ALCHERA-片翼の召喚士- 特別小咄:コッコラ王国の悲劇《1》

【ALCHERA-片翼の召喚士-】いつも読んでくださる皆様ありがとうございます。

本編と番外編を現在ちょこちょこ発表している段階ですが、番外編の方の掲載名称を【特別小咄シリーズ】と変更しています。以前はALCHERA-片翼の召喚士-読み切り番外編、となっていたと思いますが。露骨にまんま被せられちゃったので、フルタイトル入れるとパッと見別物と判りにくいので気づいた時点で急遽こちらが変更しちゃいました。【特別小咄シリーズ】としていても、ようは番外編のことです。


【ALCHERA-片翼の召喚士-】に登場する、ベルトルドとアルカネットのことを、ライオン傭兵団のツワモノ達は心底恐れています。何故そんなに怖いの!? という原因について、本編の中でちょろっと触れたエピソードが登場(038 第四章 モナルダ大陸戦争 副宰相の悪巧み )していますが、あまり詳細には書きませんでした。本編にはさして影響もなかったので。

けど、わたし自身がちょっと細かく書きたいな、と思っていたので、今回特別小咄としてそのお話を書きます。

そして先に修正点が1個・・・。コッコラ王国の資源を鉱脈、と本編で書きましたが、特別小咄では石油に変更していますスイマセン。そんなどうでもいい部分を覚えているひとは絶対いないだろうとか思っていますが(笑)


一応【ALCHERA-片翼の召喚士-】の本編を読んでいなくても、こんなような話なんだ~っと判ってもらえるように書いていこうと思ってます。なので本編読んでないからサヨウナラしないでちょろっと読んでってください(;゚Д゚)w

まあ、ひとくちにファンタジーとはいっても枝分かれジャンルは幅広いですしね。好みもあるから強制はしないです(笑)

本編から3年ほど前のお話になります。なので主人公のキュッリッキさんは全く出てきません(笑) かすりもしません☆


メインキャラクター紹介の下からお話いきますので、スクロールガンバです!w

《キャラクター紹介》

ALCHERA-片翼の召喚士-

【ベルトルド】
ハワドウレ皇国副宰相であり、ライオン傭兵団の後ろ盾でスポンサー。
サイ〈超能力〉スキル〈才能〉の持ち主で世界中で唯一空間転移まで扱える。行政機関に身を置いているので、その力の強さはあまり知られていない。
『泣く子も黙らせる副宰相』という通り名を持つ。

ALCHERA-片翼の召喚士-

【アルカネット】
元ハワドウレ皇国軍特殊部隊の尋問・拷問部隊長官であり、現在はベルトルド邸執事。
魔法スキル〈才能〉の持ち主で、神を引っ張り出さないと倒すことができないと言われるほどの魔法使い。憂さ晴らしにベルトルドを日々いびるのが愉しみ。

ALCHERA-片翼の召喚士-

【リュリュ】
ハワドウレ皇国副宰相の秘書官で片腕。
サイ〈超能力〉スキル〈才能〉の持ち主でオカマ。野蛮なことは嫌いよ、と言いつつも毒舌の持ち主。
上司を「あーた」と呼び、ベルトルドが頭の上がらない数少ない人物。




【ライオン傭兵団】

ALCHERA-片翼の召喚士-

【カーティス】
ライオン傭兵団のリーダーでヴィプネン族。
元皇国軍魔法部隊の長官。エリート意識が強く常に仲間には最上級の能力を求めている。魔法スキル〈才能〉を持つ。弱体・強化系魔法が得意。

ALCHERA-片翼の召喚士-

【メルヴィン】
元皇国軍に属していた剣士。
戦闘スキル〈才能〉の武器系剣術スキル〈才能〉持ち。謙遜しているが軍でも五指に数えられていた実力者。性格も穏やかでカーティス不在中はリーダー代理を任されることもある。ヴィプネン族。

ALCHERA-片翼の召喚士-

【シビル】
タヌキのトゥーリ族で魔法スキル〈才能〉を持つ。
揉め事が大嫌いで常に仲間たちの間に協調性を築こうとする苦労家。防御系魔法が得意。元皇国軍魔法部隊でカーティスの部下だった。

ALCHERA-片翼の召喚士-

【ヴァルト】
アイオン族の自由都市出身。戦闘スキル〈才能〉体術系複合スキル〈才能〉持ち。
フリーで用心棒をしていたがカーティスにスカウトされ入った経緯がある。バカっぽい話し方が特徴。

ALCHERA-片翼の召喚士-

【ガエル】
熊のトゥーリ族で元ロフレス王国の親衛隊に属していた格闘家。
戦闘スキル〈才能〉の体術系複合スキル〈才能〉持ち。常に強さを求め続けていて、それ以外にはあまり関心がない。

ALCHERA-片翼の召喚士-

【ギャリー】
元皇国軍に属していた剣士。
戦闘スキル〈才能〉の武器系複合スキル〈才能〉持ち。中でも片手剣が得意。ヴィプネン族。

ALCHERA-片翼の召喚士-

【ルーファス】
元皇国の宮殿騎士。サイ〈超能力〉を持つ。
剣術は一般人レベルだがサイ〈超能力〉を応用することで戦闘スキル〈才能〉持ちのような実力を発揮する。ヴィプネン族。

ALCHERA-片翼の召喚士-

【ザカリー】
元皇国軍に属していた銃士。
戦闘スキル〈才能〉の武器系、遠隔武器(銃器・弓矢)のスキル〈才能〉持ち。趣味として物を解体するのが得意。

ALCHERA-片翼の召喚士-

【マリオン】
元皇国の楽士隊の楽士兼ダエヴァ。
楽器奏者のスキル〈才能〉はナイが、サイ〈超能力〉があるので、楽士隊よりはダエヴァのほうで働くことが多かった。ヴィプネン族。

ALCHERA-片翼の召喚士-

【ペルラ】
猫のトゥーリ族で戦闘スキル〈才能〉の武器系剣術スキル〈才能〉持ち。
主に短剣を好んで使う。身体能力と合わせアサシン術が得意。ドライな性格だが公平な物の見方をする。

ALCHERA-片翼の召喚士-

【ハーマン】
狐のトゥーリ族で魔法スキル〈才能〉持ち。
攻撃と防御魔法が得意。とくに攻撃魔法はときに制御不能で大暴走することもよくある。

ALCHERA-片翼の召喚士-

【タルコット】
元皇国軍に属していた剣士。戦闘スキル〈才能〉の武器系剣術系。主に大長剣の両手剣を好んで使っているが、得意なのは長鎌。軍でも五指に入る実力者だった。ヴィプネン族。

ALCHERA-片翼の召喚士-

【ランドン】
元皇国軍の魔法部隊でカーティスの部下だった。回復魔法が得意な魔法スキル〈才能〉を持つ。口数が極端に少なく、ジェスチャーでコミュニケーションを取る。ヴィプネン族。

ALCHERA-片翼の召喚士-

【ブルニタル】
猫のトゥーリ族で記憶スキル〈才能〉を持つが何故かメモ帳に書き留める癖がある。完全に後衛陣で戦闘は全くダメ。

ALCHERA-片翼の召喚士-

【マーゴット】
傭兵団内では珍しい最弱レベルの魔法スキル〈才能〉。カーティスの恋人だから特例で入団が認められている。ヴィプネン族。一応回復系魔法が得意、と自称の頑固者。





ALCHERA-片翼の召喚士-
特別小咄:コッコラ王国の悲劇《1》



 この世界は太陽を中心に取り囲むように、3つの惑星で成り立っている。

 身体的特徴を持たない人間ヴィプネン族が治める惑星ヒイシ。

 背に翼を持ち容姿に優れた人間アイオン族が治める惑星ペッコ。

 動物の外見と能力を兼ね備える人間トゥーリ族が治める惑星タピオ。

 ヴィプネン族が治める惑星ヒイシは、現在ハワドウレ皇国というヴィプネン族の種族統一国家が君臨し、惑星全土を治めていた。

 およそ千年前、惑星ヒイシには小国が複数乱立するのみだった。1万年前もの昔は種族統一国家があったというが、何らかの事象に巻き込まれその統一国家は失われている。

 各国は領土を広げ国を奪い合い、覇権争いが絶えず、難民を生みながら長く悲惨な時代が続いた。

 当時ハワドウレ国という小さな都市国家を治めていたワイズキュール家が戦乱の世を憂いて立ち上がり、平和な世を望む人々の力を借りて種族統一国家の樹立を目指した。

 自国のあるワイ・メア大陸をはじめ、モナルダ大陸、ウエケラ大陸、シェフレラ群島、フロックス群島にある国々を併呑し、ついにハワドウレ皇国という種族統一国家を成し得て戦乱の世にピリオドをうった。

 広い領土は共に戦った戦友たちに統治を任せ、それらを取りまとめてワイズキュール家が君臨する。

 長い戦いの歴史に疲れきっていた人々は、新しいシステムを受け入れ賛美した。しかし数十年の歳月を経て世界が豊かに平和になってくると、独自に国を興して離反する者たちが現れた。

 再び剣をとる者、表面上は平和的外交により独立を勝ち取ろうとするもの、方法は様々だったが離反していく者たちを止めることが出来なかったワイズキュール家は、属国という形での独立は許すことになった。

 不承不承ではあるがその条件を飲んだのは18の小国と、3種族の間で不可侵が定められている、国ではないが自治権を持つ自由都市が5つである。

 完全なる独立ではなかったが、自分たちの国を得たことで、再び平和な時代が長く続くことになった。

 18の小国の間では、小競り合い、あまりおおごとにならぬ程度の戦争は頻繁に行われていたが、ハワドウレ皇国に弓を引こうとする国はなかった。

 それが突然謀反の噂が実しやかに皇国内に流れ出し、きな臭さを漂わせる国があった。

 コッコラ王国である。



 ハワドウレ皇国の皇都イララクスは、3種族の首都の中でも一番の規模を誇る広さである。

 王侯貴族たちの住まう堅牢な城砦に囲まれた区画をハーメンリンナと呼び、そこを中心として扇を描くように海の方へ広がりながら街が出来ている。それらをひっくるめて『皇都イララクス』と称するようになったのは300年ほど前だ。

 ハーメンリンナの外は庶民の生活街、貧富の差はあるものの、色々な職種についている人々が暮らしていた。

 その中でとくに一般庶民は近寄らず、傭兵という職業を生業とする人々が暮らす街がある。

 城砦のすぐそばにあり、色々な傭兵団のアジトや組織、そんな人々を相手に商売をする店や、ボロいアパートが立ち並ぶエルダー街。別名傭兵街、などとも呼ばれていた。

 エルダー街に立ち並ぶ建物には統一性がなく、個性をむき出しにした外観を持つ建物がひしめいていた。その中では比較的趣味のいい、オレンジ色のレンガの屋根を持った白く塗装された外壁を持つ屋敷がある。

 表通りに面した白い壁には黒い木枠の窓が並び、所々色鮮やかな花の鉢植えが置いてある。元は宿屋だったらしいが、負債が続いて主が手放した後、ライオン傭兵団が買い取ってアジトにして住んでいた。

 2年前に設立された新興の傭兵団で、団、と呼ぶには極端に人数も少なく、”傭兵チーム”と称したほうがしっくりくるが、彼らは”傭兵団”と言い張っていた。

 まだまだ無名に近い存在である彼らが立派なアジトを持ち、普通に食べていけるのは、強力な後ろ盾が存在しているからで、そのことは公にはされていない。台所事情を知らない町民たちはただただ、新参者たちが快適に生活できていることを疑問に思うものは多い。

 最近傭兵団のメンバーが新しく購入したというオレンジ色のソファに偉そうに寝そべり、つまみを持って来い、酒がきれた、酌をしろと喚きたてる男がいた。

 ハワドウレ皇国で副宰相の地位をいただき、『泣く子も黙らせる副宰相』という通り名を持つベルトルドである。

 見た目は20代後半に差し掛かったくらい若く見えるが、御とし38歳になる。塑像のように整った顔立ちとブルーグレーの瞳のはまった切れ長の目、しかしどことなく険のある強気が前面に出た表情とふてぶてしい態度が、麗しいという印象を見事に押し退けている。更に今は襟元を大きくはだけたワイシャツとスラックス姿でくつろいでいるので、副宰相だと言われてもきっと誰も信じないだろう。

 ベルトルドのグラスにビールを注ぎながら、そういえば、とルーファスは切り出した。

「ベルトルド様お気に入りの、近所のストリップ劇場が近々閉館になるそうですよ」

「なんだと!?」

 ガバッと身体を起こすと、ベルトルドはルーファスの胸ぐらを掴んで引き寄せた。

「俺の憩いの場だぞ!!」

「な、なんでも経営難に陥って負債が多くてどうにもならないと……」

 鬼気迫るベルトルドに、ルーファスはドン引きしながら答える。

 ベルトルドはルーファスを放り出すように解放すると、両手で頭を抱えてブツブツとひとりごち始めた。

「ブリットやダニエラの、あの悩ましくも素晴らしい裸体がもう見れないっていうのか……あの眩しいステージを見ることが、仕事に忙殺されて溜まりまくるストレスの、唯一の解消だったのになんてことだ」

 ブリットとダニエラは、ストリップ劇場のダンサーたちのことである。

 まるで世界滅亡カウントダウンでも起こりそうなほどの深刻な表情で、ベルトルドはガッカリと再びソファに寝転んだ。

「んな場末のストリップ劇場が潰れるくらいでそんな落ち込まんでも……。ベルトルド様なら社交界の美姫を独占し放題っしょ」

 首をすくめながらギャリーがつっこむと、

「宮廷のメス豚共はもう飽きた」

 とそっけない返事が戻ってきて、談話室内には「やれやれ」といったため息が流れた。

「家柄を鼻にかける厚化粧共の分際で、やってることは男日照りの淫売だ」

「……否定はできないものがありますね」

 ストレートすぎる表現に、苦笑交じりにルーファスが同意した。

 恋のゲーム、恋の駆け引きと称して、性欲旺盛な貴婦人が多いことを、かつて宮廷騎士を務めていたルーファスはよく知っていた。何故なら自分もご相伴にあずかることが多かったからだ。

 どこか人懐っこさのある優しい甘いマスクに金髪で長身の彼は、騎士甲冑をまとって立っているだけで、妙齢から高齢までの貴婦人たちの憧れの的だったのだ。

「なんなら俺が買い取ってもいいんだが」

「ストリップ劇場をですか!?」

 縞模様の混じった尻尾を逆立てながら、シビルが仰天した声を上げる。

「アルカネットにバレると殺される……」

 眉をしかめてベルトルドが渋面を作る。

「止めておいたほうがよろしいかと」

 ため息混じりにカーティスが言うと、ベルトルドは「ふんっ」と鼻息を吐きだした。

「あいつを執事にしたら、小遣いの使い道まで五月蝿くなった。お陰で小遣いが減るたびに説教まみれなんだぞ」

「女性問題の後始末をいつも押し付けるからツケが回ってきたんじゃね……」

 ぼそりとギャリーがつっこむと、ベルトルドにじろりと睨まれて首をすくめた。

「唯一の息抜きが、ここで愚痴を垂れるだけとはな。色気もなんもナイようなところでまったく」

「あら~、アタシがいるじゃないですかぁ」

 うふんとセクシーポーズを作ってアピールするマリオンを一瞥し、ベルトルドは真顔になって率直に感想を述べる。

「お前がそうするとキモイからやめておけ」

「え~~~~~ひどぉおおおい」

 嘆くマリオンをよそに、皆納得したように深く頷いていた。

 王侯貴族が住み国の中枢機関が集まるハーメンリンナの中に広大な屋敷を持ち、贅沢放題が出来る御仁が、傭兵街の一アジトで酒を片手にくつろいでいるのは、ベルトルドこそがライオン傭兵団の後ろ盾であり資金源のスポンサーだからである。

 週に1回くらいはこうしてふらりと遊びにやってきて、談話室でみんなを相手に雑談をしていた。

 ライオン傭兵団のアジトでは、各自立派な個室が与えられている。もともと宿屋だったこともあり、シングルルーム程度の広さだが、ベッドに調度品なども整っている良い部屋だ。他には広い食堂やら各生活スペースがあるが、みんなで集まってのんびりくつろげる空間があるといいですね、とカーティスの提案で作られたのが談話室だった。

 元はダンスフロアだった部屋に若干手を入れ、各々好きなものを持ち込んでちょっとした遊びの空間に変わった。

 談笑できるソファセット、カードゲームのためのテーブルセット、トレーニング用の器具類、床に寝そべることができるような大きめのカーペットが敷かれ、読書が出来るように本棚と本が置かれた。憩いの部屋らしく観葉植物や花が活けられ、小腹がすいたときにつまめる菓子鉢もある。

 部屋に閉じこもって気ままに過ごす者もいるが、みんな大抵はこの談話室に集まり、自由気ままに時間を過ごすのが当たり前となっていた。

 あまり積極的に会話に参加しないメンバーも、同じ空間にいることで、自然とコミュニケーションも取れている。

 こうしてベルトルドが遊びに来たときは、全員必ずこの談話室に集まるようにカーティスから指示されていた。ただ愚痴を言うだけ言って帰る日もあれば、仕事の話を持ってくるときもあるし、あまり公にはされていない貴重な情報をさり気なく教えてくれることもあるからだ。

 副宰相の肩書きを持つ雲の上の存在のハズなのだが、偉いし偉そうなんだけど、どこか砕けて話しやすい相手ではある、とみんな思っていた。

 ベルトルドは暫く閉館するストリップ劇場のことで文句を垂れていたが、空になったグラスをルーファスに投げつけて身体を起こした。

「肝心なことを言い忘れてた」

 頭を乱暴にかきむしりながら、ベルトルドは肩で一息つく。

「お前らも小耳に挟んでるだろう、コッコラ王国謀反の噂」

「ギルドでも酒場でも大人気の噂ですねえ」

 簾のような前髪をかきあげながらカーティスが興味深そうに答える。

「事実だから、お前ら手を出すな」

 射抜くような視線で、室内の傭兵たちをゆっくり見る。

「皇国軍が動く。おそらく大きな規模での戦いになるだろう。乗ってもウマイ話じゃないからな、募集があっても食いつくなよ」

 釘を刺すように言われ、皆生唾を飲み込んだ。

 皇国軍が動くほどの規模になるとは、まだ噂の段階では囁かれていない。傭兵ギルドは独自の諜報網を持っているので、機密レベルの情報をも安安と仕入れてくる。名のある傭兵団などへはあらかじめ耳打ちされるものだが、ライオン傭兵団はまだ無名に近いので、そうした早い段階での情報はもたらされていなかった。

 しかしカーティスは悲観しない。何故ならどこよりも正確で早い情報網が自らやってきて話してくれているからだ。

 さて、と言ってベルトルドは立ち上がる。

「また帰りが遅くなると、ベッドに入っても枕元でくどくどとアルカネットの説教が続くからな」

 どっちが主だか判らんなどとため息混じりにベルトルドは愚痴るが、38歳にもなって執事から説教されるのもどうだかなあ、という疑問をみな露骨に浮かべていた。

 脱ぎ捨てていたマント、ジャケット、スカーフをメルヴィンから受け取ると、片手を上げてベルトルドはその場から消えた。

 サイ〈超能力〉スキル〈才能〉を有するベルトルドは、彼にしか出来ないという空間転移を使い瞬時にこの場から消えたのだった。

「やれやれ、やっと帰りなすったか」

 ギャリーは大柄な身体をベルトルドが座っていたオレンジ色のソファに投げ出し、両腕を伸ばしてぐったりと息を吐き出した。

 みんなも緊張が解けていくようなため息を吐き出しながら、思い思い寛いだ。

「中々オイシイ話をしてってくれたなあの御大は」

「ほんとにねえ」

 意味ありげにカーティスはニヤリと口の端をつりあげた。

「あの口ぶりだと、かなり大掛かりに皇国軍が動くようですね。正規部隊だけじゃなく特殊部隊も動かすんじゃないでしょうか」

 考え込むように両腕を組み、シビルはほたほた歩きながら呟いた。タヌキのトゥーリ族である彼女は身長が120センチ程度しかないので、まるで子供のような外見をしてる。シビルと同じ身長のキツネのトゥーリ族であるハーマンは、嬉しそうに毛先の白い尻尾をブンブン振り回した。

「ねーねー、当然ボクたちも動くよね?」

 カーティスは笑みをより深める。

「最近は仕事もなくて暇を持て余していますしね。詳しく情報集めをしましょうか」



 ベルトルドから貴重な情報を仕入れたライオン傭兵団は、翌日すぐさま情報収集に走り出した。

 皇国軍が動き出すという機密情報はさすがにギルドでも掴んでいないようだったが、コッコラ王国側からの情報は色々と世間に漏れ伝わっているようだ。

 情報収集や分析を得意とするペルラとブルニタルは、コッコラ王国側の情報を入念に回収していた。

「お膝元から各国のギルドに対し、傭兵募集を密かに行い出したようですね」

「皇国側にはバレバレになってそうだけど、ホントに戦争仕掛ける腹積もりっぽいね」

 二人は武者震いのため尻尾をピーンッと逆立てヒゲをそよがせた。共にネコのトゥーリ族であるペルラとブルニタルは幼い頃からの顔なじみだった。友達ではない、と二人共思っているが、カーティスにスカウトされたブルニタルは、すぐにペルラを紹介して傭兵団に引き入れるくらいの付き合いは続いていた。

 ペルラは戦闘スキル〈才能〉の持ち主で、元はトゥーリ族の種族統一国ロフレス王国の暗殺部員だった。剣術系で短剣を得意とし、極めて特殊な”アサシン”という技術も習得している。ブルニタルから紹介を受けたカーティスがライオン傭兵団にスカウトして迎え入れた経緯があるが、まだ新興の傭兵団なので仕事が少ない。宮仕えをしていたときよりも仕事が少ないので、こうして仕事になりそうな話なら大いに協力することは惜しまない。

「だいたいの情報はこんなものでしょうね。一度戻ってみんなに報告しましょう」

 ブルニタルは革の手帳にビッシリ文字を書き連ねて頷く。

 記憶スキル〈才能〉を持つブルニタルは、何故か手帳にメモをする癖がある。

 記憶スキル〈才能〉は、一度体験したこと、経験したこと、目にしたもの、味わったもの、耳にした音、全てを死ぬまで覚え続けるものだ。痴呆症とも無縁なスキル〈才能〉とのデータも公式に上がっている。

 分厚い辞典を1冊通して読めばそれが記憶の中に100%正確に内容が残る。音楽を聴かせれば音程の一つ一つも正確に覚えている。地味に思われがちなスキル〈才能〉だが、これほど便利なものはないと言われていた。

 しかしブルニタルは「いくら記憶スキル〈才能〉があるといっても、動揺していたり感情が昂ぶったり追い詰められると、うまく記憶を辿れないことがあるので、本当に大事なことや重要なことは、メモをとるようにしているんです」と言い張っている。

 記憶をたどれなくなる事態は現在起きていないが、傭兵である身では何があるか判らない、という点では用心深いだろう。

 二人は最後に近くの酒場へ入って客たちの噂話を拾い上げると、すぐさまアジトへの帰路に着いた。



 ペルラとブルニタルがアジトに帰ると、情報収集に散らばっていた他のメンバーはすでに全員戻ってきていて、談話室に集まって二人の帰りを待っていた。

「お疲れ様です、色々情報は集まりましたか?」

 笑顔のカーティスに出迎えられて、ブルニタルは深く頷いた。

「では各自報告をお願いします」

 ギャリー、タルコット、メルヴィン、ザカリー、シビルからはハワドレ皇国側からの情報が報告される。彼らはもともと皇国軍に所属していた軍人で、そのツテであまり出回らないような情報も色々と掴んでいた。

 ペルラ、ブルニタル、ランドン、ハーマンはコッコラ王国側から流されてくる情報などがメインで報告された。

 ルーファス、マリオン、ガエルは傭兵ギルドや情報屋が握っている情報をうまく引き出して、両国からもたらされる情報内容の検証に一役買った。

 カーティス、マーゴット、ヴァルトは酒場や顔なじみ、ご近所の傭兵たちへの聞き込みがメインだった。

「古巣が軍隊だから、色々な話が聞けるのはありがてぇ」

 ビール瓶を片手にギャリーがニヤリと口の端をつりあげた。厳つい顔が笑むと不敵な凄みが増す。

「こういうときには役に立ちますよね。――皇国側としては今回どうしてもコッコラ王国と戦争してでも守りたいものがあるようですね」

 ギャリーに同意しながらメルヴィンは真面目な表情で僅かに肩をすくめる。

「石油の供給が止められているようです」

 まだ直接国民への影響は出ていないが、2週間ほど前から供給を拒否され、連絡もつかない有様らしい。

「エネルギー国家の反乱ですか……それは深刻な問題ですねえ」

 腕を組んで天井を見つめながら、カーティスは考え込むように唸った。

 ハワドウレ皇国の北に位置するコッコラ王国は、400年ほど前に属国という形で独立を勝ち取った古い国の一つだった。

 国土には豊かな油田を有していたので、石油を税として納めることで自由を勝ち得ていたが、それがここへきて反旗を翻したという。石油はあらゆる燃料として使われている。事都市部では利用が多く、すぐに底を突くことはないが、値上がりして収拾がつかなくなるだろうことは容易に想像できた。

「ベルトルド卿がわざわざ釘を刺しにきたくらいですから、何かあるのだろうと思っていましたが、政治的な思惑が絡んでいたんですか」

 皇国の副宰相であるベルトルドがライオン傭兵団の後ろ盾をしていることを知っている者は数少ないと聞いていた。政治や軍事の上層部など知っている者もいるようだが、ハーメンリンナの外の人間で知っている者はいない。

 ライオン傭兵団が関わることで、ベルトルドに不利益なことが発生するのかもしれず、迂闊に首を突っ込ませない為だったのだろう。カーティスたちが独自に仕入れてくる仕事について、アレコレ口を挟んできたことはこれまでないからだ。

 でも。

「ベルトルド卿の思惑や立場がどうであれ、我々はあくまで自由な傭兵団」

 談話室に居並ぶ傭兵たちの顔に、不敵な笑みが浮かんで広がっていく。

 宮仕えはもう辞めているのだ。ベルトルドになにを遠慮することがある。皆の目はそう語っていた。

 簾のように垂れ下がる鬱陶しい前髪を払い除け、カーティスは皆の顔に浮かんだ思いを見てにっこりと微笑んだ。

「コッコラ王国の臨時雇用に乗りましょうか」


特別小咄:コッコラ王国の悲劇《1》 続く



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Comments 4

涼音

今晩は。

何だか御大があれだけベタ惚れのリッキーに如何して手を出さずにいられるのか何となく分かってきた気がします(笑)
色々想像するとやっぱり可愛いですね、御大♪
そっか、そっか癒しのストリップ劇場かぁ。
読みながら、きっとこれ買い取るとか資金出すとか言い出しそうだと思いましたが、やっぱりしっかり者の執事が居るとそう言う訳にも行かないものね(笑)
この二人やっぱりいいコンビですよね♪
これは、絶対にリッキーには知られたくない過去ですよね。

>「ベルトルド卿の思惑や立場がどうであれ、我々はあくまで自由な傭兵団」

そうですね。
分かっていても彼らは知ったからには止まれないですよね^^
何か楽しい展開が待っているのが分かるので、続きカモン♪状態です(笑)

↓のケーキ凄い!!
私だったらきっと食べきれなかったと思う・・・・。いや、食事抜きなら食べれるか?
でも、一度は食べてみたい気もしますが、絶対に息子に奪われそうです(笑)
来年は不二家も良いな♪

2014-12-27 (Sat) 01:17 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: タイトルなし

涼音さんこんばんわ('∇')

御大には性欲ストッパーアイテムがいっぱいあるので(笑) 無修正特別バージョンのアハン本は燃やされちゃいましたが、まだまだ・・・w

ある意味男のロマンを貫くお人なので、ストリップ劇場はパラダイスの一つですね(^ω^)

アルカネットさんは御大が男のロマン(女性問題)でズッコケないようにしっかり見張ってます(笑)

キュッリッキさんにバレたら「フケツよ!!」て言われちゃいますねw

ライオン傭兵団の面々はこの頃まだまだ自意識過剰で青臭いですから、御大の恐ろしさも知らずに元気ですw
続きなるべく早めに出すようにするので、次回も読んでやってくださいましw

ケーキはですねえ・・・・夕飯食べて5時間後に食べ始めましたが、4分の1食べ終わる頃には気持ち悪く(笑) でも捨てるとかもったいないことできないので、胃薬飲んで必死の7時間でしたww
でもきっと涼音さんもイケますよ!w
御子息が眠ったらこっそりトライです☆

2014-12-27 (Sat) 17:13 | EDIT | REPLY |   

八少女 夕

三年くらい前かな

こんばんは。

本文とは関係ないんですが、もしかして人物紹介は、偉い(?)順にもなっているのかな〜なんて思いました。メルヴィンとシビルがすごく上だったので「おお」と思いました。

そうか、よくわからないままに反体制側に雇われてコテンパンにやられたんじゃなくて「行くなよ」と言われていたのにやっちゃったのか、そりゃやられちゃうだろうなあ……。

アジトの様子も細かく書かれていて面白かったです。ちょっと泊りにいきたい感じですね。ここでみんなでワイワイお菓子を食べながら集まっていたら楽しいだろうな。いや、傭兵でしたね。そんなお遊び集団じゃないか。

次回も楽しみにしています。

2014-12-28 (Sun) 03:15 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: 三年くらい前かな

八少女さんこんばんわ('∇')

キャラ紹介の並び順はテキトーです(笑) カーティス以外はみんな平等な感じですね~。あえてリーダー格を挙げるなら、ギャリー>メルヴィン>ルーファスといった感じにw

ちなみに中年トリオは社会的地位だとあれでいいんですが、裏側力関係だとアルカネット>リュリュ>ベルトルドとなります(・ω・)☆

3年前の彼らは無知な命知らずなので、こわ~いメにあって、初めて逆らっちゃイケナイ相手だと知るので(笑) そのへんをちゃんと書けるとイイナ・・・。

>そんなお遊び集団じゃないか。

いえ、そんなお遊び集団です(キリッ☆)

2014-12-28 (Sun) 18:43 | EDIT | REPLY |   

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