ALCHERA-片翼の召喚士- 112 第九章:戦い ガエル始動

章タイトルの通り、彼らの本職の見せ場が多くなる予定な9章と最終章。それと同時に、これまでスポットのあたってない、あまり書き込みの少なかった連中のことも、書いていく予定です。

今回は蜂蜜大好きなガエルさんです。

まあ、相手がアルカネットさんなので、特大魔法を一発ぶっぱなす>エンド、てなってしまうけど>< それだと物語が盛り上がらないので(笑) そういうシンプルな戦い方にならないように、ガエルさんには頑張っていただきましょう。


最近、氷結グリーンアップルが美味しくて、ジュース代わりに飲んでるんだけど、青りんご、マスカット、グレープなどといった加工飲料水大好きです(・ω・)




ALCHERA-片翼の召喚士-
第九章 戦い ガエル始動 112



 だらりと両手を下げていたアルカネットは、呼吸を深く吸い込み、背に漆黒の翼を生やした。

 片方だけ大きく広がったその翼を見て、カーティスたちはギョッと目を見張る。

「アイオン族だった…んですか…」

 キュッリッキ同様、アルカネットがアイオン族であることは、ライオン傭兵団は知らないことだった。

 しかし、ヴァルトのような綺麗な白い翼ではなく、カラスのような黒々とした色をしていて、おまけに片翼である。

「子供の頃に片方へし折ったので、片翼なのですよ。リッキーさんとお揃いですね」

 へし折ったと、なんのことでもないように言い放ち、アルカネットは微笑を浮かべた。

「バランスよく残しましたね。ガエルとザカリーが厄介なので、翼も役に立ってもらいましょう」

 防御のために生やしたのだと判り、ガエルは苦笑する。とくにヴァルトもだが、戦闘スキル〈才能〉を持つアイオン族は、その翼で攻撃を防御することがよくあるのだ。

 アルカネットは魔法使いだ。オマケに魔具がその身体なので、無詠唱でいくらでも魔法を扱える。しかし、ベルトルドのようなサイ〈超能力〉と違って、絶対防御もなく、魔法攻撃と物理攻撃を同時に防ぐためには、防御手段を増やさなくてはならない。

 これまで常に集団戦では、圧倒的優位な立ち位置か、ベルトルドが共にいたので、防御を丸なげできていたのだと判る。

 片方とはいえ、あの翼で防御をするのだろう。ヴァルトと違い、魔法も込みの防御だから厄介だ。

「魔力の高まり方が異常だよぉ……カーティス」

 ハーマンがおっかなびっくりといった口調でぼやくと、カーティスも眉間にシワを寄せた。魔法スキル〈才能〉を持つ者たちは、魔力を感知し、測定することができる。

「あの人本当に人間なんでしょうかねえ…」

「カーティス、仕掛けられてくるのも面倒だ。オレ達のほうから仕掛けて、主導権を掴もうぜ。――まあもっとも、主導権なんざ取れるか判らねえがよ」

 愛用の魔剣シラーを肩に担いで、ギャリーが不敵に笑みながら言う。

「そうですね。1分宣言されちゃいましたし、1分以上踏ん張りましょう」

「おうよ」

 ギャリーとガエルが前方に立ちはだかり、カーティスとハーマンが攻撃魔法を撃てるように詠唱準備に入る。

 後方でみんなの様子を見ていたザカリーは、小型拳銃にしていた愛銃バーガットを、撃ちやすい大きさの機関銃タイプに変化させる。

 メルヴィンの持つ爪竜刀と同じで、持ち主の思い通りに形状を変化させることができる魔銃だ。

 背負っているリュックの中には、リュリュがあらかじめ用意してくれていた魔弾が大量に入っている。相当使うだろうと思ったのか、足元にも魔弾の詰まったリュックが2つばかりあった。

 火薬の代わりに魔力を込めた弾丸を、魔弾という。魔法使いたちにしか作り出せない、特殊な弾丸だ。そして、魔弾を撃ちだすことのできる銃器もまた、専用に生み出された魔銃のみである。

 魔弾の制作は常日頃ランドンがやってくれていたが、今はキュッリッキ救出のために離れている。カーティスやハーマンは攻撃に集中せざるを得ないだろうし、マーゴットは魔弾が作れない。魔力を込める作業はとても繊細で、魔力コントロールが巧みに扱えないと、魔弾は作れないのだ。マーゴットは根本的に魔力コントロールが下手なこともあり、とても頼めなかった。

(残量管理しながらアルカネットとやりあうとか……うーん、難しそうだな)

 鼻の下を指で何度か擦り、小さくため息を落とす。

 魔法使いとサイ〈超能力〉使いでは、防御方法が若干違う。さらに、ベルトルドに至っては、絶対防御で魔弾を転移してしまう。しかしアルカネットはそんな器用なことはできないから、防御魔法で身を守るしかない。

 ただし、どんなに強い相手であろうと、一瞬の隙というものは必ずある。

 遠隔武器スキル〈才能〉のSランクであるザカリーは、見えすぎる視力で一瞬の隙も見逃さない。とくに今はキュッリッキ救出がかかっているのだ。

 メルヴィンに恋人役は取られてしまい、完璧に失恋したものの、キュッリッキを好きな気持ちに変わりはない。たとえ恋は成就せずとも、仲間(かぞく)として、可愛い妹分として、これからも大切に守っていく覚悟をしている。

(ぜってー、負けらんね)

 アルカネットを倒し、ベルトルドの股間に魔弾をブチ込むことを、今回最大の目標としていた。

(きゅーりを汚した、あのでっけぇブツを、オレが魔弾でぶっ潰す!)

 握り拳全開で、内心誓う。

 以前一緒に入った風呂で、あの立派な暴れん棒を直に見たことがあり、それを思い出してこめかみに青筋が走る。

(ムカツクほどでけぇんだから、マジぶっ潰す!!)

(ちょっとザカリー、思考のベクトルがどんどん別の方向イッテルヨ)

 ルーファスの念話が割り込んできて、ザカリーはハッとなった。

(気持ちは判る。ベルトルド様のアレ、ほんとデカイんだよね……羨ましい)

(羨ましくなんかねえよ! きゅーりを傷つけた忌まわしいブツだ!!)

(ホントだよね。メルヴィンのも負けず劣らず立派だけど、処女でいきなりアレじゃ、びっくりして痛かっただろうに……)

「おめーら真面目にやれよ!! 何脱線してやがるゴルァ!!」

 殺気立った顔を振り向けて、ギャリーが声を荒らげて怒鳴る。

「ひっ」

「すまんすっ」

 ルーファスとザカリーが、首をすくめて頭を下げた。

 この場にいるメンバーの意識を、ルーファスが念話で繋げている。アルカネットは念話が使えないので、念話で作戦のやり取りをするためだ。

「まったく……」

 ペルラが小さくため息をついた。

「カーティス、ハーマン、援護頼む。行くぞギャリー」

 構えていたガエルが、しょうもない会話をスルーして言った。

「おう」

 ガエルとギャリーが正面から向かい、攻撃態勢に入る。

 ガエルが右拳を振り上げ、アルカネットの頭上に狙いを定めて振り下ろす。そしてギャリーは肩に担いでいたシラーを、アルカネットの肩に目掛けて、素早く振り下ろした。

 二人の攻撃が繰り出される瞬間を利用し、カーティスの氷魔法スヴァード・イスと、ハーマンの氷魔法フロスト・キテートが襲いかかる。更にペルラがアルカネットの両脚の太ももを狙って、短剣を数本投げつけた。

「攻撃の数を増やしたところで、当てなければ無意味なのですよ」

 アルカネットは腰を沈めると、漆黒の翼でガエルの巨体を払い除け、

「トイコス・トゥルバ!」

 土魔法で瞬時に土壁を築いて、ギャリーの魔剣シラーとペルラの短剣を防ぎ、

「トゥリ・タンシ」

 火魔法で自身の周囲へ、炎を舞い上がらせた。これにより、氷の剣スヴァード・イスと、無数に突き伸びた氷の柱フロスト・キテートが、炎に溶かされ飲み込まれた。

「無詠唱で魔法連打ずるいいいいい!!」

 癇癪を起こしてハーマンが喚く。

「何度も言っているでしょう、あなたの魔法は威力ばかりが強くて、コントロールが甘いのです」

「むっきいいいい」

 命をかけて戦っている場面になっても、アルカネットに説教されて、ハーマンの頭の中は怒りで噴火寸前だった。

「前に出るあなたたちを傷つけないよう、攻撃魔法を選ばないとですが……もう、巻き込む勢いで撃っても構いませんよね?」

 にこやかに、しかし、こめかみに筋が走っている。

 カーティスの怒りにも、火が付いたようである。

「………まあ、かまわねーけどよ……。おい、ルー、オレたちの防御、マジ頼むわ」

「おっけー、頑張るよ」

 肩を落とすギャリーに、ルーファスはにっこり笑った。

 連携がとりづらいのだ。

 相手が平凡な魔法使いなら、今の連携で防がれる心配は100%ナイ。だが相手はアルカネットであり、これまで見たこともなかった翼まで生やしている。

 ヴァルトのように、攻撃を翼で払いのけるやりかたは同じだが、ガエルが勢いよく吹っ飛ばされた様子から、翼には強力な強化魔法が施されているようだった。

(俺とハーマンで組もう)

 立ち上がったガエルが、念話で提案する。

(あれだけ万能に近い形で防がれては、かえって俺たちの持ち味が活かせない。互を気遣いながらでは、ストレスを溜めるだけになる)

(そうですねえ)

(ギャリーはカーティスと組め。俺が不利になってきたら交代だ)

(判った)

(了解です)

(ザカリーとペルラ)

(おう)

(うん)

(付き崩せるポイントを見出したら、俺に遠慮なく撃ちまくれ)

(マカセトケ)

(任せて)

(ハーマンも俺に遠慮せず、得意な攻撃魔法をどんどん撃て。防御はルーがするから)

(うん! ガンガンいくよー!!)

(宣言した1分はとっくに過ぎた。いくぞ)

 普段寡黙なガエルだが、こと戦闘のことになると饒舌になる。更に現場も仕切り出す。とは言っても、現場を仕切るときは相手次第で、アルカネットのような相手になれば本気になる。

 ガエルが仕切り出したときは、皆黙って従う。

 見栄を張ったり見せつけるためといった、下卑たことは一切しないからだ。的確に戦いのポイントを抑え、作戦を考え、提案する。

 篭手をカシャカシャと直しながら、ガエルが皆の前に立った。

 身長はゆうに2メートルを超え、ガッシリとした筋肉質の体躯は威圧感に満ち、鋭い眼光をたたえる目が、正面のアルカネットをしっかりと見据えていた。

 熊のトゥーリ族であるガエルは、トゥーリ族の種族統一国家ロフレス王国の、元親衛隊員であった。しかし、戦いと、己の腕を磨いて更に高みを目指すことを望んでいたガエルは、顔見知りだったペルラに誘われてライオン傭兵団へ入った。

 まだ新興の傭兵団だったが、傭兵団とは名ばかりの少ない団員たちに、ガエルは満足している。

 一騎当千のツワモノ達。各々が得意な分野を極め、自信と実力を兼ね備えていた。もちろん完璧ではないが、そこはガエルも同じだ。互いに切磋琢磨し、高め合っていける仲間たち。

 色々と性格的問題はあるにしろ、実力は確かな後ろ盾だったベルトルドとアルカネット。かつて旧コッコラ王国では痛い思いを味わわされたが、いつかもう一度戦ってみたいと願っていた。

 大事な仲間であるキュッリッキが捕らわれて、こんな形で対決する羽目になったが、またとない機会だ。

 魔法と格闘技、異なるタイプだが、相手はアルカネットだ。不足もないし、遠慮する必要もない。

 否、遠慮している余裕などないだろう。

「まずは、あなたが相手ですかガエル。あなたが相手では、少々本気を出さないといけませんね」

 憎々しいまでの、優美な笑みを浮かべるアルカネットを見据え、ガエルは鼻で笑う。

「少々と言わず、全力でかかってくるがいい。手を抜かれて勝ったとなれば、俺の経歴に傷が付く」

「相変わらず負ける気はないのですね。いいでしょう、あなたのプライドが傷つかない程度には、力を出して戦ってあげましょう」

 アルカネットの右掌から、太縄ほどの光が伸びた。そしてそれを掴むと、鞭のようにしならせ床を勢いよく叩いた。

「獣を躾けるには、鞭が一番です。さあ、いらっしゃい」

「やはりアイオン族は、度し難いな」

 口の端しをニヤリと歪め、ガエルは床を蹴ってアルカネットに飛びかかった。

 アルカネットは右腕を大きく振りかぶると、ガエル目掛けて振り下ろす。光の鞭がその身をくねらせながら、スピードをつけてガエルに襲いかかった。

 ザカリーほどではないが、ガエルの動体視力はずば抜けて良い。光の鞭の動きを見極め、素早く鞭を掴んだ。

 しかし、ガエルの手は弾かれたように鞭から離れ、間髪入れず襲いかかってきた鞭の一撃を肩に食らって、ガエルは片膝を付いた。

「無茶をしますね。これは雷属性の魔力を固めたものですよ」

「道理で、痺れるわけだ…」

 素手で掴んだ時より、肩に叩きつけられた一撃の方が、ビリビリと身体中に電流が走ってこたえた。

 ガエルは立ち上がり、ひと呼吸入れて気を整える。そして、再び構え直し、アルカネットに殴りかかった。

 光の鞭がしなり、正面から襲いかかる。

 ガエルはそれを、先端が触れる寸前に片腕を前に出して、己の右腕に鞭を絡みとった。

「!?」

 驚いて僅かに目を見張ったが、アルカネットは左掌にも同じ光の鞭を作り出し、ガエルに向けてしならせた。しかしガエルは、同じように左腕に鞭を巻きつけてしまった。

「ヘンな綱引きみたいな……」

 鞭を引っ張り合う奇妙な光景に、ハーマンはきょとんと小さく首をかしげた。

「まあ、そんなモンだ」

 ニヤリと笑みを浮かべ、ガエルは両腕に力を込めて、アルカネットを引っ張った。

 互いに引っ張り合うようにしていたが、力ではさすがのアルカネットもガエルには遥かに及ばない。

 踏ん張るように立っていたアルカネットは、前につんのめるようにして身体が宙に投げ出され、頭からガエルのほうへ突っ込む形で落下した。

 そこを狙ってガエルの右拳が突き出され、アルカネットの頭が叩き割られる。

 はずだった。

 ところが、大きな拳には無数の切り傷が走り、飛沫のように鮮血を吹き上げた。

「なんだ!?」

 ギャリーが身を乗り出した。

「アルカネットの魔法が、ガエルの拳を瞬時に切り裂きやがった。あら風魔法かなにかか?」

 目のいいザカリーが、その瞬間をしっかり目撃していた。

「あのタイミングで魔法を繰り出すのは難しいでしょうから、おそらくあらかじめトゥムルトゥス・リーフで身を覆っていたんでしょうか」

 カーティスが言うと、アルカネットがククッと可笑しそうに笑った。

「カーティス、あなたのレベルで私の実力を推し量らないでほしいですね。宙に身体が投げ出された瞬間に、イアサール・ブロンテを使ったのですよ」

 ふわりと宙に身体を浮かせると、傷ついたままの拳を突き出して立ち尽くすガエルの頭を蹴って、後方へ飛び退った。

「イアサール・ブロンテは効いたようですが、鞭が効いていないようですね……その篭手のせいでしょうか」

 小さく眉をしかめ、アルカネットはガエルの両腕を覆う篭手を睨みつける。すでに鞭は消していた。

 血だらけの拳を下げ、ガエルはフンッと鼻で笑う。

「キューリが俺とヴァルトにくれた、ドラウプニルという特殊な篭手だ。魔法やサイ〈超能力〉の力を殺す能力があるらしくてな。出自はギャリーたちの持つ魔剣と同じようだが、素直にもらっておいてよかった。こんな時に大役立ちだ」

 魔剣や魔銃といった、特殊な能力を秘める武器のようなものが欲しいと常々思っていた。すると、それを察したように、キュッリッキがガエルとヴァルトに差し出したのが、ドラウプニルという名の黄金の篭手だった。

 ――見た目は、装着したヒトの好みで形状が変わるよ。二人共殴るのは強いけど、防御がちょっとアレだから。武器じゃないけどね、コレいいかも。

 無邪気に笑うキュッリッキの顔を思い出し、ガエルは優しい笑みを漏らした。

 アルケラのドヴェルグたちに頼んで、キュッリッキが作ってもらったものらしい。

 普段は子供すぎる少女だが、こういうところはちゃんと見ている。サポートすることに関しては、キュッリッキの見識と能力は申し分ない。

 戦う上で身を守るものがしっかりしていれば、安心して全力を出せる。ガエルにとって、ドラウプニルは最高の武器にも勝る防具だった。

 そして最強の武器とは、己の拳なのだ。

 この程度の魔法攻撃で、潰れるような拳ではないのだ。

 ガエルはぺろりと自らの血を舐めると、闘志で燃える目をアルカネットに向けた。

「さあ、準備運動は終わりだ。本気でかかってくるといい」



第九章 戦い ガエル始動 つづく



111 第九章 戦い 空を飛ぶ一隻の帆船

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