034 第三章 求めるもの ベルトルドの帰宅

仮眠をとる前に・・・アップ(・_・;)

後がない日本、頑張って欲しいですね!(byサッカー)


今回はとっても軽いノリでお楽しみください。初期設定とはどんどん逆走していく御大のおバカっぷりが炸裂します(´_ゝ`)

そして、メルヴィンがいるのに実行するキュッリッキさんの荒縄神経も炸裂です。

こういうくだらないコメディっぽいシーンが平気で流れるのも3章の間だけ、の予定です(笑) そして3章も残すところあと1,2回で終わる予定です。

次回は御大の昔のお話がちょろっと出ます。ホントにちょろっとなんですが、後々掘り下げて出てくることになりますね~。




ALCHERA-片翼の召喚士-
第三章 求めるもの ベルトルドの帰宅 034




 キュッリッキは目を覚ますと、アルカネットがベッドにも部屋にもいないことに首をかしげた。出仕する時間にはまだ早すぎる。

 目を覚ますといつも、横で優しく微笑みながらアルカネットが見ている。さすがに最初の頃はびっくりしたが、最近では慣れてしまっていた。なので毎朝の恒例行事がないと、妙な違和感を覚えてしまう。そしてその違和感を感じる自分に、少し憮然となるキュッリッキだった。

 暫く考え込み、ベルトルドが帰ってくるので明日は休みをとったと、寝る前に話していたことを思い出す。

「フェンリル」

 長椅子で寝ている相棒の名を呼ぶと、フェンリルは目を開けてすぐ起き、ベッドに駆け寄ってキュッリッキの膝に飛び乗った。

 フェンリルの背を優しく撫でながら、キュッリッキはくすくすと笑う。

「ベルトルドさん今日帰ってくるんだって。また賑やかになっちゃうね」

 やれやれといった顔で、フェンリルは目を細めた。

 あの二人の人間は、キュッリッキを巡って何かと五月蝿い。毎日飽きもせず朝晩騒ぎ立てる、あの喧しい日々が戻ってくるというのか。

 それを思うと、フェンリルはため息が出る思いだ。

 そんなフェンリルとは違い、キュッリッキはベルトルドが帰ってくるのが嬉しかった。

「ベルトルドさんが倒れちゃった原因は、全てじゃないけど……きっとアタシのせいだと思うの。毎晩毎晩、泣き喚いて、騒いで……。そのせいで寝られなくって、……お仕事で疲れてるのに。だから身体壊しちゃったんだよね」

 辛い気持ちや悲しい想いを、全て受け止めようとしてくれた。今まで誰も感じてくれなかった心の声に耳を傾けてくれた。

 アルカネットもそうなのだが、ベルトルドのほうがより熱心だとキュッリッキは感じていた。

「ベルトルドさんが帰ってきたらね、どうしてもお礼がしたいの」

 フェンリルはキュッリッキを見上げると、どんな? と喉を鳴らす。キュッリッキは神妙に眉間を寄せると、

「うまくできるか判らないけど、それしか思いつかないから………頑張るんだ」

 ちょっと困ったように笑う。フェンリルはわからん、といった顔で前脚に顎を載せた。

「いつごろ帰ってくるのかな」

 テーブルに置かれた時計に目を向けると、針は午前8時を指そうとしていた。



「アルカネット様」

 呼ばれて振り返ると、困った表情のリトヴァが歩いてくるところだった。

「どうしました?」

「それが……」

 シワの刻まれた顔に片手をあて、ため息をひとつつく。

「旦那様がすでに病院を発たれて、こちらに到着するのはもうまもなくだそうです。いま病院からご連絡が…」

「…………」

 笑みを絶やさないアルカネットの頬が、微妙にひきつった。

 正午くらいに帰宅の予定になっていた。そのつもりで主の帰宅に備えて、使用人たちは準備をしている。

 退院前には診察もあるし、第一この時間では主治医が出勤してないだろうに。

「全く子供じみたかたですね…。向かっているなら仕方ありません。ヴィヒトリ先生についでにベルトルド様も診ていただきましょうか」

 アルカネットとリトヴァは同時に深々とため息をついた。



 美味しくもない病人食を毎日3食きっちりきまった時間に出され、毎日きまった時間に診察があり、毎日きまった時間に起こされ消灯。

 ”毎日”と”きまった”と”時間”の三拍子に束縛され、更に愛しい少女と会えない辛さを乗り越え、ベルトルドはついに監獄という名の病院から帰ってきた。

 我が家へと!

「いま帰ったぞ!!」

 ご機嫌で玄関の扉をバンッと開けると、誰ひとり玄関ホールにはいなかった。

 あれ?という表情で辺りを見回していると、正面の階段からルーファスが眠そうにアクビをしながら降りてきた。

「ん? ベルトルド様、なんでいるんですか?」

 開けっ放しの玄関扉の前で腕を組み憮然と佇むベルトルドを見つけて、ルーファスは小走りに駆け寄った。

「なんか昼頃帰ってくるって聞いてましたから、早かったっすね」

 そんなルーファスをたっぷりと無言で睨みつけると、さも不愉快そうにベルトルドは鼻息をついた。

「出迎えはいない、欠伸した寝ぼけ面のお前に真っ先に会う、主が帰ってきたというのになんだ使用人どもは!」

 憤懣やるかたない、といった体である。

「あなたが予定時間よりずっと早く帰ってくるからですよ」

 ため息をつきながらアルカネットが姿を現した。

「おかえりなさいませ。セヴェリはどうしたんですか?」

「おう。退院手続きとか帰り支度とかいろいろあるから、まだ病院だろう」

 ふんぞり返りながら答えるベルトルドを見て、アルカネットは露骨にため息を吐き出した。

「判りました。では部屋へ行きましょうか、寝られるように整えてありますから」

「俺はもう病人じゃないぞ」

「診察も受けずに帰ってきたひとが何を言っているんですか。医者からの診断が下るまではベッドで寝ていてください」

「ヤだ! 俺はリッキーの部屋へいく!!」

「ダメですよ。今は入浴中ですし、身支度が整ったら診察時間です」

「別に俺が部屋にいたって、不都合なんかあるわけなかろう」

「いや、不都合ありまくりですって……」

 ルーファスがぼそりとツッコむと、ベルトルドからギッと睨まれルーファスは首をすくめた。

「ルーファスの言うとおりです。とにかくおとなしく部屋へ行きましょうか」

「だが断る!」

 大威張りで我が儘を言うベルトルドに、アルカネットのこめかみに青筋が走る。

「ルーファス」

「イエッサー」

「何をするお前ら!?」

 能面のように無表情なアルカネットと、なるべく目を合わせないようにするルーファスに両腕をガッシリ掴まれたベルトルドは、ジタバタと抵抗も虚しく引きずられながら自室へ連れて行かれてしまった。



 怪我の具合を丹念に診て、ヴィヒトリはカルテにささっと書き込んだ。引き攣れた傷跡はいまだ生々しく残っているが、具合はだいぶいい。

「右腕や右手の動きに違和感はないかい?」

「ずっと動かしてなかったから、力が入りにくくて鈍いけど、大丈夫みたい」

「うん」

 ゆっくりと手を握り、開いてまた握る。腕を上げ下げし、ぐるんと回そうとしてキュッリッキは「つっ」と表情を歪めた。

「肩のあたりがちょっと痛い、かも。振り回さなきゃ平気だけど」

「内部のほうがまだ少し治りが遅いか」

 ヴィヒトリはほっそりとしたキュッリッキの肩や腕を触って状態を確かめた。触診で判る範囲では問題はなさそうだった。

「一度病院で精密検査をしようか。こういうのはしっかりと治しておかないと、後々面倒になるからね」

「はい」

「ベルトルド様に話しておくよ。このあと診なくちゃならないんだ」

「まだ病院にいるのね、ベルトルドさん」

「いや、とっくに帰ってきてるって」

「え?」

 帰宅するのは昼頃と聞かされていたので、キュッリッキは驚いた。

 第一とっくに帰ってきているということは、ならなぜ真っ先にここへやってこないのだろうという疑問が頭をもたげる。ベルトルドのことだから、飛んでくると思っていたのだが。

「アルカネット様に自室に監禁されたってさ。退院手続きも診察も済ませる前に、勝手に病院抜け出してきたもんだから」

 あははっとヴィヒトリは愉快げに笑う。それに対しキュッリッキは口の端を引きつらせるだけだった。

「出勤前にキミとベルトルド様のダブル診察とか、めんどくさー」

 カルテに必要なことを書き込んだあと、ヴィヒトリは両腕を上にあげて伸びをした。

「さて、今日の診察終わりっ」

「ありがとうございました」

「はいよ」

「あ、先生、アタシも一緒にベルトルドさんの部屋へ行ってもいい?」

 萎えた右手を苦労して動かしながら、寝間着のボタンをはめる。これもリハビリの一つだが、右手に力が入らず苦戦した。

「別にかまわないけど、ボク非力だからメルヴィン呼んでくるよ」

「う…ん」

 メルヴィンの名が出され、キュッリッキはドキリと緊張で顔を赤らめた。

 以前は何も感じなかったのに、この頃メルヴィンに身体に触れられると恥ずかしさのあまり意識が真っ白になりそうになる。

 別にいやらしい意味ではなく、まだ満足に自力歩行出来ないため、移動するときは抱き上げてくれるのだ。それはとても緊張を伴い、心臓がバクバクと鼓動を早めた。

 これは医者には治せない病気らしく、薬すらないという。とんでもない難病を患ってしまったらしい。

(どうやったら治るのかな……)

 神妙に考え込んでいると、至近距離にメルヴィンの顔があって、キュッリッキはそれに気づいて瞬時に顔を真っ赤にすると、無言でそのままひっくり返ってしまった。

「あれ、リッキーさん!?」

 慌てるメルヴィンとひっくり返ったキュッリッキを交互に見て、ヴィヒトリは「やれやれ」と首を振って肩をすくめた。



 アルカネットとルーファスの共同作業でベッドに押し込まれたベルトルドは、盛大に口をへの字に曲げて腕を組んでいた。

「これでは病院に居るのと変わらん!」

「薬品臭や計器の音がしないだけ、はるかにマシじゃないですか。やれ臭いだの煩いだの文句たらたらだったでしょう」

「俺はありのままの事実を言ったまでだ。ガキじゃあるまいし、文句たらたらとは心外だ」

「はいはい、とにかく黙っておとなしくじっと寝ていなさい」

(この二人のやり取りは、見てて一番楽しい……)

 ルーファスはそっぽを向いたまま、心の中でしみじみ呟いた。まるで母子の会話のようである。

 やがてノックがしてヴィヒトリが顔を見せた。

「おはようございます、診察にきました」

「どうもすみません先生」

 気づいてアルカネットが出迎える。

「おや、リッキーさんもいらしてたんですね」

 メルヴィンに抱きかかえられ、茹蛸のような真っ赤な顔でキュッリッキは頷いた。

「なに、リッキーがきているだと!」

 メルヴィンが室内に入ると、ベッドの上で身を乗り出したベルトルドが、嬉しそうにこちらを見ていた。

「おいでリッキー」

 ベルトルドは両腕をキュッリッキのほうへ伸ばす。すると、メルヴィンの腕の中からふわりと身体が浮いて、ベルトルドに引き寄せられて、伸べられた腕の中にすとんとおさまった。

「リッキー、会いたかったぞ」

 サイ〈超能力〉でメルヴィンから奪い取ったキュッリッキを、ベルトルドはたまらずぎゅっと抱きしめた。ほっそりと柔らかな少女の身体の感触が手に久しい。

 1週間も愛でられなかった為か、ベルトルドの腕にはつい力がこもってしまい、次第に苦しがるキュッリッキの反応にも気づかず自分の世界に入り込んでいった。

 いきなりだったキュッリッキは目を白黒させた。ほんのかすかだが、メルヴィンから引き離されたことにムッとした感情が沸く。更に力いっぱい抱きしめられ、身体が痛くて苦しく逃れようと身をよじった。

「ベルトルドさまー」

 キュッリッキの様子に気づいたルーファスが耳元で叫ぶが、ベルトルドは幸せそうに目を閉じ浸っている。

「どきなさいルーファス、こういうときは、こうするのです」

 重厚なブロンズ製の馬の像を手にし、それを力いっぱいベルトルドの脳天に振り下ろした。

「だっ!」

 目から火花が散るほどの衝撃を受けて、ベルトルドは唸り声を上げた。

(あーらら、縫わなきゃダメかなあ……)

 片手で頭を押さえて悶絶するベルトルドを見ながら、ヴィヒトリは目を細めて心の中で嫌そうに呟いた。出勤前にどれだけ手間が増えるんだろうと。

 もう片方の手はキュッリッキの身体をしっかりと離さず、目に涙をにじませてアルカネットを睨みつけた。

「お前は俺を殺す気か!!」

「死ねばいいんですよ」

 辺りに冷気が立ち込めそうなほど殺伐とした表情でベルトルドを見下ろす。そんなアルカネットの行動に、ルーファスとメルヴィンは一歩退いた。思っていても出来ないことを実行してしまうところが相変わらず容赦なかった。キュッリッキも驚いて大きく目を見張ったまま硬直している。

「せっかく退院してきたのに、また病院に送られたらどうするんだ! お前の辞書には手加減と労りの文字は書いてないのか!!」

「私の辞書はあたな以外の相手には適用されるように出来ているんです。その汚らわしい手をどけてリッキーさんを解放してください。かわいそうに、あなたに絞め殺されるところだったんですから」

「ん? ああ……」

 膝の上で硬直しているキュッリッキに、ベルトルドは苦笑を滲ませ笑いかけた。

「すまんリッキー、嬉しさのあまり我を忘れて力が入り過ぎていたようだな。痛かったか?」

 ベルトルドの笑みに安堵し、キュッリッキは相好を崩して「ちょっと痛かったかも」と答えると、ベルトルドは「そうか」と微笑んだ。

 元気そうなベルトルドを見て、キュッリッキはやっとひと安心した。病院でベッドに横たわっていたベルトルドは、熱で苦しそうだったのだ。あの苦しそうな表情は、今は欠片も感じない。こうしてベッドにいるが、もう大丈夫そうだ。

「おかえりなさい、ベルトルドさん」

 タイミングがちょっとズレているが、にっこりと言うキュッリッキの顔を見て、ベルトルドは再びキュッリッキを抱きしめた。今度はそっと優しく。

「1週間も会えなくて辛かった。――また少し痩せたんじゃないのか? 一回り軽くなった気がするぞ」

 もともと軽すぎる少女の身体は、1週間前よりもさらに軽くなっているとベルトルドは感じていた。

「さて、そろそろあなたも診てもらってください。診察を受けずに勝手に病院を抜け出してきたんですから」

 冷ややかに言うアルカネットを、ベルトルドはじろりと横目で睨む。しかし今度は口答えせず、そっとキュッリッキから身体を離した。

「ヴィヒトリ先生がお待ちです。先生」

 アルカネットに声をかけられたヴィヒトリは、急に話題を振られて軽く肩をすくめた。すでに診察は完了している。今更問診も触診も必要ないほどベルトルドは元気だ。

「あと1週間はお屋敷でのんびりしていてください。四六時中寝ていなくてもいいですが、昼寝したりひなたぼっこしたり、とにかくのんびりお過ごしを」

「俺は老人か……」

「そのくらいゆとりある時間を過ごせば何をしても構いませんよ。それより、さっき殴られた頭部が一番気になって仕方がないんですが」

「おう、大丈夫だろう。いつものことで慣れてるからな」

「………」

 ヴィヒトリはちらりとアルカネットを見たが、涼しい顔でスルーされた。

「ベルトルド様の主治医へはボクのほうから説明しておきます。たぶんあの人のことだから、一度お屋敷に診にくるでしょうけど」

 エリート思考の強い先輩医師を頭に思い浮かべる。

「申し訳ありません。あとでお詫びに病院へ伺わせていただきます」

 アルカネットは深々と頭を下げた。これには黙って頷く。

「ほんとに大丈夫なの? ベルトルドさん」

 アルカネットに殴られた頭部に目を向けて、キュッリッキが心配そうに言うと、ベルトルドはわざと拗ねたような表情を浮かべる。

「酷い奴だよなアルカネットは。遠慮のかけらもない無慈悲な一撃を退院直後の俺に見舞うんだから」

「鉄でできた頭皮ですから問題ありません」

「俺はゴーレムか」

「あーそれから……」

「なんだ?」

 ヴィヒトリは割って入ると、ベルトルドとアルカネットに軽く睨まれて首をすくめる。

「えーっと…キュッリッキちゃんの精密検査をしたいんで、一日入院に許可をいただければと」

 ふむと頷くと、ベルトルドはすぐに了承した。

「リッキーの治療はお前に一任してある。いいようにやってくれ。手配はアルカネット、任せたぞ」

「承りました」

 膝の上に座るキュッリッキに優しく微笑みかけると、ベルトルドは愛しい少女の両手をとった。

「ちゃんと治しておかないとな」

「はい」

 ベルトルドの大きな手を見つめながら、キュッリッキはふと大事なことを思い出した。

「ベルトルドさんあのね、その……」

「うん?」

「ちょっとだけ目を閉じてもらってもいい?」

「? ああ……こうか?」

 ベルトルドは僅かに首をかしげながらも、言われた通りに目を閉じる。

 アルカネットたちも不思議そうに二人を見ていた。

 ドキドキする鼓動を煩わしく思いつつ、キュッリッキは意を決して実行に移した。

「ああああああ!!!」

 アルカネットとメルヴィンの絶叫がとどろき、ルーファスとヴィヒトリは面白そうに目を見張った。

 それはキスと呼ぶにはあまりにも幼く、唇を押し付けただけの行為にしか見えなかった。しかしキスをすることに慣れていないキュッリッキにとっては、これが精一杯だ。

 キュッリッキのこの突拍子もない行動に、アルカネットが悲鳴にも近い声で喚いた。

「リッキーさん一体どうしたんですか! 気でも狂れましたか」

 ベッドに両手をついて身を乗り出してくるアルカネットに、キュッリッキは困ったような笑みを向けた。

「えっとね、ベルトルドさんアタシのせいで入院までしちゃって、その、いつも大事にしてくれるからなにかお礼がしたいかなって思ってて。ずっとアタシとキスしたがってたから、特別良いかな、なんて」

 肩をすぼませ上目遣いに言う。そんなキュッリッキを見ながら、アルカネットは激しく首を横に振ると、叱るように見つめた。

「この人が入院したのは自業自得ですよ。リッキーさんのせいじゃないんです! こんな汚らわしいおっさんの口にキスなんかしたりして、ヘンな病気でも感染ったらどうするんですか」

(酷い言われよう……)

 ヴィヒトリは笑いを噛み殺しながら心の中で呟く。

 メルヴィンもなにか言いたそうな顔をしていたが、複雑な色を浮かべたまま無言でいた。

 当のベルトルドは、ぽかんとした表情で硬直していた。周りの声は聞こえていないかのようである。しかし、

「きゃっ」

 突然キュッリッキは両腕を掴まれ、ベッドに押し倒された。

 一瞬閉じていた目を開くと、ベルトルドが馬乗りになって怖いくらい真面目な顔で見下ろしていた。

 キュッリッキは怯えたようにベルトルドを見上げていた。こんな表情は見たことがなかったので、とにかく怖かった。

 ベルトルドはというと、まじまじとキュッリッキを見つめ、目をぎらつかせている。今にも食いつきそうな表情だった。

「いい加減にしろや」

 怒りをにじませた低い声と渾身のゲンコツがベルトルドの後頭部に炸裂し、アルカネットは襟首を掴んでキュッリッキから引き剥がした。

「自制せい」

「――危なかった、止められなきゃホントに襲っていたぞ」

 我に返ったような表情で、ベルトルドは危ない危ないと繰り返した。

 目を閉じたあと顔になにかが近づく気配がしたが、やがて唇に柔らかな感触がしてハッと目を開けると、必死な面持ちのキュッリッキにキスされていた。

 驚くまもなく理性が吹っ飛んで、アルカネットが止めなければどうしていたんだろうと内心焦る。それと同時に、キュッリッキからキスをしてきたという事実が、ベルトルドの心を喜びでジワジワと満たしていった。

 一息ついたキュッリッキは身体を起こそうとして左手を動かすと、なにかに当たって枕の下に左手を入れた。

「なんだろう…?」

 手に当たった何かをゴソゴソと引っ張り出し、それを見たキュッリッキの眉が瞬時に不快げに寄せられた。

「どうしたリッ………あ」

 キュッリッキが手にしているものを目にし、ベルトルドの顔が引きつった。

(ゲッ……やべっ)

 その事態を見てルーファスが焦りの表情を浮かべる。

「リッキーそれはだな」

「なんでこんなモノが枕の下にあるの、かな」

「俺も知らん!」

 ルーファスはこっそり部屋を出ようとしていると、目ざとくベルトルドが見つけてサイ〈超能力〉でルーファスの足をガッチリ止めた。

「こら青二才! どういうことか説明してもらおうか!!」

「すすすすすいませんっ!! 棚にしまおうとしたらカギかかってて、咄嗟に枕の下に隠しましたっ」

「勝手に俺のコレクションを見るな馬鹿野郎」

「暇つぶしにイイモン見つけたなーっと。いやあ~、なかなかオイシイですよねえその雑誌」

「当たり前だ、普通に流通していない未修正豪華版で高いんだぞ」

「へー……コレクション」

 思わず得意げになって言っていると、冷ややかな声がベルトルドを現実に引き戻した。

「いや、リッキー、これはだな…」

「ベルトルドさんのスケベぇ!!」

 キュッリッキは手にしていた未修正豪華版のアダルト雑誌を、思いっきりベルトルドの顔面に投げつけた。

 至近距離のナイスコントロールで、雑誌は見事ベルトルドの顔にストライクした。

 顔に炸裂した衝撃に、ベルトルドは思わずのけぞった。雑誌のぶつかった箇所が赤くなる。

「部屋へ戻りましょうかリッキーさん」

 メルヴィンはキュッリッキを素早く抱き上げると、冷ややかな一瞥をベルトルドにくれて、キュッリッキを連れて部屋を出て行った。

 ルーファスもそそくさ後に続こうとするが、

「貴様!!」

「わああああごめんなさーーーーい!!!」

 飛びかかられたルーファスは羽交い締めにされ、ギブアップを訴え床を叩いた。

 大の男のしょうもない姿を見下ろしながら、アルカネットは疲れたように溜息を吐きだした。



第三章 求めるもの ベルトルドの帰宅 続く



033 求めるもの 再会

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Comments 4

八少女 夕

あ〜

こんばんは。
誰か教えてあげた方がいいかも。
キスの用法、なんか間違っているって。
パパへのキスはほっぺたが限度だし、 そもそも好きな人の前ですることじゃないよって。
話がこじれるだけだし。
っていっても、そういう意味での親切な大人、周りにいなさそう。ヴィヒトリ先生、「めんどーくせー」なのかしら。あ、フェンリルがいるじゃない! 教育的指導してあげた方が……。

2014-06-26 (Thu) 03:13 | EDIT | REPLY |   

ふぉるて

おはようございます~(*^ ^*)

御大が帰ってきて早速コメディ炸裂ですね♪(^ω^)
(話を読み進めるごとに笑いが止まりませんでした~ >< )

ところでブロンズ像で殴られた頭は大丈夫なんでしょうか^^;
(動きからして問題なさそうですが~丈夫ですねっ)

キュッリッキちゃんの行動には私もびっくりです~Σ(>ω<) おおお
そうかぁ、今まで誰も教えてくれなかったのかも……??

ルーファスはその後、こっ酷く怒られたんでしょうねぇ~…(合掌)


ではでは~☆

2014-06-26 (Thu) 08:28 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: あ〜

八乙女さんこんにちわ~(*´∀`*)

>パパへのキスはほっぺたが限度だし、 そもそも好きな人の前ですることじゃないよって。

ひと目もはばからず(アルカネットの目の前)ちゅーしたいちゅーしたいとベルトルドが毎日のように言っていたので(笑) キュッリッキさんの感覚かなりズレてます|д゚)

ヴィヒトリはそこまで入れ込んではいないので、面倒というよりはどうでもいい、と考えてますね(^ω^)

フェンリルは神様なので、ちょっとそのへんは人間とは感じる箇所が違うかもしれません。
神と人間の恋愛観念は微妙に・・・ですきっと!w

2014-06-26 (Thu) 16:32 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: タイトルなし

ふぉるてさんこんにちわ~(*´∀`*)

シリアス路線からどんどん脱線していく御大なので、そのうちやることなすことギャグ仕様になるんじゃないかと思うくらい元気よく脱線していきますね(;^ω^)

>ところでブロンズ像で殴られた頭は大丈夫なんでしょうか^^;

鉄の表皮とはいいませんが(笑) あの程度なら大丈夫でしょう!w
普通の人間だったら血が噴水状態ですね~w アルカネットさん手加減してませんし☆

キュッリッキさんは思いついた感謝の気持ちを実行することだけしか頭になかったので、周りは全然見えてなかったのでしょう。
アルカネットに口移しされるまでキスなんて未経験でしたしね(・ω・)
キュッリッキに男なんてw とかファニーもハドリーも思っていたから、誰も教えてなかったでしょうw

ルーファスはプロレス技をかけられて、散々お仕置きされました(^ω^) なーむぅ

2014-06-26 (Thu) 16:42 | EDIT | REPLY |   

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