ALCHERA-片翼の召喚士- 091 第七章:召喚士 結界解除・2

気が向いた時だけフラッと現れ、たまたま遊びに誘われ、普段から下調べも下準備も手伝わず、ぼけーっとただ参加するだけで役立たずの上、運良くいいものを当然の顔して手に入れていく。

わたしはこういう奴が、反吐が出るほど大嫌いだ(#゚Д゚)!!

ゲームの話だけど!w





ALCHERA-片翼の召喚士-
第七章 召喚士 結界解除・2 091



 ――これ以上、少女たちをここへ連れてこないで……

 ――殺したくないの……

 ――………お願いだから…



 シ・アティウスに神殿の中に投げ込まれたイリニア王女は、冷たく湿った石畳の上に座り込んでいた。

 それまで真っ暗だった神殿の中は、足を踏み入れた途端激しく振動し、あっという間に様相を変じてしまった。まるで手の込んだマジックを見ているようで、恐怖と混乱だけがイリニア王女の心と思考を覆っていた。

 目の前にそびえる壁には、小さな篝に火が灯っている。幾何学模様のようなレリーフが埋め込まれているが、それがどんなものか一切興味は沸かない。

 薄暗い中で、イリニア王女は先ほどのベルトルドの発言を思い出していた。

 ――そうそう、そのトビアス。煩わしいから殺しておいたぞ

 従兄であり、実の兄のように慕っていた、大事な家族だ。叔父ニコデムス宰相の息子で、近衛騎士団の隊長をしていた。いずれは父の後を継いで宰相になる人でもあった。イリニア王女が女王として即位したら、色々と支えになってくれただろうその人を失ってしまった。

 招かれたハワドウレ皇国に参じる時にも、一緒に来てくれた。

「トビアス兄様……」

 その名を呟くと、我慢していた涙が頬を伝った。後から後から涙は湧き出て、もう抑えきれない。

 何故こんなことになってしまったのだろう。

 留学先で両親の訃報を知り、悲しむ間もなく命を狙われ、学院で雇った傭兵たちに守られて無事首都に帰り着いた。しかし、そのことがきっかけで、ハワドウレ皇国副宰相に目をつけられた。

 表向きは身の安全確保のためであったが、実際は召喚スキル〈才能〉を持っているからという理由で、ハワドウレ皇国に招かれた。

 王家の娘として、更に貴重な召喚スキル〈才能〉を授かり生まれてきた。その召喚スキル〈才能〉は生憎なんのためのスキル〈才能〉だか見当もつかないほど、なにもその力を発揮してはくれなかった。世間一般で伝えられているのは、別の次元にあるという、神々の世界アルケラを覗き見ることが出来て、そのアルケラに住まう者共を召喚し、使役することができるという。それゆえ、召喚スキル〈才能〉を持つ者を召喚士と呼称している。

 アルケラから何かを招いたことはない。同じスキル〈才能〉を持っていた、あのキュッリッキという少女が、フェンリルとフローズヴィトニルだといった仔犬を見ても何も感じなかった。それがなんなのかさえ判らない。

 出来なかったことは、そんなに罪なのだろうか?

 確かに貴重なスキル〈才能〉というだけで、そのスキル〈才能〉のレベルを問わず、必要以上に大事にされてきた。王女であった点を除いても。

 召喚できなかったことを責められたことはない。そんなところに誰も興味を持たなかった。だから、出来ないことを罪悪に考えたことなど一度もないのだ。

 そして、ベルトルドが言っていた、大事な役目。それがなんなのか。しかもすでにその大事な役目が終わっているという。――キュッリッキを庇護下に置いたから。

 それはどういう意味なのだろうか。

 疑問は後から尽きない。そして、

 ――キサマはリッキーを泣かせた。

 メルヴィンに惚れたことで、あの少女を自分が泣かせてしまった。

 あの二人は恋人同士だと、アルカネットという男が言っていた。

 恋人同士である二人の間に割って入り、波風を立てるのは良くないことだろう。本来そういうことは嫌悪していたはずだったのに、イリニア王女はメルヴィンを本気で自分の恋人にしたいと願った。恋人がいたなど知らなかったし、知ってもなお恋心はつのっている。そう簡単に諦めて吹っ切れるほど、まだ時間は経っていない。

 短期間にあまりにも色々な出来事がのしかかり、精神的にも堪えることばかりだ。

 ベルトルドもアルカネットも、結界を解け、死ねと言っていた。結界というものがどんなものかは知らないが、自分が死ねば解けるものなのだろうか?

「死ぬのは嫌よ…」

 トビアスの死を聞かされ、悲しみの中に怒りもあった。たとえ小国とはいえ、王女としての誇りまで失ったわけではない。こんな理不尽な扱いを受け、言われたとおり死んでやる必要などないのだ。

 トビアスの亡骸を弔ってやりたい。

 メルヴィンへ想いを打ち明け、キュッリッキから奪ってやりたい。

 生まれ故郷である祖国の女王の座に就いて、自分が亡き両親の後を継いで国を守っていく。

 イリニア王女は壁に手をつき立ち上がった。

 どこかにきっと、逃げ口があるはず。外は軍人たちがいっぱいいるが、逃げ延びてみる。否、逃げ延びる。そう決意して毅然と顔を上げた時だった。

 どこか生臭い臭気が鼻を付いて、イリニア王女は顔をしかめた。そして、なにかが蠢く気配を感じ、正面を凝視する。

 薄暗い中から、何かが近づいてきている。

 臭気はどんどん密度を増し、口元に手を当て臭いを防ごうとした。

「あ……あれは……なんですの……」

 薄暗い影から姿を現したそれは、赤黒い脚を前に突き出した。



 ――いやああああああああっ!!

 けたたましい悲鳴が神殿の中から外に流れ出て、少女たちは身体をビクつかせて顔を上げた。あんな切羽詰まった悲鳴は聞いたこともない。

「始まったな」

 腕を組んで神殿を見上げていたベルトルドは、満足そうに頷いた。

「良かったなあ、ユリディスはキサマらを召喚士と認めたようだぞ」

「飾り物のスキル〈才能〉でも、一応は召喚士なのですね。リッキーさんに失礼な気もしますが」

「失礼のレベルを超えてますね。――なんにせよ、結界解除が叶うのも時間の問題です。次々投げ込みましょうか」

「うん」

「あの時は、キュッリッキ嬢の命に関わる事態でしたから、ライオン傭兵団の判断は正しかった。ですが」

「言うな。リッキーの命には変えられん。連中はよくやってくれた」

「そうですよ。そのことだけは、褒めてやりたいところです」

 今の言を聴いたら、ライオン傭兵団の連中はどんな顔をするだろう。これまで散々、キュッリッキの怪我をした原因を責め立てられていたというのに。

 親バカ、という言葉が頭に浮かび、思わずシ・アティウスは吹き出してしまった。

「ん? どうした?」

「いえ、何でもありません。次いきます」



 舞踏会や晩餐会などでよく見かけるベルトルドやアルカネットは、貴婦人たちの憧れの的だった。

 もう四十を超えているというが、とてもそんな風には見えない。三十前半で時を止めたかのように、整った美しい顔立ちと、スラリと脚の長いプロポーション。そつのない柔らかな笑顔と、とくにベルトルドの場合、どこかやんちゃな笑顔を見せる。

 十六で社交界デビューをしたエリナは、貴婦人たちに取り囲まれるベルトルドとアルカネットを見て胸をときめかせた。いつか自分も一緒にワルツを踊ってもらいたい、そう胸に願いを秘めて、日々ワルツの特訓を繰り返していた。そして、ついに一度だけアルカネットに踊ってもらえたことがあった。優しくリードしてもらい、永遠に続くかと思われた感動の中1曲を踊りきった。その嬉しい体験は、エリナの一生の宝物になった。それなのに、今目の前にいるアルカネットは、エリナの知らない男だ。冷たい表情と残酷な言葉の数々を口にする知らない男。

「次はあなたです」

 そう言ってギュッと腕を掴まれ、強引に立たされた。そして神殿のほうへと引きずられていく。

「アルカネットさま……おやめになってくださいまし」

 エリナはか細い声を振り絞った。しかしアルカネットは振り返らず、一言も発しなかった。

 目前に暗闇が見えて、エリナはもう恐怖が足元から這い上がってきて、大声で泣き喚いた。腕を掴むアルカネットの手に爪を立て、必死に踏ん張った。――こんなのは愛おしいアルカネット様の手じゃない!

「やれやれ……ここまできて往生際の悪い。ワルツを踊っていた時は、もうちょっとしとやかなレディだと思っていたのですが」

 ――えっ!?

 覚えていてくれた、たった一回のワルツを、覚えていてくれた。

 途端、エリナの全身から力が抜けた。

「ごきげんよう」

 アルカネットはエリナを神殿の中へ放り投げた。

 エリナが最後に見たアルカネットの顔には、残酷なまでに柔らかな笑みが浮かんでいた。

「よく覚えていたなあ」

 戻ってきたアルカネットに、ベルトルドが感心したように言う。

「何がです?」

「あの娘とワルツを踊ったこと」

「覚えてませんよ。ただ、ああ言えばおとなしくなるかなと思ったので、試しに言ってみただけです。案の定効果てきめんでしたね」

「えげつない奴だな……」

「それにしても、火事場の馬鹿力は凄いですね…。手袋越しに爪が布を突き破って手の甲に刺さってきました」

「血が出ているな」

「巫山戯た娘です」

 心底不愉快そうに、アルカネットは眉を眇めた。



 じっと神殿の様子を伺っていたシ・アティウスは、神殿の様子に変化が生じたことを感じ取った。

 1万年前の召喚士ユリディスが張った結界。この結界には、意思がある。エルアーラ遺跡にヒューゴという1万年前の青年が残留思念を残していたように、この結界にもユリディスの気配が確かにある。

 次々と投げ込まれる召喚スキル〈才能〉を持つ少女たちに、明らかに動揺しているようだった。

「耐え切れないだろうな。どういう意図から召喚スキル〈才能〉を持つ者に反応する結界にしたのか判らないが、人殺しは辛かろう」

 召喚スキル〈才能〉を持つ少女は、あと一人。

「ベルトルド様、そろそろ神殿を吹っ飛ばす用意をしてください」

「おう、やっと出番か」

 やや退屈そうにしていたベルトルドが、待ってましたと意気揚々にシ・アティウスの隣に立った。

「もう壊せそうなんだな?」

「ええ。最後の一人を投げ込めば、ユリディスの思念結界は崩壊します。すでに結界自体に動揺の気配が顕著に出ています」

「そうか。アルカネット、頼む」

「はい」

 アルカネットは地面に座り込んでいるアンティアの腕を握った。

「あなたで最後です。さあ」

「いやああ」

 アンティアは涙でぐじゃぐじゃになった顔で見上げて首を振った。

「さっさと死んでしまえば、恐怖などすぐに感じなくなりますよ」

 どこまでも優しい笑顔でアルカネットは言うと、力ずくでアンティアを立ち上がらせた。

「いきましょう」

「お願い、やめてええ」

 精一杯力を込めて踏ん張ろうとした。そして憚ることなく泣き喚いた。

 周りにいる軍人たちは、冷ややかな目でアンティアを見ていた。同情のヒト欠片もない。

「死にたくない、殺さないでえ」

 心からの叫びは、しかしこの場にいる誰の心も動かすことはできなかった。

「ごめんなさい許しておねがい」

「さようなら」

 アルカネットはアンティアを神殿の中へ投げ捨てた。

 アンティアの身体が神殿に吸い込まれた。瞬間、神殿がこれまで以上に激しく振動し、辺り一面も地震のように大地が震えた。

 常人の目には見えていないが、ベルトルドの目にははっきりと映っている。

 シャボン玉のように七色の光が織りなす透明な膜が、激しく歪みを繰り返し、細い光の筋を膜に走らせていった。ベルトルドはその中心点に意識を凝らすと、膜を引き裂くようなイメージで破壊した。

「おっと……」

 シ・アティウスは足を取られそうになって後ろにたたらを踏む。アルカネットも体勢を崩して前かがみに足を動かした。

 結界が裂かれた衝撃が、再び地震のようにして大地に振動した。

「なんとか15人で解除がかなったな。穀潰しの始末も出来たし、一石二鳥だ!」

 両手を腰に当て、ベルトルドがふんぞり返って威張る。そこへ、ダエヴァの下士官が駆け寄ってきた。

「閣下、失礼します! リュリュ様から電報が届いております」

 ベルトルドは物凄く嫌そうな顔をして、差し出された紙を受け取る。

「あいつの名前を聞くと、股間と尻の穴に危機感が迫る……」

「バカなことを言ってないで、なんです電報の内容は?」

「うーんと、………ふーん、穀潰しの親どもが、娘が帰ってこなくて心配で宰相府や総帥本部に詰め寄ってきているらしい」

「中でミンチになってるでしょうし、肉片でも送りますか? どれが誰だか判りませんが」

 しごく真顔でシ・アティウスが言うと、ベルトルドは「フンッ」と嘲笑する。

「そんな面倒なことはしてやらんでいい。親どもも逮捕し極秘に始末、資産もなにも全部接収、結構な額になるだろうし、あとで使い道を考えよう。福利や医療方面へ流れるようにしておきたい」

 腕を組みながらベルトルドが言うと、アルカネットが頷いた。

「さて、神殿も破壊して、レディトゥス・システムを取り出そうか。ようやくだ。31年だ、あれから」

「長かったですね……」

 アルカネットの顔に、複雑な色が広がっていく。

「さあユリディス、お前の抵抗もここまでだ」

 ベルトルドは掌に電気エネルギーを集める。物凄いスピードでエネルギーは凝縮され、三叉戟の形をとり始め、黄金のような光沢を放ち始めた。

「1万年もの間、ご苦労だったな!」

 雷霆(ケラウノス)が神殿に落雷した。



 ――結界が壊されてしまった。

 たくさんの少女たちを手にかけた。その罪悪感が結界に歪みをもたらし、維持することができなくなってしまったのだ。

 ――ごめんなさい、イーダ、ヒューゴ。

 ――そして、アルケラの神々たち。

 ――どうか、私と同じ悲劇が起きませぬよう……どうか……。



第七章 召喚士 結界解除・2 つづく



090 第七章 結界解除・1

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