ALCHERA-片翼の召喚士- 076 第六章:勇気と決断 あなたを待っています

珍しく感情移入しすぎて書きながら泣けてしまった|д゚)

意外なかたの援護射撃が、そっと背中を後押ししてくれます。

第6章もいよいよクライマックス見えてきました。





ALCHERA-片翼の召喚士-
第六章 勇気と決断 あなたを待っています 076



 リトヴァはこのところ毎日一回は、必ず重いため息をついた。つかずにはいられない出来事が、ほぼ決まった時間に訪れるからだ。

 本来、来客などの応対は執事が行う。現在の執事は代理の肩書きを持つセヴェリだが、ある特定の人物にのみ、例外としてリトヴァが応対するよう命じられている。

「リッキーさんに、会わせてもらえませんか?」

 彼は毎日やってきて、そう頼んでくる。しかし、この頼みを受けることができない。

「いいか、ライオンの連中、とくにメルヴィンがきても、絶対にリッキーに会わせるな」

 こうベルトルドとアルカネットから、重々厳命されているからだ。

 こんな胸の悪くなるような命令は、無視したいのがリトヴァの本音である。

 キュッリッキの世話を特別に任されているリトヴァは、日々キュッリッキが「メルヴィンに会いたい」と言っているのを聞いている。そのメルヴィンがキュッリッキに会うために毎日訪れているというのに、それを耳に入れることさえ禁じられていた。

 モナルダ大陸で行われた戦争に、キュッリッキも参加させられていたのが、急にアルカネットに連れられて屋敷に戻ってから、どこか様子が変だった。詳細は知らされていないものの、キュッリッキが何か重いものを抱えて悩んでいることだけは判る。サイ〈超能力〉スキル〈才能〉を持つリトヴァだが、勝手に他人の心を覗くことだけは絶対にしない。あいにくベルトルドのように、相手の記憶や心が勝手に流れ込んでくることがないだけマシだ。

 悩み苦しみつつも、ずっとメルヴィンを恋しく思っている様子のキュッリッキに、知らせてやりたくてしょうがない。かつて怪我で臥せっていたキュッリッキのそばに、献身的に付き添っていたメルヴィン。そんな二人の様子は微笑ましくあり、心に温かかった。それなのに、何故こうも思い合う二人の間を、妨げる役を押し付けられなければならないのか。

 リトヴァの鬱憤は蓄積されていった。



「これを、リッキーさんに渡してくれますか?」

 今日も同じ時間に訪れたメルヴィンは、リトヴァに小さな花束を差し出した。

 それは、ラベンダーの花束だった。

 花束というには大袈裟すぎだが、3本のラベンダーの花を、細いピンク色のリボンで結んで束ねてある。

 いつも手ぶらなのだが、今日はこうして花束を持参だ。

 リトヴァは可愛らしい花束をそっと両手で受け取ると、

「確かに、お渡ししておきますわ」

 そう言って、帰っていくメルヴィンを見送った。

 紫色の小さな花を見つめながら、リトヴァはメルヴィンのいじらしい想いを感じて、ますます深いため息をついた。

 ラベンダーの花言葉は『あなたを待っています』。

 この小さな花束に込められた想いが、どれほど真摯で切ないものか、痛いほど伝わってくる。

 メルヴィンはけっして多くを言わず、態度も紳士的でリトヴァを困らせない。むしろ、悪態の一つでもついてくれれば、厄介払いをした、という気持ちになれるというのにそれもない。忍耐えるその姿もまた切なかった。

「彼は、また来たのかね?」

 心配そうに様子を見に来たセヴェリが、リトヴァの手にしているラベンダーの花束に目を留めた。

「お嬢様へお渡しして欲しいと」

 セヴェリは小さく渋面を作ったが、

「誰が持ってきたかは言わず、お嬢様のお部屋に飾って差し上げるだけならいいと思いますよ」

 そしてため息をついた。

 セヴェリもまた、リトヴァと同じ気持ちである。

「活けてすぐにお持ち致しますわ」

「そうですね。そうして差し上げて下さい」



 部屋をノックする音がして、リトヴァが顔を見せた。

「失礼します、お嬢様」

「どうぞ」

 キュッリッキはソファに足を投げ出して座り、膝にフェンリルとフローズヴィトニルを乗せていた。

「お茶をお持ちしましたよ。フローズヴィトニル様のお好きなお菓子も、ご用意いたしました」

「ありがとう、リトヴァさん」

 にっこり礼を言うキュッリッキに微笑み返し、ソファのそばにある小さなテーブルに、ローズヒップのお茶と、プチケーキの皿を並べる。そして、ラベンダーを活けた小さな花瓶も添えた。

「そのお花、ラベンダー?」

「さようでございます」

「ふーん…」

 こうしてお茶を出される時、必ず小さな花々を活けた花瓶も持ってくる。パンジーだったり小さなバラの花だったり。ラベンダーの花は初めてだった。

 細い小さな花瓶に活けられたラベンダーを、キュッリッキは吸い付くように見つめている。その様子を見て、キュッリッキが何かを感じて気づいてくれたら。そう願わずにはいられなかった。



 それから毎日のように、メルヴィンは想いを込めたラベンダーの小さな花束を持参するようになった。リトヴァは花束を受け取り、キュッリッキへのティータイムには必ずその花を活けて添えた。

 こうしたやり取りが続く中で、溜まっていった鬱憤が、怒りという形でリトヴァの心を支配していく。

 本当のことが言えない、言いたくても言えない苦しさに、ついにリトヴァは我慢できなくなって爆発した。

 いつものようにメルヴィンが花束を託して帰ったあと、リトヴァはすぐにキュッリッキの部屋へ向かった。

 ――――もう我慢などするものですか! 命令にそむいて言ってやりますわ旦那様方! お覚悟なさいましっ!

「お嬢様、よろしいでしょうか?」

 どこか怒った風のリトヴァの珍しい表情に、キュッリッキは気圧されたように小さく頷く。

「これを」

 キュッリッキは手にしていた風景の写真集を傍らに置いて、差し出されたラベンダーの小さな花束を受け取った。

「いつも活けてくれるラベンダーの?」

「さようでございます」

 淡いピンク色のリボンで、可愛く束ねられたラベンダーの花。

 キュッリッキが不思議そうにリトヴァを見上げていると、リトヴァは表情を和ませた。

「お嬢様は、ラベンダーの花言葉をご存知ですか?」

「んーん、知らない。花言葉って、どれも知らないの…」

 少し恥ずかしそうに言うキュッリッキに、リトヴァは口元を笑みの形にした。

「とても良い言葉なのです。花言葉は『あなたを待っています』、といいますの」

「あなたを待っています……」

 匂いはとても清々しく、気分がとてもすっきりする。ラベンダーは花の形よりも、キュッリッキはその匂いに印象が強い。

 手にしたラベンダーの花を改めて見つめる。製品化された香料の匂いよりも、ずっと優しく瑞々しい匂いがする。

「この間中庭へ行ったとき、ラベンダーの花は一本もなかったの。いつもカープロさんが育てているお花を添えてくれていたのに、珍しいな~って思ってた」

 わざわざ買ってきてくれていたのかな、とキュッリッキは思っていたが、手にしている小さなこの花束はそうではない感じがした。

 誰かに贈るための、プレゼントのように見えるからだ。

 その時、傍らに寝ていたフェンリルが、呆れたような鼻息を露骨にふいた。フローズヴィトニルもまた、フェンリルの真似をして鼻息をふいた。キュッリッキは訝しんで二匹を見たが、フェンリルはじとーっとキュッリッキを見て、ぷいっと顔を背けてしまった。

「なっ、なによフェンリルってばー」

 キュッリッキは抗議の声をあげるが、フェンリルはシカトしていた。

 唇を尖らせながら、再びラベンダーの花束を見つめる。

 リトヴァがこうして意味深に花束を持ってくるのも不思議だ。そして、花言葉。

 あなたを待っています。

 あなたを、待って。

 心の中で、何度も何度もその言葉を繰り返す。

 その瞬間、キュッリッキはハッとなって立ち上がった。

 大きく目を見開いて見つめてくるキュッリッキに、リトヴァは優しく微笑んだ。

「あなたを待っていますって花言葉………もしかして、もしかして」

 キュッリッキは小刻みに震えながら、期待と不安を混ぜ合わせた声を出した。

「お帰りになられて、まだそうお時間は経っておりません」

 リトヴァはそう言って、深々と頭を下げた。

 キュッリッキはラベンダーの花束を胸に押し抱くと、部屋の外へ駆け出した。

 あまりにも素早かったので、フェンリルとフローズヴィトニルは慌てて追いかけていった。

 キュッリッキたちが部屋を飛び出して少しすると、セヴェリが顔をのぞかせた。

「お嬢様が血相を変えて外に飛び出していかれたが」

「そのようですわねえ」

 リトヴァの表情を見て、セヴェリは広くなった額に手を当てた。

「旦那様がたに知れたら、大変なことになりますよ」

「毎日毎日、メルヴィン様への気の毒すぎる応対、お嬢様の辛いお気持ちを聞かされる、わたくしの身にもなってください。と、ご反論申し上げる覚悟でございますよ」

 腹を括った様子のリトヴァの天晴れな表情を見て、セヴェリは苦笑した。

「あなたに居なくなられると、お屋敷を取り仕切るのが難しくなります。微力ながら援護射撃致しますぞ、わたくしも我慢の限界でございましたから」

「まあ、心強いことですこと」

 リトヴァとセヴェリは顔を見合わせると、声を立てて笑った。

 馬に蹴られても仕方がないような主(あるじ)へ忠誠を尽くすよりも、若い二人の恋路を応援してやりたい。リトヴァもセヴェリも、早くキュッリッキの明るい笑顔が見たかったから。



 キュッリッキは髪を振り乱しながら、一生懸命地下通路を走っていた。

 もともと運動にはあまり明るい方ではない。でも、今は一生懸命走らなければならないと、自分を奮い立たせて走った。手の中のラベンダーの花束も、キュッリッキを応援してくれている気がしていた。

(メルヴィンが、メルヴィンが来てくれたんだ。アタシに会いに来てくれてたんだ)

 このラベンダーの花束を持って、会いに来てくれていた。

 リトヴァがラベンダーの花を活けた花瓶を添えてくれるようになって、かれこれ一週間は経っているだろうか。何故、メルヴィンが会いに来てくれていたことを、教えてくれなかったのか。

 でも今は、そんな些細な疑問はどうでもいい。メルヴィンが会いにきてくれていたということが判っただけで、キュッリッキの心は色々な期待でいっぱいに膨らんでいった。

(メルヴィン、メルヴィン)

 心の中で何度もメルヴィンの名を呼ぶ。それだけで、涙が溢れてきて止まらなくなった。視界が曇ったが、走りながら乱暴に手で涙を拭う。

 会いに来てくれていた、花束を持って。あなたを待っていますという願いを込めた花束を持って。

(皇王様が言っていたように、メルヴィンが驚いたのは、自分がアイオン族だったから。だから、驚いただけだと信じてもいいんだよね。だから会いに来てくれたんだよね!)

 急に全速力で走ったため、横腹に痛みが刺した。しかし走るのをやめない。やめたくない。こんな痛みくらい我慢できる。あんなに会いたくてしょうがなかったメルヴィンが、この向こうにいるのだから。

(メルヴィンどこ? どこにいるの?)

 追いついたフェンリルがキュッリッキを追い抜き、「ついてこい」とキュッリッキの意識に語りかけてきた。

 キュッリッキは頷くと、フェンリルの後を追いかけた。



 複雑な地下通路を走り、そしてようやく追いついた。

 懐かしいその広い背中を見て、キュッリッキは喉が張り裂けんばかりに叫んだ。

「メルヴィン!!」

 名を叫ばれ、メルヴィンはびっくりして振り返った。

「リッキーさん!?」

 久しく見る少女は、白い頬を紅潮させ、息遣いも荒い。ハアハアと何度も息を吐き出し、大きく目を見開きメルヴィンを見ていた。

 二人は距離を置いたまま、暫く無言で見つめ合っていた。

 やがてキュッリッキの呼吸が落ち着いてきた頃、キュッリッキの手に握られているラベンダーの花束に気づいたメルヴィンは、嬉しそうに口元をほころばせた。

「よかった。ちゃんと受け取ってもらえてたんですね」

 一瞬なんのことか気付かなかったキュッリッキは目を丸くしたが、自分が持っているラベンダーの花束だということに気づいて頷いた。

「素敵な花束、あ、ありがとう…」

 ラベンダーの花で口元を隠しながら、キュッリッキは恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 その愛らしくもいじらしい様子は、メルヴィンの心に温かく染み渡っていく。

 そう、いつもこうして、恥ずかしげに顔を赤くしていた。

 なんだか懐かしさを覚え、メルヴィンは笑みを深めた。またこうしてキュッリッキのそんな表情を見ることができて、とても嬉しかった。

 メルヴィンはキュッリッキに手が届くところまで歩み寄ると、自分の胸のところまでしか背のないキュッリッキを、優しく見おろした。そしてキュッリッキもメルヴィンを見上げ、ますます顔を赤くした。

「少し歩きませんか? こんな地下通路じゃなく、ですが」

 そう言うと、メルヴィンはキュッリッキの手を優しくとり、もときた道を戻り始めた。

 

第六章 勇気と決断 あなたを待っています つづく



075 勇気と決断 あなたに会えない

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Comments 4

八少女 夕

こんばんは。

リトヴァもセヴェリも、グッジョブ!
うん、中年二人はあまりにも大人げなさすぎですもの。
それに「メルヴィンがきた」とも「メルヴィンからのプレゼント」とも言っていないもの、いいんですよね。

ようやく逢えた二人、よかった〜。
今度こそ、ちゃんとお互いの想いを伝えられるといいですね。

仔犬モードの神様たち、そうか、もちろんちゃんとわかっていて、見守っていたのですね。リッキーたちが自ら、事態を動かしてこその恋愛成就ですものね。

頑張れ、二人!

2015-09-29 (Tue) 06:02 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: タイトルなし

八少女さんこんにちわヽ(・∀・)ノ

>リトヴァもセヴェリも、グッジョブ!

御大の家に仕える使用人ですからね~一筋縄じゃない方々ですw
確かにリトヴァは、メルヴィンが、とは言ってません(・∀・)

>ようやく逢えた二人、よかった〜。

やっとです(^ω^)
鬼のいぬまに是非頑張って欲しいところです。

フェンリルは全て判っていて、じっと何も言わず見守ってきていました。
物語には書きませんが、フェンリルはメルヴィンがキュッリッキとくっつくことを、快く思ってません。それは、誰に対してもそうで、御大であろうとアルカネットさんであろうと、自分以外の男が近寄るのは絶対イヤです(笑)
かといって、邪魔をすればキュッリッキさんが傷つくから、黙って見ているしかないのです。だから、本当はイヤなんだけど、見ていられなくって世話を焼いちゃってましたw

ゴールインまであともう少しです!

2015-09-29 (Tue) 17:04 | EDIT | REPLY |   

涼音

今晩は。

おお! ラベンダー持って日参してたんだ^^
うんうん、メルヴィンならやりそうだよね。会えないんだったらこういう手段しか無いものね。

しかし、やっぱりメルヴィン来たことは伝えられてなかったんだ~^^;
でも、ここまでされちゃったらねぇ。。。。お二人ともナイスでした^^v
御大らに咎められても、きっともうリッキーが助け舟出してくれますよね^^

やっと再会できた二人。
さて、次は告白タイムなるか?(笑)
楽しみにしていますね^^

2015-09-30 (Wed) 02:03 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: タイトルなし

涼音さんこんばんわヽ(・∀・)ノ

>ラベンダー持って日参してたんだ^^

恋愛に不器用なひとですが、不器用なりにナイ知恵絞って花に訴えかけていますw
ちなみに、誰にも相談せず、自分でこの手段を決めています(・∀・)

>やっぱりメルヴィン来たことは伝えられてなかったんだ~^^;

一応、旦那様方のご命令でしたからね~><;
でも、大好きなお嬢様のためですから、二人共クビ覚悟で実行しちゃってます!w
さすが御大のところで働く人たちです(笑)

>次は告白タイムなるか?(笑)

恋愛シーンはほんとに苦手なので、上手に書いてあげられるかなー><
読んでるこっちが恥ずかしいよ(#゚Д゚) というシーンになるまでは時間かかりそうだけど(笑) あーもーじれったい!w という感じに書ければ成功かもですw
頑張りますので次回もよろしくお願いします(^ω^)

2015-09-30 (Wed) 18:18 | EDIT | REPLY |   

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