ALCHERA-片翼の召喚士- 特別小咄:コッコラ王国の悲劇《2》


ALCHERA-片翼の召喚士-

今年最初の小説作品になりまっす(・ω・)でも、コッコラ王国の続きです(笑)

今回は伏線張るお話の回、て感じなので、御大をイケニエにしておきました。コッコラ王国の悲劇はすでにオチも本編で語られているから、詳細を追いかけていただく内容となっています。
終盤御大がハレンチな発言をビシバシぶちかましていますが、良い子は部屋を明るくして離れてみてね(´_ゝ`)

作中に『エンフ』という単語が出てきますが、この物語内での通貨の名称です。単純に1エンフ=1万円と思ってください|д゚)w あまりつっこまれるとわたしの頭が吹っ飛びます。

前からやろうやろうと思っていた、キャラクターの顔カットと簡単紹介のページを、今回から作ってリンクを張ってあります。あと用語説明へも飛ぶようにリンク張りました。全てのキャラの顔を描いているわけじゃないですが、主要キャラはできれば今後も描いていきたいかなと思ってます。全身絵になるとまた時間もかかって小説のほうが進まなくなるので、適度に描いていきますネ。ふとキャラの区別がつきにくくなったら参考にご利用ください。





ALCHERA-片翼の召喚士-
特別小咄:コッコラ王国の悲劇《2》



 ワイ・メア大陸のほぼ北側に位置するコッコラ王国は、ハワドウレ皇国を建国したワイズキュール家と共に、戦場を駆け抜けた戦友の一人ハルク・メティンが賜った領地である。

 豊かな油田が多く、石油を税としてハワドウレ皇国に献上する条件で、属国という形ではあるが独立を勝ち取った国だ。

 現在は65歳になるエルディミル・セミフ・メティン国王が治めている。

 これといって目立たず、暴君でも名君でもなく、無難に先祖代々からの玉座を温めるだけの温厚な国王という程度の評判だった。そんなメティン国王が、どういうわけか豊かな財力を背景に、世界各地から腕利きの傭兵たちを募りハワドウレ皇国に弓をひこうとしている。

 3000万人程度のそれほど大きな国ではないが、財力がとてつもないことは世界中でも有名なことだ。その国が大々的に傭兵を募っているというニュースは、水面下でも瞬く間に世界中に広がった。

 くすぶりまくる傭兵たちは、大金を稼ぐチャンスとばかりにコッコラ王国に集結していった。



 白亜の彫刻と黄金細工で彩られた豪奢な室内には、およそ不似合い過ぎる厳つい顔の猛者たちがひしめいていた。

 窓際近くに並べられた3つのテーブルには、役人風の身なりの男たちと警備兵たちが並び、テーブルを挟んで対岸に傭兵たちが3列に行儀よく並んでいる。

 前に立っていた男がどくと、「次」と呼ばれてカーティスは一歩進み出た。

「これに目を通しサインを」

 彫りの深い顔立ちの黒髪の男が、無表情に一枚の書面を差し出す。

 無言で頷いて書面を受け取ると、カーティスは仰天したように目を見開いた。

 支払われる報酬の全額は7千万エンフ、手付金として1千万エンフが先に支払われる旨の記述だった。

 左右隣の列に並ぶ先頭の男たちも同様に目をひん剥いていた。そしてザッと目を通しただけですぐさまサインをする。

 カーティスは驚きの表情を引っ込め、すぐさま借りたペンを走らせ署名する。

 目の前の無表情な男にサインした書面と、あらかじめ用意していたメンバーリストを渡し、かわりにやたらと重たい布袋を3つと書類が折らずに入るサイズの封筒を渡された。

 邪魔にならないようにすぐさま列から離れ、出口へ向かう。

「持とう」

 出口の外で待機していたガエルが、フラフラ歩くカーティスの手から布袋を全部受け取る。カーティスはホッとした表情で封筒を小脇に抱えた。

「ありがとうございます。手が痺れてしまう重さですねえ」

「随分ぎっしり詰まってるな」

 にやりとガエルが笑むと、それだけで凄みを増す迫力が満面に広がる。クマのトゥーリ族であるガエルは、3つの布袋を軽々と抱えていた。

「手付金だろう? 随分と気前の良い国だな」

 珍しくお喋りになるガエルに苦笑を向けて、カーティスは頷いた。

「1千万エンフですから。念のため宿に戻ったら中身を確認しましょう」

 カーティスとガエルは、重厚な彫刻が並び微細な天井絵に彩られた大理石廊下を並んで歩く。二人はそんな美術的価値にはなんの興味もわかず淡々と前を見ていた。

 コッコラ王国側の傭兵募集に乗ることを決めた翌日、出張用の荷物をまとめると、アジトの管理を任せているキリ夫妻に見送られて、傭兵団全員でコッコラ王国に出発した。

 移動はエグザイルシステムを使うのでラクなのだが、コッコラ王国への渡航は制限がかかりはじめたようで、とくに傭兵や職人などの出国にはハワドウレ皇国の厳しい審査が始まっていた。

 そこでカーティス達は、わざわざ惑星タピオに飛んで、そこから惑星ヒイシに入り直してコッコラ王国へ飛ぶという、とても面倒な手順を踏んだ。

 幸いまだ裏ワザ手順までは抑えられていないようで、ギリギリ間に合った感じだろう。

 エグザイルシステムとは、世界各地に多く点在する転送装置の名称である。

 半径1メートルほどの黒い石造りの台座に、短い銀の支柱のようなものが3本立っている。台座の中心にはその惑星の地図が平面上に彫り込まれていて、エグザイルシステムがある土地の位置にスイッチのような突起があった。そのスイッチを踏めば台座に乗っているもの全てを一瞬でそこへ飛ばしてもらえる。重さや大きさは問わず、台座の上に収まれば大丈夫だった。

 惑星間を移動するときには銀の支柱に触れればよく、支柱はそれぞれの惑星へのスイッチの役割を持っていた。

 惑星間移動ではそれぞれの惑星で、必ず玄関口となる場所に飛ぶようになっている。そこから向かいたい土地を選択すればいいので移動もスムーズだ。

 エグザイルシステムの利用はどの国でも無料で使える。便利で手頃な移動手段だった。

 コッコラ王国の首都エルマスに到着したライオン傭兵団は、その足でカーティスとガエルが傭兵募集を行っている王宮へ、残りは宿屋探しにわかれた。

 首都エルマスには多くの物騒な連中がひしめき合っていた。それにもかかわらず街の雰囲気は明るく、どこか異様に盛り上がっているような気配すらある。

 絶え間なく陽気に流れる舞踏の音楽、笑いさざめく人々、露天から香ってくる肉の香ばしい匂い、物を売り歩く商人たち。とても戦争を控えているという雰囲気ではなかった。

「でも、心の底から穏やかに楽しいというわけじゃないようですねえ。まるで恐怖を誤魔化す様な、気色悪い陽気さを感じます」

 鼓舞するためのものじゃない。恐怖に怯える心を無理に隠すような熱気が、街全体を覆い尽くしているようだった。

 マリオンから念話で連絡をもらっていたカーティスは、王宮から出ると、街に漂う異様な空気を肌で感じながらガエルと共に宿へ向かった。



「こりゃすげーな」

 ギャリーは袋の中に片手を突っ込み、金貨を鷲掴みにしてバラバラとベッドの上に撒き散らした。

「手付金だけで2年は飲んだくれて遊びほうけてもお釣りが来る数ですよ!」

 金貨の詰まった袋とベッドにばらまかれた金貨を交互に見ながら、シビルは感嘆したように声をあげた。

 街中の宿屋は全て埋まっていたので、ライオン傭兵団は街の一角にある裕福な商家の離れを借り受けて、そこを定宿とした。

 ひとくちに離れといっても二階建ての立派な館で、20室も客室を構えている。

 コッコラ王国は石油で財を成している国なので、首都エルマスには広大な敷地と邸宅を構える富豪が多く住んでいる。

 あらかじめ布告が出ていたようで、王国に雇われた傭兵団などは快く邸宅の一部や離れを提供され、宿屋を利用するよりも待遇が良かった。

 事前に情報を仕入れていたブルニタルのはからいで、宿屋よりも富豪などの邸宅巡りで取れた離れだった。

 カーティスの客室に全員集まり、手付金を一枚一枚確認し、均等に人数分割り振られる。端数はカーティスが預かり、食事代や宿代に使われた。ライオン傭兵団では報酬は常に均等に分配され、誰よりも仕事量が多かったり活躍した者へは、特別報酬が支払われる。その判断はカーティスが行う。そしてその判断に異議を唱えるメンバーは一人もいない。

 分配できない物品の場合は、換金なりしてやはり均等に分配される。

 カーティスは金銭絡みであまり仲間同士で溝を作りたくないと考えている。差をつけるような報酬の出し方は、最初はよくてもそのうち少しずつ不満が溜まり続け、いつかくだらないことで暴発する。しかし、誰よりも努力したり活躍したメンバーに対し、特別報酬を出すことは励みにもなるし報いることにもなる。それを不満や不平に感じるものは、ライオン傭兵団にはいらない。

 ライオン傭兵団を作るにあたり、カーティスは色々なことを細かく考え、それを実行してきている。報酬の分配方法もその一つだ。

 基本、楽しくやっていきたい。自分が楽しむのも当然だが、メンバー全員が楽しくなければならない。それを阻害する要素は出来るだけ取り除き、メンバー各自からの不満や文句なども出来るだけ聞いて改善するようにしていた。

「はいこれ、マーゴットさんのぶんです」

「ありがとう」

 シビルから分け前を受け取って、マーゴットはさも当然、といった表情で金貨の枚数を数えていた。そのマーゴットの様子を、カーティス以外は不満そうにみやっている。

 唯一カーティスが皆の不満と文句をスルーし、自らの我が儘を貫いてること、マーゴットの存在である。

 ライオン傭兵団に集まっている猛者たちは、一人当千(いちにんとうせん)の実力を備え、またそれに匹敵するほどの知識や能力を持つ人々だ。そんな中、特殊スキル〈才能〉に分類される魔法スキル〈才能〉を持つマーゴットだが、これが申し訳ないほど魔法の扱いが下手なのである。

 低級レベルの魔法すら満足に扱えず、しかもマーゴット自身は回復系魔法が得意だと思い込んでいた。当然扱いが下手なのは魔法全般なので、マーゴットが回復魔法を使えば擦り傷すら悪化し、重症人に使えば死人を出す有様だ。しかしマーゴットは自身が下手なことをけっして認めない。もはや可愛げがないとかそういうレベルではない。

 メンバーを集める際、一流で凄腕ばかりを望んだ手前、マーゴットの存在はライオン傭兵団にとっては唯一の汚点である。それでもあえて彼女を入れているのは、カーティスの恋人だからであり、それが判っているから皆も我慢してくれている。これでせめてマーゴットが空気を読んでしおらしく振舞ってくれればまだよかったが、強情で頑固、つんけんして態度も女王様気取りな部分が大きい。

 今も与えられた手付金を当然のように自分の荷物にしまっているので、皆の抑えた反感を買ってることにも気づいていないのだった。

 自分が望んだこととは言え、少しは気を使って欲しい、そうカーティスも思っていた。

「分配完了しましたよ、カーティスさん」

 シビルが余った50枚くらいの金貨を袋に詰め直してカーティスに渡す。この残金で当分の食費やら酒代が支払われることになる。

「ありがとうございます」

「母屋のほうから朝食は振舞われるらしいですが、昼食と夕食は自分たちで何とかして欲しい、とのことでした」

 交渉にあたったブルニタルからの報告に、カーティスは頷いた。

「明日にでも戦端が開かれるというわけではないようですから、5日間くらいはのんびりできそうです」

「なんで5日?」

 ギャリーが首をかしげると、カーティスは手付金と一緒に受け取っていた書類をギャリーに手渡す。

「なんでぇ、えらく大雑把だな」

 不精ひげの生える顎を摩りながら、ギャリーは眉間にシワを寄せる。

「4日後までは傭兵を募る期間、5日後に戦端を開く。て、オイオイ、一体何時軍を編成するんだ? ある程度は体裁を整えないとマズイだろ。それに作戦説明とかはどーすんだよ」

「準備まるでナシ、だね」

「コッコラ王国領内に皇国軍が来るまでは、当然準備に追われるんでしょうが、こちらの都合に合わせて皇国軍が待ってくれるんか?」

「皇国軍にきてもらうのが前提なんだな。遠征するとか全く予定はない感じだ」

「つか、予定通りに皇国軍が5日後にくんの?」

 皆は呆れ顔を見合わせて肩をすくめる。ライオン傭兵団のメンバーは、ほぼ元軍人だったのだ。コッコラ王国の杜撰すぎる様子にツッコミどころ満載である。国同士が闘うというより、街の縄張り争いのような稚拙さが浮き彫りだった。

 せっかく募集に乗っかってみたのはいいが、開始前からすでにグデグデなのには正直恐れ入る。

「これは私の想像ですが…、作戦なんてないと思います」

 にっこりと言うカーティスの顔を見て、全員ゲソーッと表情を歪ませた。

 一番最悪なパターンである。

「そもそもこのコッコラ王国に、皇国軍とまともに戦える戦力自体が殆どないんですよ。だからこれだけ片っ端から傭兵たちをかき集めている状態ですしねえ」

 簾のように長く垂れ下がる前髪の奥の細い目を閉じる。

「コッコラ王国は財政の豊かな国ですから、他国からちょっかいを出されることもあるでしょうし、富豪も多いから賊に脅かされることもある。でも、常に守るばかりの戦いは知っていても、自ら仕掛ける戦いなど殆どやったことがないと思います。街の喧騒に見え隠れする国民の戸惑いと恐怖はみなさんも感じてるでしょう。――ベルトルド卿がわざわざ釘を刺しに来たくらいですから、皇国軍はかなりの戦力を投入してくるはずです。どのみち作戦を立てたところで、勝てるはずがないんです」

「負けると判ってても戦わなければならない理由が、コッコラ王国にはあるってか」

 くだらない、という表情を露骨に浮かべ、ギャリーはガシガシと頭を掻いた。

「その負け戦に乗ってやって、オレらどーすんの?」

 ベッドに寝転がりながら、ザカリーは興味津々の笑みを浮かべている。それをチラリと見やって、カーティスもまた笑みを浮かべる。

「ライオン傭兵団を結成して早2年。なかなか大きな仕事も貰えず、名声をあげる場面も少なく、未だに我々は新人扱いもいいところです。そろそろ、有名になってもいい頃だと思うんですよ」

 カーティスが言わんとしていることを理解して、ザカリーの顔に不敵な笑みが浮かぶ。

「コッコラ王国が勝とうが負けようが、そんなことはどうでもいいんです。幸いなことに世界各地の傭兵さんたちが大集合していますから、我々の実力を見せ付けるのにいい機会です。こんな宣伝に向いた舞台はそうありませんからね、めいっぱい利用させていただきましょうか」

 最強を誇る皇国軍を相手に実力を示すことができれば、ライオン傭兵団の名は世界中に轟くことは容易に予想できる。

「へっ、作戦なんてもん、むしろ邪魔だな。好き勝手に前線で暴れさせてくれりゃ大満足ってもんだな」

 ニヤニヤと笑うギャリーに、カーティスはにっこり微笑んだ。

「出来るだけ派手に目立ちましょう。全力全開で好き放題に暴れるのが、当傭兵団の作戦です」



 黄金と絹に彩られた豪奢な部屋の中では、宝石を飾った豊かな黒髪の美女が、切なげにため息をついていた。

 傍らにかしずく乳母が、不安そうに美女に視線を向ける。

 メティン国王の愛娘ジーネット王女だ。

「お父上様は、本当に戦争をなさるおつもりなのでしょうか……」

「国内には多くの傭兵たちが集められているそうでございますよ」

 王女の密やかな呟きに、乳母はそっと答えた。

「わたくしのせいでこのようなことに」

 長い睫毛に縁どられた目を、王女は悲しげに伏せた。



「議会は即決したようね。皇王様もすぐ首を縦に振ったそうよ」

「ふむ」

 秘書官のリュリュから一枚の紙を手渡されると、ザッと目を通しデスクに置いた。

「皇国に威勢良く歯向かってくる連中が何百年といなかったからな、きっとお祭り気分で出陣するんだろう」

 ベルトルドはこれといって興味なさそうに言い捨てた。

「備蓄分を使い果たすまではまだ数年余裕もあることだけど、あんまり悠長に構えすぎても価格が高騰するのは目に見えているしネ。ま、今回はあーたの出番はないわよ。おとなしく政務に励むことね」

 コンパクトを開いて化粧崩れをチェックしながら、リュリュは素っ気なく言った。

「俺もたまには、どかーんと派手に力を振り回して暴れたいなあ」

「あーたがどかーんと力振り回したら大惨事になるでしょっ!」

 タレ目でキッと睨まれ、ベルトルドはいたずらっ子のように首をすくめる。

「だって、毎日毎日アルカネットの小言責めでストレス溜まってるんだもん」

「なにが”もん”よ可愛子ぶって。こないだのハッキネン子爵夫人との浮気が社交界にバレて、その尻拭いにアルカネットをコキ使ったからでしょ」

「アレはハッキネン子爵夫人が勝手に誘ってきただけで、俺は悪くないんだぞ」

 眉をヒクヒクとひくつかせながら、ベルトルドは精一杯言い返してみるが、リュリュからは冷ややかな視線を返されるだけだった。

 事実、浮気の誘いはハッキネン子爵夫人からだったが、それに浮気と判った上でわざわざ乗るほうはもっと悪い。

 ベルトルドからしてみたら、一時の性的欲求を解消する為だけに誘いに乗ったが、相手のハッキネン子爵夫人が本気になって、それは醜い騒動に発展してしまった。そしてこういったことは、何も今に始まったことではないのである。

「毎度毎度、懲りずにボウフラみたいに起こるあーたの下半身騒動に巻き込まれるアルカネットの身にもなってあげなさい」

「あのな……」

「そんなに下半身ビンビンしてるんだったら、アレの上手い男を紹介してあげるわよ」

「男相手に勃つか!!」

「じゃあ、アタシが抜いてあげましょうか」

「オカマにも勃たん!!!」

 ベルトルドは股間を両手でガッチリガードすると、スタイリッシュチェアごとズズッと後退った。

 薄く紅をはいた唇を舌先でペロリと舐めると、リュリュはンふっと微笑んで、デスクに片足をのせてくねっとしなを作った。

「おいたする子には、ねっとりとお仕置きよん」

「い、いやああああああああ」



「失礼しますよ」

 長身でガッシリとした体躯には不似合いなほど、温厚そうで愛嬌たっぷりの顔をしている白クマのトゥーリ族であるブルーベル将軍は、通されたオフィスの奥にいるベルトルドを見て首をかしげた。

「副宰相どのは、どうしたんです?」

 傍らに控えるリュリュが、艶々とした笑顔で「政務に忙殺されて疲れたようです」と答えた。

 スタイリッシュチェアの背もたれに深々と沈み込み、肘掛にだらしなく腕を伸ばし、足も力なく放り出していた。

「大切ななにかを失った気が……する……」

 魂の抜けたような表情で、ベルトルドはボソボソとつぶやいている。

「ところで将軍、ご要件は?」

 リュリュに促されて、ブルーベル将軍はつぶらな瞳を瞬かせた。

「コッコラ王国への制裁が、先ほど陛下より正式に下りました。それにあたって、副宰相どのの直轄にあるダエヴァを、1部隊ほどお貸し願いたく」

 言いながら、ブルーベル将軍は背後に控える副官のハギから1枚の紙を受け取り、それをリュリュに手渡した。

「あらま」

 手渡されたその紙面には、コッコラ王国の戦力内容の詳細が綴られていた。

「あの国が自国の軍隊だけで戦うのであれば、こちらの正規部隊を1つ送れば済む程度なんですがね。世界各地の傭兵たちを豪勢にかき集めているようなので、こちらとしても侮るわけにはいかないのです」

「そうね。将軍には悪いけど、はっきり言って役立たずもいいところですものね、ウチの軍隊」

 リュリュの無遠慮な発言に、ブルーベル将軍は「いや、まったく」と大笑いした。

「実戦経験がとにかく薄いですからの、百戦錬磨級の傭兵たちに比べるとどうにも心配でしてな。そこでダエヴァを1部隊お借りできれば安心なのですよ」

 ハワドウレ皇国の軍は大きく分けて二つある。一つはブルーベル将軍の直接指揮に入る正規部隊。大将たちに率いられる10の部隊の総称である。そしてもう一つ、全軍総帥(皇王が兼任)の直接指揮下の特殊部隊と呼ばれる7つの部隊。

 その中にダエヴァと呼ばれる3部隊が入っており、しかしこれは特別に副宰相であるベルトルドが組織して直轄に置いている部隊でもあった。その為全軍総帥といえども、運用にあたってはベルトルドの許可が要る。

 あらゆるスキル〈才能〉のエキスパートたちで組まれており、全体の様子はあまり公になっていない。表沙汰にできない隠密行動や暗殺なども実行する、国の裏側を担う部隊でもあるのだ。しかし表の顔も持っており、出陣要請があれば特殊部隊として出撃することもある。

「ラーシュ=オロフ長官の第二部隊ならお貸し出来そう。丸ごと閣下に御預けするわ」

「かたじけない。ありがたく」

 放心状態のベルトルドそっちのけで話は進んでいく。

「正規部隊はいくつ連れて行くのかしら?」

「第一、第五、第六の3部隊で向かいます。人数的には五分以上になるでしょう」

「そうねん。いくらコッコラ王国が金貨を大量にちらつかせても、ウチほど人員は集められないでしょうから」

「一人当千(いちにんとうせん)のツワモノ達でも、彼らもまた統率の取れていない烏合の衆です。補給や人員交代などを考えると、あまり長期化はせんでしょう」

「素人戦なら三日もあれば片付くわね。――それにしてもエネルギーを盾にして喧嘩売ってくるとか、いきなりどうしちゃったのかしらね、あの国」

「こんな雑な宣戦布告も初めてですよ。一体何がしたいのでしょう。戦争に至るまでの経緯がさっぱり判らんのです」

「アタシもなのよね。とくに体制に不満があったわけでもなさそうだし、石油を持ってかれるだけだし。それにこれといってウチからはほぼ干渉はしてないもの。一口に戦争をすると言っても、杜撰だし準備不足だし、負け戦と判ってるけど退くわけにも行かない、てかんじでイヤんなっちゃう」

 リュリュとブルーベル将軍が神妙に考え込む中、ベルトルドの魂はまだ別の世界を漂っているようだった。



 いつもなら「俺が帰ったぞ!」と、元気よく玄関のドアを両開きにして入ってくるのだが、今日に限って雨雲を頭上に漂わせて静かに入ってきた。

「おかえりなさいませ。今日はえらく元気がありませんね、拾い食いでもなさいましたか?」

 嫌味とともに出迎えた執事のアルカネットが、端正な顔を不思議そうに傾けてベルトルドの前に立つ。

 穏やかな風貌のアルカネットの顔を見て、ベルトルドは途端にくしゃりと顔を歪ませると、一目散にアルカネットに飛びついた。

 後方で控えていたメイドたちが、その光景にギョッと目を見開く。

「………」

 ベルトルドもアルカネットも、身長はゆうに180センチを越える。そしてすでに中年と呼ばれる領域の年齢であり、どちらも健康な男子。それが、いきなり問答無用で抱きついてきて嬉しいはずもなく、また、アルカネットにもベルトルドにもそんな性癖はない。

「今から30秒以内に簡潔にこの行動の意味を説明しなさい。さもないとイラアルータ・トニトルスの雷撃で木っ端微塵に吹き飛ばしますよ」

 据わった眼差しと底冷えする声で言い放つと、アルカネットは片手に電撃の魔力を込め始めた。

 ベルトルドは両手でアルカネットの肩を掴んだまま身体を離し、ベソかいた顔でぐすりと鼻をすすった。

「リューに犯された」

「………はぃ?」

「アイツに思いっきりしゃぶられた! 不覚にも2発も抜かされた!! なんであんな舌の使い方が上手いんだうっうっ……」

「男……いえ、オカマに握られた時点で普通は萎えるんじゃないんでしょうか」

「お前もそう思うだろ!? 俺もそう思っていたんだ!! けどな、けどな」

 あとはもうメソメソと泣き出して会話にならない。

 両手で顔を覆って泣いてるベルトルドを疲れたように見やって、アルカネットは長々と息を吐き出した。


特別小咄:コッコラ王国の悲劇《2》 続く



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Comments 4

八少女 夕

お……

御大がリュリュたんとアルカネットさんにある意味逆らえない理由がわかったような氣がする(笑)

ライオン傭兵団のシステムと言うのでしょうか、お金の配分やメンバーの立ち位置など、さりげなくちゃんと説明されているので、本編を読むのにもとても参考になる番外編なのですね。

そして、かなり行き当たりばったりっぽいコッコラ王国ですが、綺麗なお姫様が絡んでいるのでしょうか。

ライオン傭兵団がどうなってしまうかの簡単な結果だけは知っていますが、それまでの経過も楽しみですね。ブルーベル将軍登場という事は、そのうちにハギたんもでてくるのかな。

次回も楽しみにしています。

2015-01-06 (Tue) 05:36 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: お……

八少女さんこんにちわヽ(・∀・)ノ

あの中年トリオの力関係は、あんな感じなのです(笑) 社会的地位じゃなく、もっと奥深いところがムフフですw

本当なら本編で諸々の詳細を書いていくべきなんですが、カーティスがどう考えて傭兵団を立ち上げて運営しているとか、本編の中では必要ナイな・・と(;・∀・) ちょろっと入れてもいいかもですが、おそらく重要じゃないからすぐ忘却の彼方に(笑)

キュッリッキさんと御大が主軸の本編なので、せめて番外編では脇役たちにスポットをあてて紹介していければいいな~ですw ちょと今回9000字いってて説明量が多すぎちゃいました><

お膳立てができたので、次から回収にまわっていきたいと思います。
いつもありがとうございます(´∀`) 更新早めにがんばりまっす|д゚)!

2015-01-06 (Tue) 16:35 | EDIT | REPLY |   

suzune

今日は^^

皆さん盛り上がってますね^^
《2》も楽しく読ませて頂きました。
でも語ると言って一番楽しかったのはやっぱり御大のくだり部分。
何か、リュリュたんって、リュリュたんって、リュリュたんって……あらためて怖い(笑)
御大がリュリュたんに対して何処か引き気味なのとアルカネットさんを色々言いつつ一目置いて頼っている理由が良く分かった気がします。
御大が両手でアルカネットさんの肩を掴んでベソかいて……、すみません。大爆笑してしまいました。
いやぁ、御大ってそうだったんだ。リュリュたんと……そんな過去が。そりゃ怖いよな。大の女好きな御大にとっては屈辱的出来事だったろうし(苦笑)
次回も楽しみにしてますね♪

↓「User Profile Serviceサービス」 って、ログインする際のエラーのことだったんですね~(無知ですみません(^^;))。
うち、今の所は全く問題なく全然調子良いんですが、これやっぱりデータ消えたら怖いので、私も今度から小説だけは別に保存するようにしよう。今デスクトップ上に保存が主で、たまにしかスティック保存してないので。
今、うちのMeがまさしくその状況です。まあ、それもあって買い直したんですが、まだ壊れるにはうちも早いと思っているので。
PC高すぎて中々買えませんよね。

2015-01-07 (Wed) 15:08 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: タイトルなし

suzuneさんこんばんわヽ(・∀・)ノ

オカマを怒らせたらイケナイのです(笑)
ゲンコツ食らってしおらしくなる程御大は純真無垢じゃないから、なにが一番効果的かリュリュたんはよく判っているんです。
二人共サイ〈超能力〉スキル〈才能〉持ちなので、最初はもうドタンバタン大騒ぎだったでしょうが、リュリュたん支配になったらきっと御大は人前に出せない表情で折檻受けていたと思います(^ω^)ンふっ

女好きを主張せずにはいられない御大の必死な姿が、次回か次々回に出る予定ですw

>User Profile Serviceサービス

いえいえ、これは実際起こらないと、知り得ないエラーですよ~~! わたしもなるまで全く知らずにきてましたw
テキストファイルとか画像データとかは無事なんですが、ユーザー辞書とかCGソフトなどの読み込みデータとか自作色見本などは綺麗さっぱり、CGソフト自体が初期化状態になってしまっているので、なかなか厄介なのですよ>< インストールされているソフト類はほぼ初期化状態w
一応修復できる部分はあるようで、その方法もマイクロソフトに載っているんですが、面倒でもういいです・・・て(笑)

Win7を使っていると、もしかしたら起こるかもしれないと想定して、対策マニュアルがマイクロソフト社のほうにあるので、プリントアウトしておくのをオススメですw なかなかにはた迷惑なエラーなんですよほんとに><;

2015-01-07 (Wed) 23:24 | EDIT | REPLY |   

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