046 モナルダ大陸戦争 合流

ヒロインお目覚めです。そして思いがけない行動に出ます。

周りが思っているほど、キュッリッキさんは甘やかされたくはないのです。

愛情の押し売りはほどほどにね(・ω・)て感じの今回のお話です。



ALCHERA-片翼の召喚士-
第四章 モナルダ大陸戦争 合流 046



 およそ200人近い敵をイラアルータ・トニトルスの雷撃で瞬殺したアルカネットは、真っ黒な焼死体の溢れる中を頓着せずにまっすぐ歩いてきた。

 攻撃魔法の中で雷属性がもっとも威力があり難しいとされている中で、あれだけの雷撃を扱えるのは、世界広しといえどアルカネットだけである。それでも破壊の規模からして力を抑えているのは明らかだった。

 ダエヴァたちはすぐさま姿勢を正して敬礼した。ベルトルドの私兵にも近い存在である彼らには、アルカネットも上官のようなものだった。

 メルヴィンとルーファスは面食らったようにアルカネットを見ていたが、慌てて姿勢を正した。

 そんな彼らには目もくれずまっすぐルーファスに近づくと、何も言わず奪い取るようにしてキュッリッキを自らの腕に抱き上げた。

 愛しい少女の身体のぬくもりを、手袋越しに温かく感じながら、ぐっすりと眠っている顔を見つめそっと頬ずりした。

「建物まで壊すな馬鹿者!」

 アルカネットに気を取られていた一同は、轟くような怒号にハッと顔を向けた。

 真っ白なマントをひるがえさせながら、ベルトルドがむすっとした表情(かお)で大股に歩いてくる。敵のいた周囲のステーション以外の建物は、イラアルータ・トニトルスの雷撃で木っ端微塵に吹き飛んで、瓦礫からは煙がたなびいていた。

「私に関係のあるものではありませんから、どうでもいいのですよ」

 キュッリッキを優しく見つめながら、そっけなく言い放つ。

「あとでリューにどやされるのは俺なんだぞ全く」

 一同の前に立つと、両手を腰に当ててフンッと鼻息を吐き出した。

「ご苦労だったなお前たち。アサシンどもがだいぶ徘徊してるようだが、感知し次第遠慮なく殺ってしまえメルヴィン」

「あ、はい」

「その他雑魚どもはだいたい始末はついただろう。汽車へ奇襲を仕掛けてきていた連中の掃除も終わったようだ」

 業務連絡的に口早に言うと、アルカネットの腕の中で眠り続けているキュッリッキに目を向け眉をしかめた。

「また薬で眠らせているのか?」

「私の特別調合による魔法薬で」

 アルカネットの答えにベルトルドは深々とため息をついた。

「あれほど薬で眠らせるなと、言ってあるだろう」

「彼女はまだ万全の体力ではありません。無理をさせれば身体に障ります」

「無理な旅にならないように護衛も付けてある。この程度は問題ないんだ」

「万全ではないと、言ったはずですよ。無理をさせて身体を壊したあとでは遅いのです。もう苦しい思いはさせたくありません」

 まるで取り付く島もないアルカネットに、ベルトルドは困った顔でため息をついた。なおも言い募ろうと口を開きかけ、唐突にベルトルドは口を閉じた。

 あまり部下たちの前でする問答ではないと気づいたからだ。

 肩でひと呼吸置くと、くるりと踵を返す。

「汽車に乗るぞ」

 一言だけ言って歩き出したベルトルドに、皆頷き従った。



 出入国管理や税関などのあるもう一つのステーション内は、派手な魔法戦が行われたようで見るも無残な有様と化していた。

「汽車は大丈夫なようだな!」

 ホームに立ちふんぞり返りながら汽車を見上げ、ベルトルドは満足そうに頷く。ダエヴァに接収させた汽車は、このモナルダ大陸でも格式高い屈指の高級汽車だ。

 そこへダエヴァの軍人たちが数名駆け寄ってきて敬礼した。

「すぐ出せるか?」

「申し訳ありません、まだ少しゴミがうろついております閣下」

「フンッ、随分こちらに雑魚戦力を派遣してきているんだな。――メルヴィン、アサシンの気配はどうだ?」

「ステーション内には存在していません」

「パウリ」

「はい」

「部下たちと掃除しておけ、汽車を出す」

「承りました」

 メルヴィンたちと共にきていた少佐――パウリ少佐は、優雅な敬礼を残して部下たちと共に敵のいるほうへと消えていった。

「あいつはな、昔マリオンの恋人だった男だ」

 にやりとベルトルドが言うと、ルーファスとメルヴィンはびっくりしたように顔を見合わせた。



 広々とした個室に区切られた車内は、随所にダエヴァが配置され物々しい雰囲気に包まれていた。

 特別車両の特別室に通されたベルトルドたちは、赤いビロード張りの座席にベルトルドとアルカネットが並んで座り、向かい側にルーファスとメルヴィンが座った。座席自体もひじょうにゆったりと作られていて、大人が四人ずつ並んで座っても十分余裕だった。

 ガラス張りの扉の外には二人のダエヴァが立って警備にあたる。

「フェルトまでは5時間ほどで着くらしい。奇襲があっても俺がいるから問題ない」

 座席に深々と腰をかけ、長い脚を組んでベルトルドはにっこりと微笑んだ。そして隣に座るアルカネットの腕の中で、微動だにせず眠り続けるキュッリッキの頬にそっと指先で触れた。

「いい加減目を覚まさせてやれ。少しのんびりとした汽車の旅だしな。こういう上等な汽車はリッキーも初めてだろうたぶん」

 それに、とベルトルドは車窓に目を向ける。

 半開きにされた窓枠に、フェンリルがぶら下がって外を珍しそうに見ていた。顎と前脚で窓枠にしがみついて、器用にぶら下がっている。そのあまりにも面白いフェンリルの行動に、ベルトルドは吹き出したいところを必死に我慢した。フローズヴィトニルはルーファスの膝の上で丸くなって眠ったままである。

「愛らしい寝顔をずっと見ていたかったのですけれど……」

 左腕でキュッリッキの身体を支えながら、右手を顎に添えると、優しく唇を重ねた。

「あああああ!!」

 隣でベルトルドが素っ頓狂な絶叫をあげた。

「どさくさにまぎれてお前は何をしているっ!!」

「眠り姫の眠りを解くのは王子のキスと、相場が決まっているでしょう」

 輝くばかりの笑顔でさらりと言われ、きぃいいいっとベルトルドは身体を戦慄かせた。

 魔法使いの中には薬学の心得があると、魔法と組み合わせた特別調合の薬品をいくつか作り出せる者がいた。そして魔法のかかった薬の効果を打ち消すことができるのは、その薬を作った魔法使いだけである。当然アルカネットは薬学にも精通していた。

「俺が消毒してやる! リッキーを寄越せ」

「穢れるの間違いでしょう! 嫌ですよ全く」

 顔を突き合わせて子供じみた喧嘩を始めた二人を、ルーファスとメルヴィンが呆気に取られてみていると、アルカネットの腕に中でキュッリッキが小さくくぐもった声をあげた。

「ん……」

 それに気づいたアルカネットとベルトルドが勢い込んで覗き込むと、睫毛を僅かに震わせながらキュッリッキが目を覚ました。

 目を覚まして暫くは、何度か目を瞬かせて辺りをキョロキョロと見ていた。状況がうまく判断できないようで、やがてアルカネットに気づいて首を傾げた。

「アルカネットさん?」

「はい。おはようございます」

 霞がかかったようにぼんやりとする頭で、キュッリッキはふとメルヴィンが視界にいないことに気づいて、不安そうにアルカネットを見上げた。アルカネットの正面に座っているが、腕に抱かれている態勢では死角になってみえていなかった。

 オーバリーに向かう汽車に乗っていた。アルカネットもその時にはいなかったはずなのに、何故アルカネットがいるのだろうか。どうしてこんなに意識がぼんやりとしているのか。

 ゆっくりと記憶をたどり、やがて食後に酷く眠気に襲われたことを思い出した。

「アタシご飯食べたあとすごく眠くなったの。ずっと大丈夫だったのにどうしてなんだろう、なんでこんな寝ちゃったんだろう」

 わけがわからない、といったように多少パニック気味にキュッリッキは泣き声をあげた。

 まだ怪我で臥せっていた頃、いきなり眠気に襲われることがよくあった。そのときは体調がよくないためだと思っていたので気にしたことはない。しかし今は旅ができるほど元気になった。自分の体調は自分がよく判っているハズなのに。

「アルカネットの奴が眠り薬を盛ったんだ」

 横目でアルカネットを睨みながら、先を越された仕返しとばかりにベルトルドが嫌味たっぷりに含んで言う。

「え? いつ?」

「汽車の中でキューリちゃんが食べてたサンドやケーキに入ってたみたい」

 おそらくはと肩をすくめながらルーファスが告げた。

 キュッリッキはしばらく無言でアルカネットの胸元のスカーフを見つめていたが、ふいに悲しげにアルカネットを見上げた。

「どうして? アタシ、なんで寝なくちゃいけなかったの?」

 あまりにも悲壮漂う目で問われ、アルカネットは一瞬言葉に詰まった。

「怪我は治ったし、ちゃんとお仕事できるようにリハビリ頑張ったし、ヴィヒトリ先生も大丈夫だって太鼓判押してくれたんだよ? アタシもう大丈夫なのに――」

「すみません、でもまだあたなの身体は万全とは言えません。エルアーラに着けば休むことは出来ないのです。休める今のうちに身体を休めておかないと」

 労わるように言われたが、キュッリッキはイヤイヤをするように激しく頭(かぶり)をふった。

「アタシ大丈夫なんだから! 今までだって、ずっと一人で頑張ってきたんだからこのくらいもうどうってことないもん!!」

「リッキーさん」

「おろしてっ!」

 いきなり暴れるように身をもがき、キュッリッキはアルカネットの腕から床に転げ落ちてしまった。

 床に激しく身体を打ち付け、キュッリッキは一瞬息が詰まって小さなうめき声をあげた。

 4人とも驚いて慌ててキュッリッキを助け起こそうとしたが、その小さな細い肩はみんなの手を激しく拒絶するように強ばっていた。4人とも思わず手を止めてしまったほどである。

 うつ伏せになって倒れたまま、キュッリッキは木の床を凝視していた。

 何故か悲しくて、たまらなく悔しくてしょうがない。

 確かに自分は非力で弱い。フェンリルやアルケラの住人たちがそばにいなければ、ただの無力な小娘だ。武器も扱えず腕力もない。それほど運動力があるわけでもないし、出来ないことのほうが多かった。

 それでも幼い頃から必死で生きてきた。フリーの傭兵となって大人たちに混じりながら、様々な戦場を渡り歩き仕事をこなしてきのだ。それらの経験から、キュッリッキにだって傭兵としての矜持はある。

 元々突き放されて育ってきたのだ。親に捨てられ同族に見捨てられ、それでも強く生きてきたつもりだ。チヤホヤ甘やかされることには慣れていないし、こんな形で甘やかされたくはない。

 アルカネットが自分に対してどこまでも優しいのは理解しているつもりだ。誰よりも心配してくれて、何事にも気を遣って愛情を注いでくれる。でも今回したことは受け入れられない。

 傭兵としての矜持が傷つけられて、涙があふれるほど悲しかった。どんなに頼りなく見えても、自分は傭兵なのだ。もっと信じて欲しかった。

 ぽたぽたと涙を床に落とし続けるキュッリッキを、そっと抱き起こしたのはメルヴィンだった。

 メルヴィンは何も言わなかった。力強くキュッリッキを抱き起こすと、服のホコリを払って自分とルーファスの間に座らせ、ハンカチを取り出し涙をそっと拭った。

 行動の一つ一つに優しさと労りが込められているのが感じられ、キュッリッキは嬉しかった。

 静かで穏やかなメルヴィンの顔を見つめ、ふいにしゃくりあげたキュッリッキは、メルヴィンの胸に抱きついて大声をあげて泣いた。

 メルヴィンは優しくキュッリッキの身体を抱き寄せると、そっと頭を撫でてやった。

 キュッリッキが何に傷ついて泣いているのかを、メルヴィンは正確に理解していた。だから今は余計な言葉などいらない。

 二人の様子をホッとしたように見つめていたルーファスは、どんよりとした気配に気づき、前を向いて「ゲッ」とドン引きした。

 捨て犬のような表情を浮かべた中年が二人、恨めしそうにメルヴィンを睨みつけていた。



 客室の中の様子に、声をかけるタイミングを待っていた男は、コホンと軽い咳払いのあと、汽車の発車を告げた。

 この汽車の中のダエヴァを仕切る初老の男で、階級は大佐、名をヨアキムといった。

 今にも噛みつきそうな表情(かお)でベルトルドが振り向いて頷くのを見て、ヨアキム大佐は背筋が凍る思いだった。普段あんな表情のベルトルドなど見ることは出来ないので、貴重な体験の部類に入るのだろうが、恐ろしくて何度も見たいものではなかった。

 これから国境を越えて敵地ボルクンド王国へと入る。オーバリーにあれだけの数の兵士たちを送り込んできていた逆臣軍、油断はできなかった。

 ボルクンド王国領内のほぼ中央に、目指すエレギア地方はある。エルアーラと呼ばれる古代遺跡のある土地で、その近くのフェルトという街にベルトルドたちを送り届けなければならない。

 順調に進めば約5時間ほどの旅程だが、敵地を突き進むのだから、奇襲はあるだろう。

 魔法使いやサイ〈超能力〉使い、普通の戦闘員程度は難なく排除可能だったが、アサシン相手になるとダエヴァでも手に余る。

 唯一感知できるのはメルヴィンだけだ。

 アサシンはメルヴィンに任せるとしても、ほかの敵はダエヴァで全て処理しなければならない。

 ヨアキム大佐は姿勢を正すと、指揮をとるためにその場を後にした。

 
第四章 モナルダ大陸戦争 合流 続く



045 モナルダ大陸戦争 オーバリーの災難

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Comments 2

ふぉるて

こんばんは~(*^ ^*)

自分をもっと信じてほしかった、って思うキュッリッキちゃんの気持ち、なんとなくわかるかも…なんて思いました。
気を使ってくれているのだと分かってはいても、
仲間の中で、なんとなく自分だけが外されてるような気分になっちゃったりするんですよね…(考) >ω<

メルヴィンの、無言だけど思いやりの篭った さりげない対応、いいなぁ~~ >ω<
(御大とアルカネットさんの視線が怖い…笑)


ではでは~☆

2014-10-23 (Thu) 23:13 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: タイトルなし

ふぉるてさんこんばんわ(^ω^)

過保護にされるあまり、仲間として戦力としてしっかり認められているんだろうか? という不安はありますね~。これまで仲間を持ったことがないキュッリッキさんだけに、疎外感は感じやすいと思います。
アルカネットさんがああも過保護になるのも、ちゃんとした理由があるんですが。

御大のストレスというか欲求不満は、周りが思っているよりはるかに高まっています(笑)
次回そのわがままが噴出しちゃいますw

2014-10-24 (Fri) 18:58 | EDIT | REPLY |   

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