037 第四章 モナルダ大陸戦争 副宰相の悪巧み

最近PSYCHO-PASSというアニメにハマってます。ああいうストーリー大好きなんだけど自分じゃ書けません(笑)

ファンタジー大賞に向けてもう少し話を進めておきたかったんですが、暑くて脳内スロー稼働です。まあ、載せてあるぶんだけでも誰かに読んでもらえれば万々歳。

久しぶりに続きです。よろしくお願いします。暑ぃ・・・(;´д`)




ALCHERA-片翼の召喚士-
第四章 モナルダ大陸戦争 副宰相の悪巧み 037



 世界は3つの種族、3つの惑星で成り立っている。太陽を中心として、等間隔で3つの惑星が取り囲んでいた。

 惑星ヒイシはヴィプネン族が、惑星ペッコはアイオン族が、惑星タピオはトゥーリ族が治めている。

 それぞれの惑星には種族の統一国家があり、そして種族間で戦争が絶え間なく起こっていた。

 戦争の火種はアルケラ。神々と幻想世界の住人たちが暮らす惑星(せかい)だ。

 アルケラはどの惑星からも月のように最も近くに存在し、しかし誰も到達することができない。

 目に見える形あるものなのに、手が届きそうで届かない。

 人々は神の持つ超常の力に憧れ、欲し、求め続けた。

 やがて、ヴィプネン族は最大の禁忌を犯した。それがきっかけでアルケラは何処かへ消え去り、各惑星は甚大な被害を被り、多くの生命が失われた。もっとも被害が大きかったのは惑星ヒイシだった。

 それから一万年の時を経て、現在の世界がある。

「我々メリロット王家は失われた神王国ソレル、ヤルヴィレフト王家の末裔なのだ」

 白の混じった黒い髭をさすりながら、初老の男は厳かに呟いた。

「ハワドウレ皇国などと、どこの馬の骨とも知らぬ輩の興した国などに、いつまでも踏みつけられているなど耐えられぬ」

 男は水晶の床の上にたたずみ、ふと面を上げる。

 深い青の空間に真っ白な巨大な月がある。その月の明かりを受けて、床と木々の水晶が柔らかく煌いていた。

「返してもらう。なにもかも」



 惑星全土を揺るがすほどの、衝撃のニュースが駆け巡った。

 ソレル王国が周辺の小国と連合を組み、ハワドウレ皇国に宣戦布告を発したのだ。

 およそ千年前、惑星ヒイシには小国が複数乱立するのみだった。領土争いが絶えず、小競り合い規模の戦争は毎年のように繰り返されていた。

 ハワドウレ国という小さな都市国家を治めていたワイズキュール家が立ち上がり、ワイ・メア大陸をはじめ、モナルダ大陸、ウエケラ大陸、シェフレラ群島、フロックス群島にある国々を併呑し、ハワドウレ皇国というヴィプネン族の種族統一国家を成した。

 しかし数十年の時を経て、独自に国を興して離反するものたちも現れ、現在17の小国と5つの自由都市が公で認めらている。

 自由都市は他惑星にも存在し、自治が認められ他国の介入を許さない。援助を受けることも出来ないが、支配されることもなく、それは3種族の間で法的に認められていることだ。

 小国の場合は自由都市とは違い、長い戦争と外交を経て、ある程度の自治は認められていた。しかしハワドウレ皇国の属国であることに変わりはない。

 ソレル王国はモナルダ大陸の海岸一帯を治めていて、多くの遺跡が出土することから、学術的な研究員や学生が集い、モナルダ大陸のなかでは賑わいを見せる豊かな国だった。そんな平和とも思える国が、周辺小国と連合を組んでハワドウレ皇国に戦争を仕掛けるなど、誰が想像できただろう。

 ソレル王国を治めるメリロット王の評判はよく、善政を敷く良い王だと国民からも慕われていた。

「化けの皮が剥がれただけさ」

 メリロット王に向ける人々の反応を、そうベルトルドは一笑に付した。

 建国記念のパーティーで、皇都イララクスに招かれたメリロット王に一度だけベルトルドはまみえた事がある。その時に受けたメリロット王への感想は、

「食えないジジイ」

だった。

 いつか何かをやらかすだろう、そう予感していたが。

「見事に的中した。俺は予言スキル〈才能〉もあるのかもな」

 新聞を広げながら、ベルトルドは愉快そうに笑った。

 アルカネットは苦笑のみで応じて、手元の書類に視線を落とした。

「調子に乗って大々的に世界中に宣戦布告を発したようです。おそらく連合に引き込むために他の国々を煽動しているのでしょう」

「モナルダ大陸にあるベルマン公国、エクダル国、ボクルンド王国が連合に加わっているな。 シェフレラ群島のヤルトステット国が怪しい動きを見せているようだが」

「怪しいどころか資金を流していますね。表立って動いてはいませんが、傭兵ギルドに圧力をかけてソレル王国に兵力を流しているところもあるようです」

 ちらりとベルトルドを見ると、椅子に深くもたれかかり、腕を組んでニヤニヤしている。ああいう時は、何かとんでもない悪戯を思い浮かべている時だということを、アルカネットはよく知っていた。

「どうなさいます?」

「ふふん。いっちょ派手に手袋を投げ返してやる」

 そう言ってベルトルドは子供のように無邪気な笑みを浮かべた。



 花模様で編まれたレースをふんだんにあしらった、絹地の真っ白なワンピースに、白い靴を履いた金髪の少女は、石畳の上に佇んで首をかしげていた。

「似たような場所ばっかりで、ちっとも判んなーい。アルカネットさんどこにいるのかなあ」

 レースの手袋をはめた手を腰に当てながら、キュッリッキは足元の相棒を見る。

「フェンリル場所判る? 臭いとかで探せない?」

 フェンリルはじろりとキュッリッキを睨み上げると、フンッと忌々しげに鼻を鳴らした。

 その様子を見て、キュッリッキは眉を上げて愛らしく肩をすくめる。

「犬のマネをさせるなーって言いたいんでしょ。でもこんなとこで召喚使えないし、助けてよぉ」

 両手を合わせて頼み込むが、フェンリルはそっぽを向いて取り合わない。

「……フェンリルまだ拗ねてる」

 口の先をとんがらせ、恨みがましく文句を言うキュッリッキを無視して、フェンリルは突然駆け出した。

「あ、待ってよ! もぉ!!」

 相棒に無視され、さらに置いてけぼりにされかかって、キュッリッキは慌てて駆け出した。

 飾り気のない四角い白い建物の中に入ると、中も簡素で白い壁と赤いカーペットが敷かれただけの味気ない内装だった。受付らしきカウンターはあるが、そこには誰もいない。

 建物は5階まであり、咎められることもなく誰ともすれ違わず突き進み、殺風景な廊下に出たが、アルカネットの居場所が見当もつかない。小さなネームプレートをはめた似たような扉がずらりと並んでいるだけで、勝手に開けるのもはばかられた。

 ハーメンリンナの中で生命の危険にさらされることはないからと、召喚は極力使わないようベルトルドに約束させられている。色々なスキル〈才能〉を持つものが集まる場所では、誰に見咎められるか判らない。そのかわり、フェンリルは自由に連れて歩いても構わないと許可はもらっていた。仔犬の姿で。

 当初ペットらしく見えるようにと、首輪とリードをつけさせようとしたら、フェンリルが盛大に怒ってベルトルドに噛み付こうとした。それをキュッリッキに叱られて、以来ずっとへそを曲げているのだった。

 リハビリを続けたおかけで、運動機能もだいぶ回復してきたが、まだ全力で走ることはできない。

 ゆっくりと小走りにフェンリルを追い掛けると、廊下の奥から賑やかな聴き慣れた声が耳に飛び込んできた。

「むむっ?」

 首をわずかに傾げ、歩調を早める。フェンリルの駆け込んでいった部屋の入口に立つと、

「あー、ギャリー!」

 軽く飛び上がってキュッリッキは叫んだ。

「やっぱキューリか。なんでフェンリルが駆け込んできたのかと思ってたらよ」

 ソファに座ったままの姿勢で、顔の横までフェンリルを抱き上げたギャリーがにやりと笑った。

 すると突然室内が騒然と沸き立った。

「うお! ちょー美少女じぇねーか!!」

「こんな可愛い子と知り合いなのかテめえ」

「お嬢ちゃんお名前は~?」

 室内にいた数十人の軍服をまとった男たちが、目をギラギラさせながらキュッリッキの元に集まって人垣を作った。

 ギャリーを見つけたと思った矢先、いきなり見知らぬ男達に群がられ、キュッリッキはびっくりして目を見張る。

「キミ、ギャリーのなんなの?」

「あんなむさい野郎と何故知り合いなの?」

「めさ可愛いね~、カレシいるの?」

「え……えっと…」

 絶え間ない質問攻めに圧倒され、キュッリッキはどう対応していいか困り果て視線を彷徨わせた。邪なオーラがムラムラ漂ってきて気持ちが悪い。

 それをソファに座して見ていたギャリーは、やれやれと嘆息すると、フェンリルを頭の上に乗せて立ち上がった。

「おらおらおめーら、いい加減にしやがれ! ほらそこどけ」

 ギャリーは人垣を崩しながら突き進み、オロオロするキュッリッキを抱き上げると、そのまま廊下まで下がった。

「ウチのお嬢にちょっかい出すなスケベ共が!」

 キュッリッキの両脇あたりを掴んで抱き上げたまま、ギャリーはムラムラと沸き立つ野郎共に威嚇の視線を投げかける。

「ウチのって、その子おめーんとこの傭兵団のコなのか?」

「そうだよ」

 これには即ザワザワと批難の声が上がる。

「そんなに可愛い乙女に傭兵させてんの? えげつねーなおめーんとこは」

 みんな腕を組み揃ってウンウンと頷いた。その様子にギャリーは「ぶわっか!」と吐き捨てる。

「顔は関係ねーだろ。いいか、よく聞きやがれ。泣く子も黙らせる我らが副宰相兼総帥閣下が、目に入れても痛くないほど溺愛している雲の上の召喚士様だぞ、こいつは」

 ほらほら、と、ギャリーはキュッリッキをさらに持ち上げ、拝め!と言わんばかりにアピールする。まるでピカーッと後光にでも照らされたかのように、みんな眩しげに腕を眼前にかざす。キュッリッキは訳も分からずされるがまま目を白黒とさせていた。

「ちょっとでも手を出してみろ、副宰相兼総帥閣下と魔法部隊(ビリエル)の長官も加わって、天から雷降らせてくんぞ」

 サーッと音が聞こえそうなほど、一同の顔色が蒼白に塗り変わっていった。

「これは脅しじゃねえぞ? 事実だ。覚悟しとけ」

 にやりと笑うギャリーを見上げ、キュッリッキはパチクリと目を瞬かせた。



「ねえ、あの人たちなあに?」

 急におとなしくなった男たちは、すごすごと部屋の中に戻ってどんよりと凹んでいた。ベルトルドとアルカネットの二人は、ライオン傭兵団員以外にも脅し効果があるのかとキュッリッキは不思議がった。

「俺のもと同僚たちだ。期間限定で再度同僚になったがな」

 ベルトルドの命令で、ライオン傭兵団のほとんどはハワドウレ皇国の軍に一時徴兵されることになった。

 もともとギャリーはハワドウレ皇国軍の出身で、以前所属していた古巣に編入されている。

「しっかし何しに来たんだ? おめかししてこんなとこまでよ」

 キュッリッキの姿をつくづくと見て、ギャリーは内心眉をひそめた。

 可愛いしよく似合っているのだが、明らかにベルトルドとアルカネットの趣味に染まってしまっている。どこから見ても、貴族のご令嬢様だ。

 女の子だから綺麗でお洒落な格好をしているほうがいいが、いつもラフな服装をしている姿に見慣れているので、違和感を感じてしまう。

「アルカネットさんに呼ばれたの。お話があるから来てくださいって」

「アルカネットに?」

 ギャリーは軽くため息をつくと、廊下の窓の外を指さした。

「ほら、こっから見える、あの白い建物がアルカネットのいる魔法部隊(ビリエル)の本部だ」

 ギャリーの横に立って窓の外を覗き込み、キュッリッキはガッカリと肩を落とした。

「ここも白い建物なのにぃ…」

「外観は似ているからな。知らねー奴は勘違いする。デカイ看板がついてるわけじゃねーからな」

 むすっと顔を歪めるキュッリッキの顔を見て、ギャリーはにやりと口の端を上げた。

「素直にセヴェリさんに案内してもらうんだったあ」

 途中まではベルトルド邸の執事代理をしているセヴェリに連れてきてもらったが、一人でも大丈夫だと意気込んで無理矢理別れたのに、しっかり迷子になってしまっていた。

「この建物は、俺ら正規部隊の本部の一つだ。このあたりにゃ似たような建物が多いからしょうがねぇ」

 ギャリーは大きな掌で、キュッリッキの頭を軽く叩く。

「送ってやるから、ちょっと待ってろ」

「うん」

 小躍りして喜ぶキュッリッキをその場に残し、ギャリーは先ほどの部屋に向かう。

「ちょっとウチのお嬢を送ってくらぁ」

 入口から中へ大声で言いながら、二三やり取りをして、ギャリーはキュッリッキを連れて魔法部隊(ビリエル)の本部に向かった。



 屋敷に連絡を入れると、キュッリッキはすでに2時間前に屋敷を出ているという。

 腕を組みながら、オフィスの中をうろうろと歩き回り、アルカネットは何度も壁にかけられた時計を見る。

「まさか体調を悪くして、どこかで倒れているのでは…」

 それならば、何かしら騒動になって耳に届きそうなもの。

「誰かに拐かされた…」

 フェンリルがついていて、それはないだろうと判断する。

 2時間以上前に屋敷にいるキュッリッキに、魔法部隊(ビリエル)の本部へくるよう呼び出したのだがまだ到着していない。まさかセヴェリの案内を断って一人で歩き回り、迷子になっているとは思っていなかったので、色々と悪い想像が頭をよぎってアルカネットはうろたえた。

 すっかり元気になったとはいっても、アルカネットからしてみたら安心できない。

「………心配ですね」

 独り言をつぶやきながら、アルカネットはオフィスを出た。

「あっ」

 エントランスへ向かおうとした途中で、ちょうどギャリーとキュッリッキが並んで歩いてくる姿が見えた。

「リッキーさん!」

 アルカネットは大声を張り上げ慌てて二人に駆け寄る。

「アルカネットさん」

 やっと見つけた!と満面に浮かべ、キュッリッキはアルカネットに飛びついた。

 キュッリッキを抱きとめながら、アルカネットは心底安堵したように息を吐き出した。

「心配していたのですよ。もしや迷っていたのですか?」

「えへへ、迷子になっちゃった。でもギャリーに会えたから連れてきてもらったの」

 甘えるように嬉しそうに見上げてくるキュッリッキの顔を見て、アルカネットは苦笑を浮かべた。こんな表情(かお)をされては、小言も言えなくなってしまう。

「とにかく無事でなによりでした。ギャリーもご苦労でしたね」

「いえ。そんじゃ俺は戻ります」

「ギャリーありがと」

「おう、じゃあな」

 片手をあげてヒラヒラ振ると、ギャリーは足早に戻っていった。

 その後ろ姿を見送って、キュッリッキはもう一度アルカネットを見上げた。

「お話ってなあに?」

「実はリッキーさんにお願いしたいことがあるのですよ」

「お願い?」

「ええ。それをお話するのは、ベルトルド様のところへ行ってからにしましょう」

「…はーい」

 不思議そうに首をかしげるキュッリッキに微笑みかけると、アルカネットは腰を落としてキュッリッキと目線を同じくする。

「迷子になっていたのなら、たくさん歩いたでしょう。疲れていませんか?」

「ん…実はちょっと、座りたいかも…」

 はにかみながら申し訳なさそうに言うと、キュッリッキは小さく肩をすぼませた。

 その様子にアルカネットはより一層笑みを深めると、キュッリッキの額にキスをして身体を起こした。

「ラウンジへ行ってお茶をいただきましょうか。それから総帥本部へ参りましょう」

「はいっ」



 ハワドウレ皇国の皇都イララクスにある巨大な城砦に囲まれた街ハーメンリンナ。

 皇国を治めるワイズキュール家の住まう宮殿を中心に、東は貴族たちの住まう区画、西は資産家たちの住まいや高級店が並ぶ区画、南は軍事に関する施設や厩舎のある区画、北は政治や研究機関などの施設がある区画に分けられている。

 移動に使うための道路は歩行禁止で、ゴンドラを模した乗り物を利用して移動を行う。ゴンドラは鈍速で航行しているが、全て電子制御され事故は皆無だった。便利性よりも街の美観を重視したものである。

「馬を使えば糞尿を撒き散らし、道路は汚れ臭も溜まる。人が歩けば路上にゴミを撒き散らし見栄えがよくない」

 今から300年程前の宰相がそう嘆いて現在のシステムが導入された。

 しかし全てこの調子で移動がゴンドラのみに絞られると、南北区画に勤務する全ての人々が困るため、街の地下は広大な通路が張り巡らされ、多くの人々は地下通路を利用していた。

 区画内は歩行も許されているので、自由に闊歩できるが、別の区画へ行く場合は、ゴンドラか地下通路の選択に絞られる。

 キュッリッキは南の区画まではゴンドラでセヴェリと共にきたので、自由に歩き回ることのできる区画内は珍しく、あちこち目移りしてはしゃいで迷子になった。

「大きな建物がいっぱいだけど、ここにいる人たち、みんな軍服を着ているんだね」

「南区は軍関係のための区画ですから。この区画にいる人々は、殆ど軍人なのですよ」

「そっかあ~」

 黒や濃紺の軍服姿の人々が忙しなく歩いている。

 ギャリーがいた建物やアルカネットのいる建物の中も、軍服姿の人々しか見かけない。

 ラウンジで紅茶とケーキを運んできた給仕ですら軍服姿だったのには、キュッリッキは多少呆れてしまった。

 そういう場所だと言われてしまえば納得するしかないが、そのせいかキュッリッキの私服姿は異様に目立ってしまっていた。

 さらにアルカネットと二人でテーブルを囲んでいるのである。

 キュッリッキと同様に、アルカネットは自身の容姿にはまるで関心がない。「こういう顔で生まれてきた、以上。」と締めくくるくらいに無関心だった。

 実年齢よりも若々しく、整った優しげな風貌と、その名の通りの髪の毛と瞳の色が印象的な美丈夫だった。すらりとした体躯に長身で、ベルトルドと並んでハーメンリンナの貴婦人やご令嬢たちの憧れの対象でもある。

 ラウンジは1階にあり、エントランスホールと隣接しているので建物を出入りする人々の目につきやすい。二人の組み合わせは、質素とも取れる内装の建物内では一際華やいでいた。

 付近を通る魔法部隊(ビリエル)関係者は、長官に気づいて慌てて敬礼を送って緊張の表情を浮かべ、足早に去っていく。

 泣く子も黙らせる副宰相兼全軍総帥の片腕と言われ、魔法スキル〈才能〉では並ぶもののない実力を持ち、かつては尋問・拷問部隊の長官として軍内部に恐怖を轟かせた御仁である。そのアルカネットが幸せそうに美少女とテーブルを囲んでお茶を飲んでいる光景は、目の当たりにした全ての人々が、夢か幻の類としか脳内が処理しそうもなかった。

 キュッリッキは敬礼が向けられる度顔をあげていたが、アルカネットは愛おしげにキュッリッキしか見ていない。通りすがりの儀礼的な部下たちの挨拶など、どうでもよかった。美味しそうにケーキを頬張るキュッリッキの笑顔を見ていることのほうが、よほど重大事なのだ。

 洋梨のタルトとレアチーズケーキをたいらげたキュッリッキは、おなかが満たされて満足そうに椅子にもたれた。

 その様子を見て、アルカネットは微笑んだ。

 この頃元気で明るい表情を見せることのほうが多くなった。今も相変わらずベルトルドと共にキュッリッキの部屋で寝ているが、怪我で臥せっていた時のように夜中に荒れることも殆どなくなり、心身ともに健康を取り戻していた。

 アルカネットは懐から時計を出して時間を確認すると、組んでいた脚を解いて優雅に立ち上がった。

「そろそろ行きましょうか、リッキーさん」

「はーい。ごちそうさまでした」

 キュッリッキが立ち上がると、フェンリルも椅子から飛び降りて足元に寄り添った。

 アルカネットはキュッリッキの手を優しく引いて、魔法部隊(ビリエル)本部を後にした。


第四章 モナルダ大陸戦争 副宰相の悪巧み 続く



036 モナルダ大陸戦争 初めての誕生祝い

目次へ戻る



関連記事
ファンタジー小説

Comments 8

リョウコ

待ってましたーーーー!!
フェンリルのご機嫌も、気になりますが
キュッリッキちゃん、穏やかに眠れるようになってきていて
安堵しました。
今、妹宅からの書き込みで
興奮しながら書いています!
家に帰ったら、また返し読みしなくては♪

恋に、任務に、パパ達(笑)に
多忙な、キュッリッキちゃんの今後に
ますます、ガン見必至な展開ですね

妹宅のパソでは、顔文字がないので不便…
この興奮表現する、言葉が見つかりません~~~~!!

2014-08-24 (Sun) 16:31 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: タイトルなし

リョウコさんこんばんわ~(^ω^)

早速読んでくださってありがとうございますw
妹さんのお宅から読んでくださったのですね~。姪っ子さんたちと楽しく遊んだのでしょうか。
小さい子供は可愛いですよねw わたしも昔は従姉妹の子供の可愛さにメロメロしてました(笑)

4章から伏線の回収と追加をするかんじで話が進むので、続き早めに頑張ります><!

キュッリッキさん復活でバリバリ活躍予定ですw

2014-08-24 (Sun) 19:22 | EDIT | REPLY |   

八少女 夕

こんばんは

おお、だいぶ回復してきたのですね。
それはよかった。
川の字をやめてもらえれば、もっとはやく回復しそうな感じもするけれど、そういう問題でもないのか……。
フェンリルのすね具合も可愛いです。

そして前半の説明で、どことどう戦争なのかがちょっとわかってきました。
アルケラの話も少しだけでてきましたね。

ケーキ食べて幸せそうな様子も惜しいですが、だんだん本題に入っていく様子、緊張して見守る事にしますね。

2014-08-25 (Mon) 02:38 | EDIT | REPLY |   

ふぉるて

こんにちは~(。>ω<。) わーい続きだ~♪
(私も脳みそ溶けてます~ orz)

ふむふむ~…前半、周辺国や、環境などを色々と想像できました~ ^ω^

フェンリルに首輪は、さすがに彼(?)のプライドが許さないですよね>ω<;
中盤の迷子…私もデッカイ建物がある場所は良く迷うのでキュッリッキちゃんの気持ちがちょっぴり分かるかも…><;
広大な敷地ともなると、移動だけでも大変ですよね。
アルカネットさんとキュッリッキちゃんのティータイム…とっても絵になるだろうなぁ~…
(でも給仕さんも軍服かぁ~ >< )

さてさて…どんな感じに手袋を投げ返すのか…続きがドキドキです☆

ではでは~☆

2014-08-25 (Mon) 14:51 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: こんばんは

八乙女さんこんにちわ~(^ω^)

お誕生日からちょっと日数進めているので、だいぶ回復しておりますw

>川の字をやめてもらえれば、もっとはやく回復しそうな感じもするけれど

かなり影響あると思います(笑)
なにせ元気に寝返りがうてるというのに、両サイドがっちり挟まれてますから、それはもうストレスマッハだと思います☆

だんだんフェンリル人間くさくなっていってますw

4章で伏線回収しつつ新しい伏線と、苦手な構成にチャンレンジしてます>< なのでドン詰まってますが、今度こそ早めに次作アップするのでまたよろしくおねがいします(;・∀・)

2014-08-25 (Mon) 16:09 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: タイトルなし

ふぉるてさんこんにちわ~(^ω^)

犬扱いされるの嫌がってますからね、首輪にリードとか絶対断る!なのだと思います(笑)
でもすね出してるイコール人間くさくなってきている、て感じですw

>アルカネットさんとキュッリッキちゃんのティータイム…とっても絵になるだろうなぁ~…

素敵なおじさまと美少女のカップルですしね。良い絵になってますw
中身はどうあれ・・・w

ベルトルドさんのことなので、ひじょ~に子供っぽい方法でやり返すと思います☆

2014-08-25 (Mon) 16:15 | EDIT | REPLY |   

sado jo

PSYCHO-PASS

原作者の虚淵玄 氏は私が元スタッフだった所の同系らしいんだけど…
主人公達が納得出来ないまま、何かと闘わされている不条理な世界観。
いかにも…らしいプロットです。某所ではあんなのが多かったですね^^
私もあんなのを得意としてますが、恋愛物が苦手で困ってます(笑)

2014-08-27 (Wed) 16:44 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: PSYCHO-PASS

sado joさんこんばんわ~(^ω^)

PSYCHO-PASSのような近未来系で、なんかイカニモ系的にシステム絡み、犯罪、それを追う刑事、心理、メカニックなどなど、ああした世界観大好きでw
昔ダーティペアなんて、美女のおねーちゃんたちがアリエナイ格好で宇宙をまたにかけるアクションなんかも、舞台背景やメカニックも大好きでしたし、ウラシマンとかも設定とか面白かったですね~。

いっとき萌系アニメしかみかけなくて、ああもうアニメもダメだ・・・とか思っていたら、こういう設定や内容にこだわったものも出てきたんかと、今やっている新編集版で見ていますが面白いですw サイコサスペンスとか好きなんですけど、自分じゃかけないのでよけいハマりますw

ゼノギアスやゼノサーガなんかもツボでした(まだ未クリアだけど…)

恋愛モノも好きだけど書くのは苦手ですね~>< 書いてるこっちが恥ずかしくなるというか(笑) でも、バリバリのハーレクイン系も読みますww

2014-08-27 (Wed) 20:36 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply