048 モナルダ大陸戦争 合流

とても41歳のおっさんとは思えませんが、当人大いに真面目に癇癪起こしています。

子供のように癇癪起こしています。

千と千尋の神隠しを必死に見ていたら金曜日内に間に合わなかった(ノ∀`) シリーズの中ではラピュタの次に好きなのだ。宮崎アニメは嫌味なほど女の子はみんなしっかりしている中で、千尋だけはどこか頼りない年相応のところが好感もてます(笑)

久々にちょっと長めになってます。



いつものように主線画じゃなく、こういうふうにごちゃごちゃ引っ張ったような線画絵。はっきり言う。

わたしには描きづらい!w アート崩れみたいでなんかダメだ~!

なんでこんな絵に? 読めば判ります(きりっ)




ALCHERA-片翼の召喚士-
第四章 モナルダ大陸戦争 合流 048



 プラットホームもない田舎駅に到着した汽車は、無事役目を終えてホッとしているようにルーファスには見えた。

 ボルクンド王国のほぼ中央に位置するエレギア地方にある小さな町フェルト。目立った産業は何もなく、牧場と麦畑を有する土地が周辺にあるだけの辺鄙な町だった。

 フェルトから数十キロ離れたところにあるそこそこ大きな街へは、乗合馬車を使って行く。こんな上等で立派な汽車が乗り入れることなどまずなかった。

 都会のステーションに比べると、どこの更地だろうと思えるほどお粗末な駅には、ハワドウレ皇国の特殊部隊ダエヴァの軍人たちが、所狭しと詰めている。

 世界中にその力を轟かせた召喚士の少女キュッリッキ、ハワドウレ皇国副宰相兼全軍総帥であるベルトルド、魔法部隊長官アルカネット、この3人が辺鄙な田舎町に到着したことで、町の中は一気に厳戒態勢になった。

 すでに陽は沈み駅は真っ暗で、魔法使い達による魔法の光が柔らかく辺りを照らしていた。

「足元に気をつけてください」

 先に降り立ったメルヴィンが、両腕を伸ばしてキュッリッキが汽車から降りるのを手伝っている。手伝ってもらうのは嬉しいのだが、恥ずかしくてまともにメルヴィンの顔も見られないキュッリッキは、危なっかしくメルヴィンの腕を掴んですとんと降り立った。

「皆様長旅お疲れ様でした」

 四角い積み木のような顔をした男が、敬礼と共にベルトルドたちの前に立った。

「おう、町はどんな感じだ? アルヴァー大佐」

「はっ。町民は全て役場にまとめ軟禁してあります。一人も漏れ出ないよう役場の敷地には結界を張っておきました。町にはダエヴァが全て配置されております。閣下や皆様の宿泊される宿も抑え、安全はチェック済みです」

「判った、ご苦労」

 アルヴァー大佐は折り目正しく敬礼した。

 それを見やって、ベルトルドは小さく首をかしげる。

「アルヴァー」

「はい」

「お前、ますます顔が四角くなったな」

「は、はあ……」

 余計なお世話なことを真顔で言われて、アルヴァーは困ったように目を瞬かせた。

「こんなところでなに部下イジメをしているんですか。早く宿に案内してもらいましょう、いつまでリッキーさんを立たせておくおつもりですか」

 背後からため息混じりに叱られて、ベルトルドはいたずらっ子のように首をすくめた。

「案内しろ」

 突っ慳貪にベルトルドに言われ、アルヴァーは困った顔のまま、手振りで道を示した。



 先ほどアルヴァー大佐が説明したように、町民は全て役場に集められて留守にしているため、店も民家も灯りはともっておらず、ほとんど街灯も設置されていないので町内は真っ暗だった。配置されているダエヴァたちは明かりを一切つけていない。ベルトルドやキュッリッキが歩きやすいように、アルカネットがいくつかの魔法の光で路上を照らしながらの移動になった。

 駅から歩くこと10分ほどで一行は宿に到着した。

 町の規模からして不釣り合いな貴族の館のような外観の、立派な二階建ての宿だった。

 ベルトルドは意外そうに見上げると「ふーん」と若干感心したように頷いた。

「エルアーラに一番近い町なので、ケレヴィルの関係者もよくこの宿を利用していたそうです」

「ほほう、ウチの連中が世話になっていたのか。………それはさぞはずんでいったんだろうな。あいつら、高給取りだから」

 高給、の部分を強調して言うベルトルドに、アルヴァー大佐は僅かに首をすくめた。

「給料ばかり吸い上げて、肝心の遺跡を乗っ取られるんじゃ減給モンだな」

「そうですねえ。給料の見直し案を提出しておきましょうか」

 アルカネットも涼しい顔でさらりと無慈悲なことを言ってのけ、さらにアルヴァー大佐は身を縮こませた。顔は四角くても心はデリケートなようだ。

「皆様中へ……」

 アルヴァー大佐に恐る恐る宿に入ることをすすめられ、ベルトルドは小さく頷いて宿に入っていった。そのあとにアルカネット、ルーファス、メルヴィンと、メルヴィンに手をひかれたキュッリッキが続いた。



 宿に入ると玄関ホールの一角に設えられたソファから、二人の人物が立ち上がって一行を出迎えた。

「皆さんご無事でしたか」

 簾のような長めの前髪を鬱陶しそうに手で払いながら、カーティスが安堵した表情を浮かべて歩いてきた。

「カーティス、シビル」

 ルーファスが嬉しそうに足早に近寄って、カーティスと握手した。シビルには片方の手を上げて挨拶する。

「ダエヴァの皆さまからベルトルド卿とあなた方が一緒だと聞いていたので、それはもう心配していました」

「こら、なんで俺と一緒で心配するんだ」

 すがさずムスッとした表情でベルトルドが反応する。

「いえ、派手に街を破壊したり汽車で大暴れしているんじゃないかと想像していたもので」

 笑顔をひきつらせながらカーティスが言うと、ベルトルドは僅かに眉をヒクつかせて黙り込んだ。

「図星ですか……」

 シビルが呆れたように小さな声でつっこむ。

「メルヴィンも大変でしたね。アサシンが相当送り込まれていたそうですから」

「そうでもないです」

 差し出されたカーティスの手を笑顔で握り返す。もう片方の手はまだキュッリッキの手をしっかりと握り締めていた。

「キューリさんも色々大変でしたね。式典の見世物になったり命を付け狙われて」

 メルヴィンの横に立って無言で俯いたままのキュッリッキに笑いかけると、顔を真っ赤にして小さく頷くだけの反応が返されて、カーティスは僅かに首をかしげた。

 メルヴィンに手を握られただけでこんな状態になるなど知らないカーティスとシビルは不思議がったが、念話でルーファスから簡単に説明されて、笑いをこらえて頷いた。

「俺は腹が減った!!」

 部下たちの再会劇を眺めつつ、両手を腰にあてたベルトルドが子供のように喚いた。

「厨房担当者はどうなっているのですか?」

 アルカネットがアルヴァー大佐に問うと、

「それが……申し訳ございません、調理担当者をこちらに派遣するのを忘れておりまして……」

「おやおや…」

 やや拍子抜けしたようにアルカネットはため息をついた。

 ダエヴァには腕のいい料理スキル〈才能〉を持つ者が幾人もいるのだが、こちらに回されていないのは残念だった。

「あなた方のように適当な食事をさせるわけにはいきませんね。私が何か作ります。皆さん食堂で待っていてください」

「早めに頼む」

「アルカネットさん料理も出来るのか、凄いな」

 ルーファスが感心したように言うと、ベルトルドが妙に得意げに笑みを浮かべた。

「料理スキル〈才能〉持ちには劣るが、家庭料理は得意だぞあいつは」

 アルヴァー大佐に案内されて厨房のほうへ歩いていくアルカネットの後ろ姿を見送りながら、ルーファスたちは思わず尊敬の眼差しをその背に投げかけていた。



 カーティスの案内で食堂に行くと、真っ白なクロスのかかったいくつかの丸テーブルに各々着席して一息ついた。

 ベルトルドとキュッリッキが共についているテーブルへカーティスもつく。あとでアルカネットもくるだろうこのテーブルにつくのは不本意だったが、情報交換をするために仕方なくといった表情を露骨に浮かべたまま座っていた。

「お前は皮肉と嫌味だけは露骨だな全く。で、いつここへ着いたんだ?」

「意思表示は判りやすくがモットーです。到着は昨日の日中に。私とシビルは第一正規部隊と共に行動していたので、ヘリクリサムへ早い時点で飛んでました。その直後に小競り合いが始まってしまって、抜け出すのに苦労しましたよ」

 溜息とともに肩をすくめるカーティスをちらりとみやり、ベルトルドはテーブルに両肘をついてあごの下で手を組んだ。

「カルロッテのババアが奮戦してるんだったな。男遊びが酷すぎて嫁にも出せないから婿候補をと皇国の社交界に密かに打診があったんだが、陣頭指揮などとやらかしている様子から、誰にも相手にされなかったと見える。鬱憤ばらしに巻き込まれた軍隊が憐れだ」

 バカにするように鼻で笑い飛ばす。

「それでエクルースの奴が引っ張り出されたわけか」

「はい。ベルトルド卿と同じようなことを言って憮然となさっていました。アルイールでブルーベル将軍と任務にあたっておられたようなので」

「そりゃそうだろう。ババアの子守で引っ張り出されたとかいい面の皮だからな」

 口を挟むことなく黙って聞いていたキュッリッキは、酷い言われようなカルロッテ王女に、今度は妙な同情心が芽生えてしまった。

 メルヴィンが庇うような発言をしたときは軽い殺意が沸き起こったが、こうして別人が話す中で言われ放題だと、可哀想に思えてしまうから現金だ。

 自分の都合のいい気持ちに嫌気がさして、こっそりため息をついたとき、食堂に良い匂いが漂ってきた。

「お待たせしました」

 アルカネットが大きなワゴンを押しながら食堂へ入ってきた。

「きたきた」

 ベルトルドが嬉しそうに微笑み、アルカネットは手早く皿を皆の前に置いていく。

 少し大きめのハンバーグをトマトソースで煮込んでチーズがかけられている料理と、こんがり焼けたマフィンの上に、ポーチドエッグとスモークサーモンを乗せた料理の皿二つが並べられ、香る湯気が皆の食欲中枢を仰ぎ立てた。

「温かいうちに召し上がってください」

 アルカネットがすすめると皆料理にかぶりつき始めたが、キュッリッキだけはじっと皿を見つめて手を膝に置いたままだった。それに気づいたアルカネットが、心配そうに顔を曇らせると、キュッリッキの傍らに膝をついた。

「あまりお好きではありませんでしたか? 何か違うものを作ってきましょうか?」

 アルカネットとは目を合わせようともせず、硬い表情のまま黙って首を横に振った。ハンバーグも大好きだし、何よりエッグベネディクトはキュッリッキの好物の一つだ。それを知っているアルカネットが、わざわざキュッリッキの好みの料理を用意してくれたのだ。

「食欲がありませんか? また体調が悪いのでは……」

「薬が入ってるかもしれないから食べないんだもん」

 むすっとした表情でキュッリッキが言うと、ベルトルドは「ふふん」と嫌味ったらしく笑う。

「自業自得だな」

 空になったワイングラスをカーティスの前にちらつかせ、おかわりを催促しながらベルトルドがここぞとばかりにアルカネットへ嫌味を吐いた。「やれやれ」といった表情でカーティスがワインを注ぐ。

「昼間のことはすみませんでした。この料理に薬は入っていませんから、安心して食べてください」

 心底申し訳なさそうに見上げてくるアルカネットの顔を極力視界に入れないように、キュッリッキは頑なに意地を張り続けた。

 そんなキュッリッキの様子を見て、腰を浮かせようとしたメルヴィンを、ルーファスが素早く手振りで止めた。そしてそのまま席を立つと、アルカネットの反対側に膝をついた。

「キューリちゃん、確かに薬で眠らせるのはオレも良くないことだと思う。けどね、アルカネットさんは悪気があったわけじゃないし、むしろキューリちゃんを心配して心配のあまりにでちゃった行動だから。それは、キューリちゃんも判ってるだろう?」

 キュッリッキは表情はそのままに小さく頷く。

 そんなことは判っているが、それでもやはり意地が勝ってしまう。

「あんなに謝っているし、こうしてキューリちゃんの好きなものを急いで作ってくれたんだから、ちゃんと食べなきゃ」

「でも……」

「オレたちもアルカネットさんも、そしてキューリちゃんも、仲間なんだよ。仲間でも時には意に沿わないことをしたりされてしまうことだってあるし、失敗だってある。仲間だからってなんでも判り合っているわけじゃない。でも仲間だからそういうのもひっくるめて許す心も持たないと」

「仲間…」

「うん、仲間。これからずっと一緒にやっていく仲間なんだから。ね、だから許してあげよう?」

 ルーファスは辛抱強く努めて優しく諭す。

 今までは、すぐに解散してしまう程度の仲間付き合いはあった。でもその時は、とくに『仲間意識』などもたずとも良かった。所詮一時手を組んだだけの相手だったから。もしかしたらそういう一時でも、相手を思いやる心は必要だったかもしれないが、キュッリッキはそういうことには疎かった。

 これからずっと一緒にやっていく仲間――この言葉はキュッリッキの心に強く響き染み渡った。

 何かにつけて甘やかしてくれたり良くしてくれたりもしていたが、でもいつかは別れる人たちだと、心のどこかでそう思う自分がいた。いつまでも一緒にいられるわけじゃないんだ、短い間だけなんだからと。だから仲間意識なんて必要ない、イラナイものだったはずなのに。

 キュッリッキはルーファスを見る。いつもの優しい人懐っこい笑顔が向けられていた。

 そしてアルカネットを見ると、自分の行いを後悔するような、申し訳なさを満面にたたえた寂しげな笑みを浮かべている。

 再び膝に視線を落とし、キュッリッキは小さく頷いた。

「……もうしないって、約束してくれたら、許してもいいよ」

 どこか拗ねたように言うキュッリッキに苦笑して、ルーファスはヨシヨシと頭を撫でてやった。アルカネットもホッとしたように破顔すると、

「ありがとうございます。さあ、冷めないうちに」

 そう言って、嬉しそうに笑んで立ち上がった。



 お腹も膨れて食欲は満足したが、ベルトルドは不機嫌だった。

 キュッリッキが意地を張り続けているのを見かねたメルヴィンを阻止してルーファスが出しゃばったのも、キュッリッキに想いを寄せられているメルヴィンに対してアルカネットが嫉妬しているのが判っていたからだ。

 もちろんベルトルドも嫉妬しているのだが、愛するキュッリッキがそれで幸せなら仕方がないとも思っているのでより胸中は複雑だ。そんなわけで、ちょっとした修羅場でも起きてくれるとせいせいする、とか子供じみたことを考えていたので、丸くおさまり面白くないのだ。そしてアルイールからずっと、キュッリッキとベタベタ出来ない状況にも限界が見えて、さらに不機嫌度数は上がりまくっていた。

 食事もすんで紅茶が出されたところで、アルヴァー大佐が部屋割りとカギを持参して食堂にやってきた。

 宿の特別室は2部屋しかなくて、そこをベルトルドとアルカネットが指定され、他の部屋をそれぞれライオン傭兵団の皆にあてるように整えたと言われ、いきなりベルトルドがテーブルをバンッと叩いた。

「その部屋割り気に入らん!!」

「……はあ?」

 特別室の何が気に入らないのか見当もつかないアルヴァー大佐は、目を白黒させて四角い顔に困惑を浮かべた。

「リッキーと俺は一緒に特別室だ」

「えっ!?」

 意表をつかれたアルヴァー大佐は、慌ててキュッリッキとベルトルドを交互に見て露骨に困惑を浮かべた。

「いや、その……しかし妙齢のご婦人と一緒のお部屋は……」

「妙齢でも高齢でも関係ない! 俺はリッキーと一緒じゃなきゃ寝ない!」

「寝なきゃいいんですよ」

 ティーカップを口に運びながら、すかさず冷たい口調でアルカネットが言う。

「喧しい!!」

 噛み付きそうな顔でアルカネットを睨みつけたあと、ベルトルドは椅子ごとキュッリッキのそばまで寄ると、いきなりキュッリッキを抱きすくめた。

「俺は絶対にリッキーと一緒に寝るんだっ! 誰にも邪魔はさせないぞ!! もし邪魔をするなら全員この世から抹殺してくれるわ!」

 アルカネットは額を抑えてため息をつき、ライオン傭兵団の皆は各自思い思いの表情を浮かべて呆気にとられている。アルヴァー大佐は事情がさっぱり飲み込めないようで、どう答えていいか返事に詰まって大汗を浮かべていた。

 当のキュッリッキは、

(まぁた始まった……)

 ベルトルド邸ではほぼ毎日の恒例行事なので、別段驚いても呆れてもいない。「全くもー」という表情でおとなしくされるがままでいた。そしてチラリとアルカネットを見る。こういうことをベルトルドが喚きたてると、一緒になって同じことを言い出すはずなのに、今日に限って黙っている。しかしその青紫色の瞳には大いに不満が滲み出していた。

 まさか今日のことで反省して遠慮でもしているのかしら? とキュッリッキは思っていたが、アルカネットの考えは全然違っていた。

 ベルトルドがこういう子供じみた態度を前面に押し出しているときは、望みを叶えてやらないと、本当に殺人行為に移ることを知っているからだ。過去3回ほどそういう場面があり、リュリュと二人がかりで押さえ込むのに苦労したのだ。そうした前科があるので、まかり間違ってキュッリッキに手をかけられたら目も当てられない。空間転移で暴れられたら助けようがないからだ。

 ただの癇癪ならいいが、ベルトルドの癇癪は悪い意味でレベルが違う。

 キュッリッキに対しては一線を実に良く守っているので、嫌がるであろう彼女を無理やり押し倒すことはしないと判断し、アルカネットは忍耐を総動員して我慢していた。本当ならベルトルドを永遠に黙らせてでもキュッリッキと一緒に寝たいのが本心だ。

 頑として譲らないベルトルドの態度についていけないアルヴァー大佐が、可哀想にも縮こまって黙り込んだのを哀れに思い、キュッリッキは深々とため息をついた。

「アタシ一緒でも構わないよ。いつも一緒に寝てるから」

「よし決まりだ! リッキーの枕とタオルなども俺の部屋にちゃんと用意しておけアルヴァー」

「は、はい」

 掠れたような声で返事をして、アルヴァー大佐はそそくさと食堂を退室した。

「四角い顔は融通がきかなくて困る」

 フンッと鼻で笑うと、ベルトルドは愛おしむようにキュッリッキにすりすりと頬ずりした。

「お腹いっぱいになったし、アタシお風呂入ってくる」

 しっかり抱きしめているベルトルドの手の甲をペチッと叩いて解放させると、キュッリッキは椅子から立ち上がって伸びをした。

「フェンリル、フローズヴィトニル、おいで」

 別のテーブルの上でくつろいでいた2匹を呼ぶと、キュッリッキはスタスタと食堂を出て行った。

「よし、俺も一緒に入ってくるぞ」

 そう言って立ち上がったご機嫌のベルトルドの肩を、素早く掴む者がいた。

「あなたはここでおとなしく座っていなさい」

「………」

 昏い底冷えのするような声が静かに背後からして、今度はベルトルドが黙り込む番になった。

 キレたときの態度は実に対照的で、ベルトルドは激しく暴れるが、アルカネットは静かに刃を振り下ろす。

 あまり見られない上司たちのどうしようもない様子を遠巻きに見て、どっと疲れに襲われるライオン傭兵団だった。



 ベルトルドにもアルカネットにも覗かれることなく入浴を満喫したキュッリッキは、髪の毛を乾かしたあと、ふかふかのベッドにコロンと寝転がった。

 清潔なシーツの匂いと柔らかな枕の感触が肌に気持ち良かった。

「さあ、寝るぞー!!」

 ノックもなくいきなり扉が開いて、ローブに着替えたベルトルドが元気に入ってきた。

 大股でベッドまで歩いてくると、素早くキュッリッキの横に寝転がって、目を丸くしているキュッリッキを抱き寄せた。

「やっと二人っきりになれた」

 嬉しくて嬉しくて仕方がない、といった口調で言われて、キュッリッキは苦笑を浮かべた。

 自らの腕の中にキュッリッキを抱きしめることができて、ベルトルドは大いに満足した。そしてすぐに寝付いてしまった。

 何か話でもするのかと思っていたが、頭の上からスースーと寝息が聞こえて、キュッリッキは若干拍子抜けしてしまった。

 ベルトルドの胸に押し付けられるようにして抱きしめられているので、あまり身動きがとれない。とても窮屈だったが、そのうち腕の力も弱まるだろうと思い、暫く我慢することにした。

 アルカネットの薬で眠らされ、起きても泣きつかれて寝てしまい、キュッリッキは実に目が冴え渡っていた。なので少しはベルトルドと話でもしたかったのだが、ベルトルドのほうが速攻眠りに落ちてしまったのでどうしようもない。

 眠れない時に無理に寝ようとしても逆効果なので、キュッリッキはローブの襟元からのぞくベルトルドの胸をぼんやりと見つめていた。

 筋肉ムキムキでもなくやわでもない、ちょうどいいくらいの引き締まった胸をしている。

 いつも抱きしめられるので、ベルトルドの胸の感触は慣れっこになっていた。そして、こうして抱きしめられる都度、どこかホッとするような安心感があった。

 ベルトルドの胸におでこをくっつけて、小さなため息をもらし、ふと父親の胸はこんなかんじなのかな、という考えが頭をよぎった。

 キュッリッキは昔、たった一度だけ自分の両親を探しに行ったことがある。

 召喚スキル〈才能〉を授かった赤子を捨てた話はアイオン族でも有名なことなので、自分を捨てた両親を見つけ出すのは容易だった。

 顔を見せに行ったところで歓迎されることはまずありえないので、キュッリッキは遠目に両親を見てみたかった。

 惑星ペッコは浮遊している大陸や島が無数にあり、そうした浮遊している土地に街や村はある。有翼人であるアイオン族にとって、住処が空にあろうが大地にあろうが関係ない。飛べばいい、ただそれだけだ。

 両親の家はバルトル地方にある浮遊島の一つベルカ島にあった。かつてキュッリッキがいた修道院のあったヴィフレア地方と近い。

 島の南端に家は建っていた。赤や黄色のバラに囲まれた白くて大きな家。そのバラ咲き乱れる花壇のそばに二人の男女が寄り添いながら談笑していた。

 ――あれが、アタシのお父さんとお母さん……。

 同じ金色の髪をしている。

 片方の翼が奇形だったからという理由だけで、自分を捨てた両親。

 可哀想に思ってくれたわけでもなく、いたわってくれたわけでもない。無慈悲に捨てた酷い大人。

 ふいに憎しみが足元から這い上がるようにして脳天を突き抜けた。

 修道院での仕打ちの数々を思い出し、自分をそんな境遇に陥れた張本人たちだ。それなのに…。

 捨てた娘のことなどとうに忘れ去ったような、仲睦まじさが漂う二人の幸せそうな笑顔。キュッリッキは二人の笑みに誘われそうになり、ふらりと足を踏み出したが、突如我に返って物陰に身を潜めた。

 自分よりも少し年下の風の少女が、両親のもとに笑顔で駆け寄る姿が見えたからだ。

 その少女を両親は嬉しそうに抱き寄せているのが見えて、その少女が自分の妹なのだとキュッリッキは直感した。

 ――絵に描いたように幸せそうな家族。

 キュッリッキは心のどこかで、ほんの少し期待をしていた。

 自分を捨てたことを後悔し、多少は哀しみに満ちているだろう両親を。

 しかしそんなものはないのだ。何故なら変わりは新しく生まれているから。両親の愛情をたっぷり受けて、幸せを形にしたような笑顔の妹がいるのだから。

 本来自分もあそこにいたはずだ。

 片方の翼が奇形じゃなければ、ああして幸せそうに笑って、家族みんなで一緒に暮らせていたはず。

 帰ることが許されないあの場所、けして得られない両親の愛情。自分には与えられなかった全てがあそこにある。

 結局それを再確認しただけだった。

 思い出すだけで胸が引き裂かれるように痛い。思い出さなくてもいいことなのに、思い出して自ら心を傷つけている。この痛みから解放される日はくるのだろうか。

「泣いても構わないんだぞ」

 突然囁くような声がして、キュッリッキはハッと顔をあげた。

「我慢しなくていい」

 重ねて言われ、キュッリッキは小さく頷くと、ベルトルドの胸にすがるようにして嗚咽を漏らした。

 キュッリッキの心が流れ込んできて、夢としてキュッリッキの記憶を見ることになったベルトルドは、同調しかかって慌てて目を覚ました。

 故意に記憶を覗き見ることはしなくても、勝手に流れ込んでくることがあるので厄介だった。こうして想いが強ければ強いほど感じ取りやすくなる。かつてキュッリッキが大怪我をおって屋敷にきたあのときに見た過去の記憶。あの記憶も辛いものだったが、ほかにもまだこんなに辛い過去があったのか。

 それを思うとやりきれなかった。

 キュッリッキの心の傷がまだまだ深いことを再認識して、声を殺して泣くキュッリッキをそっと抱きしめた。


第四章 モナルダ大陸戦争 合流 続く



047 モナルダ大陸戦争 合流

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Comments 8

稲田 新太郎

「寝なきゃいい」

その発想は無かった

2014-11-22 (Sat) 05:00 | EDIT | REPLY |   

八少女 夕

こんばんは

御大は安全だから。どんなに好きでもナマコを発動したりしないし。
リッキーも安心していられるかな。
もうお一方は……電車で眠らされたのはまだいいとして、あんなことされていたと知ったら、「もうしません」と言われても許さない方がいいと思うけれど。

リッキーの心の傷は、まだそう簡単には癒えないみたいですが、ライオン傭兵団の仲間や御大の優しさで少しずつ痛みが薄れてくるといいですね。

今回、前回の紹介で出てきたばかりのカーティスとシビルがいて、ちゃんと目に浮かびました。タヌキさん、動いたら更にかわいいだろうなあ。

2014-11-22 (Sat) 06:32 | EDIT | REPLY |   

ふぉるて

こんにちは~(*^ ^*)

ルーさん、さすがです~ >ω<
(ちょっと尊敬してますです)

寝なきゃいいんですよ ……
そうか~! そう言う方法があったとは!! Σ >ω< アルカネットさんナイス!!

御大、すぐに寝ちゃって「ありゃりゃ、すぐ寝ちゃうのか~」と思いながら読み進めたのですが、
勝手に相手の記憶が流れてくるのも 大変ですね。 ><;
(同調してしまうこともあるんですね)

うん、でも御大なら安心だ~~(笑)


イラスト、線の描き方も人それぞれなんだなぁ、と最近良く思うようになりました。
自分の場合はどうにも線が絞れなくてごちゃごちゃになってしまうんですが、綺麗にスッと描けるのが羨ましいです ><;

ではでは~…☆

2014-11-22 (Sat) 12:26 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: タイトルなし

稲田さんこんにちわ(^ω^)

アルカネットさんのあの発言は、普段のわたしのツッコミをそのまま投影しています(笑)

「これ嫌いだから食べたくなーい」
「だったら食べるな」

て感じでわたしはサラッと言います(´_ゝ`)

2014-11-22 (Sat) 16:08 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: こんばんは

八少女さんこんにちわ(^ω^)

御大にとって本当にだいじな存在ですからね、そうお下品にナマコはにょきっとはしないのです。にょきっとしたいんだけど、理性を総動員して堪えてます(可哀想)

アルカネットさんの暴挙に関しては、知ればキュッリッキさんが激しくショックを受けることは判っているので御大は何も言いませんが、ああしてダダこねながら、欲と騎士道精神でキュッリッキさんをしっかり守ってます(笑) 欲3分の2、騎士道精神3分の1ですけど・・・。

シビルとハーマンは視覚的に可愛いと思いますw ハギたんも入れて、ウチの萌キャラです☆

しかしシビルは、アライグマとタヌキとの顔の違いが殆ど判んないので、アライグマのトゥーリ族と言っても通りそうです(*'-')

2014-11-22 (Sat) 16:19 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: タイトルなし

ふぉるてさんこんにちわ(^ω^)

ルーファスは御大のように勝手に思考を読んだり勝手に思考が流れ込んできたりってことはないんだけど、感がいいので察するのが上手ですw とくに女子のことだと100%察します(笑)

御大はどんなにパワフルに行動していても、中身はちゅうね・・・げほっ・・・おっさんですし!w キュッリッキさんと一緒だもーんで安心してコテッと寝ちゃってます(´_ゝ`)

線の引っ張り方は、もう練習と慣れ、でしょうかねえ・・・。わたしもタブレットで線画をひくのはかなりの練習を積んだので、今は別に紙に描くのと同じような感じでいけるんですが。ペン芯がアリエナイ速度で潰れながら猛練習したから(笑)

あとは紙に描くときに、落ち着きなくシャカシャカ描くんじゃなく、なぞるように引っ張る練習もすると違うんじゃないかな。
以前お絵描き講座動画を見ていたとき、一本線で描くのはアリエナイとか言ってるのがあって、シャカシャカ複数線が入り乱れるのが正しい、みたいな(笑)
そっちのほうがアリエネエよ・・・てツッコミながら見ていましたがw 描き方に決まりなんてナイと思ってます。自分が描きやすいやりかた、そして出来上がった作品が満足行けばそれでいいとオモイマス。

2014-11-22 (Sat) 16:32 | EDIT | REPLY |   

suzune

今日は。

おっ、思わず41歳のおっさんに胸キュンしちゃいました。←(失礼な(笑))
実は彼が一番好きだったり~♪
この柔らかな包み込むような微笑がもうたまりません(*^^*)
癇癪良いじゃないですか、おっさんなのにオッサンぽくない所も萌えだったりします^^

で、絵の方は私も複数線駄目な派でした。
当たりとってそれを目指したこともありましたが、どれが主線か分かり辛くて、ならやる必要も無いかな?的な(笑)。
結局下書きしっかりしてなぞる様にペン入れする派でした。
でも、今書いたら書けずに複数線になるかも?(書いてないとバランスとか結構崩れそうな気がする^^;)
jまあ、結局はやってみないと良く分からないんですが、書きやすければそれでいいのではないかと思います。
プロの漫画家さんでも下書きしっかりする人もいれば、当たりの適当な〇とか書いただけのプロット書いてキャラの判別もつかない書き方してるのにそのままペン入れする方も居たし(昔の知り合いで)、ホント人それぞれで良いと思います。特にユズキさんはそれで崩れてないし全然必要ないと思います。はい。


それと今回もまたまたNARUTO のネタバレなんですが、カカシは6代目火影で、ナルトが7代目みたいです。

色々調べていていた時に、里に新たに彫られた顔岩ができていて、そこにナルトの息子のボルトの落書きが施されている場面があって、ナルトに叱られてた(ナルトも昔同じことやってたよね(笑))

初代……バカ
二代目……インケン
三代目……スケベ
四代目……ジジイ(確かにミナトはボルトのじいちゃんだし)
五代目……ババア(ナルトが昔そう呼んでいたし)
六代目……マスクの部分に唇の絵(どう見てもカカシ)
七代目……アホ、クソオヤジ、麦わらの一味のマーク。(ここ岸本先生遊んでるみたいな(笑))

がありました。
とりあえずご報告しておきますね。

2014-11-23 (Sun) 21:35 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: タイトルなし

suzuneさんこんばんわ(^ω^)

御大なにげに人気あるのが嬉しいですw
子供がそのまま大きくなるとこうなります、て感じですね(笑) 書きやすいです崩しやすくてww

花も嵐も踏み越えたおっさん萌、イイコトですよっ!w 男の良さは30歳過ぎてからだと大真面目に思ってます(きりっ)

実は、下描きしてわざとああした複数線描きを試みたんですよw 描きにくいったらない、でした(笑)

suzuneさんとわたし同じですねーw
そうそう、主線が判りづらくなるからやらないんですようんうん。
狂ってそうな箇所は消して引き直せばいいし、シャカシャカ描くと、清書するときに「・・・えっと」てなるんで(笑)
以前見た雑誌記事で、ご尊敬申し上げる山田章博先生がカラーイラスト描くときに、下描きした絵を見ながら本番に描いていらしてすごいびっくりしたんですよね。トレースじゃなく清書の紙に見ながら描いてて(何かのメイキングのだったかな) すごいとは思っても真似できないです・・・w

あの絵はあとで清書して色つけますねw


ボルト君・・・w
強い遺伝子の強さを感じる、ですね。やることがおとーさんそっくりっていうのがw
ミナトにジジイかあ・・・そうですよねーたしかに祖父、になっちゃうんですよね~w 老いたミナトが出てこないから、いめぇじが浮かばないなージジイっていう(笑) 自来也に憧れ(?w)てたから老いたらあんなふうになるんかな・・w
映画のロゴのシルエットが3人になってますよね。あれミナト、ナルト、ボルトなんですねw

CMに出てくる映画のシーン、カカシてんてーが火影の格好をしていたから、それで火影かな? て思ったんですけど、6代目を継いでいるんですね。てことはマダラさんとの最終決戦後に継いだのかしら。

このテの人気作品、エピローグとかその後って語られずに終わること多いじゃないですか。とくにジャンプ系は昔はアンケート人気落ちるとすぐ打ち切るしで・・・w 聖闘士星矢のような例外でもナイことにはだったけど、ナルトのその後もこうして知ることできるの嬉しいかぎり(^ω^)

尾田先生と岸本先生仲良しみたいだから、作品の中でそういうお遊びがあるって、両方ファンだと嬉しいですね~w

NARUTO情報ありがとうございましたヽ(*´∀`)ノ

2014-11-24 (Mon) 03:34 | EDIT | REPLY |   

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