ALCHERA-片翼の召喚士- 090 第七章:召喚士 結界解除・1

御大たちの計画始動です。前々から始動していたけどあからさまに始動です。

これまでに書いてきたことの、曖昧にまだ未解決だった部分を解決していきます。そしてどんどん根暗な話になって・・・いくはず。もっとも、シリアスが続かない連中だらけなので、どこかでバカ炸裂しそうですけどね(・ω・)

【第二章 エグザイルシステム】の018話辺りのエピソードをサラッと読んでおくといいかもしれませぬ。わたしも忘れて慌てて読みました(ぉぃ





ALCHERA-片翼の召喚士-
第七章 召喚士 結界解除・1 090



 ――何故こんなことに!?

 同じ思いを抱いた少女たちが15名。

「さっさと歩け!」

「グズグズするな」

 軍人たちの厳しい言葉と乱暴な扱いを受けながら、足場の悪い斜面を、少女たちは休憩もなしに歩かされていた。



 アンティアはドレスの裾をたくしあげながら、小石で足を取られそうになる斜面を懸命に歩いている。

 ――どうしてわたくしが、こんな酷いメにあっているのかしら……。

 どうして。悪夢の中を彷徨っているような錯覚にとらわれながら、アンティアは今朝の出来事に思いを馳せた。

 朝起きると、ベルトルドとアルカネット両名から、連れて行きたいところがあるから、支度してケレヴィルの本部まで来るように。そう連絡が来ていると、母親から聞かされた。

 憧れていた二人からの誘いである。――わたくしを一体どこへ連れて行ってくれるのかしら。アンティアは胸をときめかせ、大はしゃぎで部屋の中を舞踊った。

 なんて幸せなのかしら。うんとお洒落をして、二人のもとへ急いで行かなければならない。衣装部屋へ駆け込むと、母親とメイドと3人でドレスを選び、髪のセットと化粧も念入りに施した。

 ゴンドラ移動ももどかしく、ケレヴィルの本部へ行ってみれば、先日の同じ召喚スキル〈才能〉を持つ少女たちが集まっていた。いないのはキュッリッキとかいった、生意気な乞食少女だけだ。

 暫くすると、ダエヴァだと名乗る軍人たちが数名やってきて、荒々しい態度で少女たちを外に引っ張り出した。

 突然のことに戸惑う中、アンティアも乱暴に腕を掴まれ、まるで家畜を引っ張り出すような扱いで外に出された。

「無礼ね! わたくしたちは召喚スキル〈才能〉を持っているのよ!! このような扱いが許されるとでも思っているの?」

 勇ましくアンティアが叫んだが、

「私語は慎め!!」

 壮年の男から平手打ちを喰らい、口の端を切ってしまった。

 痛みよりも、他人に手をあげられたことに驚いて、アンティアは押し黙ってしまった。そのまま力ずくで引きずられるようにして、地下の乗り物移動専用通路に連れて行かれた。そこで、荷馬車に幌をかけただけの粗末な馬車に放り込まれ、少女たちと共にハーメンリンナの外へ連れ出された。

「あたしたち、どうなっちゃうのかしら」

「怖いわ」

 舌を噛みそうなほど揺れる馬車の中で、少女たちは身を寄せ合いながら不安を口にする。

 やがて馬車が止まり外に出されると、そこはエグザイル・システムの建物の前だった。

 突然現れた煌びやかな少女たちに、大勢の人々が好奇の目を向ける。少女たちはダエヴァたちに連行されるようにして、次々にエグザイル・システムに乗せられた。そして見知らぬ場所に着くと、やはり幌馬車に乗せられて、訳も判らず連行された。

 数時間ほど馬車に揺られ、途方にくれていた少女たちは、ようやく馬車から降ろされた。

 辺り一面、真っ黒なところだった。見渡す限り黒一色で、草木一つ見当たらず、空が唯一曇天の鈍色をしているだけだ。

 もう何がなんだか判らない少女たちは、無駄口も叩かずダエヴァたちに連れられ、再び歩き出した。真っ黒な小石がゴロゴロと転がる、足場の悪いところだった。

 上質なヒールのなかに、粒状の小石が入ってきて足の裏を痛く刺激する。それに我慢できず、アンティアは立ち止まってヒールの中の小石を取ろうとした。ところが、

「足を止めるな!」

 近くにいた若い軍人が、手にしていた鞭でアンティアを思い切り叩いた。その拍子にアンティアは体勢を崩すと、地面に倒れてしまった。

「きゃっ」

「何をしている」

 後ろに居た他の軍人もやってきて、倒れたアンティアの髪をグイッと乱暴に掴んで、無理やり立たせた。

「痛いわっ! 止めてちょうだい」

「グズのうえに口答えするか。穀潰しどもが」

 侮蔑を込めた目でアンティアを見下ろすと、若い軍人は容赦のない力でアンティアの頬を左右叩いた。

「なん…いやよ……おかあさまあ」

 ついに堪えていたものがこみ上げてきて、アンティアは泣き声をあげた。しかし、

「五月蝿いガキが」

 今度は軍靴のつま先で腹を蹴られ、アンティアは喉をつまらせ目を見開いた。胃から這い上ってきたものが、口から外へ吐き出された。その様子を見ていた少女たちは、今度は自分がそうなるかもしれないという恐怖で、怖気付く足で急いで前に進んだ。

「おい、そのガキを止まらせるな、急いで歩かせろ!」

 先頭の方から声がかかり、若い軍人は敬礼すると、アンティアの髪を掴んで引きずって進んだ。

 ――なぜわたくしが……わたくしが!



「ご苦労だったな」

「遅くなりまして、申し訳ありません!」

 ねぎらいの言葉をかける上司の前で、恐縮を貼り付けた顔をしたエーベルハルド長官は敬礼した。

「なに、深窓のご令嬢どもの護送だったんだ、大変だったろうに」

 両手を腰に当てて、ベルトルドはニヤリと口元を歪めた。

「おつかれさまでした。引き続き、近辺の監視をお願いします」

 アルカネットに言われ、エーベルハルド長官は更に姿勢を正して敬礼する。

 地位的には同格なのだが、ダエヴァにとってアルカネットの存在はベルトルドと同格である。

 特殊部隊の括りに入っているダエヴァは、大きく分けて三部隊ある。部隊長が長官としての地位をいただき、別特殊部隊の長官たちと席を同じくする。しかしダエヴァはベルトルドの私兵部隊とも噂され、実際ベルトルドの私的な戦力として動くことも多い。特殊部隊の更に特殊な立場にあった。

 部下たちを指揮するためにその場を後にしたエーベルハルド長官を見送り、ベルトルドは両腕を組んで、地面に座り込んでいる少女たちを見おろした。

「ドレスにヒールか。まあ、どこへ連れて行くとは言っていなかったが、歩きづらい服装をしてきたもんだな、どいつもこいつも」

 あっぱれな女子根性に呆れてしまい、わざとらしく肩をすくめた。

「遠足でも、もうちょっと動きやすい服装をするものですが」

 アルカネットも同様に呆れ果てていた。

 自分たちの為にめかしこんできたとは気づいているが、そんなことはどうでもいいことだ。目の前の少女たちに色目を使われても、迷惑にしか感じないからだ。

 少女たちは、憧れの二人が目の前にいても、もはや目を輝かせる元気がなかった。

 身体中くたくたで、足は棒のように固くなり、今はとにかく柔らかな自分のベッドで休みたい気分なのだ。喉だって渇いている。暖かいミルクティーが飲みたい。そんな思いが表情を覆っていた。

「さてお前たち、遠路はるばる来てもらったが、ここがどこだか判る……わけないか。ここは旧ソレル王国にある、ナルバ山の跡地だ」

 誰ひとり興味がわかず、途方にくれたように地面に視線を落としていた。

「……無反応過ぎて切ないな」

 ベルトルドが拗ねたように口を尖らせる。

「仕方ありませんね」

 頷きながら、アルカネットは掌に巨大な水の球を作り出した。そしてそれを少女たちの頭上に放り投げると、ベルトルドが念力でその水の球を破壊した。

 弾けた水が盛大に少女たちに降り注ぎ、

「きゃっ」

「な、なに!?」

 小さな悲鳴を上げながら、少女たちは目をぱちくりさせて辺りをキョロキョロと見渡した。

「目が覚めましたか?」

 パンパンっと手を打ち鳴らし、アルカネットが冷ややかな目を少女たちに向ける。

「ベルトルド様からのお話ですよ。しっかりお聴きなさい」

 濡れた服が不快に身体に張り付くのを気にしつつ、次は何をされるか判らず、少女たちは口をつぐんでベルトルドを見る。

「生まれて初めてだろう? こんな野蛮で理不尽な扱いを受けるのは」

 心や記憶を読まずとも、少女たちの顔にはっきりと書いてある。

 なぜ自分がこんなメに合わされるのか、と。

「召喚スキル〈才能〉を持って生まれてきたお前たちは、当然のように国の保護のもと贅沢三昧に暮らしてきた。何を生産するわけでもなく、貢献することもなく。無駄に贅沢をしていただけだ」

 贅沢にくるまれて生きてきた少女たち。勉強をしなくてもいい、仕事をしなくてもいい。好きなように生きることが許されてきた。

「先日お前たちに会ってもらったキュッリッキを、お前たちはくだらない下心で苛めていたな。彼女を乞食呼ばわりし、あまつさえ手も上げていた」

 ビクッとアンティアが身体を震わせる。――あの場にベルトルドはいなかった。では、あのキュッリッキが密告したのだろうか?

「彼女はアイオン族の生まれでな、生まれつき片方の翼が奇形だった。そのため生まれてすぐ両親から捨てられ、同族から疎まれ国からも見放された。召喚スキル〈才能〉をもって生まれてきたのにな。だから、ずっと独りで生きてきた。類まれなその召喚スキル〈才能〉を活かし、傭兵として幼い頃から戦場を渡り歩き、あらゆる仕事をこなしてきたのだよ。無能なお前たちが、召喚スキル〈才能〉を持っているという理由だけで、安全な場所でヌクヌクと贅沢を謳歌している頃、キュッリッキは弱音も吐かずに生きてきたんだ」

「そんなくだらないあなたがたが、彼女を乞食などと蔑む資格などないのですよ」

 ベルトルドとアルカネットの声の冷たさに、少女たちは心底震え上がった。自分たちが蔑んだキュッリッキの不幸な生い立ちを、哀れんでいる余裕すらない。キュッリッキへ同情し、思いを馳せる者は一人もいなかった。今はただ、憧れていた二人の冷たい態度に恐怖して怯えきっていた。

 少女たちの様子を見て、ベルトルドは不快そうに目を眇める。

「お前たちは気づいていたか? なぜ同じ召喚スキル〈才能〉を持つ者が同い年なのか。誕生日も同じだ。7月7日にお前たちは生まれた。ここにいないキュッリッキも同じ日に生まれている」

 えっ? と少女たちは隣同士を見やった。

「そして性別も同じ女だ。どうしてなんだろうな?」

 ベルトルドは組んでいた腕を解いて、両手を広げた。

「顔を上げてあれを見ろ。立派だろう? 1万年も前に作られた神殿の遺跡だ」

 少女たちはベルトルドが示す方向へ顔を向けると、いつの間にかそこにある神殿を見て目を見開いた。

 四角い神殿だった。灰色の石造りで、華美な彫刻などは殆どない。美術的価値はなさそうだが、歴史的にはきっと重要なのだろう。正面から見ているので、奥行がどのくらいあるのかは判らなかった。

「この神殿には結界が張ってあってな、中にあるものを取り出せずに困っている」

 ベルトルドは再び腕を組むと、ちょっと首を傾げて少女たちをチラッと見た。

「お前たち、結界を外してくれ」

 困惑した目がベルトルドに集中する。

「アルケラから何一つ召喚経験もなく、意識を飛ばしてアルケラの住人たちと交信経験もなく、なぜ召喚スキル〈才能〉なのか謎だっただろう。国は大金を毎年支払ってキサマらを贅沢に養っているんだから、恩返しのひとつもしたいと思わんか? 何も貢献しないまま老後を迎えて死ぬとか、税金を支払っている国民が聞いたら激怒するだろうな。――なんの理由もなしに、3種族共に国が召喚スキル〈才能〉を持つ者を無償で保護していると、キサマら本気で思っていないだろうな? 無能なキサマらにも、大事な役目があるんだ」

 ベルトルドは端整な顔に、凄惨な笑みを浮かべる。

「だが生憎キサマらの大事な役目は、すでに終わっている。俺たちがリッキーを庇護下に置いたからな。だから、用済みになったキサマらには、最期の務めを果たしてもらおうか」

 それを合図にアルカネットが頷く。

「イリニア王女、立ちなさい」

 アルカネットに突然名を呼ばれ、イリニア王女は怯えながらもゆるゆるその場に立ち上がった。

「こちらへきなさい」

 アンティアのように乱暴な扱いを受けることが怖くて、イリニア王女は素直に従った。

 前に出ると、ベルトルドに乱暴に腕を掴まれ引き寄せられた。

「キサマのお供の、何といったか?」

「トビアス、ですね」

 アルカネットが答える。

「そうそう、そのトビアス。煩わしいから殺しておいたぞ」

「え?」

 イリニア王女は一瞬なんのことか理解できず、ベルトルドの顔を見上げた。

「この娘は、ウエケラ大陸のトゥルーク王国の王女様だ。最近国王夫妻が身まかり、近々女王として即位する。だが、残念なことに、女王に就くことはない」

「――ど、どういうことなのですか……?」

 声を震わせながらも、イリニア王女はベルトルドに食いついた。

「うん、いまから死ぬからじゃない?」

「……えぇ?」

「死んだら玉座には就けないしな。トゥルーク王国はそのままニコデムス宰相が継げばいいさ。やつの後継は殺してやったから、これから急いで種付けすれば間に合うだろうし」

 あっけらかんと言われて、イリニア王女は愕然とした。一体この男は何を言い出すのだろうか。――わたくしが、死ぬ?

「キサマはリッキーを泣かせた。不安に陥れ、本当に腹立たしい。キサマが召喚スキル〈才能〉を持っているから今日まで我慢してやったが、もう我慢する必要はない」

「ええ。死になさい、我々の役に立って」

 ――泣かせた? …もしかして、メルヴィン様のことなの??

 ベルトルドもアルカネットも本気だ。けっして冗談を言っているわけではないことに気づき、イリニア王女はその場を逃げ出そうとした。

「往生際が悪いですぞ、殿下」

 茶化すようにベルトルドに言われ、イリニア王女は涙をこみ上げ首を横に振った。

「嫌です、放して!」

 イリニア王女の悲鳴に、少女たちはつられるように、小さく悲鳴を上げながら泣き出した。

 ベルトルドはイリニア王女を思いっきり神殿の方へ放り投げた。可憐な駒のようにくるくると舞うイリニア王女を、いつの間にかそこに佇んでいたシ・アティウスが受け取る。

「始めろ、シ・アティウス」

「判りました」

 シ・アティウスは無表情に言うと、イリニア王女の腕を掴んで神殿に引っ張った。

「いや……」

 抵抗しようと足に力を入れるが、イリニア王女はグイグイと神殿へ引きずられていった。

「この神殿には、1万年前の召喚士ユリディスの作り出した結界が張られている。神殿を害する力には全て結界が働くが、侵入に関しては結界の力は働かない。だが、数ヶ月前、キュッリッキ嬢が神殿に足を踏み入れると結界が作動した。何故だろう? ずっとそのことは疑問のままだったが、最近その謎が解けた」

「この結界は召喚士に反応するんだ。これからそれを立証した上で結界解除を試みる。大いに役に立てよ、穀潰しども」

 シ・アティウスの説明を受けてベルトルドが継ぐと、怯え切った少女たちに無邪気な笑みを向けた。


第七章 召喚士 結界解除・1 つづく



089 第七章 召喚士の少女たち

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