005 第一章 ライオン傭兵団 仲間(二)

第一章 ライオン傭兵団 仲間(二) 005



 人間は、生まれつき一つのスキル〈才能〉を授かって生まれてくる。

 そのスキル〈才能〉は多種多様で、商売、職人、戦闘、学問、芸術など、そのひとの個性や特技になるようなものを、必ず一つ確実に備えて生まれるのだ。

 スキル〈才能〉を磨き育てていけば、将来そのスキル〈才能〉を活かした仕事で身を立てることができる。ただし、生まれ持ったスキル〈才能〉以外のものを選んで磨き、追求しても、そのスキル〈才能〉持ちに比べるとはるかに劣る。

 三歳になると、各地にあるスキル〈才能〉判定所で、どんなスキル〈才能〉を持って生まれたかを調べてもらえる。スキル〈才能〉次第では、その時点でほぼ将来が決まると言っていい。

 スキル〈才能〉は遺伝しない。一代限りのものだ。

 パン職人のスキル〈才能〉を持つ両親から、魔法使いのスキル〈才能〉を持った子供が生まれることだってある。なので親を選んでスキル〈才能〉を授かることは、絶対に不可能だった。

 そうした様々なスキル〈才能〉の中に、レアスキルと呼ばれる特殊スキル〈才能〉がいくつかある。

 魔法、超能力、機械工学、そして召喚スキル〈才能〉。

「圧倒的に少ないレアスキルの中でも、レア中のレアなのが召喚スキル〈才能〉です」
 魔法、超能力、機械工学のレアスキルは、百人にひとりの確率で生まれてくるが、召喚は一億人に一人の確率と言われている。そのため実在するのかどうかすら、定かではないと言われていた。

「召喚スキル〈才能〉を持って生まれてきたひとは、必ずと言っていいほど、幼い頃に国が家族ごと召し上げ、一般人の前に姿を見せることがありません。王族並みの待遇を受け、戦争でもよほどの局面でしか投入されないと聞きます」

「……」

「だから、あなたが傭兵をしていることは、我々にとっては不思議なことなんです」

「そ……そうなんだ…」

 きょとんとした表情で、キュッリッキは小さく呟いた。

(不思議、なんて初めて言われちゃったな…)

 傭兵でいることに、罪悪感でも持たないといけないのかと、キュッリッキは内心首をすくめた。

(家族ごと……か)

「そういや、ザカリーは軍に居た頃、ナマ召喚士見たことあんだろ?」

 飲み食いしながら黙って話を聞いていたルーファスが、ふと思い出したように話をふる。

「ああ。どっちもオレらと同じヴィプネン族のオンナで、二人居たなあ」

 明後日の方向へ視線を向けながら、ザカリーは記憶をたどる。

「神官どもみたいなカッコしててさ、演習の時にちょろっと現れたんだ。騎士団が護衛にへばりついてて、よくわかんねー召喚を見せつけて帰っちまったな」

「わかんねー召喚ってなんだよ」

 ギャリーが笑い含みに突っ込む。

「いやさー、今日のキュッリッキの召喚と比べると、ホントなにを召喚したんだろ? て思うくらい、小さな規模だったぜ」

 そう言って、フォークで宙に円のようなものを描く。

「二人揃って召喚したもんが、なにやら円形の……なにかだ」

「まーったくわからねー」

 お手上げといったように、ルーファスは天井を仰ぐ。ギャリーが大笑いした。

「遠目に見ただけだったからなあ、オレも判んなかったし、他の連中もさっぱりって言ってた」

「その点、キュッリッキさんの召喚は、遠目から見ても凄かったですね」

 ほうけた様な表情を張り付かせたまま黙っているキュッリッキに、メルヴィンが優しく微笑んだ。

「そーそー、規模がぜーんぜん違うんだもんなー。スキル〈才能〉値が高いんだろうな、あの王宮にいたオンナどもより」

 ザカリーも笑顔を向けたが、キュッリッキはツンとそっぽを向いてしまった。

(あらぁ…まだ怒ってる)

 昼間のことで、まだキュッリッキのお怒りは解けていないようだった。

 こっそり溜息をついたところに、ヴァルトからナッツを一粒投げつけられ、ザカリーはガッカリしたようにテーブルに突っ伏してしまった。

「ボクも召喚士と会うのは初めてなんだけどさ、具体的に召喚ってどうやってるの?」

「ん?」
 シビルの隣に座っていたハーマンが、身を乗り出してシビルの頭の上に覆いかぶさる。

「重い……ハーマン…」

「ボクたち魔法使いは魔法を放出するのに呪文と媒体を使うでしょ。道具は杖でも本でもアクセサリーでもなんでもいいけど。でも召喚って魔法とはちょっと違うんだよね? キュッリッキは何も媒体らしきもの持ってなかったって聞いたから」

「ああ…」

 キュッリッキは少し苦笑を浮かべて頷いた。

 どこへ行っても、必ず最初に聞かれる質問だった。

「召喚は魔法と違って魔力や呪文がないの。サイ〈超能力〉とも違って精神力はいらないし」

「ふむふむ」

「〈視る〉の」

「〈視る〉?」

 ふわふわ揺れていた黄金色のしっぽが、ぴたりと止まる。

「うん。アルケラを覗き〈視る〉の」

 キュッリッキは自分の目を指す

 ハーマンを見つめているキュッリッキの瞳が、虹色の光彩を放ちだした。

「アタシたち召喚士は、アルケラを唯一覗いて〈視る〉ことができるの。そして、アルケラに住むものたちを、こちら側に招き寄せることができる」

 キュッリッキはハーマンのほうを向いていたが、その目は違うものを見ているようだった。

「アルケラは小さいけど物凄く広くて広くて…、喚びたい相手を探し出すのが結構タイヘンなんだけど、アタシは彼らと友達だから、探す時は協力してくれる。だからすぐ見つけられるの。見つけたら喚びたい場所に喚べばいいだけよ『こい』ってね」

 説明を終えて居住まいを正すと、ぽかんとした表情(かお)がテーブルを取り囲んでいた。

「わ……判らなかった?」

「うん」

 全員揃って大きく頷かれ、キュッリッキは椅子からずり落ちかけてしまった。




「まあ、全然判らなかったけど、でもああして見たこともないものを召喚するんだから、凄いってことだね!」

 ハーマンを頭に乗っけたまま、シビルがバッサリ切りつつもまとめた。

 言葉を探すようにメルヴィンは視線をあちこちに泳がせていたが、そうだねそうだねと、シビルの言に合わせて苦笑いした。

 盛大に眉をしかめ、キュッリッキは己の言葉を反芻する。

(間違ったことは言ってないよね……でもどこいっても理解できないって、ずえったい言われる!!)

 なんだか悔しいものがこみ上げてきて、テーブルの下でグッと拳を握り締めた。

「確かに全然判りませんでしたが、判らないと今後私も困りますから、あとでじっくりお話を伺います、キュッリッキさん」

 眼鏡のレンズが店内の明かりを弾いてキラリと光る。そのレンズの奥のアーモンド型の目が、すうっと細められてキュッリッキを見据えていた。

(うえ~~~こいつ苦手なんだけど…)

 露骨に困った顔をブルニタルに向けた。

(でも、仲間になったから、そうも言ってられないか)

 キュッリッキは無言で頷いた。

 大騒動から始まった歓迎会は、すでに日付をまたいでも続いていた。

 テーブルに突っ伏して寝ている者、黙々と飲み続ける者、談笑する者、みんなすでに思い思いに行動していた。

 主役のキュッリッキも、昼間の疲れと緊張と酔で、瞼が落ちかかっていた。その時。

「ちょっとみんな起きるんだ!!!」

 テーブルに突っ伏して大イビキをかいていたヴァルトが、いきなりガバッと身体を起こして叫んだ。

「俺様はナイスなことを思いついたんだ!」

「ペルラの落とし方でも思いついたんか……」

 大あくびをしながら、ザカリーが軽く突っ込む。

「それは24時間考えている!! じゃなく、コイツのあだ名を思いついたんだ!!」

 と言って立ち上がり、キュッリッキをビシッと指差す。

「アタシのあだ名!?」

 半分うとうとしていた眠気も吹っ飛び、驚いてヴァルトを見上げる。

「そうだ!!」

 ヴァルトは腕を組んで大きく頷く。

「オマエの名前はとにかく呼びにくい!! 舌を噛むほど呼びにくい!!! なので俺様がスバラシイあだ名を考えてやったから、ありがたく使うがよい!」

「……」

「オマエのあだ名は『キューリ』だ!!」

 フンッと鼻息を荒く吐き出し締めくくった。

 これには一同呆気に取られたが、ギャリーとルーファスが同時に吹き出した。

「確かに呼びにくいけどそりゃねーだろ」

「オレは賛成だな! キューリって今から呼ぼうぜみんなっ!」

 二人はテーブルを叩いて更に笑い転げた。

「ヴァルトのネーミングセンスはスズメ以下だと思ってましたが、今回は中々いいかもしれませんねえ~」

 カーティスが意地の悪い笑顔をキュッリッキに向ける。

「キューリはちょっと……」

 シビルは口の端をひくつかせて否定した。

「俺様は天才なのだ! 呼びやすくていいだろ!!」

「やだああああっ!! 却下却下絶対却下あああっ!!!」

 ちゃぶ台返しする勢いで、キュッリッキは立ち上がってヴァルトに抗議する。

「アタシには『リッキー』っていうあだ名がすでにあるのよ! キューリなんて野菜の名前絶対お断りよ!」

「キューリをバカにするなよ! マヨネーズをつけて齧ると美味いんだぜ!!」

「知らないわよそんなの!!」

 店内は静まり返り、他の客たちは二人の口論に圧倒され沈黙していた。

「俺様が決めたんだから、オマエはキューリだ!! 否定することは許さないぞー!」

「許さなくてもイイわよっ! アタシの名前はキュッリッキ!! あだ名で呼びたきゃリッキーと呼んでちょうだいっ!!」

 二人の不毛な口論は白熱して終わりが見えそうもない。からかい半分に煽ったギャリーとルーファスも、気まずそうな顔でグラスを舐めている。カーティスも苦笑いし、マーゴットから小言を受けていた。

 それまで無言で酒を飲むことに徹していたガエルは、のっそりと立ち上がると、巨体を揺らしてヴァルトの横に立った。

「なんだよガエル?」

 無言でいきなり傍らに来たガエルに、ヴァルトは一歩たじろぐ。

「ボディプレス」

 そう短く言ってヴァルトに体当りすると、そのまま床に倒れ込んでしまった。

「ぐああああっ! こらクソベアー!! ちょー重たいぞ~~~どけよこらああ!!」

 ガエルの下敷きになってしまったヴァルトは、巨体の下から必死に抗議したが、やがて地鳴りのような豪快ないびきが店内に轟いた。

「クソベアーが寝ちまったあああ」

 ヴァルトを下敷きにしたまま、ガエルは寝てしまっていた。

「やれやれ……もう勘定だなメルヴィン」

 ガエル同様、飲むことに徹していたタルコットは、最後の一口を飲み干すと、ジョッキをテーブルに置いてメルヴィンのほうに顔を向けた。

 明らかにその目は眠気をまとわせていて、瞼が半分閉じかかっていた。

 メルヴィンは軽く笑むと、頷いて立ち上がった。



第一章 ライオン傭兵団 仲間(二) 終わり



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004 ライオン傭兵団 仲間(二)

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