序章 最強の召喚士

序章 最強の召喚士



 雲ひとつ泳がない晴天は、深く青く高い。

 空の色とは対照的に、赤土色の地面に緑はなく、同色の砂塵がうっすらと地面を漂い、切り立った岩は、太陽の光を受けて地面に黒い影を落とす。

 まだ昼間(ちゅうかん)砂塵舞う開けた所に、一個大隊が陣を張っている。岩陰に身を潜め、ザカリーは傍らのキュッリッキの腕を肘で軽く小突く。

「あれがソープワートの軍隊だよ。小国だけど手練が多いんで有名なんだよね」

 物知り顔で、ザカリーは人差し指を立てる。

「中でもキャッツフットっておっさん率いる弓隊は厄介よ。大型弩砲(バリスタ)隊だの 長弓(ロングボウ)隊だの、飛び道具部隊を率いているんだ」

「ふーん・・・」

 キュッリッキはさほど興味をひかれることなく、ただザカリーが解説を終えるのを無表情に待っていた。

「キャッツフットがいるってことは、弓隊を主力にするつもりだねぇ。腕のいい狙撃手が多いんだよ」

 顔を盛大にしかめて、ザカリーはキュッリッキに振り返る。

「しかも魔法使うやつも狙撃手してるから、銃撃兵だって油断できやしない」

「そう」

「ライオン傭兵団に入ってすぐの仕事が、ソープワートの大隊を相手にする不幸に同情するよ~」

 少しも同情していない表情(かお)をして、ザカリーは大げさな振る舞いでキュッリッキの双肩に手を置く。

「キミ一人でアレを相手にさせるとか、いよいよウチのリーダーも鬼になってきたよね」

 一人盛り上がるザカリーに目もくれず、キュッリッキは眼下のソープワートの軍隊に視線を注いだ。

 冷めた表情と同じように、冷え冷えとした声音でキュッリッキは言い放つ。

「あのくらい、わけないわ」




 ソープワート国と敵対するサントリナ国は、共に惑星ヒイシに属するヴィプネン族の小国である。ハワドウレ皇国の属国にしか過ぎないが、ことあるごとに小競り合いが起こり、すぐに小さな戦争を引き起こしていた。

 今回も国境の小競り合いにしかすぎず、発端は、サントリナ国の兵士が躓いて国境線を越えて、ソープワート国の領土に上半身をついた、というのが原因だった。

 くだらない、あぁくだらない。チャイヴズは首を横に振ってため息をついた。

 一兵卒でしかない自分が、政治のことにまで苦悩するのは度が過ぎるとは思う。しかし、そのくだらない理由で命を落とす兵士たちもいるだろうことを思うと、ため息をつかずにはいられない。

 これまで良識派として貫いてきたが、もう六十の歳を迎え、戦場で指揮を振るうのもきつくなってきた。この戦いで無事帰ることができたら、職を辞して、穏やかな老後を孫と共に過ごそうと考えていた。

 砂埃で味付けされた昼食の皿を見やり、チャイヴズはげっそりと肩を落とした。

 その時。

 突然地面が振動し唸りだした。地震とも違う激しい揺れ。そして、馬や人の悲鳴や叫び声で辺りは騒然となった。

 チャイヴズは携帯椅子から転げ落ちて、地面にうつ伏せに倒れ込んだ。同時にテントの外から部下の悲鳴が投げかけられる。

「閣下ーー!」

「案ずるな、儂は無事ぞ!!」

 激しい地面の揺れで返す声も震える。身体も思うように動かせず、チャイヴズは忌々しげに視線だけを上げた。

 そして激しい爆発音が四方八方から轟き、揺れはぴたりとおさまった。

 もう揺れがないことを確認するように素早く周囲を見て、チャイヴズは立ち上がってテントの外へ飛び出した。

 すぐさま護衛兵が三名駆け寄る。

「なんだこれはっ…」




「うひょー!」

 ザカリーは岩陰から飛び出して、谷間の様子に驚嘆の声を張り上げた。

「すげーすげーすげーーー!!!」

 傍らのキュッリッキを振り返る。

「あれなになにっ?」

「ゲートキーパー」

「うっは~~~」

 谷間に陣取るソープワートの軍勢を取り囲むようにして、巨大な壁が隙間なく出現していた。

 壁は鉄の色をしていて、うっすら蒸気が立ちのぼっている。とくに装飾もなく、ただの鉄の分厚い板のようだった。

「深き沼よ…」

 じっとソープワート軍を見つめ、小さく呟く。

「全てを飲み込む飢えた闇の沼よ……こい!!」

 キュッリッキの双眸が、強い光彩を放った。

「おお…」

 壁に取り囲まれた中に、突如真っ黒い何かが吹き出し、中に居たソープワートの軍勢を一気に飲み込んだ。

 ザカリーは目の前の光景を凝視して息を飲んだ。




 突如目の前が真っ黒に染まり息が詰まった。

 部下を呼ぼうにも声が出ない。

 嗅覚を刺激したこの臭は、泥の臭だ。

(次から次へと……何が起こっているのだ…)

 チャイヴズは酸素をもとめて両手を上げる。しかし、身体の自由を奪うような圧迫に、両手をもがいたような錯覚を感じただけだった。

 目を開けることも出来ず、チャイヴズは次第に力が抜けぐったりとしてきた。そして嗅覚には血臭も混じって感じられた。

(なんということだ……)




 鉄の壁の内側は、真っ黒な闇のような泥が生き物のようにうねり、ソープワート軍をいたぶる様に飲み込んでいった。

「これで、アイツらオシマイ」

 ふんっと小さく鼻を鳴らすと、キュッリッキは感情のこもらぬ表情をザカリーに向けた。

 ザカリーのほうは、感極まった顔で目を輝かせてキュッリッキを見つめている。

「巨大な鉄の壁に、真っ黒い泥! あれは何を召喚したの!?」

 ずいっと顔を近づけ、ザカリーはキュッリッキに詰め寄った。

「……見たまんまよ。ゲートキーパーと飢えた闇の沼を召喚しただけ」

 片手でザカリーの顔を押しのけながら説明する。

「ゲートキーパーは状況に応じて自ら形や性質を変える。今回は熱を帯びた鉄に変化したみたいね。這い上がって逃げられないために。

 闇の沼は常に飢えているの。雑食だからなんだって食べる。アルケラへ帰れば跡には何も残らないわ」

 キュッリッキは軽く肩をすくめた。

「オレ召喚士って見たのキミで三人目だけどさー、あんなデカイものを二種類も召喚してたの見たことないぜ」

「そうなの…」

 キュッリッキはほかの召喚士と面識が一切なかったので、誰でも同じように呼べるのだと思い込んでいたから少々驚いた。

「キミが最強の召喚士って噂されてるのが、よく判った!」




・序章 最強の召喚士 おわり 




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Comments 4

稲田 新太郎

召還はロマンがあるねえ

2014-04-30 (Wed) 14:57 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: タイトルなし

読んでくださっているのですね((((;゚Д゚))))!
ありがとうございます><!!

良いですよね召喚は。でも、ウチはちょっとみんなが思い浮かべる召喚と違っていますw
物語後半でそれが明らかになる予定です(^ω^)

2014-04-30 (Wed) 20:52 | EDIT | REPLY |   

LandM

召喚ですか。定義にもよりますけど、2匹同時に召喚して使役できるとしたら、大したの能力ということになるんでしょうね。ファンタジー小説は好きなので、興味を持って読ませていただきます。(*^-^*)

2015-02-14 (Sat) 15:30 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: タイトルなし

LandM さんこんにちわヽ(・∀・)ノ

まだこの時点ではあかせませんが、召喚能力についてはもうちょい先の方で重要な意味をもってお話に大きく絡んでいくことなので、現時点では凄い子、と思ってくださってもらえればおkでございますw

まだまだ続くお話なので、ゆっくり追いかけて下さると幸いです(^ω^)

2015-02-14 (Sat) 19:19 | EDIT | REPLY |   

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