002 第一章 ライオン傭兵団 仲間(一)

第一章 ライオン傭兵団 仲間(一) 002



 オレンジ色に塗装された瓦の上に座り、キュッリッキはぼんやりと空を眺めていた。

 水色の空には薄い白い雲が散らばり、ゆっくりと流れていく。時折小鳥の飛んでいく影が映るが、それ以外はなにもない。

 ひっそりと小さくため息をついて、両膝を抱えて膝頭へ顎を乗せる。

(ちゃんとやっていけるかなぁ…)

 鳴り物入りのようにして入団した”ライオン傭兵団”。拠点である惑星ヒイシはおろか、他惑星にもその名を轟かす有名な傭兵団だ。

 フリーの傭兵や、他の傭兵団に所属する傭兵ですら、ライオン傭兵団に憧れる。

 超一流の傭兵たちが所属し、少数団体とはいえ大きな仕事をいくつもこなし、しかも失敗もなく早い。

 そしてなにより、スポンサーがついていることが大きい。それも国の機関に属する大物だと言う。スポンサー筋がよければ仕事の質も報酬もずっと良い。

 そこへキュッリッキをスカウトしたのは、そのスポンサー本人で、名をベルトルドというまだ若い青年だった。

 スポンサー直々のお声掛りであり、キュッリッキは巷で実力者として有名だった。充分やっていける自信も実力もある。ただ、ため息をつくほどの心配事はただ一つ。

(無意識にトラブル振りまかないか…それだけが不安だわ…)




「えー…我々のスポンサーであるベルトルド卿自らがスカウトしてこられた、キュッリッキさんです。どうぞよろしく」

 紹介を受けて、キュッリッキは背後の青年を振り返る。

 キュッリッキより頭二つ分背が高く、細面で柔和な顔には、ちょっとばかり長めの前髪がかかって、にっこりと笑んでいた。

 ライオン傭兵団を預かるリーダーのカーティスである。

 片手で軽く促され、キュッリッキは正面に向き直ると、やや上目遣いで正面に居る一同を見る。

「キュッリッキです。よろしくお願いします…」

 多少間が開いたあと、ぼそりぼそりと「よろしくー」と声がかけられた。

 拠点であるアジトの食堂に皆集められていた。椅子や机に座る者、壁にもたれかかっている者、興味深そうにキュッリッキを見つめている。それらの視線を受けて、キュッリッキは居心地が悪そうに肩をすくめた。

「せっかくですから、団員の自己紹介しておきましょうか。ではシビルさんから順番によろしく」

「えっ私から!?」

 鼻づまりしたような声が、足元からあがってきた。

「えーとじゃあ……、私はシビル、見た通りタヌキのトゥーリ族ですよろしくね。得意なのは防御魔法で、戦闘では結界や防御を担当しています。応急処置程度の回復魔法も使えたりします」

 タヌキと人間の幼児が合体すると、こうなるのか、というような姿をしていて、大きく膨らんでいるフサフサの縞模様のしっぽが気持ちよさそうだ。

「んじゃ次はマーゴットさんどぞ」

 シビルに促され、隣に立っていた女が軽く頷いた。

「私はマーゴット。回復魔法を担当してます」

 可愛らしい顔立ちと、茶色のボブヘアーで、キュッリッキと歳は変わらないようだ。

 けして太っているわけではないが、若干足が短く太い印象を受けるのは、ヴィプネン族の特徴だった。

「オレはギャリーっていう剣士だ。大抵の武器は使いこなすが、主に長剣が得意だな。嫌いなのは努力しねー奴」

 ごく平凡な顔立ちをしているが、その茶色い瞳は、さきほどからキュッリッキをじろじろと品定めするように見ている。努力するタイプかしないかを、そうやって計っているようだ。

「オレはルーファス、もともと騎士団にいた騎士で、今は傭兵騎士。ちょっとだけサイ(超能力)も使えるんだ。よろしく」

 騎士という職業がぴったりイメージに当てはまるような美丈夫で、切れ長の瞳は優しく笑んでいた。

「アタシはペルラ。猫のトゥーリ族出身、得意なのはアサシン術」

 人間の標準体を一回り小さくしたような体格で、猫を擬人化したような顔立ちに、細長い尻尾が後ろでゆらゆらと揺れていた。身のこなしは実に軽そうである。

「オレはザカリー。さっき一緒に居たよね~。銃器担当で解体が得意! なんか壊したいモノあったらオレに回してっ」

「無類の女好き、が抜けてるぜ~」

「それはルーだってそーだろー!」

「オレの第一印象壊すなよおまいら!!」

 ギャリーに突っ込まれ、ザカリーとルーファスが噛み付く。

「ちょっとー、まだ自己紹介の途中でしょーが…もう」

 少し甲高めの声が足元からあがる。

「ボクはハーマン、よろしくね。攻撃魔法と防御魔法が使えるけど、得意なのは攻撃魔法なんだ。時々力が暴走することもあるから先に謝っとく……」

 キツネのトゥーリ族で、身長はシビルと大差なかった。ふさふさの黄金色の尻尾の先っちょが、墨のような黒い色をしていた。

「ランドン、ていう。回復魔法担当」

 眠そうな目の冴えない顔の青年が、しゃべるのも億劫そうで、ただ、手をスッと上にあげて挨拶の形をとった。

「口数少ないけど、ジェスチャーでコミュニケーションはかるオモシロイ奴なんだ」

 ルーファスから補足が入った。

 それは付き合いづらそうな、とキュッリッキはひっそりと思った。

「ボクはタルコット。得意な獲物は大剣。攻撃は全てボクに任せていれば問題ない」

 自信に満ちあふれた言い方で、大きく頷いた。腕に相当自信があるのだろう。

 黒一色の服と甲冑を身につけていて、背には見事な漆黒の刀身の大剣が背負われている。柄も装飾も黒一色。よほど黒にこだわりでもあるのか、黒ずくめだった。

「オレはメルヴィン、よろしくお願いします。そこそこの実力しかないけど、担当は剣士です。ここでは初めての召喚士入団だね。さっきは凄かったよ」

 にこやかに挨拶されて、キュッリッキはドキリとした。嫌味のない優しげな笑顔で、誠実そうな性格だろうことが伺える雰囲気を帯びていた。

「困ったことがあったら相談してね。じゃあ次ガエルさんどうぞ」

 メルヴィンから紹介されたガエルは、それは驚く程体格が大きかった。

「熊のトゥーリ族出身だ。主に格闘が担当。一個師団の戦闘力を自負している」

 なるほど熊か…と見上げるその姿は、無言の威圧感がビリビリと伝わってくるようだ。

 一人で一個師団の戦闘力とは、大げさな例えに聞こえそうだが、その力強い黒い瞳は、本当かもしれないと思える説得力を兼ね備えていた。

「私はブルニタル。学者であり、ここでは軍師のようなことをしています。戦闘がスムーズにいくよう作戦を立てたり、説明をしたり采配したり。そしてペルラと同じく猫のトゥーリ出身です」

 猫が眼鏡をかけると、こんな顔になるんだ、などと内心苦笑してしまう。口調は丁寧なのだが、どこかツンケンとした空気を感じ、キュッリッキにあまり好印象を与えなかった。

「アタシはマリオン。前は皇国の音楽隊にいたことがあるんだ~。だから楽器演奏が得意なの。なんでも演奏出来るー。歌はあんま得意じゃないかもー。もって生まれたスキルはサイ(超能力)で、演奏にサイを混ぜて攻撃とか催眠とか出来ちゃうんだよね~」

 かったるそうに、しかし、詳細に挨拶されてキュッリッキは苦笑した。ヴィプネン族の女にしては、足が長く細いのが印象的だ。

「あれ~…俺様で最後~?」

「そうですよ、早く紹介よろしく」

 カーティスに促されて、床にぺたりと座り込んでいた男が立ち上がった。

「俺様がヴァルトだ! 格闘術ならガエルにだって負けないぞー。そしてライオンで唯一のアイオン族出身だ」

 言い終えると同時に、ヴァルトの背から、白い大きな翼がバサリと室内に広がった。

 柔らかな金髪の隙間から覗く青い瞳に射すくめられ、キュッリッキは明らかに狼狽したような表情を浮かべた。

「俺様カッコイイだろ!」

 そう言って、両手を腰にあてて胸を張る。

 邪魔だからしまえそれ! 顔面にもろぶつかったぞ!! などと、仲間たちから苦情があがる。

 なんだよもーとぶつくさ文句を垂れながら、ヴァルトは見事な翼をたたんで背にしまった。

「やれやれ、やっと終わりましたね。数は少ないんですが自己主張の強い連中なんで、すみません」

 苦笑混じりにカーティスが頭を下げる。

「私は支援魔法中心に使います。一通り魔法は使えますが、メインは弱体系が得意ですね」

「バランスのとれたスキル持ちが揃ってるわね」

「ええ。皆若いですが場数は相当踏んでます。そしてキュッリッキさんが入ったことで、戦力は格段に上がりましたよ」

 カーティスは満足そうに頷く。

 サントリナ国からの依頼を受けて、ライオン傭兵団はソープワート国の一個大隊を迎え撃つところだったが、カーティスからの提案で、入団が決まったばかりのキュッリッキの実力を団員に見せる意味もあって、一人で迎え撃たせた。

 それを断ってくれば、所詮その程度、召喚士神話の一人歩きだと思っていたが、キュッリッキは二つ返事で受けたのだ。

 スポンサーであるベルトルドからの強い推薦があったとはいえ、カーティス自身召喚士というものにこれまで縁がなく、どの程度の実力なのか、どう戦うのか知っておきたかった。果たして召喚士は必要なのか否かを。

 団員たちと共に、キュッリッキとは離れた位置で見ていたが、戦場の様子を見て圧倒された。

 巨大な壁が突如現れ、軍団をぐるりと取り囲んで逃げ道を失わせ、壁の中に黒い何かが出現し全てを飲み込んだ。

 壁も黒いなにかも消えたあとには、乾いた砂塵だけが虚しく漂っているだけだったのだ。

 それもたった数分の出来事。

 あんなものを見せつけられては、入団を拒む理由がなかった。

 それに、団員の中には、ほかの召喚士を見たことがあるそうだが、あれほどの召喚を一度に行った召喚士を見たことがないという。

 実力は本物だ。そうカーティスは確信していた。

「では紹介はここまでにして、今夜はキュッリッキさんの歓迎会をいつもの店でやりましょうか。手配はメルヴィンお願いします」

「わかりましたカーティスさん」

「夜まで解散です」




 メンバーたちは解散の合図とともに、食堂を出て行ってしまい、一人取り残されたキュッリッキは、とくにすることも思いつかず、アジトの屋根に登ってぼんやりと空を眺めるに至った。

 キュッリッキは自他共に認める人見知りだった。自分からすすんで話しかけることも出来ないし、輪の中に入ることも大の苦手だ。きっかけさえあれば、入ることはできるけど、まず自らがきっかけを生むことはない。

 きっかけを与えてくれそうだったメルヴィンという男は、生憎歓迎会の幹事を任されて外出してしまった。他にも話しかけやすそうなメンバーはいたが、まだ初対面。足がすくんだように気持ちが消極的になって、とても実行できそうになかった。

 過去幾度か人見知り体質を克服しようとし、命懸けのような必死な気持ちで挑んだが、それは空回りして、仲間との間に軋轢をうんで大失敗の連続だった。

 もともとフリーの傭兵だから、ひとつの組織に長居することはない。けど人見知りなうえ人付き合いまで苦手ときては、長居したくてもできなかった。

 キュッリッキのため息の原因はまさにそこで、新しく入ったライオン傭兵団でも、同じことを繰り返すのではないかと気が気でない。

 失敗を恐れて殻にこもれば、誰とも打ち解けない。しかし、無理をすれば失敗する。キュッリッキには加減の仕方がどうしても判らない。

 学ぼうと努力は続けているのだ。

 考えれば考えるほど、キュッリッキは激しく落ち込み凹んでいった。

「なーに一人で暗く落ち込んでんだ??」

「きゃっ…」

 背後からいきなり声をかけられて、ぎょっと振り返る。

 そこには両腕を組んで、仁王立ちしながらキュッリッキを見下ろしているヴァルトがいた。

 かなりの長身なので、一瞬誰だかわからなかったが、それがヴァルトだと気づいて、キュッリッキは妙に身構えてヴァルトの顔を見上げた。

「ちょっとハナシあんだよ。付き合え」

「……え?」

「あっちいこー。こいっ!!」

「ちょっ」

 ヴァルトはキュッリッキの両脇に手を入れると、そのまま抱えて屋根を蹴って飛び降りた。

「やっ……」

(ヤメテ落ちるっ!!)

 声に出ない悲鳴を心の中で叫ぶと、キュッリッキはギュッと目を瞑って身体を固くした。

「バーカ、落ちないよ」

 頬につたう風の感触と、羽ばたく音で、キュッリッキはようやくヴァルトがアイオン族であることを思い出した。そして同時に傷ついたように唇を歪め、目を伏せた。




第一章 ライオン傭兵団 仲間(一)続く



003 ライオン傭兵団 仲間(一)

001 序章:最強の召喚士

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