ALCHERA-片翼の召喚士- 読み切り特別小咄:彼らのある日の悩み ベルトルド編

最後を締めくくるのは御大です(・ω・)

これを読んで、7章ラストを読むと切ない・・・て思ってもらえると成功です。

長さバラバラでしたが、本編に入れるのに悩んだエピソードをちょこちょこ書いてみました。

次からは8章開始します。




ALCHERA-片翼の召喚士-
読み切り特別小咄:彼らのある日の悩み ベルトルド編



左寄せの画像《ベルトルド編:アルカネットの問題》


 書斎のデスクの前に、腕を組んで座っているベルトルドは、今日何度目かのため息をついた。

 デスクを挟んだ向かい側には、淡々とした表情のアルカネットが立っている。

 再びため息をついたベルトルドは、目を開けてアルカネットを見据えた。

「今日付けで、メイドの一人が辞職した」

「そうですか」

「辞職の理由は、”アルカネット様に辱めを受けたから”、だそうだ」

 アルカネットは小首をかしげる。

 ベルトルド邸には、使用人が総勢50名を超える。ハーメンリンナの他の屋敷に比べれば、これでも少ない方で、全て住み込みだ。

 ボーイはセヴェリ、メイドはリトヴァが全て管理しており、ベルトルドはあまり使用人たちの顔を知らない。名前も知らない者がいるほどだ。

 ベルトルドが顔を合わせるメイドは、パーラーメイドくらいで、チェインバーやキッチンなどのメイドと顔を合わせる機会はない。

 今日辞めていったメイドは、チェインバーメイドだった。

「心当たりがあるだろう? まだリッキーと同い年の少女で、ブリッタといったかな。お前の不在中の私室のベッドメイキングと掃除をしに早朝部屋へ訪れてみれば、裸のお前が立っていた。どうしていいかわからずいたら、ベッドに投げられ犯されたという」

「ああ」

 そういえば、といった表情でアルカネットは頷いた。

「そんなこともしましたね。言われるまで忘れていました」

 他人事のようにアルカネットは軽く肩をすくめた。

 実はこれが初犯ではなく、過去何度か同じことがあった。そして、そういうことをしでかすときのアルカネットは、ベルトルドが留守で自らの感情の抑制がきかなくなったときだと決まっていた。

 アルカネットのそういうところがよく判っているので、ベルトルドは強く言いづらい。言って判らせられるなら、初犯の時にしっかり言い聞かせている。

 ベルトルドはアルカネットを追い払うように手を振った。退室しろ、という意味だ。

 アルカネットは頭を下げて一礼すると、書斎を出て行った。反省の色など微塵もない。礼儀的にしただけの礼は、される側にとってはうざいものだった。

 ベルトルドは椅子に深く身を沈め、唇を尖らせる。そして肘掛に指をトントン打ち、目を細めた。

 明らかな性犯罪だが、アルカネットを告発して投獄させるわけにはないかない。しかしアルカネットには、罪を犯している意識がまるでない。そこにたまたま女がいたから、感情のはけ口に使っただけなのだ。だが女にしてみたら、たまったものではない。

 アルカネットがそんな風になってしまった理由を、ベルトルドは痛いほど理解している。そして自らの計画を遂行するためには、アルカネットを欠くわけにはいかない。許しがたいことだとは判っている。それでも欠くわけにはいかないのだ。

 辞めていったブリッタは、貧しい家の出だと聞いている。よく働く子でリトヴァが褒めていたほどだ。この先夢もあっただろうし、密かにアルカネットに憧れの気持ちも抱いていたと聞いて、より不憫に思う。

 ベルトルドはリトヴァを呼び出すと、ブリッタに、むこう10年の生活保証と、新しい雇用先の世話、慰謝料を含めた退職金を支払ってやるよう命じた。ベルトルドには、そのくらいしかしてやれることはなかった。



 軽やかな足音と共に、書斎の扉をノックする音が部屋に響く。

「入っておいで、リッキー」

 扉を遠慮がちに開いて、キュッリッキがそっと顔を出した。

「夕食の時間だから、食堂へ来てくださいって、リトヴァさんが」

 用件を伝えながらキュッリッキはデスクまでくると、手招きされてベルトルドのそばに回った。

「ベルトルドさん、なんか辛そうだよ?」

 心配そうにキュッリッキは身を乗り出す。

「リッキーは良い子だ」

 ベルトルドはキュッリッキを抱き寄せ、膝の上に座らせる。

 ライオン傭兵団の仲間たちに、片翼のアイオン族であることがバレてしまい、メルヴィンのことと合わせて傷つき毎日泣いている。そのキュッリッキが自分のことまで心配してくれている。ベルトルドはそれがとても嬉しかった。

「こうしてリッキーがそばにいてくれれば、俺は大丈夫だ」

「ほむ」

 キュッリッキはベルトルドの頭を、イイコイイコと撫でてやる。

 ”泣く子も黙らせる”という通り名を持つベルトルドの頭を、こんな風に撫でるものなど、世界中でキュッリッキくらいしかいないだろう。そして、それが許されるのもキュッリッキだけだ。

 キュッリッキを抱きしめ、愛おしさを込めて頬ずりする。

 ブリッタに行ったような強姦行為を、キュッリッキにすることはさすがにないだろうとは思う。それだけは信じたい。しかし、その場にブリッタではなくキュッリッキがいたとしたら。感情の抑えのつかなくなったアルカネットは、何をしでかすか判らないのだ。そう考えると、心底怖気がする。

 キュッリッキには、絶対にそんな辛い思いはさせたくない。

 絶対に。

「さて、食堂へ行こうか。早く行かないとリトヴァに怒られる」

「うん」


読み切り特別小咄:彼らのある日の悩み ベルトルド編 終わり



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Comments 2

八少女 夕

おお

こんばんは。

そうでしたか。
御大がちゃんと氣にかけてあげていたのですね。
ブリッタ、救われないなと思っていたんですよ。
そりゃ、慰謝料なんかじゃ簡単には救われないかもしれないけれど、本当に打ち捨てられただけだとしたらあまりにもつらすぎますもの。

五つの悩み、全部興味深く読ませていただきました。
私が秘かに(でもないか)注目しているランドンとリュリュたんが取り上げられていたのは嬉しかったです。こう、本編では見えてこない姿が浮かんできますよね。

そして、いよいよ本編の続きですね。
今年も読むのを楽しみにさせていただきますね。

2016-01-07 (Thu) 05:16 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: おお

八少女さんこんにちわヽ(・∀・)ノ

>御大がちゃんと氣にかけてあげていたのですね

使用人の雇用もクビも、管理はセヴェリとリトヴァがしているので、辞めたことをいちいち御大に知らせることもないんですが、原因が原因なので、リトヴァさんから報告がいったのです。前科もあることだし、やはりキュッリッキさんと同い年の少女というところが、より御大が気にかける原因でもありました。
このエピソードは本編に混ぜようか悩んだんですが、挟みどころが見つからなかったので番外編に。
キュッリッキさんにそんな思いは、と案じ願っていたのに、無惨にも阻止出来なかったですね、未遂ではあるけれど。

>全部興味深く読ませていただきました。

ありがとうございます(^ω^)
無口故に出番というより存在感少なすぎるランドンも、別に仲が悪いとかじゃなく、影でこうしてメンバーを支えているんだぞと。リュリュたんも普段御大をいぢめて遊んでいるけど、色々悩みを抱えているんだぜ。
てな感じで、本編でアピールできない部分を書いてみました(・∀・)

いつもありがとうございます! 本編がんばりまっす(゚∀゚)

2016-01-07 (Thu) 16:36 | EDIT | REPLY |   

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