ALCHERA-片翼の召喚士- 103 第八章:奪われしもの 彼女が遺した空への想い・4

チビ御大の気持ち、判ってもらえるように書けているかなあ・・・。

御大とアルカネットさんの関係は、この後起こる、ある出来事で決定的なものになってしまいます。

そいえば来週バレンタインデーなんだよねえ。

今年のバレンタイン企画はどうしようかな。2月になったしTOP絵も変えたいなあ。





ALCHERA-片翼の召喚士-
第八章 奪われしもの 彼女が遺した空への想い・4 103



 ゼイルストラ・カウプンキの住人たちの殆どは、アーナンド島の周辺にある小島に住居を構えている。ゼイルストラ・カウプンキの首都でもあるアーナンド島に住居を構えると、税金が倍になり、よほど裕福な者でもない限りは、周辺の小島に住んだほうが安く付いた。

 群島であるゼイルストラ・カウプンキでは、一家に一隻必ずクルーザーがある。島と島を行き来するのに必要だし、海上タクシーは割高だ。それに、アーナンド島に近い小島は、主に宿泊施設、別荘、レストラン、カジノなどの、観光者向け用に買い取られているため、やや離れたところからだいぶ離れたところに、島民の住居があった。

 アーナンド島からクルーザーで1時間ほどの距離にあるシャシカラ島でも、一家に一隻クルーザーがあり、子供たちの通学用に3家でお金を出し合い、小型のクルーザーも一隻ある。

 小型船舶免許は12歳から取得が可能なので、通学用クルーザーはリューディアが操縦していた。

 免許はまだ取得できないが、ベルトルド、アルカネット、リュリュの3人も操縦は出来る。いざという時のために、家族ぐるみで子供たちに操縦を教えていたからだ。

 授業を終え、スキル〈才能〉訓練も終わると、待ち合わせの場所に集まって、クルーザーのある港へ行く。

 待ち合わせ場所は、学校の敷地内にある、大きな椰子の木の一つだ。

「おーい、ディア」

 ベルトルドが、先に待っていたリューディアに声をかける。

 リューディアは呼ばれて顔を上げたが、その表情は辛そうに沈んでいた。そんなリューディアの顔を見て、ベルトルドは内心小さく舌打ちする。

 案の定、昨日のアルカネットの騒動の内容を知ってしまったらしい。

「ベル、あのね…」

「帰ろうぜ、アルカネットも待ってるしさ」

 こんなところで話したくないと、ベルトルドはリューディアの言葉を遮った。そしてベルトルドはリューディアとリュリュの手を引くと、港に向かってグイグイ引っ張るようにして走り出す。

(ねえ、ベル、やっぱおねえちゃんに話しちゃうの?)

 念話でリュリュから話しかけられ、ベルトルドも念話で答える。

(たぶんクラスの連中から曖昧に聞いたんだろうな、そんな表情してるしさ。だから、ちゃんと話してやらないと、余計不安だろうから)

(そうね…)

(俺が話をするから、心配すんなって)

(うん。ベルにまかせるわ)

(おう)

 アーナンド島にはいくつもの港がある。島民たちのための港の一つに、みんなのクルーザーを停めている。

「俺様のヨトゥン号よ、今日もしっかりヨロシク!」

 ベルトルドは無邪気にクルーザーに笑いかけると、勢いよく飛び乗る。

「アタシ、この外装恥ずかしい。ねえ、直しましょうよ……」

 リュリュが垂れ目を更に垂れ下がらせて、クルーザーを迷惑そうに見つめる。

「この俺が描いたスペシャルアートなんだぞ。カッコイイじゃないか」

 甲板の上に仁王立ちで、腕を組んでふんぞり返っている。

 とにかくクルーザーの数が半端ではないので、各家ひと目で判るアートが炸裂している。プロのアーティストに依頼するとバカ高い為、ベルトルドがかってでたものの、らくがきも羞恥心を覚えて逃げ出すほどのアートセンスに、霜の巨人もちゃぶ台返ししたくなるだろう。それほど酷いのである。オマケにヨトゥン号の名も、何を書いてあるか、誰も読めないときている。

 ベルトルドは、恐ろしく字が猛烈に下手なのだ。

「これを操縦しなくてはならないわたしの気持ちなんて、考えもしなかったんでしょうね……」

 リュリュに賛同するように、リューディアは乾いたように呟いた。

 二人の反応を見て、ベルトルドは片方の眉毛をひくつかせる。

「ヨトゥン号はこれでいいんだっ!」



 ヨトゥン号はゆっくりとシャシカラ島を目指してへ進む。ミーナ群島の海流は穏やかなので、クルーザーはあまり揺れず、心地よい風と海鳥たちのさえずりを楽しめた。

 小さな頃から両親と共に島の周囲をクルーザーで遊んでいたので、リューディアの操縦は一級品である。

「今日の宿題は、アルカネットは授業に出てないから、ちょっと難しいかもな」

「アタシも一緒に宿題する。苦手なの、数学」

「いいぜ、ビーチに行ってやろう」

 基礎教育は大きく分けて、語学、数学、総合学の3種類ある。総合学は歴史、生物学、美術、料理、道徳などを教えた。

 15歳になると、進路を自由に選べる。スキル〈才能〉を活かしその専門学校へ進んだり、行政司法などを目指すものはその国の専門機関へ。とくに将来の目標に目処が立たない者は、基礎教育の延長線上にある大学へと進む。また、勉強を必要としなかったり、家庭の事情で進めない者は働きに出ることも可能だ。15歳までの基礎教育は、国から補助が出るので学費は免除される。基礎教育さえ受けていれば、社会に出ても成り立つからだ。

「ねえ、ベルは将来、何になるの?」

「なんだよ、いきなり」

「だってアタシ、ベルのこと大好きだもん。お嫁さんになるから、将来の旦那様の生活設計くらい、知っておかないとダメじゃない」

「まだ言ってんのかよ。俺は、女のカラダをした女じゃないと、嫁にはせん……」

「大人になったら、性転換手術を受けるから問題ないわ」

「………」

 リュリュに擦り寄られ、ベルトルドは露骨に嫌そうにジリジリと退いていく。

「とにかく、俺はお前と結婚する未来は夢見てないから、諦めてほかの男を探せっ!」

 甲板の二人の様子を見て、リューディアはクスクスと笑う。

 リュリュがベルトルドに本気の恋をしていたことを、リューディアは知っている。しかし、1年前にフラれていることも、また知っていた。

 そして、自分もベルトルドに恋をしている。

 3歳年下で、まだあどけなく、自分よりも背の低い、あのおマセな少年に。

 今は13歳と10歳で、恋愛なんてまだまだ早いのかもしれない。でも、10年もすれば、二人とも大人になって、恋愛だって当たり前に出来るようになる。

 笑顔がまだ幼いけど、大人になったら間違いなく美青年に成長するだろうベルトルド。それを想像すると、リューディアの胸はドキドキと高鳴った。まだ小さく華奢な身体も、大人になれば逞しくなるに違いない。それに、あんなに子供のくせに、どこか頼りがいのあるところも、惹きつけられてならないのだ。

 ――わたしの気持ちに、あの子は気づいているはず。

 ――そして、あの子もわたしのことを、きっと、好きだと思う…。

 それなのに、ベルトルドはいつもはぐらかす。

 いつの間にかベルトルドへの想いが膨らんで膨らんで、積もり積もった矢先に、アルカネットの一件だ。

 ――なんか、リューディアのことであの子、暴走したって。

 ――そうそう、リューディアに酷いことしたとかなんとかって叫んでたらしいよ。

 アルカネットは、真っ直ぐ”好きだ”という気持ちをぶつけてくる。アルカネットのことも好きだけれど、でもそれは、弟のように思っているだけで、恋とは違う。

 ――アルカネットもわたしに、恋をしている…。

 あまりにも素直に激しく。誰に憚ることもなく、ベルトルドに遠慮もしていない。そしてその強い想いは、今回の事件を起こすことになった。

 病院送りになった女生徒たちとはクラスメイトだ。あまり話をしたことはないが、恨まれていたのだろうか。とくに彼女らに対して、嫌われるような態度をとったことはなかったはずである。でも、知らず知らずに、気に障ることでもしたのか。

 アルカネットはそのことで、自分に恋をしているせいで、事件を起こしてしまった。

 そのことで気が重くてしょうがない。

 ため息を一つつき、ふと空を見上げる。

 真っ青で、どこまでも突き抜ける広い空。

(飛びたいなあ…。)

 ヴィプネン族のリューディアには、自力で空を飛ぶ術がない。ベルトルド、リュリュにはサイ〈超能力〉があり、アルカネットは魔法がある。3人は能力で空を自由に飛べた。

 あの3人と一緒に、自分も空をたくさん飛んでみたい。

 あの青い空が、嫌なことも一瞬にして、忘れさせてくれるだろう。

 幼い頃からずっと憧れる空。

 自分の力で飛びたいと願う空。

 いつか、自分の発明した乗り物で、空を飛ぶ。そのために、日々勉強を重ね、思いつく発明をスケッチブックに描いている。

 ――あともう少しで、空を飛ぶ乗り物の基礎設計が完成しそうなのに。

 今回のアルカネットの起こした事件と、ベルトルドへの恋の悩みで、しばらくは発明に集中できそうもなかった。

 そんな気分には、なれなかったからだ。



 シャシカラ島の小さな港にクルーザーが停泊すると、家につづく階段で、アルカネットが出迎えてくれた。

「みんなおかえり」

「よ、アルカネット」

「ただいま、アル」

 ベルトルドとリュリュは先に降りて、アルカネットとはしゃぎ合う。

「3人とも、早く宿題してきなさいね」

 クルーザーをロープでつなぎながら、リューディアが叫ぶ。

「はーい」

 ベルトルドが手を上げて応えると、3人は小走りに階段を上がっていった。



 ビーチで宿題を終えたベルトルドたちは、砂山崩しゲームを楽しんだあと、夕飯時間が近くなって家に戻っていった。

 3人の両親たちは、全て共働きである。しかし、緊急の仕事が入らない限りは、必ず両親とも夕方には揃って帰ってくる。子供がまだ小さいから、勤務時間の都合をつけてもらっているのだった。

 木で作られた小さな門の前に、リューディアが佇んでいた。

「ディア」

 ビーチから帰ってきたベルトルドが声をかけると、俯いていたリューディアは顔を上げて小さく微笑んだ。

「ちょっとだけ、話、いいかしら」

 やや遠慮がちに言うリューディアに、ベルトルドは迷いなく頷いた。

 門を開けて中に入り、庭を通ってプールまでくる。

 すでに陽は沈み、家屋から漏れる明かりが、暗い庭を柔らかく照らしていた。

 プールサイドに置かれたデッキチェアの一つに、ベルトルドは座って背もたれに身体を預ける。リューディアも隣のデッキチェアに座った。

「話って?」

 ぶっきらぼうに促すと、リューディアはちょっと困ったように顎をひいた。

 ベルトルドには、リューディアが何を聞きたいかよく判っていた。けれど、彼女が話し出すのをじっと待つ。

 数分ほど沈黙が続いたが、意を決したようにリューディアが口を開いた。

「あのね、………ベルは、ベルはわたしのこと、好き?」

「えっ」

 予想が外れて、ベルトルドはズリッとデッキチェアからずり落ちそうになった。てっきり、アルカネットの事件の真相を問われるかと思っていたのだ。

 そんなベルトルドにはお構いなしに、胸の前でそっと手を組んで、リューディアは続ける。青い瞳が、真っ直ぐベルトルドを見据えていた。

「気づいてるよね? わたしがベルのこと好きだ、って」

「そ、そりゃ、幼馴染だし、俺もディアが好きだよ」

 慌てるベルトルドに対し、リューディアは落ち着いていた。

「そういうんじゃなく、わたしに恋をしているか、ってことよ」

「俺は……」

 恋をしている。

 そう、口に出せたら。

 しかしベルトルドは、それを絶対口に出すまいと、心に誓っていた。

「してないよ」

「ウソつき……」

 沈んだ声で即答されて、ベルトルドはドキリとした。プールに向けるリューディアの横顔が、とても寂しそうに見える。それがベルトルドの心をざわつかせた。

「ねえ、なんでアルに遠慮しているの? 遠慮するようなことじゃ、ないじゃない」

 アルカネットに遠慮している、そう、リューディアは思っていた。それで、どこか責めるような口調になる。

「遠慮なんかじゃない…」

 ベルトルドは膝を抱えると、少し俯いて目を伏せた。

 本当の想いを話さないと、リューディアは納得できないだろう。しかし、話してもきっと、納得したくはないだろうな、とも思っていた。

「………今から話すこと、ディアと俺との秘密にしてくれる?」

 ちらりとベルトルドに目を向けられて、リューディアはこくりと頷いた。

 ベルトルドは散々躊躇ったあと、小さな声で話し始めた。

「俺が5歳の時、母さん、流産したんだ」

 リューディアは驚いたように目を見開いた。それは初耳である。

「でも、母さんは自分が子供が出来てたことに気づいてなくて、流産した時に初めて知ったんだ。だから、とっても悲しんで悲しんで、いっぱい泣いてた」

 仕事が忙しい、忙しいと言っていた母親の姿を思い出す。当時、ゼイルストラ所有の海上石油工場で大きな事故があり、たくさんの人が怪我をして、病院は大忙しだと言っていた。小児科医のサーラもかりだされ、いつも遅くまで働いていた。

 その疲労が祟ったのが原因だと、ベルトルドは思っている。

 流産したことを、両親は幼いベルトルドには話していない。しかし、ベルトルドはサイ〈超能力〉によって、全てのことを把握したのだ。それには両親は気づいていなかった。

 その頃リクハルドもまた、自身の仕事に忙殺されていた。アーナンド島のホテルのオーナーシェフとして抜擢されて、あまりの目まぐるしい日々に、妻の身体の不調に気づいてやれなかった。

 謝る事しかできなくてゴメン、とリクハルドは泣きながらサーラを慰めていた。

 リビングの入口で二人の様子をそっと覗き見ていたベルトルドは、顔を見ることが叶わなかった弟を、心から痛ましく思って涙を流した。この不運な事故は、けっして両親のせいではないと、幼いながらも理解していた。

「弟だったの?」

「俺さ、母さんのお腹に子供が出来てたこと知ってたんだ。その子は弟だってことも判ってた」

 てっきり、父母共に弟のことを知っているとばかり思っていた。だから、ベルトルドは言っていない。死んでしまった赤ちゃんは、男の子だったと。言えば母はもっと悲しむから。

「俺に弟が生まれる、て判って、俺すっごく嬉しかった。楽しみだった。だから、死んじゃったことが悲しくて、ビーチで一人泣いてたんだ。そしたらさ、いつの間にかアルカネットが隣に座ってたんだ」

 何も言わず、ただ、寄り添うように隣にアルカネットが座っていた。

 弟を失って、世界中でひとりぼっちになったような、そんな悲しい気分に包まれていたから、アルカネットが寄り添って一緒に居てくれて、ベルトルドは嬉しかった。

 ――俺の弟が、死んじゃったんだ。

 ぐすぐすと泣きながら呟いた。

 ――いっしょに遊びたかった。

 小さな小さな命が、母のおなかの中で少しずつ育っていく様子を、幼いベルトルドはハッキリと視ていた。

 だから、いなくなってしまって、本当に悲しかった。

 ――ボクが、ベルトルドのおとうとになってあげる。

 無邪気な笑顔で、アルカネットがそう言った。

 ――今日からベルトルドは、ボクのおにいちゃんで、ボクはベルトルドのおとうと。

 今のアルカネットは、そんなことはきっと忘れているだろう。だけど、ベルトルドにとって、アルカネットのその言葉は、何よりも救いだった。

 失いかけた守るべき存在を、アルカネットが与えてくれたからだ。

 その日から、ベルトルドにとって、アルカネットはかけがえのない”おとうと”になった。大切で、守るべき存在に。

 自分の恋を諦めてもいいくらいに。

 遠慮とかそんなことではない。アルカネットが望むなら、なんでも叶えてやりたかった。だから、アルカネットが幸せになれば、それは自分にとっての幸せなのだ。

「でも、でも、だからって……」

 ベルトルドの気持ちは理解出来なくはない。しかし、それで本当に恋を諦められるものなの? リューディアは納得できなかった。

 ――ベルトルドがそれでよくっても、わたしの気持ちはどうなるの?

「たとえベルがアルに譲ったとしても、わたしがアルの想いを受け入れるって保証はないのよ?」

「うん。そこはアルカネット自身の問題だから、俺にはどうもできない」

 ベルトルドが諦めたとしても、リューディアがアルカネットを選ぶとは限らない。そのことくらいは判っているつもりだ。

 それでもベルトルドの気持ちは揺るがなかった。

 リューディアはデッキチェアから立ち上がると、ベルトルドに背を向けた。

「わたし、フラれちゃった、ってことだよね」

 淡々とした口調で呟く。

「13歳にして10歳の男の子にフラれるなんてネ。初失恋なのに、なんかイヤんなっちゃう」

「………ごめん」

「もうご飯の時間だから、帰るね。また明日」

 肩ごしに振り向いて、リューディアは小さく微笑んだ。

 軽やかな足取りで駆けていくリューディアの後ろ姿を見送って、ベルトルドは立ち上がった。

「これでいいんだ……」

 心臓のあたりが、チクリと痛む気がした。小さな手で、痛む胸をそっと押さえる。

 リューディアには酷いことをしたんだと、ベルトルドには判っていた。大切な想いを、譲るとかなんとか、物じゃないのだ。でも、どうしても、ベルトルドは自分の決意を曲げることができない。

 あの日、アルカネットが与えてくれたものは、今のベルトルドには恋にも勝るのだ。

 空を見上げ、銀色に煌く星星を見つめる。

 いつの日か、俺はキミに恋をしていると、はっきり伝えることが出来る相手が、見つかるだろうか。

 こんなふうに、胸が痛んだりせずに、すむのだろうか。

 恋に出来なかったこの小さな想いを、ベルトルドは胸の痛みと共に、心の奥底に静かに仕舞いこんだ。 


第八章 奪われしもの 彼女が遺した空への想い・4 つづく



102 第八章 奪われしもの 彼女が遺した空への想い・3

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