004 第一章 ライオン傭兵団 仲間(二)

第一章 ライオン傭兵団 仲間(二) 004



「乾杯かんぱ~~い!」

 ザカリーの音頭で、複数のグラスの重なる軽快な音と、個々に「乾杯」と言う声が、賑わう店内に鳴り響いた。

 ライオン傭兵団が日頃贔屓にしている酒場〈豪快屋〉の一角を陣取り、新たなる仲間を祝っての歓迎会である。

 古びた木材で建てられた〈豪快屋〉は、洒落た飾りなどなく、所狭しと置かれた酒樽や酒瓶、建物と同じような古びた木製のテーブルと椅子、適当に吊り下げられたランプ。雑然としてはいるが、どこかホッとするような安堵感もある。それは、ランプから漏れるほの明るい光と、店内を賑わす陽気なざわめきだろう。

 夕飯時には若干早い時間帯だが、店内はすでに出来上がった常連客たちで賑わい、酒の匂いと料理の湯気が立ち込めていた。

 今日の主役であるキュッリッキは、奥の中央席に押し込められ、左右をメルヴィンとシビルに挟まれ、手厚くもてなされていた。

 楕円形のテーブルには、皇都イララクス特産品の魚介類中心の料理が、温かな湯気と食欲を刺激する匂いを放っていた。

「この店の料理はどれも美味しいけど、とくにこのエビの炒め物がオススメ」

 シビルは椅子の上に立ち上がって、短い腕を伸ばし、小皿にエビをとりわけてキュッリッキの前に置いてくれた。

「ありがとう」

 くるりと丸まったエビは大きく、ぷりっとしていて肉厚だ。フォークで突き刺すと、わずかな弾力があり、キュッリッキは一口に頬張った。

 口内に甘いエビの味と、ニンニクと香辛料の匂いがふわりと広がり、自然と顔がほころぶ。

「ね、美味しいでしょ」

「うん」

 キュッリッキの声も、ほぐれたように明るくなった。

 つられてシビルも笑顔になり、縞模様の尻尾をふわふわと揺らしていた。

 〈豪快屋〉に連れてこられたキュッリッキは、明らかにコチカチに緊張していたが、加えてどことなく、憤懣やるかたない、といったオーラを放っていた。

 ヴァルトとザカリーが、何となく訳知り顔をしていたが、あえて詮索しないのが、暗黙の了解の傭兵団。

 幹事を任されたメルヴィンと、こういったことに敏感なシビルの二人は、キュッリッキの緊張と機嫌をほぐそうと、率先して左右に陣取って接待した。これは彼女のための歓迎会なのだ。

「追加の飲み物はどう? お酒は何が好きかな? 色々あるんだよ~ここは」

 メルヴィンは手垢で薄汚れた羊皮紙に書かれたメニュー表を、キュッリッキの横に広げ酒の種類を読み上げる。

 ちょっと考え込み、遠慮がちにメニューの一部を指差す。

「じゃあ……りんご酒にしようかな」

「おっけー」

 他のメンバーの追加注文も聞き取って、メルヴィンは腰を浮かせて店員を呼ぶ。その間シビルはせっせと料理を皿にとり、キュッリッキや他のメンバーに回していく。

「相変わらずマメだねーシビルちゃん!」

 大きなトレイに、色とりどりのグラスを載せて、大柄な男がニヤリと歩いてきた。

「こんばんはマスター。こういうことは、誰かがやらなきゃね~」

 言って、シビルは苦笑した。

「がはははは、真面目な性格は苦労が耐えねえな!」

 男は大声で笑いながら、グラスをテーブルに置いていく。そしてキュッリッキに目を留めると、小さく首を傾げる。

「見慣れねぇねーちゃんだな、新入りかい?」

「ええ、うちの新しい団員です」

 これにはカーティスが笑顔で答える。

「ほほ~~~! 今をときめくライオンの新入りかい!! 見た目は踊り子みてーだが、魔法使いかなにかか?」

「いえいえ、召喚士ですよ」

 これには男だけでなく、店内が騒然とどよめいた。

 店内の視線を一身に集めたキュッリッキは、フォークを握り締めながら、ただ目を丸くして固まっている。

 カーティスはにこにこと笑顔を絶やさず、この様子を楽しんでいるようだった。

「こら驚いたなあ……召喚士が傭兵なんかやっているのかい」

 男は心底驚いたように、荒く息を吐き出した。

「おいおい本物か!?」

「オレ召喚士見たことねえっ」

 店が揺れるくらいの足音と共に、テーブルの周りには人だかりができ、押せや押せやで騒然とした。そんな〈豪快屋〉の騒ぎを聞きつけた周辺の野次馬たちが、興味本位でどんどん店内に集まってきた。

 この事態を見たメルヴィンは呆れ顔のまま、テーブルの反対側に座るカーティスに、耳打ちするような仕草で話しかける。

「ちょっとマズくないですかカーティスさん、こんなに騒がれちゃって…」

「ですねえ…、私も調子に乗りすぎたようです」

「どーせ宣伝効果になるとか、狡いこと考えて言ったんだろカーティス」

「せこいねえ~」

 ギャリーとルーファスに突っ込まれて、カーティスは苦笑いで肯定した。

 騒ぎを治めようとメルヴィンが腰を浮かせたとき、ガタリと勢いのいい音が鳴り響き、一瞬店内が静寂に包まれた。

「さあオマエたち! 拝観料を払うがいい!!」

 空のジョッキを野次馬の群れに突き出し、もう片方の手を腰にあて、ヴァルトが仁王立ちで叫んだ。

「ありがたい召喚士サマだぞ! 一人金貨一枚だ!!」

「高すぎるだろ!!」

 異口同音に野次馬たちが叫び返した。

「なんだ払えないのか! ならあっちへいくんだ、俺様たちはカンゲーカイの真っ最中なのだ!!」

 ヴァルトのいちいち偉そうな言い方と態度に気圧されて、野次馬たちはぐっと引き、渋々と退散を始めた。その野次馬たちに舌を出し、鼻を鳴らしてヴァルトは腕を組む。優男な顔立ちなのに、その尊大な態度の方が存在感が強かった。

「なんてケチな連中だ!」

「追い払うことに成功したんだから、もう座れヴァルト…」

 物凄くめんどくさそうな表情をして、ペルラはヴァルトの上着の裾を引っ張った。

「ああ!! 俺様のペルラ!!!」

 ヴァルトは素早くペルラに振り向いて、床に片膝をつくと、長い両腕を広げた。

「……黙れ」

 空の皿を手に取ると、容赦ない力でヴァルトの頭に食らわせた。

 二人の様子を横目で見ながら、店主の男はすまなそうな表情をキュッリッキに向けて詫びた。

「ごめんなねーちゃん、騒いで見世物にしちゃってよ」

「はあ…」

「まあライオンに入ったんなら、今後もうちにくることがあるだろう。オレはこの店の店主でグルフだ、よろしくな」

 にかりと笑い、グルフは手にしていたグラスをキュッリッキの前に置く。

「オレからの入団祝いだ」

「ありがと…」

 騒ぎの余韻を引きずったままの表情で、キュッリッキはぎこちない笑顔を返した。




「やれやれ…とんだ大騒ぎになりましたねえ」

 メルヴィンは大仰な溜息をついた。その様子を申し訳なさそうに見て、カーティスは肩をすくめた。

「ホントですね。ヴァルトの機転で助かりましたよ」

「タダで見ようとか、考えが甘すぎだ!」

「そもそも見世物じゃありませんから…」

 メルヴィンが軽く突っ込む。

「大丈夫ですかキュッリッキさん、吃驚したでしょう」

「あ…うん」

 キュッリッキはメルヴィンに小さく頷くと、グルフからの祝いであるりんご酒を一口飲んだ。

「ねえ、召喚士ってそんな珍しい? ここ皇都でしょ、他にも召喚士いっぱいいるんじゃないの?」

 先程から気になっていたことを、思い切って一同に問いかけてみた。しかし、絶句のような沈黙が戻ってきた。

「アタシ、何かヘンなこと言った?」

 予想外のみんなの反応に、キュッリッキは「あれ?」といったように、不安そうに肩を縮める。

「召喚士は本来、雲の上の存在なんです」

 眼鏡をかけ直し、ブルニタルはキュッリッキを睨むように見据えた。



第一章 ライオン傭兵団 仲間(二) 続く



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