ALCHERA-片翼の召喚士- 104 第八章:奪われしもの 彼女が遺した空への想い・5

御大たちの過去話しも、そろそろクライマックスです。あんまり面白くないかもですけど、御大とアルカネットさんにとって、リューディアというひとの存在が、どれほどのものだったのか、というのが判ってもらえると幸い><

無駄なエピソードは書いてないつもり。バカみたいな会話シーンとかも、この8章のための布石みたいなもんです。

予定では次回で過去話に区切りがついて、場面が戻ります。そしていよいよ書くのが辛い場面に向かって進んでいきます。ほんと、気が重い・・・。





ALCHERA-片翼の召喚士-
第八章 奪われしもの 彼女が遺した空への想い・5 104



 夏休みに入り、ベルトルド、アルカネット、リュリュの3人は宿題漬けとなった。

 毎日午前中は、ビーチに集まって3人で宿題をする。計画的に進めていかないと、絶対に終わらないからだ。

「これじゃ、勉強している場所が、学校か家かの違いしかない」

 問題集を開き、ベルトルドが3人の気持ちを駄弁した。

 2ヶ月もの長期に渡る休暇のため、宿題の量がハンパではない。

「ねえリュリュ、毎日リューディアはどこへ行ってるの?」

 寂しそうにアルカネットがたずねると、リュリュは問題集から顔も上げずに答える。

「学校で特別講習を受けてるわ。おねえちゃん来月になったら、冬のお休みまでハワドウレ皇国の学校に、特別編入で行っちゃうの」

「え、2年後じゃないの?」

 びっくりしたアルカネットが、リュリュの肩を掴む。

「おねえちゃん、すっごく優秀だとかで、飛び級? とかいうので早期に入るんですって」

「そんなあ……」

 表情を曇らせると、アルカネットは唇を尖らせて俯いてしまった。

「アタシだってイヤよ。おねえちゃんとこんなに早く、離れ離れになっちゃうなんて」

 リュリュも負けずに唇を尖らせる。

 そんな二人の様子を見て、ベルトルドは苦笑を浮かべた。

 ベルトルドもそれは、初耳である。

 リューディアをフってから、かれこれ半月が経っている。あれから彼女なりに立ち直り、そしてどこか変わってしまった。

 自分で決めたことだけど、やはりツライと思うときがある。こんなふうに、直接本人から言ってもらえなかった時だ。

 いつだって、なんでも隠さず教えてくれていたのに。最近は話すらあまりしていない。

 一生懸命自分の心に言い聞かせる。

 ――これで、いいんだ。

「よーし、今日のノルマ終わったわ」

 リュリュが嬉しそうに声を張り上げる。

「ボクも終わったよ。ベルトルドは?」

「ああ、俺も終わってる」

 ベルトルドにとって、宿題に出された問題集は簡単すぎた。悩むまでもなく、すでに全部終わっているのだ。それを隠し、二人の勉強を見てやりながら合わせている。

「ランチまでまだ時間あるし、ベルのおうちのプールで泳ぎましょうよ」

「そうだな。そうするか」

「今日のランチは、ベルトルドの家で食べるんだよね」

「うん。親父が出がけに用意してってくれてる」

 共働きの両親たちなので、毎日交代で子供たちの昼食を、準備していくことになっていた。

「ベルのパパのお料理おいしいから、楽しみ」

「そうだね」

 リュリュとアルカネットの母親の作る料理も、ベルトルドは好きだった。

 ベルトルドの家では、もっぱら料理担当は父親だ。母サーラは自他ともに認めるほど、料理に対する才能がなさすぎた。標準的な家庭料理すら、サーラにかかれば生ゴミとかわりがなくなる。

「よし、帰ろう」

 3人は本やノートを閉じて、小脇に抱えて家に向かって走っていった。



 ベルトルドにフラれてから、リューディアは数日は食欲も失せるほど消沈していた。しかし、これまでずっと思い悩んでいたことから解放されると、発明に対する意欲がどんどん向上していった。

 辛いことから逃れようとするためなのか、発明に没頭することで、気持ちを立て直そうとしているのか。

 とにかく失恋したということを、あまり思い悩みたくなかった。

 それから毎日勉強と発明に集中している中で、リューディアはついに、空飛ぶ乗り物の基礎設計にたどり着こうとしていた。

「あと少し、あと少しで完成するわ」

 機械工学スキル〈才能〉という、レアなスキル〈才能〉を授かって生まれてきたリューディアは、大きなスケッチブックに、たくさんの発明を描き込んでいた。とくに、空を飛ぶ発明に関しては、教師も舌を巻くほどのものだ。

 ハワドウレ皇国にある研究機関へ行けば、超古代文明の遺産からも、良いヒントが得られるに違いないと確信している。

 アイオン族のように翼に頼らず、魔法やサイ〈超能力〉にも頼らず、自らの技術で空を飛ぶのだ。

 ――あと、もう少しで完成する!



 スコールの季節が過ぎると、雨が恋しいほど毎日晴天に恵まれる。白い雲一つない、真っ青な空になる。

 空も海も真っ青で、ビーチは眩しいほど真っ白に染まり、椰子の葉も草花も、瑞々しいほど発色が良くなり、世界は明るい色で満ち溢れた。

 ビーチのそばには、ボート乗り場の小さな桟橋がある。これも子供たちのボート遊び用に、アルカネットの父イスモが設計して、皆で作り上げたものだ。

 万が一沖に流されないように、浅瀬に小さな柵が拵えてある。その内側でボート遊びをするようになっていた。

 青い空と海に映える金色の髪には、真っ赤なハイビスカスの花が一輪飾られている。そして、お気に入りの真っ白いレースのワンピースで、華奢な肢体を包み込んでいた。

 両手には発明のスケッチブックを持ち、リューディアは桟橋の上で海を眺めていた。

 今日は、可愛い弟たちに、来月からハワドウレ皇国へ行ってしまうことの報告、そして、もうじき完成しそうな空飛ぶ乗り物について、意見を求めようと思って、この場所へ来るように言ってあるのだ。

 それで早めに来て、こうして海を眺めている。

 ハワドウレ皇国へ行けば、この眺めとも暫くお別れなのだ。

 優しく海面をなでていくような風が、そっとリューディアの髪をすくっていく。

「あ…」

 その瞬間、リューディアは思いついた。

 ずっと引っかかっていた、空飛ぶ乗り物の、ブラックボックスがついに。

「おーい、ディアー」

 ベルトルドに大声で呼ばれ、リューディアはスケッチブックを開きながら顔を向ける。

 ベルトルドの後ろには、嬉しそうな顔のアルカネットとリュリュがいる。

 リューディアは微笑みながら、すぐにスケッチブックに顔を向けると、すごい勢いで描き込んでいく。

 駆け寄ってくる3人に、リューディアは左手でこたえ、そして立ち上がった。

「えっ…」

 突如、目を焼くほどの眩しい発光が、3人の目を襲った。そして、鼓膜が敗れるほどの轟音が鳴り響き、何かが爆発したような音が激しく起こる。

 目を閉じて思わずその場に尻餅をついたベルトルドは、まぶたを震わせながらも薄らと目を開ける。しかしよく見えなくて、何度も手で目をこする。アルカネットとリュリュも同じだった。

「なんだ…いまの」

 よろよろと立ち上がり、ベルトルドは目を前に向ける。

 空も海も青く穏やかだ。

 それなのに、桟橋が木っ端微塵に吹き飛び、辺りに白い煙をたなびかせている。

 焼け焦げた木の臭いに、ほんの少し、肉の焼け焦げた臭いが混じった。

「う…うわああああああああああああああああっ!!」

 大絶叫にハッとなったベルトルドは、隣で声を張り上げるアルカネットに気づいた。

「アルカネット!!」

 慌てて飛びついて、手足を激しくバタつかせるアルカネットを力いっぱい抱きしめる。

「落ち着け、アルカネット!」

「あああああああああああ」

 目玉が飛び出すほど見開かれた目からは涙が溢れ、絶叫がほとばしる口から涎を撒き散らし、もがくように伸ばされたその腕の先には。

「あ…あ…」

 それがなんなのか、ベルトルドは認識することが遅れた。

 海の上に漂う、それは、黒い流木かと思ってしまったのだ。しかしそれは流木などではない。

 よく見つめると、人の形に見えないだろうか。

(ディアはどこへ……?)

 ゆっくりと首を巡らせても、どこにもリューディアはいない。

 抱きしめるアルカネットは、喉が潰れたのか、ヒューヒューと喉が鳴るだけ。しかし、涙は流れ続け、ひたと黒いモノを凝視している。

 ベルトルドは生まれて初めての恐怖を味わった。

 海に漂うその黒いモノは、それは、リューディアなのだろうかと。

「お、おねえ、ちゃ……」

 後ろでドサッと音がして、ビクッとなって顔を向けると、リュリュが青ざめて尻餅をついていた。

「リュー…」

 掠れるように小さな声を発する。

「リュー」

 まだ、小さい声しか出ない。

「リュー!」

 引き攣れたような声で、やっとリュリュに聞こえる声が出た。

 はじかれたようにリュリュがベルトルドの顔を見る。

「親父たちを、親父たちをよんで…きてくれ」

 リュリュは青ざめた顔をベルトルドに向けたまま、すっかり硬直してしまっている。

「行け!!」

 やっと普段の怒鳴り声が出て、それにビクついたリュリュは、何度も何度も転びながら走り出した。

 その後ろ姿を見送って、再びアルカネットに顔を向ける。

 まだ口を大きく開けて、声の出ない喉を震わせている。目は閉じることを忘れたように見開かれ、目からは涙とともに、血が滲み出していた。

 尋常ではないアルカネットの様子を見れば判る。

 あの黒いモノが、リューディアなのだと。

 リューディアの、遺体、なのだと。



 ただならぬ轟音とリュリュの様子に驚いた両親たちは、すぐに桟橋まで駆けつけてきた。そして、サーラの診断により、リューディアの遺体だと明らかになった。



 リューディアの遺体は大人たちによって、リューディアの家の地下室に安置された。

 アルカネットは精神の均衡を崩して、危険と診断したサーラが、安定剤を投与した。そしてレンミッキに付き添われ、自宅で眠っている。

 ベルトルドも自分の部屋で、一人膝を抱えて床に座り込んでいた。

 リュリュは悲しみのあまり、両親に泣きつこうとしたが、

「寄るな気持ちの悪いオカマが!」

 そう、父クスタヴィに激しく突き倒され、そのショックも加わって床に突っ伏して泣き喚いた。

「なんてことを!!」

 クスタヴィの家族が心配で、家に詰めていたイスモ、リクハルド、サーラは、クスタヴィの態度に仰天し、サーラは慌ててリュリュを抱き起こした。

「リュリュちゃん」

 サーラはしっかりリュリュを抱きしめると、腕に抱き上げた。

「しばらく、おばちゃんの家に行きましょうね。ベルトルドもいるわよ」

 そう言って、リュリュを連れて、憤然とサーラは帰っていった。

 クスタヴィも妻のカーリナも、リュリュには目もくれず、止めもせずうなだれていた。

「クスタヴィ、カーリナ、リュリュちゃんは暫く家で預かるよ。着替えとか宿題とか、色々もらっていくね」

「好きにしろ…」

 リクハルドの顔も見ずに、クスタヴィは投げやり気味に呟いた。

 その場はイスモに任せて、リュリュの部屋へ向かいながら、リクハルドは重苦しくため息をつく。

 無理もない、と思う。

 自慢の娘だったのだ。

 機械工学という特殊なスキル〈才能〉に恵まれ、将来を嘱望されていた。明るく利発で、天使のような少女が、突然あんな無残な遺体となってしまって。

 サーラの診断では、落雷による感電死だという。

 それも、見たこともないほどの質量の雷に打たれた状態だと、サーラは信じられないと驚いていた。

 身体の表面が炭化するほどの落雷による感電死など、見たことがない。

 リューディアの遺体は、本当に真っ黒に焼け焦げていた。言われるまでそれがリューディアであると、絶対に判らないほどなのだ。

 リュリュの荷物をまとめながら、何度目か判らないほど、リクハルドはため息をつき続けた。



「ベルトルド、入るわよ」

 リュリュを抱っこしたサーラが、部屋に入ってきた。

「暫く家でリュリュちゃんを預かることにしたから。面倒見てあげてね」

 サーラはじっとベルトルドを見つめた。

 口に出して言いたくないことがあるときは、サーラは必ずそういう表情をする。そして、その表情をしたときは、透視で探れ、という合図でもあった。

 ベルトルドは透視で経緯を視ると、肩を落として頷いた。

「今日は、おばちゃんと一緒に寝ましょうね」

 ぐすぐすと泣き続けるリュリュは、小さく頷いた。

 いつもなら、ベルと一緒がいい! と言い出すところだが、今日ばかりは”母親”に甘えたいのだろう。サーラにしっかり抱きついて泣いていた。

 サーラとリュリュが部屋を出ていくと、ベルトルドはベッドに倒れこむようにして突っ伏した。

 今でも脳裏に焼き付いて離れない、真っ黒になったリューディア。遠目に見たときは、眩い金髪を風になびかせ、真っ白いノースリーブのワンピースをまとっていた。

 それなのに、何故あんなことになってしまったのか。

 空には雲ひとつなかった。あの恐ろしい程の巨大な雷は、一体どこから降って沸いたのだろうか。

「天罰じゃあるまいし……」

 リューディアが一体何をした?

 考えても考えても、ベルトルドには判らない。

 ぼんやりと薄暗い部屋を眺めながら、やがてベルトルドは起き上がる。

「判らないなら、探ればいいんだ…」

 熱に浮かされたようなおぼつかない足取りで、ベルトルドは部屋を出て行った。



第八章 奪われしもの 彼女が遺した空への想い・5 つづく



103 第八章 奪われしもの 彼女が遺した空への想い・4

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Comments 2

ユズキさん、こんばんは!
過去のお話を今読んでいたのですが、衝撃的でした…(・・;)
小さい3人がかわいい~!とか
小さい頃のベルトルドさんがちゃんとお兄さんと新鮮!(・・*)
とか思っていたら…こんなことになるなんて。
突然の出来事に私も二度見してしまいました(・~・;)
これではアルカネットさんも壊れてしまうのも無理ないですね…
リュリュさんも…読んでいると辛くて
読み終わって固まっちゃいました(/_;)

リューディアさんに何があったか…知るのが怖いです(・・;)
何を知るのか…ここからどうなっていくのか緊張します…!
幸せだったから、落差がつらいです(T_T)



そんな緊張感漂う中でと思いつつ、早速(?)漫画を描かせていただきましたっ(゜ー゜*)
のほほんと描いてしまいまして(^_^;)空気読めない…
…出すタイミングが…間違った感じはありますが
(季節ネタにしてしまったので、もはや引っ込みつかない…^^;)
よかったらお時間のあるときに見に来て下さると嬉しいです(^_^)
楽しく描かせていただきました~!
楽しみすぎて…もしもまずいこと描いたり、書いたり
していましたらすぐに削除しますのでおっしゃってください<(_ _*)>

2016-02-12 (Fri) 01:34 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: タイトルなし

明さんおはようございますヽ(・∀・)ノ

>小さい頃のベルトルドさんがちゃんとお兄さんと新鮮!

なんだーかんだーわがままそうに見えますが、とっても面倒見がいいんですw
でもリューディアさんがあんなコトになってしまって、チビ御大は今の時点では大丈夫ですが、次回とっても可哀想です><
リュリュたんかなり可哀想です(つд⊂)

>早速(?)漫画を描かせていただきましたっ(゜ー゜*)

うおおおおおおおおおおおおおおおおおお(;゚Д゚)
読みに伺わせていただきますいただきますありがとうございますーわーいwわーいw
今からいきますねーw 楽しみ☆

2016-02-12 (Fri) 06:17 | EDIT | REPLY |   

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