ALCHERA-片翼の召喚士- 089 第七章:召喚士 召喚士の少女たち

イラストがうまく描けないと、文章に逃げる癖がこのところ定着しつつある。

(´;ω;`)

今月はクリスマスがあるじゃん。なので、小説でも何かクリスマスネタで攻めよう、と思っても、そう思い浮かぶほどわたしの脳みそは豊かじゃなかった><

なので、クリスマスに近いあたりに、読み切り短編をいくつか連日載せたいな~とか考えるんだけど、きっと無理な方に1円賭けよう(げふん





ALCHERA-片翼の召喚士-
第七章 召喚士 召喚士の少女たち 089



 アルカネットに手を引かれてくぐった門の奥に建つ建物は、貴族のお屋敷のようだ、とキュッリッキは思った。真っ白な漆喰の外壁に、青銅色の屋根。いくつもの大きな窓が並び、そのどれもに重厚な深緑のカーテンが止められているのが見える。

 ベルトルド邸とは違って、門からすぐ玄関前には到着しない。真っ白な鈴蘭の咲き乱れる庭の歩道を通り、その先の楡の木に隠れるようにしてある玄関前に着いた。屋敷の規模からすると、少々小さめの存在感しかない玄関だった。

 後ろを振り返って鈴蘭の花畑を見つめる。イフーメの森と同じシステムで維持されているのだろうか、この季節に生き生きと咲き誇る鈴蘭の花は、キュッリッキには違和感が激しかった。

 アルカネットが彫刻の施された重厚な扉のドアノッカーを数回叩くと、軋むような音を立てて扉が開いた。キュッリッキはアルカネットの後ろに隠れるようにして、開いた扉の中を覗き込む。

「早かったですね、アルカネット」

 扉を開けて姿をあらわしたのは、白衣をまとったシ・アティウスだった。色のついたレンズの向こうは影になっていて見えず、メガネで目が覆われ表情は判別しにくい。

 シ・アティウスは扉を開けきると、キュッリッキに向けてぺこりと頭を下げた。

「よく来ましたね、お久しぶりですキュッリッキ嬢」

「こ、こんにちは」

 アルカネットにしがみつきながら、キュッリッキは小さく頭を下げる。その反応にシ・アティウスは口を笑みの形にすると、手振りで二人を中へといざなった。



 立派な調度品に彩られた玄関ホールを見ても、本当にただの屋敷のようだ。あまり派手すぎないクリスタルのシャンデリアが、緩やかな灯りでホールを照らしている。ローソクの明かりとは違って透明で、ハーメンリンナのみで使用される、電気エネルギーが灯りを作っていた。

 アルケラ研究機関などというから、キュッリッキはなにか図書館のようなものを想像していた。ズラッと難しそうな本棚に囲まれ、気難しそうな大人たちがぞろぞろいるそんな空間を。

 屋敷の中はシンッと静まり返り、物音ひとつしない。そんな空気に自然と口をつぐんでいたキュッリッキは、アルカネットとシ・アティウスに置いていかれそうになって、慌てて小走りに追いかけた。小さな駆け足の音でキュッリッキと距離を開けてしまっていたことに気づいたアルカネットは、振り向いて優しくキュッリッキの手を取りひいてやる。

 深い赤のカーペットの敷かれた長い廊下を進み、三人は大きな扉の前に止まった。

 シ・アティウスが扉をノックして、何も言わず扉を開ける。すると、何やらざわめいたような声が流れてきて、キュッリッキは小さく首をかしげた。

「まあ、アルカネット様よ」

「アルカネット様がいらしたわ」

 急にキャッキャとかしましい少女たちの声が室内に満ちる。

「アルカネット様自らおいでになるなんて」

「嬉しゅうございます」

「今日はツイてるわ」

「お静かに。――今日は君たちに会っていただきたい方を、お連れしてもらった」

 さざめく少女たちに手振りで静まるよう促し、シ・アティウスはキュッリッキに顔を向けた。

「召喚士のキュッリッキ嬢だ」

 アルカネットはキュッリッキを前に押し出すようにして、少女たちの前に立たせる。

 何やら状況がつかめないキュッリッキは、酷く困惑したような表情で目の前の少女たちを見た。

 容姿は様々だが、皆同い年くらいだろうか。よく見たら、先日のトゥルーク王国のイリニア王女までいる。そして皆、召喚スキル〈才能〉を持っていることを立証する、その特殊な目もしていた。

 虹色の光彩が瞳にまといつく、その異質な目。

 アルケラを覗き見ることのできる、まごう事なき召喚スキル〈才能〉を持つ者の証。

 ――アタシと同じ目をした女の子達がいっぱいだぁ……。

 ちょっと気圧されたように、キュッリッキはアルカネットの手をきゅっと握った。

 召喚スキル〈才能〉を持った人たちに、これまで会ったことはない。つい先日イリニア王女に会っているが、メルヴィンのことでいっぱいいっぱいで、実は王女の目に気づいていなかった。

「その方、先月の中継の時に広場で見ましたわ」

 亜麻色の髪をした少女が声を上げる。

「わたくしも、この間の皇王様の舞踏会で見ました」

 黒髪の少女が同意するように首を振る。

 それを発端にして、再び室内は騒然と盛り上がってしまった。

 シ・アティウスはアルカネットと顔を見合わせ苦笑し合う。何故こうも女子というものは、騒がしいのだろうかと。

「では、我々は少し席を外そう。積もる話もありそうだしな」

「え? シ・アティウスさん?」

「少し私たちは席を外しています。リッキーさんはこちらのご婦人方と、おしゃべりを楽しんでいてくださいね」

「アルカネットさんまで!?」

 その場にキュッリッキを残し、シ・アティウスとアルカネットはササッと部屋を出て行ってしまった。

 ――えっと……一体どゆこと!?

 キュッリッキは訳も判らず、一人残され――足元に隠れてフェンリルとフローズヴィトニルはいる――詰め寄ってくる少女たちに、タジタジとなってしまっていた。



 一人用の椅子に座らされ、キュッリッキは肩をすくめて目を左右に動かした。

 ある者はソファに座り、ある者はカーペットに座り、ある者はその場に立ってキュッリッキを値踏みするように見つめている。これだけ大勢の同い年の少女たちと同じ空間にいるのは、実はキュッリッキにとっては初めての経験だ。それに、同じスキル〈才能〉を持ち、そのスキル〈才能〉のコトで、きっと楽しい会話が始まるのだと思いきや。

 これではまるで、尋問を受けるような雰囲気である。

「ねえアナタ、名前はなんておっしゃるの?」

 ほぼ近い位置に立つオレンジに近い金色の髪を持つ少女が、腕を組み居丈高に言う。ツンとしているが、整った容姿の美しい少女だ。

 先ほどシ・アティウスがちゃんと紹介していたような気が、と心の片隅で思う。

「キュッリッキよ」

「なんだか言いにくそうな名前ね……」

 よけないお世話だ。初対面のやつに、偉そうに言われる筋合いはない。

「そういうアナタはなんていうの、さきに名乗るのが礼儀でしょ」

「乞食が偉そうに言わないでちょうだい!」

「え?」

「アナタって孤児で乞食同然の傭兵をしていたっていうじゃない。おかしいわよね? だって召喚スキル〈才能〉をもっているのでしょう、だったら孤児の時点で国が保護をするはずなのに、何故乞食生活をしていたのよ」

 そうよそうよ、とあちこちから声が上がる。乞食と傭兵は全く別ものだ。キュッリッキはムッとした表情(かお)をすると、居丈高な少女をキッと見上げる。

「アナタが知る必要はないことよ。それに乞食じゃなく、ちゃんとフリーの傭兵として働いて稼いでいたわ。物乞いなんてしたことないもん」

 反論されて、少女は表情を歪める。

「無礼な口をきくのね、さすが卑しい育ちをしてきただけあるわ。それなのにどうして、ベルトルド様とアルカネット様が、こんな乞食猫の後見人をしているのかしら!」

「どうやって知り合ったのかしら」

「下賤と関わるはずはないのに、おかしいわよね」

 乞食猫とはひどい言われようである。

 口々にすき放題言う少女たちを見て、キュッリッキはふと気づいた。

 そう、この目の前の少女たちは、ベルトルドやアルカネットに憧れているのだ。好きなのだろう。さきほどアルカネットに向けて発していた黄色い声が、その考えを決定づけていた。それでキュッリッキに嫉妬を向けているのだ。初対面でこんな扱いを受けるのも、それで納得できてしまう。――したくもないが。

 メルヴィンと恋を成就してから、最近妙にこういうことには特に敏感になっていた。

「教えてあげないんだから」

 ツーンとそっぽを向いて、キュッリッキは心の中で舌を出した。

「な、なによこの子!」

 問い詰めていた少女はカッと頬を朱に染めると、繊細な手を振り上げキュッリッキの頬を叩いた。室内にパーンッという音が痛そうに響く。

「ちょっとアンティア、やりすぎよ」

 おかっぱ頭の黒髪の少女が、慌ててアンティアの肩を押さえる。

「放してちょうだいエリナ! この生意気な子には、キツイお仕置きが必要なのだから」

 キュッリッキは一瞬呆気に取られていたが、ハッとすると、キッとアンティアを睨みつけた。

「よくもやったわね!! フェンリル! フローズヴィトニル!!」

 奮然と叫ぶと、隠れていたフェンリルとフローズヴィトニルが姿を現した。

「どうせこいつらも召喚士ナンデショ! 遠慮しなくていいからブッ叩いちゃってよ!」

 ビシッとアンティアに人差し指を突きつける。しかし二匹ともその場に座ったまま、ジッとアンティアを見上げているだけだった。

 珍しく言うことを聞かないフェンリルたちを、キュッリッキは焦ったように見おろした。

「なんで? ……え? 違う??」

「ちょ、ちょっとなんなのこの仔犬たち」

 思わず後じさりながら、アンティアはいきなり現れたフェンリルたちをじっと見おろす。今まで居なかったはずの仔犬が突如現れ、驚きと恐怖が瞬時にアンティアの身体を駆け上っていった。他の少女たちもざわつきながら、興味の矛先をフェンリルたちに注いだ。

「なにって、フェンリルとフローズヴィトニルじゃない。見れば判るでしょ」

「そりゃ判るわ、ただの白黒の仔犬二匹よ」

「そうじゃないわよ! フェンリルたちはアルケラの神様だよ、知らないの??」

「神様ですって……?」

 アンティアもエリナも、酷く不思議そうにフェンリルとフローズヴィトニルを交互に見ていた。他の少女たちも同じ反応だった。

「アナタたち、アルケラを覗いたことあるんだよね? 意識を飛ばして、アルケラの子たちとお話したこと、ナイの?」

 勢いの削げたキュッリッキの顔をチラッと見て、ムッスリと表情を変えると「ないわ」とアンティアがこぼす。エリナも同意するように頷く。

「アルケラと思しきところが、なんとなく見えたことがあるくらいよ。――何も召喚できないし、神様なんて……意識を飛ばすとか、そんなことできないわ。それが普通なんじゃないの? ねえ、皆様?」

「あたくしもそうだわ……。普通はできないものよ。だってみんなできないもの」

 エリナも同意するように言う。口々に他の少女たちも出来ない、やれたことがないと言い出した。

「そんなはずないよ、だってアルケラの子たちも神様たちも、召喚士が大好きなんだよ。いつだって優しく見守ってくれるし、フェンリルだってアタシが物心着く前から、ずっとそばで守ってくれてたんだから」

 その発言は、少女たちの困惑をより深めただけのようだった。

「あなたは一体、何者なのですか?」

 それまで口を開こうとしなかったイリニア王女が、訝しむようにキュッリッキに詰め寄った。

「わたくしたちとは明らかに違いますもの」

 今度はキュッリッキのほうが、困惑を深める番になった。

 同じ召喚スキル〈才能〉を持つ少女たち。しかし、キュッリッキとは違う。キュッリッキが当たり前にできることが、この少女たちは出来ない。アルケラを見たこともないというのは、キュッリッキにとってショックだった。

「フェンリル……」

 困惑した声で名を呼ばれたフェンリルは、ちらっとキュッリッキを見ただけで、何も言わなかった。



「そこまで!」

 パンパンッと両手を打ち鳴らし、突然ベルトルドが部屋に入ってきた。その後ろから、アルカネットとシ・アティウスも姿を現す。

「ベルトルドさん」

「お疲れ、リッキー」

 椅子から立ち上がったキュッリッキを、ベルトルドは愛おしげに抱きしめる。

「どさくさに紛れてなに抱きついているんです、早く離れなさい」

「うるさいぞ。せっかくリッキーとアツイ抱擁を交わしているんだ。邪魔するな」

(また始まった……)

 ところかまわず二人はこの調子だ。

 いつまでも抱きしめているベルトルドを突き放そうとしたが、少女たちの嫉妬に燃え盛る視線を感じ、キュッリッキはわざとベルトルドの腕に中にいることにした。そうすることで、先ほどぶたれた仕返しをしてやろうと意地悪を思いついたのだった。

「対面はこのくらいにしておきましょう。有意義な話も聞けたことですしね」

「?」

 不思議そうにシ・アティウスに目を向けると、

「ちょっと遅くなったが、ランチを食べに行こうリッキー。好きなものをご馳走するぞ」

 そう嬉しそうにベルトルドに話を切り替えされてしまった。

「私も一緒に行きましょう」

「別にお前は来なくていいんだぞ」

「ベルトルド様が行かなくてもいいのですよ?」

「このお邪魔虫!」

「あなたはトイレ掃除でもしていればいいのです」

「嫌なことを思い出させるな!!」

「自業自得です」

「えっと………」

 トイレ掃除というのがよく判らないものの、相変わらずの二人の口喧嘩に、キュッリッキは疲れたようにため息をついた。

 二人がこんなふうに口喧嘩をするところなど初めて目の当たりにする少女たちも、困惑を表情に刻み込んで見つめていた。



 ベルトルド、アルカネット、キュッリッキの三人がケレヴィルを辞すると、シ・アティウスは自分の所長室に戻ってデスクの前に座った。

 引き出しからファイルを取り出し、書類をめくっていく。

 書類には、先ほどの少女たちの写真と、パーソナルデータが綴られていた。

「キュッリッキ嬢には当たり前のことが、あの少女たちには出来ない。そもそもアルケラから何も召喚経験がない、か」

 エルアーラ遺跡でエンカウンター・グルヴェイグ・システムに対抗するために見せた、キュッリッキの召喚の数々。遺跡の録画で全て見た。あまりの見事さに、シ・アティウスは身体の芯からゾクゾクとしたものだ。

「アルケラに意識を飛ばし、神々たちと交信も可能……。それすら出来ないあの娘たち」

 シ・アティウスは手元の書類に唾を吐きかけた。アンティアの顔写真に唾がかかる。

「ゴミ以下だな」

 ファイルを乱暴にデスクに投げる。そして腕を組み、チェアに頭をもたれかけた。

 召喚スキル〈才能〉を持つ赤子を、国が家族ごと引き取り生涯世話をする。王侯貴族並みの年金が毎年欠かさず支給され、邸宅に使用人に護衛に豪遊費に、その全てが国費で賄われるのだ。

 数が少ないとは言え、税金が当たり前のように使われている。

 役立たずどもにその国費が、税金が使われてきた。召喚スキル〈才能〉があるという理由だけで、この19年間ずっとだ。

 一方、優れた召喚スキル〈才能〉を持つ正真正銘の召喚士の少女は、不遇な18年間を送ってきた。贅沢も知らず、人並みの生活も知らない。自らのスキル〈才能〉を用いて、血なまぐさい裏街道を駆け抜けてきたのだ。生きるために。

 なんという酷い差だろう。

 もはやこれは、犯罪と呼んで等しいレベルだ。それなのに、あの少女たちはキュッリッキを口汚く罵っていた。

「召喚スキル〈才能〉を有してはいるが、召喚士ではない。ゴミ以下のあの娘たちには、大いに結界解除の役に立ってもらおう。そのくらいしか使い道がないのだから」

 侮蔑を込めて、シ・アティウスは小さく笑った。



第七章 召喚士 召喚士の少女たち つづく



088 第七章 呼び出し

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Comments 2

八少女 夕

そうなんですね

こんばんは。

考えてみれば、魔法スキル〈才能〉だって、アルカネットさんからマーゴットまでいろいろいるんですものね。召喚スキル〈才能〉もピンキリなのは当然でしょけうれど、数が少なすぎて、貴重なレベルとどうでもいいレベルの違いが皇国のトップの方達にもよくわかっていなかったということなのでしょうか。

王女様も含めて、使い物にならなかった特権階級の方達にはつらいお仕事が待っている?

あ、召喚スキル〈才能〉と美少女はセットなのかしら?

続き、お待ちしています。

2015-12-08 (Tue) 07:32 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: そうなんですね

八少女さんこんばんわヽ(・∀・)ノ

>魔法スキル〈才能〉だって

そうですね~同じスキル〈才能〉持ち同士、ピンキリいろいろいます。
アルカネットさんが神なら、マーゴットはミジンコのようなレベルの差です(笑)

>使い物にならなかった特権階級の方達にはつらいお仕事が待っている?

辛いなんてレベルじゃないお役目が待ち構えております|д゚)!

召喚スキル〈才能〉に関しては、次からゴニョゴニョ明かされていくので、コメントではナイショなのです☆ふふり(^O^)

楽しいドタバタ劇も減って、シリアスモードになっていきます(やっと…)
召喚スキル〈才能〉と召喚士の意味、今後お楽しみなのです(^ω^)

2015-12-08 (Tue) 19:08 | EDIT | REPLY |   

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