それでもキュッリッキの心は二人の死を拒絶し続けた。

「リッキーって言いながら、抱きしめてキスしてくるんだから。それで二人ともいつも喧嘩して、でもやっぱり毎日そうしてきて」

 そんな当たり前の日々が、続いていくだけなのに。

「アタシに酷いことしたのに、したのに…」

 もう、帰ってこない。

「ベルトルドさん……アルカネットさん……」

「小娘…」

「わあああああああああああっ!」

 ついにキュッリッキは二人の死を認め、絶叫した。

 リュリュは身体を起こし、目の前で泣き崩れるキュッリッキをしっかりと抱きしめた。

「イイ子ね。今はとにかく沢山泣きなさい」

 キュッリッキの頭を優しく撫でながら、リュリュは沈痛な面持ちで目を伏せた。



 10分くらい泣くに泣いたキュッリッキは、いつもなら疲れて寝てしまうが、ぐすりながらも寝なかった。

 リュリュはキュッリッキをメルヴィンに任せ、アルカネットの席だった椅子に座る。

「昨日の今日で、まだまだ疲れてるところ悪いんだけど、大事な話があるからゴメンナサイネ」

 両肘をテーブルについて、組んだ手の上に顎を乗せると、朝食をもそもそ食べるライオン傭兵団に顔を向ける。

「ベルトルドとアルカネットの葬儀なんだけどね、もう国の要職を辞している二人だし、死に方も死に方、世界に大迷惑をかけてるし――そこは秘密だけど――大っぴろにやるわけにもいかないから、密葬で済ませようと思ってたの。そしたら二人の死がダエヴァたちから漏れたのか、聞きつけた軍や行政、皇王様までが葬儀に参列したいと言い出しちゃって」

「そらあ……」

 ギャリーがうんざりした顔で肩をすくめると、ルーファスも頷く。

「なんで死んだのかとか、めんどくさいコトが発生しちゃいますね」

「そうなのン。だから密葬にすると強調したんだけど、だ~れも聞き入れてくれなくって。なので、事情は聞かない約束で、参列者込みで葬儀を行うことにしたわ」

「慕われてたんですね……二人とも」

 ペルラがぽつりとこぼすと、リュリュは苦笑する。

「驚くことに結構ネ」

「そうなると、随分と要人ばっかりが並びますよね、どこでやるんです?」

 首をかしげたルーファスに、リュリュは頷く。

「ハーメンリンナの中の大広場でやるわ」

「まあ、そうなりますよね……」

 尻尾をほたほた振りながら、シビルが苦笑気味に呟いた。

「あーたたちもしっかり参列するのよ」

 ええええええっ!? と食堂に絶叫が沸く。

「あったりまえでしょ! 恩知らずな悲鳴をあげるんじゃないわよ!!」

 ドンッと拳でテーブルを叩き、リュリュは一同を睨みつける。

「そして小娘、あーたは二人の最も近しい身内として参列するのよ」

「え…」

 腫れぼったくなった目でリュリュの顔を見つめ、キュッリッキは小さく首をかしげる。

「あーたは二人にとって大切な家族だったのよ。――男と女の関係に持っていく、とか言い張っていたけど、どっからどう見ても親娘だったわ」

 可愛くって可愛くってしょうがない、とキュッリッキを構う姿は、周りからは本当の親子だと見られていたベルトルドとアルカネット。血のつながりは全くないが、二人にとってキュッリッキは娘のようなものだ。

「あの二人のご両親は今も健在なんだけど、葬儀に間に合わないから、アタシと小娘が遺族代表として立ち会うの」

「葬儀はいつなんですか?」

 メルヴィンの問いにリュリュはチラリと時計に目を向け、

「今日の正午よ」

「へ?」

「しょーがないのよ。葬儀に詰めかける面々の予定が全然合わなくて。今ダエヴァと軍の連中が総出でセッティングしてる頃ねん」

「いきなりすぎだろ……」

 ギャリーがゲッソリと言う。

 遺体は人間でも動物でも、必ず火葬にする。土葬にしないのは、疫病などの蔓延を避けるためであり、死者の魂が未練を残さないようにとの意味合いもある。

 葬儀では火葬も同時に行い、その魂を参列者たちで見送る。灰は小箱のような柩に収められ、墓に埋められるのだ。

 墓に収めるのはいつでもいいので、たいてい参列者が死者を弔う場は葬儀のみだ。

 葬儀に使う場所は、街などに必ずある神殿で行う。神殿には火葬のための設備もある。しかし今回はハーメンリンナの中であり、ハーメンリンナにも神殿はあるが、参列者の数が神殿では収まりきれない。なので、急遽大広場にて行われることになり、軍は早朝から作業に取り掛かっていた。

「10時には迎えの馬車がくるわ。それまでにちゃんと用意して喪服着てらっしゃいね。アタシは準備があるから、もう行くわ」

 渋面を作る面々を見て苦笑を浮かべると、リュリュは食堂を出て行った。

 視線でリュリュを見送った一同は、思い思い食事を再開しつつ、ため息をもらす。

「感傷に浸る時間もあんまりないなあ…」

 ルーファスはフォークでオムレツをつつきながら、端整な顔を悲しげに歪めた。

「もうちょっとしんみりしていたかったけど」

「灰になっても、しんみりできるだろ」

 ザカリーは肩をすくめる。

「ン~まあねえ」

 食の進まないフォークを置くと、ルーファスは頬杖をついた。

「世界中の美姫たちが大号泣するだろうなあ、正午には。ベルトルドさんもアルカネットさんも、すっごーいモテモテだったから」

「別に美姫だけじゃなく、醜女も普通も大号泣するんじゃね」

 呆れたように言うザカリーに、食堂のあちこちから小さく乾いた笑いが漏れた。

「ベルトルドさんとアルカネットさんに、ちゃんとお別れ言えてない…」

「リッキー」

 小さな声でぽつりと呟き、キュッリッキは空席になったベルトルドとアルカネットの席を見る。

「いつも優しく笑いかけてくれたの。優しい声でリッキーって呼んでくれたの。もう、笑いかけてくれない……リッキーって呼んでくれない……」

 そう言って、再び泣き出してしまった。

 キュッリッキの泣く姿を見ながら、胸に去来する想いに、皆それぞれの表情を浮かべて押し黙る。

「部屋へ戻りましょう、リッキー」

 メルヴィンに優しく促され、小さく頷くと、キュッリッキは席を立ってメルヴィンと一緒に食堂を出て行った。

 二人の姿を見送り、カーティスは紅茶のカップを皿に戻す。

「我々も遅れないよう、シャワーでも浴びて喪服に着替えましょうか。セヴェリさんすみません、我々の喪服か、以前着ていた軍服はありますか?」

「リュリュ様からお預かりして、皆様のお部屋に揃えて置いてございます」

「ありがとうございます」

 カーティスは軽く頭を下げて礼を述べると席を立ち、それを合図に皆も席を立った。



 蒼天の元、喪服に身を包んだライオン傭兵団は、迎えに来た馬車にそれぞれ乗り込み、ハーメンリンナに連れて行かれた。

 葬儀のために急遽セッティングされた大広場は、かつてモナルダ大陸戦争において、ベルトルドが盛大に式典を開いた場所でもある。

 軍人たちはすでに整列し、乱れ一つ無い人間畑を築いていたが、その隣には黒いドレスに身を包んだ貴婦人たちが、手にハンカチを握り締め泣きじゃくっていた。

 馬車から降りたライオン傭兵団は、所在無げに突っ立っている。

「お久しぶりですねえ、お嬢さん」

「あっ」

 泣きはらした顔を声の方へ向けると、陽の光に白い毛を艶やかに光らせる、ブルーベル将軍が歩いてきた。

「白クマのおじいちゃん」

 反射的にキュッリッキは、ブルーベル将軍のどっしりとした身体に抱きついた。

「可哀想に、目が真っ赤になっていますねえ」

「うん…」

 キュッリッキの頭を優しく撫でながら、ブルーベル将軍は痛ましそうにキュッリッキを見つめる。

「久しいな、伯父貴」

 腕を組みながら、ガエルが小さく会釈する。

「ガエル…。お前たちが閣下を止めてくれたんだね」

「止めたのはキューリだ」

「そうか……」

 ベルトルドたちの企みを知っていながら、ブルーベル将軍は止めるどころか協力してきた。その犠牲にキュッリッキがなることも知っていた。だから、キュッリッキも無事帰還した報告を聞き、その姿を見た瞬間、心の底から安堵した。自らの罪が許されたような錯覚に陥るほどに。

「さあお嬢さん、火葬が始まる前に、お二人にお別れをしてきなさい」

 そっと促され、キュッリッキは壇上を振り向いた。

 透明なガラスの柩に白い百合の花が敷かれ、その上にベルトルドとアルカネットが、それぞれ寝かされていた。

「うん…」


最終章:永遠の翼 貴方に手向ける黄金の炎・前編 つづく



131 最終章:永遠の翼 優しい夜

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category: ◆ALCHERA-片翼の召喚士-

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寒い春ですねえ 

 

寒いんだか暖かいんだか、ハッキリしない春。

自分は若いんだ、まだまだイケル! と思い込みつつも、やっぱあ、トシだしぃ、と気温の変化に体調がビンカンすぎてワロエないです(・ω・)


最近アルファポリスのほうへ、【眠りの果てに】をぶっ込んできました。

登録していてカレコレもう2~3年? くらい経つのかな。つい最近気づきました。


直接作品投稿できるって((((;゚Д゚))))


そもそもアルファポリスの存在を知ったのは、親しくしていただいているブロガーさんたちの所のバナーリンクだったのよね。なので、自分とこのブログなどURL登録をして、更新するたびに、マメマメしく管理画面で更新しました~ってやるんだと。

思っていたのに!!

更新って欄に、全然載らないじゃん(・ω・)

【ALCHERA-片翼の召喚士-】とか【眠りの果てに】なんかは、各目次記事のURL登録をしているから、ブログの更新しました~って欄にも当然ノラナイヨネ。だって記事の中身いじるだけだし!w

そこ全然気づいてなくて、リンク貼っとくだけ無駄じゃね・・・って思いながら、ちょっとほかのヒトの漫画作品を楽しもうと色々見ていると、皆さんほぼ直接投稿しているんですよね。漫画なんかはあの表示機能イイヨネ。

てことは、もしかすて、小説も直接投稿?w

それでようやく気づいてデスネー><w

ヤダヤダ(´_ゝ`)

さすがにもう【ALCHERA-片翼の召喚士-】は量も多いし、リメイクしたくてしょうがないから外部リンクのまま。【眠りの果てに】は短いし、お試しに直接投稿し直してみました。

おかげさまで、またちょこちょこ目に留めていただけているようでありがたいです。児童書部門だと、ファンタジーなんかと比べると圧倒的に少ないですし>< わたしにとって初の短編完結作品だけに、色々なヒトに読んでもらえると嬉しいな。


ウチは更新超絶不定期なので、新作だ更新だしても、そんな見てもらえないですから(自業自得)、今後はSNSサイトへの投稿活用も頑張ろう。

あと、ようやく新作タイトルが決まりましたーわーいわーい(ぱちぱち

キャラクターを詰めていけば詰めていくほど、なんかこう、自分を書いているような気が猛烈にします( ̄▽ ̄;) 外見じゃなく中身がデスネー・・・。

キュッリッキさんは独特な女の子なので、うまく書き現せていないんですが、新作の主人公はたぶん書きやすいかもしれない。・・・暴走させやすそうで(バキッ

地獄の夏が来る前に、なんとか色々送り出せるようにしたいデス。

category: ◆雑談

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ALCHERA-片翼の召喚士- 131 最終章:永遠の翼 優しい夜 

 

後半性描写シーンが出てきます。不快に思うヒトはご注意です。

そこまでヤラしくは書いていないつもりだけど、ベルトルドさんのときといい、全力全開放送禁止用語もバシバシ並べてエロく書くわけにもいかないから苦労しました(笑)

サブタイトル通り、優しいイチャラブシーンになっているはず、です。




ALCHERA-片翼の召喚士-
最終章:永遠の翼  優しい夜 131



 キュッリッキはバスルームに隣接したドレッシングルームでドレスと下着を脱ぎ捨てると、温かい湯気の立つバスルームに飛び込んだ。キュッリッキがいつでも使えるように、すでに湯がはられている。

 ふと、湯気でくもった大きな鏡に映った自分に気づいて、キュッリッキは握り拳を作ると、鏡のくもりをゴシゴシと拭う。

 じっと見つめていると、鎖骨や肩、よく見ると腕や胸にも、赤い痣のようなものがある。なんだろうと胸にある痣に触れた瞬間、キュッリッキはゾワッと顔を強ばらせ、その場にしゃがみこんだ。

「こ……れ……ベルトルドさん…の……」

 あの時、ベルトルドの唇が触れて、激しく吸いたてられた場所。己の所有物と言わんばかりに顕示した証。

「い、いや…」

 細っそりした身体がカタカタと震えだし、キュッリッキは両手で腕(かいな)をぎゅっと握り締めた。

 つい今しがたまで忘れていた。それをはっきりと思い出し、涙があとからあとから溢れてくる。

 思い出した瞬間、ベルトルドの唇や舌が身体をイヤらしく這っていった感触も、そして、身体の中へと入ってきた感触も、全部思い出してキュッリッキはその場に吐いた。

 怖くて、怖くて、そして気持ちが悪い。

 胃が締め付けられるほど苦しくても、とにかく吐くだけ吐く。そうして涙と吐き気が落ち着いてくると、身体の震えも少しずつおさまってきた。

 萎えた足でゆっくり立ち上がると、シャワーのハンドルを倒して湯を出す。吐瀉物を洗い流し、嫌な味のする口内をすすいで、キュッリッキは身体を洗うスポンジを取った。

 薔薇の香りのするソープをスポンジに沢山出して、泡をたてると身体を擦り始める。

 シャワーを出しっ放しにしているので、泡はすぐに流れてしまう。それでもまたソープをスポンジに出して、身体を擦った。

 繰り返し繰り返し、何度も同じことを続けた。もうボトルからソープは出てこない。

「なくなっちゃった……」

 ぽつりと呟いたあと、水気を吸ったスポンジで、痣のところを擦りだした。手に力を込めて、ゴシゴシと強く擦る。

「メルヴィンに見られないようにしなくちゃなの」

 一生懸命擦った。

「痣を見たら、メルヴィンはきっと嫌な思いをするの」

 たとえメルヴィンが許してくれても、これはメルヴィンを裏切った証なのだ。

 ベルトルドに身体を与えてしまった証。

「消しちゃうんだから」

 必死に擦り続けた。すると、次第に皮膚が赤みを増し、ついには擦り切れて血が滲みだした。それでもキュッリッキは手を止めず、痣のある部分を徹底的に擦り続けた。

「アタシはメルヴィンのものなの……メルヴィンだけのものなんだもん」



 主が変わるということで、ベルトルドの私物などは整理され、きれいに掃除されてはいるが、まだベルトルドの残り香のする部屋で、メルヴィンは入浴を済ませてホッと息をついていた。

 入浴中にセヴェリが置いていってくれただろうウィスキーをグラスに注ぎ、一口含んでため息をつく。

 椅子に座ってベッドの方を見ると、キュッリッキがいきなりベルトルドにキスをして、大騒ぎになったことを思い出して苦笑する。

 あれからまだ半年も経っていない。

 短い間に、なんと色々なことが起こったのだろう。そのことに思いを馳せ、メルヴィンはベルトルドやアルカネットを失った痛みを、改めて噛み締めた。

 今回の件がなければ、彼らは恐ろしくても、頼りになる後ろ盾だった。厳しい言動や態度が多かったが、特にベルトルドの場合は、その中に愛情のようなものも感じられた。

 好かれていたのかと思うと気持ちは複雑だが、キュッリッキとのことを認めてもらえていたのだと判ると、亡くしたことが悔やまれてならない。

 歳は11離れていて、自分とキュッリッキと同じだ。

 おっかないアニキといった感じであり、キュッリッキのためにもまだ生きていてほしかったと、今はそう思えた。

 グラスの中のウィスキーを飲み干して立ち上がると、バスローブ姿のまま部屋を出た。

 キュッリッキの部屋を出て、かれこれ1時間は経っている。

「待ちくたびれてるかな…」

 少し急ぎ足でキュッリッキの部屋へ向かい、ノックもそこそこに部屋へ入ると、まだバスルームからは出ていないようだった。

 ソファにある青い天鵞絨張りのクッションの上には、仔犬姿のフェンリルとフローズヴィトニルが、仲良く並んで丸くなっている。

 数時間前、巨大化した狼姿の二匹を見ているだけに、なんとなく引き気味になってしまう。

「キュッリッキはまだ出てきていない」

 突っ慳貪な口調でフェンリルに言われて、メルヴィンは焦って苦笑った。

「判りました。ありがとうフェンリル」

 今回の件があるまでは、言葉も交わしたことがなかった。でも今こうして話しかけてくれるのは、少しはキュッリッキの恋人として、認めてもらえたのだろうか。

 ベッドに腰を下ろし、キュッリッキが出てくるのを待っていたが、刻々と時間は過ぎ、あっという間に30分が経った。

「おかしいな…」

 いくらなんでも長風呂過ぎる。もしかしたら貧血でも起こしたのではと、急に不安を覚え、メルヴィンはバスルームへ向かった。

 ドレッシングルームの扉を開けると、シャワーの音が聞こえてくる。

 奥の磨ガラスの向こうには、キュッリッキの姿がぼんやりと見えた。それに安堵して、ドア越しに呼びかける。

「リッキー、あまり長湯をすると身体に悪いですよ。そろそろ出てきませんか?」

 しかし返事はなく、シャワーは一定の水音を出したままだ。

「リッキー?」

 メルヴィンは眉をひそめると、ドアノブに手をかけた。

「ごめん、開けるよリッキー」

 ドアを開けてメルヴィンはギョッとした。

 床にぺたりと座り込み、頭からシャワーをかぶったまま、ノロノロと手を動かし身体を洗っている。しかし、その白い肌を伝って、赤い筋がいくつも流れ、湯に溶けて床を流れていく。

「なんてことっ」

 メルヴィンは慌ててハンドルを上げてシャワーを止めると、ドレッシングルームにある大きなバスタオルを取って、キュッリッキの身体を包み込んだ。

「リッキー」

 キュッリッキは顔を上げると、涙ぐんだ目でメルヴィンを見る。

「アタシは、メルヴィンだけのものなの……ベルトルドさんのものじゃないの」

「リッキー…」

「ベルトルドさんのつけた痣、全部洗うの」

「とにかく出ましょう、身体に障ります」

 メルヴィンはキュッリッキを抱き上げると、急ぎ足でバスルームを出た。



 メルヴィンとキュッリッキのためにソファを明け渡したフェンリルとフローズヴィトニルは、足元で不安そうにキュッリッキを見上げていた。

 真っ白なバスタオルに包まれ、キュッリッキはメルヴィンの膝の上に抱きかかえられて泣いていた。顔を伏せて、小さな声で。

 バスタオルには、所々赤い染みが点々とついている。

 キュッリッキの血だった。そして、バスタオルの隙間から覗く胸元は、無惨なほど赤く擦り切れている。

 止血と痛みを和らげるために、シビルを呼んで、応急処置をしてもらった。

 事情を察してシビルは何も言わず、止血したあと手早く薬を塗って、癒しの魔法をかけてメルヴィンを励ますと、すぐに部屋を出て行った。

 ベルトルドの死後、その死を受け入れられずに目を背けたキュッリッキは、不安に感じるほどの明るさを見せていた。でも一人にすれば、こうして信じられない行動に出てしまっている。

 精神が追い詰められていて、もう限界なのだ。

 フリングホルニの戦いで、キュッリッキはずっと気を張っていた。だから思い出さずにいたが、戦いから解放され、こうしてベルトルドの愛撫の痕を見ると、陵辱されたことを思い出した。

 このままにしておいたら、自傷行為がエスカレートしてしまうだろう。それに、ヴィヒトリに診せたところで、状況は変わらないように思う。

 なんとかして、救ってやりたかった。

(今のオレに、できること…)

 腕の中の少女を見つめながら、色々と考える。

 やがてメルヴィンは意を決したように一度目を伏せ、そして開くと、キュッリッキを抱いたまま立ち上がった。

 ゆっくりとベッドまで歩いていくと、そっとキュッリッキを寝かせて、その隣に腰を下ろした。

(逆効果になるかもしれない…拒まれるかもしれない。でも…)

 暫しキュッリッキを見つめ、耳元に顔を寄せる。

「抱いてもいいですか? リッキー」

 そう言って、キュッリッキの横顔を見つめる。

 耳元で囁くように言われて、泣いていたキュッリッキは一瞬きょとんとした顔をメルヴィンに向けた。

「前に言いましたね、リッキーが汚れたと感じたところは、オレが消毒するって」

 レディトゥス・システムから助けられた時に、メルヴィンからそう言われたことを思い出す。

「消毒したいと思いますが、いいですか?」

「消毒…」

 消毒とは、一体どうするんだろう? そう不安そうにメルヴィンを見つめていると、メルヴィンが覆いかぶさってきた。その瞬間、メルヴィンの姿にベルトルドの姿が重なって、キュッリッキは喉を引きつらせて、顔を強ばらせて震えだした。

 固く目を閉じて、必死に悲鳴をこらえる。

(怖い…怖いの…)

 すると、身体がふわっと浮いて、キュッリッキはびっくりして目を開く。抱き起こされて、キュッリッキはメルヴィンと同じ目線の高さにいた。

「すみません、余計に思い出させてしまいましたね」

 心底申し訳なさそうに落ち込んだ表情をするメルヴィンを見て、キュッリッキは身体の力を抜いた。

「オレは男だから、どれだけ怖かったか正直判らないです。単純に、オレがリッキーを抱けば、それでちょっとは気が楽になるのかな、なんて考えちゃったんですが」

「メルヴィン……」

 万策尽きたようにため息をつくメルヴィンを見つめ、キュッリッキは口元をほころばせた。

 自分の気持ちばかり考えていた。メルヴィンの気持ちを考えようともしなかった。

 無理やりとはいえ、メルヴィンを裏切ってしまったことにショックを受け、同時に、メルヴィンは許してくれないと考えてしまった。信じると決めた心の中で、言わないだけで本当は許していないのではと疑ってもいた。でも、こうして自分を癒そう、慰めようとしてくれている。全てを判った上で、メルヴィンなりに自分のことを考えてくれているのだ。

 許してくれているのだ。

 そのことに、ようやく確信を得た。

 ――メルヴィンさんは大人の男でしょ! あんたがいつまでもそんなオコチャマじゃ、可哀想じゃないのっ!

 ファニーにそう言われたことを思い出し、キュッリッキは心の中でため息をつく。本当にその通りだ。

 メルヴィンを愛しているから、触れられても怖くない。それなのに、抱かれるのは怖いと思ってしまう。でもこのままでは、いつまでもメルヴィンを怖がったままになってしまう。一歩も先に進めなくなる。

(メルヴィンが消毒してくれれば、アタシきっともう大丈夫)

 メルヴィンの優しさと愛があれば、乗り越えることができる。

 キュッリッキはそっと両手を伸ばし、メルヴィンの頬に触れた。

「リッキー?」

「 アタシはメルヴィンだけのものだもん。メルヴィンに抱いて欲しい……。アタシをメルヴィンでいっぱいにしてくれる?」

 強がって無理をしながら言っているわけではない、本当にそう思って言っているのだと判って、メルヴィンは優しく微笑んだ。

「今夜は寝かせません」

 そう言ってキュッリッキをそっと抱き寄せると、柔らかな唇に優しくキスをした。



 キュッリッキを横たえて膝立ちになると、メルヴィンはバスローブを脱いだ。

 バスローブの下には何もつけていない。鍛えられた逞しいメルヴィンの裸身を見て、キュッリッキは顔を赤らめる。普段肌の露出する服を着ていないので、こうして改めて裸を見ると、そこに男らしさを感じてドキドキ胸が高鳴った。

 すると、急に自分の胸の小ささが気になり出して、見られるのが恥ずかしくなり、おずおずとした動作で胸を隠す。

 いきなり胸を隠したキュッリッキに、メルヴィンは小さく首をかしげる。

「隠さないで、見せて」

「……だって……小さい、もん…」

 尻すぼみに言って、拗ねながら恥ずかしがるその様子に、メルヴィンはクスッと笑い、キュッリッキの上にかぶさりながら、その細い手首をそっと掴む。

「知ってます」

 何事かを言い募ろうとする愛らしい唇を、メルヴィンはすかさずキスで塞いだ。

 無駄な抵抗を抑えるように、舌を忍ばせキュッリッキの舌を絡めとる。

 夢中で舌を絡め合っていると、段々と頭の中が真っ白になってきて、キュッリッキは観念して手の力を緩めた。

 優しく手をどけると、メルヴィンは両手でそっと乳房の輪郭をなぞるように手を這わせ、掌に包み込む。

「あっ」

 突起にメルヴィンの舌がねっとりと絡みつき、唇にくわえられ、優しく吸い立てられる。その瞬間全身に恍惚とした波が広がり、キュッリッキは目を見開いてシーツをギュッと握り締めた。

 吸いたてられている間も、舌が突起の先端を刺激して、敏感に感じて息遣いも段々と早くなっていく。

「キスして…メルヴィン」

 うっとりとした目でせがまれて、メルヴィンはすぐに身体を起こして唇を重ねた。

 ほっそりとした背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。キュッリッキもメルヴィンの肩に手を回して、しっかりと抱きしめた。

 二人は息が苦しくなるまで何度も貪り合い、やがてメルヴィンは唇を離し、キュッリッキを見つめた。

 初めて出会った頃より、ほんの少し大人びた顔をしてきた。もとから美しい顔立ちだったが、今はそれ以上に美しい。

 綺麗な輪郭を描く頬にそっと片手を添えると、艶かしく半開きになる唇に再び吸い付いた。そしてもう片方の手を下肢に伸ばし、キュッリッキの秘所に手を忍ばせた。

「ンっ…ン」

 指が触れただけでキュッリッキの身体は電撃を受けたように弾かれ、思わず腰を浮かせる。

 メルヴィンの指がリズムを刻むように蠢くと、腰から力が抜けていって、緩やかに脚が開けていった。

 指先に絡みつく蜜の感触に喜びを感じ、愛らしい声を聞きたいと思って唇を解放する。すると待ちかねたように、キュッリッキの甘く愛らしい喘ぎ声が溢れ、その声に刺激されて、メルヴィンも次第に息が荒くなった。

 一旦秘所を解放し、メルヴィンは再び覆いかぶさると、キュッリッキの喉から肩にかけて、ゆっくりと口づけていった。

 目の端に擦り切れて赤くなった患部が、痛々しく映った。

 この柔らかで白い肌に、ベルトルドも夢中になって吸いたてたのだろう。甘くて優しいキュッリッキの体香。この匂いを嗅いで、性欲を刺激されない男はいないだろうと思う。でもこの肌を独占していいのは、メルヴィンただひとりだ。

 メルヴィンは労わるように、滑らかな肌に優しくキスをしていく。腕に、手に、胸に、お腹に、太ももに、足の甲に。メルヴィンがキスをしていくたびに、唇が触れた部分から、幸せの奔流が身体中を駆け巡る。そして、身体中がメルヴィンの色に染め上げられていく。それが心の底から嬉しい。

 身体が悦びでわななき、もっと、もっとと、心と身体がメルヴィンを求める。

「はぅっ!ン…ああっ」

 秘所にメルヴィンの舌が触れ、そっと舐め上げられて、キュッリッキはたまらず大きな声を上げた。ベルトルドにされたとき以上に、強烈な快感がつま先まで伝っていって、思わず足を突っ張る。

 キュッリッキの様子に気づいて、メルヴィンはそっとキュッリッキの足を撫でた。そして、太ももの内側にも舌を這わせる。

「メルヴィン……メルヴィン…」

 うわ言のように狂おしくメルヴィンの名を呟き、キュッリッキはすすり泣く。

 気持ちが良すぎて、頭がどうにかなってしまいそうだった。今自分がとても恥ずかしい姿をしていて、それをくまなくメルヴィンに見られている。それなのに、心は喜びを感じてやまない。

 メルヴィンの舌先が、蕾にそっと触れ、舌先がそよいで甘美な刺激が襲う。

「あンッ」

 シーツを強く握って上体を仰け反らせ、ハァ、ハァ、と荒く息をついてベッドに沈み込む。

 絶頂を迎えてしまったのだと気づいて、メルヴィンは小さく微笑んだ。

 不本意な初体験を済ませて、まだそんなに時間が経っていない。愛する人とのセックスは、これが本当の初体験なのだ。

 メルヴィンは身体を起こして、キュッリッキの背に腕を回すと、優しく抱きしめてキスをした。

「大丈夫ですか?」

 とろんとうっとりした目で、キュッリッキはコクリと頷く。

「とっても、気持ちがいいの……」

「そう言ってもらえると嬉しいです」

「そう、なの?」

「ええ。オレはルーファスさんほど女性経験が豊富というわけじゃないから、その、上手に出来てるかなって思っちゃうから」

 メルヴィンは上目遣いになって、照れくさそうに言った。あんまり豊富すぎても、それはそれで問題が、と心の中でセルフツッコミをする。

「大丈夫だよ! とっても気持ちがいいもん!」

 力んで励まされて、メルヴィンは苦笑した。

 先程までの甘美で色っぽい雰囲気が、一気に吹き飛んでしまった。

「あなたってひとは、どうしようもなく可愛くって、困ってしまいます」

 にっこりと笑うと、キュッリッキの耳元に口を近づける。

「あなたの中へ入りたいんですが、いいですか?」

 そう言ってキュッリッキの手を取ると、己の股間へと誘い、その小さな手にそっと握らせた。

「あっ」

 手の中に熱くて硬いものがあり、キュッリッキはメルヴィンの言葉の意味が判って、怯えた表情を浮かべた。

「怖かったら、無理をしなくてもいいですよ」

 キュッリッキの表情を見て察し、メルヴィンは優しく言う。まだまだ痛みを伴うだろうし、暫くは愛撫のみでもいいかなと思っていた。ただ、キュッリッキが望むなら、最後まで果たそうとも思う。

 小さく横に首を振ると、キュッリッキはメルヴィンの首に手を回して抱きしめた。

「大丈夫なの。メルヴィンだから、大丈夫なの」

「リッキー」

「でも…」

「でも?」

「あんまり、痛くしないで、ね」

 本音を白状したキュッリッキに、メルヴィンは優しく微笑み、額に、頬に、そして唇に愛おしさを込めてキスをすると、身体を起こした。

「苦しかったら、我慢しないで言ってください」

 緊張した面持ちで、少し涙ぐんでいるキュッリッキを見て、メルヴィンはそっと頬を撫でてやる。

 脚を広げさせてその間に入ると、花心に指を忍ばせて位置を確認した。その感触にキュッリッキが小さく声を上げる。

「きて…メルヴィン」

 甘くせがむようなその声に、メルヴィンは弾かれたように己を沈めていった。

 キュッリッキは目を大きく見開くと、メルヴィンの手首をギュッと強く握った。大きく広げられた足が突っ張る。

(メルヴィンが、アタシの中に…)

 痛みはあった。

 初めてベルトルドにされた時のように、とても痛かった。

 でも。

(アタシ、幸せなの……)

 涙がとめどなく流れていったが、それは痛みのためじゃないと判る。

 幸せだから、嬉しいから涙が出るのだ。

 メルヴィンはキュッリッキの奥深くまで沈めきると、キュッリッキの背に手を回して抱き起こした。

「メルヴィン」

 片手でキュッリッキの身体を支え、もう片方の手で涙を拭ってやる。

「ありがとう、オレを迎え入れてくれて」

 メルヴィンの顔を見つめ、キュッリッキははにかむように笑う。

「メルヴィンと一つになれて、アタシ嬉しいの。幸せなの…」

「オレもです」

 そう言って、キュッリッキの喉元にそっと口付ける。

「あなたはもうオレのものです。愛も、心も、身体も全て、オレだけのものだ」

「うん。アタシはメルヴィンだけのものなの」

 メルヴィンはそっと腰を揺り動かした。ハッとしてキュッリッキはメルヴィンにしがみついたが、心からその行為を受け入れた。

 メルヴィンと全てが結ばれ、キュッリッキは少女だった自分を卒業して、初めて大人の女としての悦びを感じるのだった。



最終章:永遠の翼 優しい夜 つづく



130 第九章:戦い 遺してくれたもの

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ALCHERA-片翼の召喚士- 130 最終章:永遠の翼 遺してくれたもの 

 


ALCHERA-片翼の召喚士-
最終章:永遠の翼  遺してくれたもの 130



 ほんの数十分ほど前に、宇宙というところにいたライオン傭兵団は、ケレヴィル本部内にあるエグザイル・システムに無事たどり着いた。

 エグザイル・システムはほんの一瞬で、人間も物も転送してくれる便利な装置だ。

 1万年前の世界で作られた超巨大艦フリングホルニ内のエグザイル・システムの一つは、ケレヴィル本部の地下にあるエグザイル・システムと繋げられている。

 どれだけの時間待っていてくれたのか、柔らかな笑みを浮かべるパウリ少佐に出迎えられ、ライオン傭兵団は広い応接室に通された。

 一緒に戻ってきたシ・アティウスは、パウリ少佐と一緒に部屋を出て、どこかへ行ってしまった。

 暫くしてリュリュも顔を見せたが、すぐに部屋を出て行った。

 ソファセットや椅子、床の上に、皆思い思い座り込み、そして黙り込んでしまった。

 とてつもない疲労感もあるが、それを上回るほどの喪失感。それがずっしりと彼らの上にのしかかっていて、いつものような軽快な冗談が飛び交うこともなく、各自うな垂れていた。

 ザカリーは両手をズボンのポケットに突っ込んで窓際まで歩いていくと、よく磨かれた窓ガラスに額を押し付けた。

 窓の外は日が陰り始めており、薄い水色とオレンジ色が重なり合い、ところどころ紫がかった夕暮れの色合いをしている。どこか寂しげで、切なさを齎す、そんな空だった。

 それをぼんやりと見つめ、そして疲れたようにため息を小さくもらす。

「あっ、ベルトルドさん起こしてあげないと、もうすぐ夕食の時間だよ」

 そこへ突然、ハッとした様子でキュッリッキが声を上げた。

「ねえメルヴィン、ベルトルドさんどこにいるの? 起こしてあげるの」

「リッキー……」

 ソファに並んで座っていたメルヴィンは、キュッリッキを痛ましく見つめ、そしてもうベルトルドが起きることはないと、はっきり言わなければと口を開いた。その時、

「凄く疲れていたから、自然と起きるまで寝かせておいてあげよう。お腹がすいたら、きっと目を覚ますから」

 キュッリッキの横に座ったタルコットが優しく言った。キュッリッキはちょっと首をかしげたが、こくりと頷く。

「そうなんだあ……じゃあ、起こさないほうがいいね」

「うん。それに、夕食が出来るまでまだ時間があるから、キューリもちょっと寝るといい。疲れてるだろ?」

「んー……ちょっとだけ眠いかも」

「ならメルヴィンに膝枕してもらって、夕食まで寝てて」

「そうする」

 キュッリッキは嬉しそうに微笑んで、メルヴィンの膝に頭を乗せ横たわると、ほんの数秒で寝入ってしまった。

 珍しくすぐ眠ってしまったキュッリッキを見つめ、メルヴィンはタルコットに困惑げな顔を向ける。

「タルコットさん……」

「まだ頑なに判らせなくていい。――キューリなりに、心にバリアを張ったんだと思う。色々辛すぎて、受け入れたくないんだ、今はね。急かさなくても、この先嫌でも現実と向き合わなくちゃならない」

「ええ…」

「だから、今は話を合わせてあげればいい」

「はい、そうですね…」

 タルコットは妖艶な顔に優しい笑みを浮かべると、メルヴィンの肩を軽く叩いた。

「キューリの支えになれるのは、メルヴィンだけなんだから。頑張って」

「……ありがとうございます」

 どこかホッとしたように、メルヴィンはタルコットに笑んだ。

 3人のやり取りを息を詰めて見ていた仲間たちは、安堵の表情を浮かべた。



 ライオン傭兵団は夜になるまで大放置されていたが、ようやくそこへ再びリュリュが姿を見せた。

「ゴメンナサイネ、ちょっと化粧崩れがひどくって、パウリに化粧ポーチ取ってきてもらってたりしたから、時間かかっちゃったのん」

 いつも通りの見事で完璧な化粧で、顔はガードされている。

 ベルトルドとアルカネットと、別れをしていたのだろう。リュリュの冗談めかした言い方を察し、皆肩をすくめるにとどめた。

「あら、小娘寝ちゃってるようね」

「だいぶ、疲れていますから…」

 メルヴィンがそう言うと、リュリュは頷いた。

「そうね。一番疲れているでしょうねん」

「リュリュさん、オレすげー腹減ってんっすけど」

「あら、あーた感傷に浸ってお腹いっぱいじゃないの」

「気落ちしてる時は、たくさん食べる主義なんですよ」

「前向きな思考ねん」

 本気で空腹を訴える表情のザカリーを見ながら、リュリュは呆れたように笑った。

「疲れてるあーたたちを、ここで休ませてあげたい気持ちは山々なんだけど、ケレヴィル本部には、大勢を寝かせる部屋がナイのよ。これでも一応、研究所だから」

「出て行くのはやぶさかじゃないんですが、その……アジトが木っ端微塵に吹っ飛ばされてますし…」

 沈んだ声音で言うカーティスに、リュリュは苦笑する。

「あーたたちのアジトだけじゃないわ。ハーメンリンナの外は酷い有様よ。ナントカ火事はおさまったんだけど、広大な焼け野原と化しているわ」

 ベルトルドの放った雷霆(ケラウノス)によって齎された大火災は、皇都イララクスの大半を焦土と化してしまっていた。死傷者も多く出て、平和なのはハーメンリンナの中だけ状態だという。

「それに、フリングホルニ発進の影響が世界各地に出ていて、皇国も救援だのなんだので、今ゴタゴタしてるわ、とっても。――ベルの置き土産のせいで、ホント、イヤんなっちゃう」

 ギリッと歯ぎしりして、口の端を歪めたリュリュを、皆恐々と見つめる。

「ま、そんなことあーたたちには関係ないケドね。とりあえずアタシについてらっしゃい、連れて行きたいところがあるから」



 地下に降りていくと、上等な馬車が数台ズラッと並んで停まっていた。

「ベルたちを止めてくれたあーたたちを、もう荷馬車に押し込めたりしなくてよ。乗んなさい」

 リュリュ、パウリ少佐、メルヴィン、キュッリッキが先頭の馬車に乗り、みんなそれぞれの馬車に乗り込んだ。

 全員が馬車に乗り込んだことを確認し、先頭の馬車から走り始めた。

 メルヴィンと向かい合って座ったリュリュは、メルヴィンに抱かれて眠っているキュッリッキを見つめた。

 亡き姉と同じ顔をしているキュッリッキが、召喚スキル〈才能〉を持つアルケラの巫女であり、ベルトルドとアルカネットの復讐の道具になりかけたことは、リュリュにとって、筆舌に尽くしがたい想いだった。

 姉の生まれ変わりだったら、どうしていただろうと。しかし人は死して、転生することがないという。以前キュッリッキから聞いたことだ。

 死後魂はニヴルヘイムという死の国に迎えられ、氷の中に閉ざされ、永遠の安息を得るのだという。

 氷の中で癒された魂は、やがて静かに消え去り、転生することはない。それで完全に死んだことになるのだ。

 魂が完全に消滅する時間は決まっていない。それなら、もしかしたらニヴルヘイムにて、リューディアと二人は再会出来るかもしれない。

 リューディアのことだから、きっと二人を待っていてくれているはずだ。

 根拠のない想像を、何故かリュリュは確信していた。

 暑い暑い南の島の生まれなのに、魂の安息が氷の世界というのは、果たして癒されるのだろうかと、ちょっと思ってリュリュは苦笑を浮かべる。

 リュリュの苦笑いに気づいてメルヴィンが顔を上げたとき、腕の中でキュッリッキが身じろぎして、目を覚ました。

「……ん…」

「いいタイミングで目を覚ましたわね、小娘」

「? あれ?」

 キュッリッキは暫し周囲を見回し、暗い車中に目を丸くする。

「今灯りをつけますね」

 くすっと笑って、パウリ少佐が車内の小さなランプに火を灯してくれた。

「馬車に乗ってるんだね、何処へ行くの?」

「もう着いたわよ」

 リュリュがニヤッと笑うと、馬車は静かに停止した。そして御者を務めていた軍人が、急いで扉を開いてくれる。

「降りなさい」

 率先して降りていくリュリュに促され、メルヴィンはキュッリッキを抱いたまま降りると、そっと降ろしてやった。

「あっ」

 メルヴィンが小さく声を上げると、馬車から続々降りたライオン傭兵団も、どよっとする。

「どうしたの? メルヴィン」

 振り向いてメルヴィンと同じ方向を見て、キュッリッキも目を見張った。

「おかえりなさいませ、お嬢様」

「ご無事で良かったですわ」

 目の前にセヴェリとリトヴァが並んで立って、頭を下げている。そしてその奥には、見慣れた大きな屋敷が立っていた。

「ベルトルドさんのお家?」

「そうよん」

 リュリュは片手を腰に当てると、屋敷を見上げる。

「ここはハーメンリンナじゃなく、イララクスの郊外にある海辺の高級別荘地なの。小娘が以前住んでいたハーツイーズに、ちょっと近いところにあるわ」

「キティラね」

 キュッリッキが思い出したように言うと、リュリュは頷いた。

「そう。イララクスの中心部からはちょっと離れてるけど、豪華な屋敷しか並んでない土地だから、電力の供給もあるし、静かでいいところよ」

「皆様、立ち話もなんですし、中へお入りください。お食事の用意もできておりますし」

「そうね、そうさせていただきましょう」



 一同は食堂へ通されると、酒や食事を振舞われ、みんなひとまず息をついた。

 疲れたり何かあると食欲が減退するキュッリッキには、食べやすいよう好きなムース菓子が用意され、キュッリッキも少しムースを口に入れた。

「前にハーメンリンナの屋敷に押しかけに行ったとき、屋敷が丸ごとなくなってて驚いたんですが、もしかして…」

「そっ。ベルが屋敷や庭を丸ごとここに移築したの」

 本来解体して運び出すものだが、空間転移が操れたベルトルドならではの荒業である。

「でも一体、なんのために?」

「小娘とあーたのためよ、メルヴィン」

「オレ?」

「そうよ。小娘の未来の旦那様のため」

「えっ…」

 思わず顔を赤らめるメルヴィンに、リュリュはくすくすと笑う。

「口ではなんだかんだ言ってても、ちゃーんと認めちゃってくれてたのよ、あーたのこと。この屋敷はベルのものだけど、小娘所有の家でもあるの。正式に結婚してはいないけど、小娘とあーたの共同名義に書き換えられているわ」

「逆玉…」

 隣でタルコットがぽつりと言う。

「ハーメンリンナの中に残しておいても良かったけど、ベルがね『どーせライオンの連中はお堅い所は嫌だなんだ言って近寄らないだろ。そしたらリッキーがつまんながるからな』て言ってね、ハーメンリンナの外に出しちゃったってわけ」

 図星だ、という雰囲気が食堂に漂った。

「暫くはイララクスの復興、アジトの再建であーたたちも仮の家が必要でしょ。落ち着くまでは、ここに居候させてもらいなさい」

「そうです、再建しないと」

 ハッとしてカーティスが呟く。

「開店休業状態になるだろうけど、後ろ盾についてたベルから、色々なものを預かってるの。あとで説明したり渡したりがあるから、顔貸しなさいカーティス」

「はい」

「メルヴィンはあとで、セヴェリから説明してもらいなさい」

「判りました」

「とにかく今夜は、酒でも飲んで身体をゆっくり休ませないさい。もうちょっとしたらヴィヒトリも診察に来てくれるから」



 皆が食事を終えた頃、ヴィヒトリが大急ぎで駆けつけてくれた。急患が立て込んで、中々病院を抜け出せなかったらしい。

 ハーメンリンナの大病院の医師たちも、イララクスに緊急出動で、てんてこ舞い状態だという。

 ヴィヒトリは連れてきた女医と一緒に真っ先にキュッリッキの診察をしてから、順番にライオン傭兵団の診察に取り掛かった。

「ドーピング飲んだやつには、中和剤ちゃんと飲ませてくれたんだね。ありがとランドン」

「動けないままだとヤバかったしね」

 ヴィヒトリ特製ドーピング薬は、身体に相当キツイ負荷を与えるものでもあった。効果が切れたあとすぐ中和剤を含ませないと、命の危険があったのだ。

「キューリは大丈夫なのか? その…」

 言いづらそうに言葉を濁すザカリーに、ヴィヒトリは小さく笑った。事情はリュリュからすでに聞かされていた。

「女医を一人連れてきてるから、彼女に任せてあるよ」

「そ、そっか」

「デリケートな問題だからね」

「だな…」

「そいえば、メルヴィンは?」

「ああ、セヴェリさんと書斎にいるよ」

「ふーん?」

「一国一城の主になっちまったからな」

 ギャリーがにやりと言う。

「じゃあちょっと書斎行ってくる。あんまりゆっくりしてられないんだボク。患者が24時間押しかけ状態だからさ」

 軽症から重症まで、医者の救いを求めている人々が、被災地にはたくさんいるのだ。

「にいちゃんは、全然疲れてなさそうだね」

「あったぼーよ! 俺様の鍛え方は、ナンジャクなそいつらとはチガウんだぜ」

「……だってさ」

 ヴィヒトリがくるっと首を後ろに向けると、タルコットとギャリーとガエルが、噛み付きそうな顔をヴァルトに向けていた。



 書斎へ向かって歩いていると、ちょうどメルヴィンが反対側から歩いてきた。

「よー、メルヴィン」

「ヴィヒトリ先生」

 書類を見ながら歩いていたようで、顔を上げてメルヴィンは苦笑した。

「診察にきたよ。そこの椅子に座ってよ」

「はい」

 廊下の端々には、椅子が1脚ずつ置かれている。何のためなのか二人は知らなかったが、以前怪我が治ったばかりのキュッリッキが、屋敷の中を歩いていて、あまりの広さに疲れてしまった。途中で座りたくなるかも、そうベルトルドにぼやいたら、翌日からこうして椅子が置かれたという経緯がある。

 メルヴィンの身体を触診しながら、時々問診する。

「そういえば、一国一城の主になったんだって?」

「……はい、そうなんです……」

「あんまり嬉しそうじゃないんだね」

「いえ、そんなことはないんですが、その…」

 首をかしげたヴィヒトリに、メルヴィンはため息をつく。

「あまりにも大きすぎて、しかもリッキーの相続した財産やらなにやら、もう天文学的数値で、頭が追いついてきません」

 メルヴィンが手にしている書類を覗き込むと、ヴィヒトリもその桁に絶句した。

 本来キュッリッキに支払われるべきだった年金やら、ベルトルドとアルカネットから贈与された財産やら、10代先の子孫まで豪遊して暮らしても使い切れない額である。

「それにこの屋敷も、使用人が56名もいるそうです。管理はセヴェリさんとリトヴァさんがしますが、それでもなんて数でしょうね」

「まあ、ハーメンリンナの貴族たちに比べたら、半分位少ないけど」

「え~~」

 メルヴィンはガックリと肩を落とした。これで少ないのかと。

「住んでればそのうち慣れる慣れる。キュッリッキちゃんも、すっかりここの暮らしに慣れちゃってるし。使用人たちがあんまり堅苦しくないしね」

 本来キュッリッキは、傭兵などしていい身分ではなかったのだ。それが、異例の異例づくしで今に至る。

「そうですね。これはリッキーのためのものであって、オレはオマケですから」

「身も蓋もない言い方をするとそうなるけど、キミ以外の誰も、キュッリッキちゃんのオマケにはなれないんだよ」

「はい」

 メルヴィンは照れくさそうに笑った。

「ちょっと背中の打ち身が気になるから、あとで薬を出しておくよ。骨には異常はナイのと、痛み出す前に薬を飲んでおいて」

「判りました」

「じゃあボクは街に戻るよ。患者が大勢待ってるから。何かあったらすぐ呼んで、駆けつけるから」

「はい、ありがとうございました」

 帰っていくヴィヒトリを見送って、メルヴィンは南棟へ向かう。

 そこにはキュッリッキの部屋があり、以前使っていたメルヴィンの部屋もあった。しかし今度は、東棟にある屋敷の主のための部屋が、メルヴィンの新しい部屋として指定されていた。かつてベルトルドの部屋でもあった。

 寝るときはキュッリッキの部屋になるだろうし、あまり使わなさそうだ。そう思うと、今日何度目かの溜息を吐きだした。寝られれば正直どこでもいいとメルヴィンは思っている。

 そうは思っても、今日からこの屋敷の男主人である。女主人はキュッリッキで、まだ正式に結婚も手続きもしていないが、二人の家になったのだ。

 クラクラする頭を抱えながら、メルヴィンはキュッリッキの部屋のドアをノックした。

「どうぞー」

 中からキュッリッキの声が答えて、メルヴィンはドアを開いた。

「メルヴィン」

 ベッドに腰掛けていたキュッリッキは、嬉しそうにメルヴィンに駆け寄って飛びついた。

「セヴェリさんとお話終わったの?」

「ええ。一応終わりました」

 疲れたように薄く笑うメルヴィンを、キュッリッキは不思議そうに見上げた。

「疲れてる」

「そうですね……世界が一瞬で変わってしまって、頭がまだついていっていないんです」

「そうなんだ」

 あんまりよく判っていない様子で、キュッリッキはメルヴィンから離れた。

「もう寝る?」

「そうしましょうか。自分の部屋で風呂に入ってきます」

「じゃあアタシもお風呂入ってくる。今日はアタシの部屋で一緒に寝よう、メルヴィン」

「はい」

 メルヴィンがにっこり笑うと、キュッリッキも嬉しそうに微笑んで、部屋に備え付けのバスルームへと駆けていった。



最終章:永遠の翼 遺してくれたもの つづく



129 第九章:戦い 託された願い、そして

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ALCHERA-片翼の召喚士- 129 最終章:永遠の翼 託された願い 、そして 

 


ALCHERA-片翼の召喚士-
最終章:永遠の翼  託された願い 、そして 129



 人間は空を飛べない。

 身体に翼はなく、空を飛ぶようには出来ていないからだ。

 例外として、背に翼のあるアイオン族、そしてサイ〈超能力〉や魔法スキル〈才能〉を持つ者たちは、空を飛べる。

 だから、人間は空を飛ぶことに憧れる。

 ――それだけだった。

 憧れて、それで諦める。

 人間たちがそんな風に、空への憧れを簡単に諦めるようになったのは、千年前から。しかし時を経て、諦めない人間が誕生した。

 その人間の名を、リューディア。

 機械工学のスキル〈才能〉を授かり生まれてきた少女は、青い青い空に憧れるヴィプネン族。背に翼もなく、サイ〈超能力〉も魔法もない。だから、自らの力で空を飛びたいと思った。自らの発明で、技術の力で、空を飛びたいと願った。

 リューディアは沢山のアイデアを思いつき、煮詰めていった。

 やがてリューディアは、自分だけが空を飛ぶのではなく、人々が自由に空を行き来できて、エグザイル・システムを使わなくても移動ができるように、そう願いが増えた。

 13歳のあの夏の日、ようやく基礎理論が完成し、命を落とした。

 強大な落雷によって。

 神罰の光によって。

 有無を言わさず、問答無用だった。

 リューディアが死んだということは、人類から飛行技術が再び、永遠に奪われた瞬間でもあったのだ。

「リッキーは言ったな、神は人間を慈しみ、愛していると」

「う、うん」

「ふっ…、確かにそうかもしれん。……だが、信用はしていない」

 皮肉な笑みを、ベルトルドは口の端しに浮かべる。

「愛してはいるが、信用はしていない。それは人間たちが自ら、神から信用を奪い取ってしまったからだ。ユリディスの一件がそうだ。だから1万年経った今もまだ、信用は回復することはない。――更には俺が、再び失わせてしまったしな」

 ベルトルドは自らを嘲るようにククッと笑い、目を伏せた。

 1万年前のクレメッティ王と同じ愚行を犯した。キュッリッキを愛していると口にしながらも、力ずくで純潔を奪った。嫌がる彼女を犯した結果が、こうして動けない身体で横たわっていても、触れることさえ出来なくしてしまったのだ。

 ――そばにいることさえ、怖いだろうに…。

 キュッリッキの信用を失うということは、同時に神からの信頼も失ったということ。しかし、ベルトルドは叶えなければならなかった。

 愛する少女を傷つけてまで、成そうとしたのだから。

「リッキーにお願いしても、いいかな?」

「……ア、アタシにできることなら、なんでも」

「うん」

 ベルトルドは顔を動かすことなく、いつもキュッリッキにだけ見せていた、優しい笑みを浮かべた。

「神なる存在に、伝えて欲しい…。人間たちに飛行技術を返してくれ、と」

 本当なら、自分の口から訴えたかった。神の胸ぐらをつかんで脅してでも、取り返したかった願い。

 リューディアから奪った夢を返して欲しい、リューディアの純粋な願いを叶えよと。

 争いごとのために飛びたいわけじゃない、神域を脅かしたいわけでもない。ただ、自分の力で自由に空を飛びたい、自分の技術力によってみんな自由に。それだけだったのだ。

「ベルトルドさん……」

「俺にはもう、手を動かすことも、サイ〈超能力〉を使うことも、見ることも出来ない。身体の感覚も、もうないんだ」

 キュッリッキはグッと喉を詰まらせ、口を引き結んだ。

 一目見た時から判っていた。

 ベルトルドの命が、消えかかっていると。

 ドラゴンの魂と融合した時点で、人間であるベルトルドの魂は消滅するはずだった。それでもかろうじて生きているのは、アウリスの血を通じて、ロキ神の遺伝子が覚醒しているからつなぎ止められていたのだ。

 それでも、彼に残された時間は、あと僅かだった。

「リッキーを傷つけた俺が、頼めることではないな…。すまない、本当に」

 ベルトルドの声は、どこまでも穏やかだった。何故かそれが、キュッリッキには辛い。

 彼と出会い、まだ1年にも満たない。それなのに、過ごした時間は濃密なものだった。

 沢山のものを与えてもらった。楽しい思い出、優しい思い出、嬉しい思い出。そして、辛い思い出。

 最後に与えられるのは、悲しい思い出。

 色々なものを与えられるばかりで、自分でベルトルドに何を与えられたのだろうか。

(これから……なのに……)

 膝に置いた手でドレスをギュウッと掴み、キュッリッキは肩を震わせる。

(ちゃんと、言わなきゃ…)

 全ては伝えられないけど、ちゃんと言わなければと、キュッリッキは顔を上げた。

「痛かったんだよ…、心も、身体も、すっごく、痛かったんだよ」

 ポロポロと涙が零れ落ちる。

「あんなことされるって判ってたら、あの時ベルトルドさんのミミズ、引っこ抜いちゃえばよかった」

 その一言に、ベルトルドの顔が微妙に引きつった。せっかく努力して忘れていたのに、まさかのこのタイミングで、あの忌まわしい出来事を思い出す羽目になり、更にベルトルドの顔が引きつる。出来れば死ぬまで忘れていたかったかも、と心でぼやく。

「アタシに酷いことしたのは、まだ許してあげない。でも、ベルトルドさんのこと、アタシ好きだから。酷いことした以上に、アタシのこといっぱい優しくしてくれて、愛してくれて、だから、だから、好きだからっ」

「そうか…」

 ベルトルドは苦笑を滲ませる。

 まだ許さないと言いながらも、好きだと言ってくれる。

 キュッリッキの心の葛藤が手に取るように判って、ベルトルドの心には斬鬼の念しか湧いてこない。本当に深く傷つけてしまったのだと再認識させられた。謝っても謝りきれないほどに。

「なあリッキー、俺とメルヴィン、どっちが一番好きかな?」

「メルヴィン」

 間髪入れず即答され、ベルトルドの顔に激しい落胆が広がる。

 後ろで黙って成り行きを見守っていたライオン傭兵団の皆も、キュッリッキの迷いのなさに苦笑いが浮かんだ。――そこは容赦なしかい、と。

「オレの勝ちです」

 キュッリッキの後ろに控えていたメルヴィンが、キッパリとした声でトドメを刺す。その発言に、ベルトルドはむくれた顔をしたが、やがて真顔になった。

「貴様のような青二才に託していくなど心外の極みだが、ほかに頼めそうな奴が見当たらないから、仕方なく任せてやる。――いいな、必ず全力で守り抜け」

「もちろんです。命にかえても絶対に」

「馬鹿者!」

 ベルトルドは激しく一喝すると、眉を寄せて不快感をあらわにする。

「だから貴様は青二才なんだ! 貴様が死んだらそのあとはどうする? リッキーを独り遺して誰が守る。そう簡単に役割を代われる人間がどこにいるんだ。自分の命も守ってリッキーも守る、それが出来なければ金輪際リッキーに関わるな!」

「あ……、はい」

 恥じ入ったようにメルヴィンは俯いた。それを見て、キュッリッキは身を乗り出す。

「メルヴィンいじめちゃダメなの!」

「違うんですよ、リッキー」

 メルヴィンは自嘲して、キュッリッキの傍らに膝をつく。

 ベルトルドはメルヴィンを認めた上で、その覚悟を言っているのだ。

 不幸しか知らないキュッリッキを幸せと愛で包み込み、必ず隣にい続ける。共に生きていく覚悟を。

 そう、自分が先に死んではならないのだ。絶対に――。

「全く、これでは心配で死んでも死にきれんな」

 ベルトルドは小さくため息をつく。

「だが、そろそろ意識がヤバいな」

 キュッリッキはハッとなって、ベルトルドの肩を両手で掴む。

「必ずベルトルドさんのお願いを、神様たちに伝えるから。アタシ、ちゃんと伝えて、絶対叶えてもらうからね!」

「ああ、お願いだ」

 キュッリッキの手が肩に触れていることすら、もうベルトルドは感じ取れていなかった。

「ベルトルドさんのこと大好きだからね!」

「嬉しいな、リッキー…」

 まるで遠くから響くような感じで、キュッリッキの声が聞こえてくる。そして、波が引いていくように、声が遠ざかっていく。

「ベルトルドさん…死んじゃ…ヤなの…」

「……愛しているよ、リッキー…、永遠に愛して、いる…」

 その後、声にならない言葉を小さく何事かつぶやき、ベルトルドの口は動かなくなった。

「ベルトルド…さん?」

 ぽつりと呟くように言って、キュッリッキは小さくベルトルドの肩を揺すった。何度も、何度も、揺すり続けた。

「ねえ、ベルトルドさん」

「リッキー…」

 見かねたメルヴィンが、そっとキュッリッキの手を掴み、揺することを止めさせる。

「ベルトルドさん寝ちゃったの。寝ちゃうと中々起きないんだよ、起こしてあげるの」

「いえ…このまま、寝かせてあげましょう、ね?」

「だって」

「リッキー」

 メルヴィンはぎゅっと強くキュッリッキを抱きしめた。何故だか、無性に泣きたい気分だった。

 最大のライバルが消えて、嬉し泣きをしたいのか。キュッリッキを脅かす存在が消えて、安堵して泣きたいのか。

 どれも、違う。

 ただ素直に、悲しい、と。

 心がすでに泣いていた。



 ガン泣きされるかと思いきや、どこか呆けたような顔で、キュッリッキはメルヴィンに抱きしめられ泣いていない。まだ死を受け入れられていないのだろう。むしろ、メルヴィンのほうが泣きそうな顔をしていた。

 二人の様子を後ろの方で見つめながら、ルーファスは激しい喪失感に蝕まれていた。

「オレさ、ベルトルド様のこと、結構好きだったんだな~って、今頃思った」

「ほほう…」

 隣にいたギャリーが、複雑な色に表情を歪めて相槌を打つ。

「やることなすことパワフルでおっかなかったけど、砕けて話しやすくって、なんのかんの、オレたちに甘い人だったなーっと」

「そぉねぇ~……。ちゃーんと、アタシたちのこと、見ててくれてたよねぇ」

 ルーファスの言葉を受け、マリオンが呟いた。

「おっさんから解放されんの、オレたちの悲願だったのにな」

 それなのに、なんでこんなに喪失感があるんだ、とザカリーは口を尖らせた。

「看取ることができて、よかったと思っています」

 やや顔を俯かせたカーティスが、力なく言う。急に心にぽっかり穴が空いてしまったようで、虚しさこの上ない。

「いつか、死体に唾を吐いてやろう、そう思い続けてきたんですが、いざ目の前にするとそんな気分じゃありませんね…。言いたいことが山のようにあるのに、どれから言ってやればいいのか、上手く言葉になってくれません」

 カーティスは深々とため息をつくと、顔をあげて表情を引き締めた。

「仕事は終わりました。もうこの場に用はありません。みなさん、戻りますよ」

「ああ…、そうだな」

 ギャリーが頷くと、皆も小さく頷いた。

「アルカネットの亡骸は、俺が運ぼう」

 ガエルはそう言って、アルカネットの方へと向かう。

「んじゃ、御大の遺体はオレが運ぶ」

 ギャリーはシラーをザカリーに預け、ベルトルドの傍らに膝をついた。

「メルヴィンはキューリを頼むぞ」

「はい」

 ギャリーがベルトルドの遺体を腕に抱えて立ち上がった、その時だった。

「あれは…?」



 長い金髪に褐色の肌の、まだあどけなさの残る少女が、離れたところに佇んでいた。

「あの人は……リッキー」

 メルヴィンは腕の中に抱き上げたキュッリッキを軽く揺さぶる。しかし、キュッリッキはぼうっとした表情で、ぴくりとも反応を示さなかった。

「ユリディス!」

 足元のフェンリルが驚いたように叫ぶ。

「お久しぶりですね、フェンリル」

 少女は柔らかな笑顔で、小さく首をかしげるようにした。そしてメルヴィンの腕の中のキュッリッキに視線を向ける。

「キュッリッキは、自失しているようですね。最後に少しお話できればと、思ったのですけれど」

「親代わりのような男を、たった今、失ったばかりだからな…」

「そうですか……」

 ユリディスも悲しげに表情を曇らせた。

 レディトゥス・システムの中でお別れをしたけど、でもやはりもう一度会いたいと出てきたが、タイミングが悪かったらしい。巫女を排除するために放ったユリディスの力は、ユリディスの意思から切り離されている。だから、ベルトルドたちとの戦いは知らなかった。

「しかしそなた、その姿は一体…?」

「レディトゥス・システムの力を使って、立体化しています」

 立体化、という言葉に、フェンリルの表情に苦いものが広がる。否応なしに、ユリディスがすでに故人であるという事実を、叩きつけられたように思えるからだ。

「そうか…」

「おお、1万年前の最後の巫女のお姿を、こうして直に拝見することができるとは…」

 そこへシ・アティウスの感極まった声が飛び込んできた。あまりにも唐突すぎて、ユリディスはちょっと困ったように、小さく笑うにとどめた。

「皆様お帰りになるようですね。では、お急ぎください、私はこの艦を爆破します」

「勿体無い!」

 そう思わず叫んでしまい、シ・アティウスはハッとなって頭を掻いた。

「このようなものは、この世にあってはならないものなのです」

「確かにそうですね…失言でした」

「いえ。――惑星に影響のない宙域まで運んで、そこで爆破します。皆様はお戻りになったら、この艦とのエクザイル・システムを壊すようにお願いします」

「判りました」

「皆様の未来に、幸多きあらんことを」



 太陽が西に沈みかけている頃、焼け野原と化したイララクスの街中で指揮を執っていたリュリュは、パウリ少佐から念話で連絡を受けると、馬車に飛び乗ってハーメンリンナにとって戻り、ケレヴィル本部に駆け込んだ。

「無事戻ってきたのね!?」

 応接室の扉を蹴飛ばすようにして開けながら、リュリュは勢い込んで叫んだ。

 室内に飛び込むと、疲労感を漂わせるライオン傭兵団が出迎えてくれた。

「ああ、良かったわぁ。あーたたち、生きて戻ってくれたのね」

「はい、ええ……はあ、まあ…」

 椅子に座っていたカーティスが、立ち上がりながら戸惑ったように返事をする。

「なぁーによ、歯切れ悪すぎるわよカーティス」

「いえ、その……」

「リュリュ」

 開けっ放しの扉を更に開いて、シ・アティウスが入ってきた。

「ベルたちは、どこなの?」

 落ち着いた様子のリュリュに問われ、シ・アティウスはメガネを押し上げながら顎をしゃくる。

「別室に安置してある。こっちだ」



「ンもう、何満足そうな顔しちゃって、ベルったら」

 遺体を保存する専用のビニール袋のファスナーを引き下げ、物言わぬ姿となったベルトルドを見おろし、リュリュは苦笑いを浮かべる。

「オフィスにいる」

「判ったわ」

 部屋を出ていくシ・アティウスを見送らず、リュリュはベルトルドの顔をじっと見つめていた。

 ベルトルドとアルカネットの遺体を安置しているこの部屋は、ケレヴィル本部へくると、ベルトルドたちと休憩に使っていた部屋だった。

 感傷に浸るほど使用していたわけではないが、ここで過ごしたちょっとした思い出が、何故だかいくつも胸をよぎっていく。

「あのエロメガネ、柄にもない気を回してくれちゃって…」

 リュリュはもうひとつのビニール袋のファスナーを下ろす。

「アルは無様な死に方をしたようね…。こんな表情で死ぬなんて、ご両親が見たらガッカリするわよ」

 二人の遺体の間のスペースに椅子を持ってくると、リュリュは腰を下ろした。そして、深々とため息をついた。

「復讐なんて止めなさいって、アタシ何度も言ったのに、言うこと聞かないあーた達が悪いのよ」

 31年も言ってきたのに、と、リュリュは肩をすくめる。

 胸の奥から、様々な記憶と想いが、ゆっくりと波のように打ち上げられていく。

「おねえちゃんが生きてた頃は、アタシたち小さなガキんちょだった。でも今は、すっかりオッサンになっちゃって。あーた達はアイオン族だから老化が遅くっていいだろうけど、ヴィプネン族のアタシは、毎日毎日厚化粧がタイヘンなのよ」

 もう、これ以上老いることがなくなってしまった二人。

「まあ、昔からナントナク、あーた達には老いるっていうイメージがわかなかったのよね。ヨボヨボになるのはアタシだけってね……。それが現実のものになっちゃって、ずるいわ」

 リュリュは肩を落とし、うなだれた。

「化粧ポーチ忘れてきちゃったわ。でも、我慢できそうもないから泣いちゃう。泣いたあとのケアもできないんて、オカマ廃業かしらネ」

 そう言って、リュリュは肩を震わせると、両手で顔を覆った。



最終章:永遠の翼 託された願い、そして つづく



128 第九章:戦い ベルトルドの願い

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category: ◆ALCHERA-片翼の召喚士-

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YUZUNOKI オープン 

 

イラストだけを集めて公開するサイトです。

サイト復帰してからちょこまかHTMLとかなにやらで作ったりしていたんですけど、昔と違って今はスマホだタブレットだで、よりWebサイトの作り方や見せ方が複雑になりまくりやがりましたので、ブログなどレンタルものでやっていますが。

正直ブログは最新作を発信するのはもってこいなんだけど、展示をする、という点についてはあまり優れてはいないですよね。

見てもらうために導線を用意しても、こちらの意図した通りにめくらないヒトもいるし、ブログ記事もあれこれ弄りすぎるとわけわからんなるし、ブラウザだ端末だで表示も微妙に食い違ったり。

CSSもブラウザで対応してないのもあったりなんだ、もうめんどくさいことこのうえなく(笑)

10年以上前はWeb制作関連の仕事をしていたけど、現場を離れてしまうと、もうついていけませんw スマホの登場で完全お手上げです。

でも今は、あらゆる端末などに対応した、無料のサイトツールで楽々作れちゃうのがいっぱいありますよね。

楽々、とはいっても、どうやるのかよくわからず、実に1年くらい絶賛大放置していたんですが(´_ゝ`) 思い出した頃にちょこまかいじっていたら、どうにか形になってきたんで、ようやく公開、になりました。

最初スライド形式にしていたけど、それだとイラストのサイズで強制縮小かけられたり面倒になったんで、タイル張りで、見たいイラストをポチッと押すと、大きく表示されるので、この形式にしました。

いつもこのブログで見てくださっている方々には、何一つ新鮮なものはナイんですけど、イラストのみを見て欲しい、という形には出来ているんで、たまにずらーっとみたくなった、という時には活用してやってください。

ちなみに、全てのイラストを掲載しているわけではないです。ラクガキっぽいものやマンガっぽいものなどは全て省いてます。


YUZUNOKI

https://alcheraworld.jimdo.com/





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