007 第一章 ライオン傭兵団 仲間(三)

第一章 ライオン傭兵団 仲間(三) 007



 初夏を間近に控えたイララクスに降り注ぐ陽光は明るく暖かい。海が近いこともあり、時折吹く風の中に、潮の香りが混じっていた。

 皇都と称するだけあって、イララクスの街々の路上は丁寧に石畳で舗装されていて歩きやすい。あまり段差もなく、場所によっては凝った意匠が施されている。

 下水道の整備もしっかりしているので、路上が雨水を溜め込むこともないし、雨量が多くても小川が発生することも殆どなかった。

 イララクスに来てもう2年近くになる。傭兵になってあちこちの土地や惑星を転々とすることが多いキュッリッキだったが、この街は気に入っていた。

 今向かっているハーツイーズの街は、とくにお気に入りだ。

 エルダー街のはずれにある停留所から、乗合馬車に乗って、揺られること1時間ほどでハーツイーズに到着した。

 小道を選んで通ればもっと早く着くが、馬車は専用の大通りしか通れないことになっているし、寄り道も多いのでどうしても時間がかかる。でも、キュッリッキはのんびりと街を眺めながら走るこの乗合馬車が好きだった。

 城砦の中の街では、移動手段は機械を使うという。キュッリッキは城砦の中には入ったことがないので、機械で動く乗り物を見たことがない。

 皇王が住む宮殿を中心に、貴族や裕福な家柄の屋敷が取り囲む。そして軍や政治的な施設も含まれる。そのため城砦の中に入るためには、厳しい審査とチェックが必要で、外の人間は自由に出入りが難しかった。

 御者に運賃を払って馬車を降りる。

 停留所の近くには傭兵たちのギルドがあり、職にあぶれたフリーの傭兵たちが、ロビーにたむろっている様子が見えた。

 つい先日まであそこで自分も同じようにしていたのを思い出し、自然と苦笑いが口元を過ぎっていった。

 海に向かって歩いていくと、燦々と煌く波と、大小様々な船がくっきりと見えてきた。それと同時に賑やかさも増していく。

 船からは沢山の人や荷が下ろされ、同時に荷が積み込まれていく。

 人々の群れの中に、木箱や麻袋がいくつもの小山を作り、手押し車や運び屋たちが忙しく小走りで駆け抜けていった。

 綺麗に整備された港を横切り、船も人気(ひとけ)も薄れてきたところに、いくつかの廃船が打ち捨てられていた。

 石畳で舗装されておらず、砂とゴロゴロとした小石が転がるだけの殺風景なところに、錆て朽ちた大小の廃船が沢山あった。

 うつ伏せに捨てられた小さな漁船の一つに、海のほうを向いて座り、長剣を磨いている男がいた。

「ハドリー」

「お」

 キュッリッキに名を呼ばれた男は、座りながらキュッリッキのほうへ振り向いた。

「どこいってたんだリッキー? 夜逃げしたのかと思ったぞ」

「なんでアタシが夜逃げしなきゃいけないのよ。昨日急遽引越したの」

 腰に両手をあてて抗議の姿勢を見せ、漁船の上に飛び乗り、ハドリーの隣に座る。

「仕事であんたいなかったから言うの遅くなったんだけど、新しい食いブチが見つかって、アパート引き払ったのよ」

「ほほー。やっと見つかったのかあ」

 ハドリーは嬉しそうに顔をほころばせる。

「なんかさあ、いきなりスカウトされちゃって。トントン拍子で決まっちゃったのよ」

 キュッリッキは両膝を抱えるようにして座り、肩肘をついた。

「ほー。どこの傭兵団にスカウトされたんだ?」

「ライオン傭兵団」

「うほ! すげーじゃないか」

 持ってた剣を落としそうになるくらい、ハドリーは大仰に驚いていた。

「世界中の名だたる傭兵団の上位に君臨するところだぜライオン傭兵団。あそこに憧れて入りたがる奴は星の数ほどいるけど、実際入れる者は皆無だってゆーし」

「なんで皆無なの?」

「昔馴染みとか親友繋がりとかで、よそ者を嫌うって噂なんだよ。それに実力もトップレベルの者じゃないと見向きもしないってゆーしな。相当気位が高いリーダーだって聞いてるぞ」

 キュッリッキは上目で空を見つめると、やがて得心がいったように深く頷いた。

「確かにプライド、すっごい高そーだった!」

 すっごい、に力を込めて、ウンウンと首を縦にふる。

 その様子を横目でみやって苦笑すると、ハドリーは剣を鞘にしまい込んだ。

「うまくやっていけそーか?」

 鞘を膝の上にのせて、顔をキュッリッキに向ける。

 ハドリーの髭面をちらりと見やり、キュッリッキは膝をかかえて座り直した。

「多分……やっていけるかもしれないし、またこじれちゃうかもしれない…」

「そっか」

「……アイオン族の奴がね、居たの。アタシのこと知っててさ…」

 ハドリーは僅かに目を見開く。

「そいつと、もう一人ヴィプネン族の奴にバレちゃった。言いふらしはしないだろうけど、ちょっと気が重い」

「そっか…」

 ハドリーはキュッリッキの秘密を知っている。ひた隠しにしたい翼のことも。

 革手袋をしたまま、ハドリーはポンッとキュッリッキの頭を軽く叩いた。

「傭兵稼業をしてる奴は、多かれ少なかれ秘密持ちが普通の世界さ」

「うん」

「アイオン族は気位の高い種族だから、鬱陶しいこと言われたら、つーんってしてればいい」

 そう言ってニヤリと笑う。

 笑顔に包まれた髭面を軽く睨み、キュッリッキは苦笑する。

「今度のところでは、ちょっと性格イイ奴っぽく振舞う予定なんだから、それじゃぶち壊しだよもー」

「そっか」

 キュッリッキがそんなことを言うのは珍しかった。これまで大抵どこでも馴染めず、初日から愚痴のオンパレードだったのだ。なので長続きせず、すぐ辞めてしまう。

 アイオン族は気位が高いのが標準なのかハドリーは知らないが、キュッリッキの協調性のなさは、種族特有のものとは全然違うと思っている。

 知り合ってまだ3年だが、彼女の不器用な性格はほぼ掴んでいた。

「化け猫の毛皮を100枚くらいは着込んで、しっかりやってこい」

「うん、今度は頑張れそう」

 キュッリッキはライオン傭兵団でもまだ見せたことのない、無邪気な明るい笑みを、ハドリーに向けて白い歯をのぞかせた。



第一章 ライオン傭兵団 仲間(三) 終わり


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006 ライオン傭兵団 仲間(三)

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Comments 2

お千

No title

状況描写と、自然な会話が、ストーリーの中に引き込んでくれます。
空想の世界の会話に、私の様な年のものも抵抗なく入っていけます。
続きを楽しみにしています。

2014-02-25 (Tue) 16:28 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: No title

お千さんこんばんわ~(*´∀`*)

空想創作世界なので、なるべく頭にイメージが浮かんでいただけるように、書ける範囲で背景も綴るように心がけています。自分の頭の中では絵になって出ているんですが、それを文章で書きあらわすのはなかなか難題です/(-_-)\

会話のテンポでもキャラクター像が浮かんでもらえるよう、頭の中で会話させながら文字に書きおこしてます('-'*)

ALCHERAのほうも読んでくださってありがとうございます(*´∀`*)続き頑張ります!

2014-02-25 (Tue) 22:21 | EDIT | REPLY |   

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