ALCHERA-片翼の召喚士- 094 第七章:召喚士 父親たちと娘

今日は冬至、なんだね。晩飯はかぼちゃの煮付けにするかな・・・。

さて、いよいよ次回から大きく動きます。今回は嵐の前の静けさな内容で、サブタイトルがサーッパリ思いつかなかったから、かなーりテキトーです( ̄▽ ̄;)

でも、今回の内容は、とても大事なんです。ありきたりな三人の様子なんですが、それがとても大事なんです・・・。

そして多分、次回で7章終わりになるかなあ。予定では。





ALCHERA-片翼の召喚士-
第七章 召喚士 父親たちと娘 094



「ねえメルヴィン、アタシとエッチしたい?」

 その瞬間、談話室のあちこちから大きな音がたった。そしてメルヴィンは、口にしていたビールを、盛大に吹き出していた。

「い、いきなりっ、何を言い出すんですか!?」

 メルヴィンは顔を真っ赤にして、キュッリッキに顔を向けた。

「したくないの?」

 真顔で迫る愛しい恋人に、メルヴィンは口をパクパクさせながら、ジリジリと引いていた。

「そ、それは、ですね、その……」

 仲間たちのいる前で、本音をはっきり言う勇気がメルヴィンにはない。そもそもそういうキャラではないのだ。一方、キュッリッキの爆弾発言に、ライオン傭兵団の仲間たちは盛大にズッコケた。

 二人がまだ肉体関係を結んでいないことは判っていた。メルヴィンが理性を総動員して、キュッリッキが精神的にも大人になって、受け入れられるようになるまで我慢していることを理解している。

「メルヴィン我慢してるから、早くヤッちゃいなさいよってファニー言ってた」

 確かに我慢はしている。だが、そう軽いノリでキュッリッキを抱くのは控えたかった。何故ならキュッリッキは処女なのである。

「……リッキーが本気でそうしてほしいのなら、オレはいつでも構いませんよ」

 それだけを言うと、メルヴィンはゲッソリと疲れた溜息を吐いた。

「んー……」

 キュッリッキは顎に指を当てると、目を上に向けて考え込む。

 実際どういうことをするのか、さっぱり判らないからだ。以前ヴィヒトリに見せられたベルトルド秘蔵の超無修正ポルノ映像のことは、すでに記憶格納庫から綺麗に消去されている。内容があまりにも過激すぎたのだ。

「何をするのか判んないから、今度でいいや」

「そうですね……」

 あっけらかんと言われ、メルヴィンは更に疲れて肩を落とした。はたして今度とは一体いつなのだろう、と少し思ったメルヴィンだった。

 キュッリッキは壁時計を見て、「あっ」と言うと慌てて立ち上がる。

「もう18時だ! ベルトルドさんちに行ってくる」

「ハーメンリンナまで送りますか?」

「うん!」

 キュッリッキは嬉しそうに、にっこりと微笑んだ。



 キュッリッキがベルトルド邸につくと、すでにベルトルドとアルカネットは帰宅しており、部屋着に着替えて出迎えてくれた。

「おいでリッキー、寒くなかったか?」

 ベルトルドはキュッリッキをギュッと抱きしめると、待ちかねたように額にキスの雨を降らせた。

「独り占めしないでください! 早くリッキーさんを放しなさい」

「ダガコトワル」

「いい加減に離れろや」

 来ればすぐこれだ、と、キュッリッキは疲れたようにため息をついた。何のかんのと抱きついてきては、キスをしていくのは止めない。なのでもう言うのを諦めていた。

「お嬢様、早くお部屋へ行かないと、番組が始まってしまいますよ」

 やんわりとリトヴァが助け舟を出してくれて、キュッリッキはベルトルドの腕からスルッと抜け出した。そして、テレビのある自分の部屋へ、一目散に駆け出した。

「早く行かないと始まっちゃう!」

「リッキー待ってくれ」

「リッキーさん」

 駆けていくキュッリッキを、ベルトルドとアルカネットは慌てて追いかけた。

「全く、お嬢様も旦那様方も、お屋敷の中は走らないでくださいませっ!」

 リトヴァは呆れたように肩で息をついた。



「リッキー、今日は泊まっていけるんだろう?」

 金糸のようなキュッリッキの柔らかな髪を指でいじりながら、ベルトルドはテレビに見入っているキュッリッキの顔を覗き込む。

「うん。外暗いし、めんどいから泊まっていく」

 画面から目を離さずキュッリッキが言うと、ベルトルドとアルカネットの顔がパッと明るく輝いた。

「なら、一緒に寝ような」

 にっこりとベルトルドに言われて、キュッリッキは「えー」と不満そうに眉を顰めた。

「私と寝ましょうね」

 優しく微笑むアルカネットにも、キュッリッキは「えー」と不満そうな顔を向けた。

「最近ずっとリッキーと寝られないから、欲求不…いや、寝不足が溜まってて、身体の調子が悪いんだ……」

「え!? ベルトルドさんどっか悪いの?」

 キュッリッキはびっくりして飛び上がった。

 以前自分のせいで、過労で倒されさせてしまったことを思い出したのだ。あのことは今でも罪悪を感じている。

「何を言っているんですかしらじらしい。毎朝起こす苦労を強いられる、私の身にもなっていただきたいものですね、ぐっすり爆睡しておいて」

 シラーっとアルカネットに言われて、ベルトルドは口をへの字に曲げた。

「まあ、たまにはいっか」

「!」

「!」

 ベルトルドとアルカネットは、思わずびっくりしてキュッリッキを見る。メルヴィンとくっついてからというもの、何を言っても拝み倒しても、Yesとは言ってもらえなかったのだ。

「だけど、二人とも、もうちょっと離れて寝てよ。せっかく広いベッドなのに、狭くなっちゃう」

「もちろんだリッキー!!」

「もちろんですよリッキーさん!!」

 二人同時に抱きつかれ、キュッリッキは疲れたように小さく笑った。

(やっぱ、後悔したかも……)



 夕食を終えたあと、キュッリッキはフェンリルとフローズヴィトニルと一緒にお風呂に入った。

 フェンリルはバスタブのへりに顎と前脚でつかまって、目を閉じ気持ちよさそうに湯船に浸かっている。フローズヴィトニルは犬かきで泳ぎながら、時折キュッリッキにじゃれついていた。

 アジトのお風呂は5人一緒に入れるほど広いが、いつも誰かと一緒なので、こうしてのんびりと浸かることはない。フェンリルはオスだからという理由でマリオンに追い出され、最近ではガエルたちと一緒に入っている。フローズヴィトニルはちゃっかりキュッリッキと一緒だ。

「さて、そろそろ出よっか。のぼせちゃう」

 二匹を腕で掬うようにして湯から上げると、バスタブを出て床に下ろしてやる。二匹は身体を勢いよく振るって、水気を飛ばした。

 キュッリッキは身体を拭いてナイティドレスに着替えると、ドライヤーで髪を乾かす。そして、洗面台の上で待機する二匹の毛も乾かしてやった。とくにフェンリルはドライヤーがお気に入りである。熱風を浴びながら、気持ちよさそうに目を細めていた。その表情を見ていると、

(なんだか疲れたオッサンみたい…)

 とキュッリッキは思っていたが、口には出していない。言えば絶対怒る。

 身奇麗になって部屋に戻ると、フェンリルとフローズヴィトニルは、長椅子のクッションへ駆けていって丸くなった。以前はフェンリルが独り占めしていたクッションも、今ではフローズヴィトニルが加わって狭くなってしまっている。それでもフローズヴィトニルはフェンリルにピッタリと身を寄せて丸くなっていた。

 キュッリッキがベッドの上に乗っかって座り込んだとき、寝巻きに着替えたベルトルドとアルカネットが部屋へ入ってきた。そしてベッドに腰を掛けると、手にしていた書類に目を通し始める。

「お仕事終わってからくればいいのに」

 やや呆れ気味にキュッリッキが言うと、

「1秒でもリッキーのそばにいたいんだ!」

「そうです。たかが仕事ごときに邪魔されませんよ!」

 書類から顔を上げず、二人はきっぱりと言い切った。

「ぶー」

 せっかく一緒に寝るのだから、少しは楽しい話でもしたかった。しかし二人共書類に見入ってすっかり仕事モードである。

 暫く背中を見つめていたが、焦れて二人の間に移動して、交互に顔を覗き込む。でも少しも振り向いてくれない。

「もお、つまんなーーーーい!」

 キュッリッキは二人の手にしている書類をワシャッと掴むと、ひったくるように奪い取り、ポイッと宙に放り投げた。

「リ、リッキ~~~」

「あわわ……」

 ベルトルドとアルカネットは、ヒラヒラと宙を舞って落ちる書類を慌てて拾い始めた。

「これ、アルカネットのだな」

「ベルトルド様のはこっちのですね」

 拾った書類の中身を確認しながら、交換しつつ再度確認する。

「この、イタズラっ子め!」

 ベルトルドはキュッリッキに飛びかかると、そのままベッドへ押し倒した。

「キャッ」

「悪い子はオシオキだぞ」

「えへへ、だって二人共かまってくれないから、つまんないんだもーん」

「しょがないですね、リッキーさん」

 アルカネットは苦笑しながら、ベルトルドのぶんの書類もテーブルの上に乗せに行く。

「さて、どうしてくれよう、この小悪魔」

 ベルトルドが芝居がかった口調で言うと、キュッリッキはくすくすと笑った。

「今すぐ子持ちの父親になれますね」

 二人の様子を見て、アルカネットが嫌味な笑顔を浮かべてベルトルドに言う。

「たわけ、愛し合う恋人同士のようじゃないか。なあ、リッキー」

「いえいえ、どう見ても仲のいい親娘(おやこ)のようです」

「がるるる」

「アタシとベルトルドさん、親娘(おやこ)みたいに見えるんだ~」

 妙に感心したようにキュッリッキが言うと、

「ええ、とっても親娘のように見えますよ」

 アルカネットが畳み掛けに出る。

「私とは恋人同士にしか見えませんが」

 いつまでも抱きしめているベルトルドの腕から、キュッリッキを強引に奪い取ると、アルカネットは自分の腕に抱き抱えなおす。

「リッキーさんは、永遠に私のものです」

 心の底からアルカネットは言うと、キュッリッキの頬に優しくキスをした。

「寝言は寝てから言え。もう寝るぞ寝るぞ!」

 キュッリッキを奪われて面白くないベルトルドは、声を荒らげてシーツをめくった。

 ベッドに戻されたキュッリッキは、横になりながら、ベルトルドと親娘(おやこ)のように見えると言われたことが、嬉しいと思っていた。

 いつも優しく包みこでくれるベルトルド。メルヴィンとのことで怖い態度を見せはしたが、それ以外はいつだって優しい。そのうち、メルヴィンとのことも心から認めて祝福してくれると、キュッリッキは信じていた。ベルトルドに対しては、そう思えた。しかしアルカネットはそうじゃない。きっと、一生認めてはくれないと思っている。それでもアルカネットのことも大好きだ。過剰なまでに自分を愛してくれ、いつだって優しい。

 血は繋がっていなくても、キュッリッキにとって、二人は大切な父親たちなのだ。

 三人が横になると、キュッリッキは二人の手をとって、ギュッと握った。

「おやすみなさーい」

 ベルトルドとアルカネットは顔を見合わせ、そして苦笑した。二人は同時にキュッリッキの頬にキスをすると、ぴったりとキュッリッキに身を寄せて目を閉じた。



 翌朝キュッリッキは目を覚ますと、左右に寝ていた筈のベルトルドとアルカネットがいないので首をかしげた。サイドテーブルに置いてある時計を見ると、まだ朝の6時を回ったところだ。

 アルカネットが早起きをしているのは不思議に思わないが、ベルトルドが寝ていないことには驚いた。

「今日は雨かな……」

 キュッリッキは起き上がると、モソモソとベッドから出る。そしてフェンリルたちの寝ているソファのそばにあるテーブルの上を見て、書類が消えているのに気がついた。

「お仕事してるのかな。ベルトルドさんも起きてるのはビックリ」

 いつもあれだけ起こしても起きないベルトルドが、自分から起きているのは本当に驚くばかりだ。

「さーて、顔洗ってこよ」



 着替えを済ませると、キュッリッキは部屋を出た。

「あ、リトヴァさん、おはよう~」

「おはようございます、お嬢様」

「ベルトルドさん、もう起きてるの?」

「はい。書斎でアルカネット様とお仕事をなさっていたようです。先ほど終えられ、ご自分のお部屋に戻られていると思いますよ」

「やっぱ、ベルトルドさん、ちゃんと起きられたんだ……」

 ベルトルドの寝坊の悪さをしみじみ判っている二人は、毎日こうならいいのに、という気持ちを乗せたため息をついた。

 キュッリッキはふと、リトヴァが手にしているものに目を向けた。

「アルカネット様の手袋でございます。玄関ホールで脱がれたのでしょう、お忘れになっていたので、今からお届けに行くところです」

「アタシが届けてくる!」

「あら、そうですか? では、お願いいたします」

「任せて!」

 本来なら、この屋敷の令嬢であるキュッリッキに、おつかいなどさせてはいけない。しかしキュッリッキが行ったほうが喜ぶだろうことを心得ているので、あえてリトヴァはキュッリッキに任せた。

 リトヴァから手袋を受け取ると、キュッリッキはアルカネットの部屋へ向かった。

 アルカネットの部屋も東棟にある。とにかく大きく広い屋敷なので、リトヴァが見えなくなると、キュッリッキは走り出した。屋敷の中で走っていると怒られるからである。

 部屋の前に着いて、キュッリッキは扉をノックした。

 暫く待っても返事がなく、ちょっと考え込み、そして扉をそっと開けてみる。

「アルカネットさん、いるー?」

 部屋の中に入ると、カーテンは全て開けられて、室内は明るい陽光で満ちている。ベッドには寝た形跡がなく、誰もいなかった。

「そいえば、アルカネットさんの部屋に入ったの初めてかも」

 ベルトルドの部屋へは何度も入ったことがあるが、アルカネットの部屋は初めてだ。

 テーブルの上に手袋を置くと、キュッリッキはベッドのサイドテーブルの写真立てに気がついた。

 不思議とそれに興味を覚え、近づいて写真立てを手に取ってみる。そしてその写真を見て、思わず目を見張った。

「あれ? アタシ??」

 小さく声を上げたところで、人の気配を感じて振り向いた。

「アルカネットさん」


第七章 召喚士 父親たちと娘 つづく



093 第七章 アルケラの巫女

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