ALCHERA-片翼の召喚士- 135 最終章:永遠の翼 シャシカラ島の家族

御大たちのご両親が登場です。そして、次回で最終回。の予定。

今月中に書き上げられるかな・・・頑張って書こう!




ALCHERA-片翼の召喚士-
最終章:永遠の翼  シャシカラ島の家族 135



 明るい陽の光に起こされて、メルヴィンはゆっくりと目を覚ました。プライベートバルコニーのほうから、室内いっぱいに陽光が射し込んでいる。寝る前にカーテンを閉め忘れたようだ。

 腕の中を見ると、キュッリッキはまだ眠っていた。とても穏やかな寝顔だ。

 無防備で愛らしい寝顔を見つめ、起こさないようにじっとする。

 リュリュが手配してくれたこの部屋は、この船で最上級のスイートルームだった。とても船の中とは思えないほど、贅を凝らした内装である。一介の傭兵風情が泊まれるような部屋ではないが、キュッリッキと一緒になるということは、こうした上流環境もセットでついてくるということになるのだ。

 一昨日見せられた書類の中身を思い出し、メルヴィンは軽いめまいを感じてため息をついた。

「う…ん…」

 身じろぎして瞼を震わせると、キュッリッキは目を覚ました。

「すみません、起こしちゃいましたね」

 申し訳なさそうに言うメルヴィンの顔を見上げ、キュッリッキは小さく微笑む。

「……んーん、もうそろそろ6時じゃないかな」

 サイドテーブルに置かれた時計を見て、メルヴィンは苦笑する。

 黄金でできた針は、まさに6時を指そうとしていたからだ。

「リッキーの体内時計は、ほんと正確ですね」

「えへへ、習慣だもん」

 キュッリッキはくすっと笑い、そして自分からメルヴィンにキスをした。

「もうちょっと、こうしていたいなあ~」

「かまいませんよ」

 嬉しそうに微笑むと、キュッリッキを抱き寄せ、額に口付ける。

 二人はしばらく抱き合いながら横たわっていたが、突然ドアをノックする音がして顔を見合わせた。

「オレが出てきます」

 メルヴィンは身体を起こすと、裸の上にバスローブを羽織ってドアを開けた。

「オハヨウ、よく眠れたかしらん?」

「おはようございます。とてもよく眠れました」

 すでに身支度を整えているリュリュだった。

 その姿をじっと見つめ、メルヴィンは目を瞬かせる。

「ん?」

「あ、いえ…その…」

「なぁによぅ?」

「……私服も男物を着るんですね…」

 リュリュは表情を動かさず、メルヴィンの頭をチョップした。

「オカマが男物着ちゃ悪い?」

「い、いえ、そんなことは」

 淡い若草色のコットンの半袖シャツに、白いスラックス姿である。ごく普通の、夏場の男性の服装だ。

 いつも化粧はバッチリしているが、女性の服装をしている姿は一度も見たことがなかった。

「外見で性別を主張することはヤメたの。ベルたちとハワドウレ皇国の学校へ進学する頃にね。どんなに外見を変えようと、身体は男だもの。でも、アタシは女よ。自分でそのことがちゃんと判っていればいいわ。メイクは欠かせないけどネ」

 なるほど、とメルヴィンは生真面目な顔で頷いた。

「性転換しようかとだいぶ悩んだンだけど……て、ンもう、話が脱線しちゃったじゃない。7時には朝食が食べられるから、支度していらっしゃい」

「判りました」

「それとあーた」

「はい?」

「昨夜は小娘に手を出さないようにって言ったでしょ」

 バスローブからはだけて見える鍛えられた逞しい胸に視線を固定させ、リュリュは叱るように言う。

「ちっ、違いますって! 暑いので裸で寝ていただけです。やってません!」

 顔を赤らめて慌てるメルヴィンに、リュリュはくすくすと笑う。

「あーたのアレ、ベルのモノに匹敵するほど立派だから、あんまり毎日やると、小娘壊れちゃうからホドホドにネ」

「リュリュさんっ!」

「ハイハイ。早く着替えていらっしゃいね」

 からかうような笑い声を立てて、リュリュはダイニングのほうへ歩いて行った。

 渋面でリュリュを見送って部屋に戻ると、ベッドの上に座って、キュッリッキが首をかしげていた。

「何を話していたの?」

 たっぷり間を置いて、メルヴィンはガックリ肩を落とした。

「……ええと……朝食は7時からだそうです」

「ふにゅ?」

「あと30分くらいですね、着替えましょうか」

「うん…」

 思いっきり疲れた表情で言うメルヴィンを、キュッリッキはひたすら不思議そうに見つめていた。



 着替えてダイニングへ行くと、ブッフェで好きなものをトレイにのせ、バルコニーの席に3人は座った。朝でも陽射しが強いので、白い布の張られた大きな傘がさされていた。

「小娘にこれ渡しておくわ」

 そう言ってリュリュは日傘を渡した。

「すでにもう陽射しの強さで判ると思うけど、火傷しちゃうから日傘さしてなさいね。あと、UVケアの日焼け止めも、ちゃんと塗っておくのよ」

「うん、ありがとう」

 真夏のような気温になっていて、ノースリーブのワンピースの上に、薄手のカーティガンを羽織って陽除けをしていた。

「あーたは平気そうね」

 メルヴィンの方を見て、リュリュは鼻を鳴らす。

「オレは大丈夫です」

 帰る頃には真っ黒に日焼けしていそうだと、メルヴィンは苦笑した。

「ゼイルストラは1年中こんな暑さよ」

「よく生きてられますね…」

 手でパタパタ顔を扇ぎながら、メルヴィンがげっそりと言うと、リュリュはくすくすと笑った。

「住めば都よ。ほら、アーナンド島が見えてきたわ」

 リュリュが進行方向を指すと、煌く光をまぶした青い海の向こうに、大きな島が見えていた。

「あれがアーナンド島。ゼイルストラ・カウプンキの中心島よ」



 豪華客船が港に接岸すると、続々と沢山の人々が下船していった。

 メルヴィンに手を引かれながら桟橋を降りきったとき、素っ頓狂な声がかけられて、キュッリッキは目を瞬いた。

「リューディアちゃん!?」

 ドスドスと駆け寄ってきた女性は、キュッリッキの双肩を掴むと、グイッと顔を突き出してマジマジとキュッリッキを見つめた。

「ンもー、早とちりしないでよ、サーラおばちゃん」

「リュリュちゃん!」

 女性はキュッリッキから離れると、すかさずリュリュに抱きついた。

「久しぶりねサーラおばちゃん」

「ホントだわ、何年ぶりかしら。すっかりいい大人になっちゃって」

「おばちゃんは相変わらず、若くて美人ね」

「おほほ、ありがとう」

 面食らって目を瞬いているキュッリッキとメルヴィンを向いて、リュリュが女性の両肩に手を置く。

「あーたたちに紹介するわね。こちらはサーラ、ベルトルドのお母さんよ」

「は、初めまして。メルヴィンと申します」

 メルヴィンは鯱張って頭を下げる。やけに若いなと、内心つぶやきながら。

「キュッリッキです」

 以前ベルトルドの記憶で見せられたサーラの姿と、ほとんど変わっていない。

 アイオン族は成人すると、外見の老化がとても遅くなる。ヴィプネン族と比べると、20歳前後の開きが出てくるのだ。

 快活そうな美人で、ベルトルドと同じ髪の色をしていて、オシャレに短くカットしている。こんな強い陽射しの強い国で暮らしているだろうに、肌は日焼けもしておらず綺麗に白い。

 半袖のラフなシャツにデニムの短パンを履いている姿は、ほっそりとしているが躍動的で、じっとしていることを由としない雰囲気をまとっていた。

 こうして改めて見ると、ベルトルドは母サーラに似ているような気がすると、キュッリッキは思った。

「いきなりごめんなさいね。初めまして、サーラです。遠くからようこそ」

 明るい声とにっこり笑う顔は無邪気で、ますますベルトルドとよく似ていた。

「リュリュちゃんたちがくるって連絡もらってたから、迎えに来たのよ。みんな島で待っているわ。行きましょう」

 笑顔のサーラに促されて、3人は頷いた。



 サーラの操縦するクルーザーに乗って、4人はシャシカラ島を目指した。

 真っ青な空と紺碧色の海。船がたてる波しぶきは、太陽の光に反射して白銀色に煌き、今が秋だという雰囲気は微塵も感じない。何もかも色が濃くて明るさに満ち溢れている。

 大きさが様々な小島の間を縫うように、クルーザーは突き進んでいた。

「懐かしい風だわあ」

 風で帽子が飛ばされないように両手で押さえ、リュリュは気持ちよさそうに息を吸った。

「10年くらい前かしら? 一度戻ってきたっきり、ベルトルドもアルカネットちゃんもリュリュちゃんも、全然里帰りしてこないんだから」

「皇国の要職に就いてるから、色々忙しくって」

 リュリュは短く言うにとどめた。実際目の回るような忙しい日々で、仕事に忙殺されていたのもある。ベルトルドたちの計画の妨害工作もまた、忙しかったのだ。

「それにしても、キュッリッキちゃんは本当にリューディアちゃんにそっくりね。クスタヴィもカーリナも、びっくりしちゃうわよ」

「そうねん…。――元気にしてるかしら、あの二人」

「ええ、見た目は随分老け込んだけど、元気に働いているわよ」

 二人の会話を黙って聞きながら、キュッリッキは以前ベルトルドに見せられた過去の記憶の中で、リューディアが死んだあとのリュリュ親子の、悲しい場面を思い出していた。

 リュリュの口調やサーラの表情から察するに、あれ以来あまり良好な関係には戻れていないようだ。

 親に酷い言葉と態度で拒絶される悲しみを、リュリュも味わっていたのだと思うと、キュッリッキは自分のことのように胸を痛めた。

 捨てられたわけではないから、リュリュには生まれ故郷がある。しかしこうして不本意な帰郷を果たすことになり、リュリュもまた沢山の複雑な想いを背負っているのだと、キュッリッキはそのことを、ようやく思いやれるようになっていた。

 他愛ないお喋りをしながら、クルーザーはシャシカラ島へたどり着いた。

「やあ、おかえりサーラ」

 島の小さな港で、背の高いハンサムな男が笑顔で手を振っていた。

「ただいまリクハルド」

 サーラも笑顔で手を振り返し、器用にクルーザーを接岸させる。

「みんな家に集まってるよ。――おかえりリュー君、遠いところ疲れただろう」

 手を差し出しながら、リクハルドがリュリュを出迎えた。

「お久しぶりね、リクハルドおじさん。改めて来ると、ホント遠いわ、ここ」

 苦笑しながら手を握り返し、リュリュは後ろを振り向く。

「お客様を二人連れてきたわ。おじさんの美味しい昼食が楽しみね」

 次にメルヴィンが名乗りながら降りて、最後にキュッリッキが降りる。

「えっ!? リューディアちゃん???」

 青灰色の瞳がこぼれ落ちそうなほど目を見開き、リクハルドはキュッリッキの顔を食い入るように見つめた。

「違うわよ、ンもう。夫婦揃っておんなじ反応で笑っちゃうわね」

「えっと……キュッリッキです」

 どんな表情をとればいいか困りながら、キュッリッキは肩をすくめ名乗った。

「小娘、あと4人分同じリアクションが待ってるから、覚悟なさい」

「……」



 リクハルドに案内されて、彼の家へと向かう。

 ログハウスのような、大きくて素敵な家が出迎えてくれた。

「さあ、遠慮しないでくつろいでくれ」

 ドアを開けてスタスタ入っていくリクハルドに続いて、3人は家へと入る。

 家の外観は見たままの丸太を積んだようなものだったが、内装は真っ白な漆喰を壁に塗り固め、天井などはログの雰囲気を生かした作りになっている。濃い緑の観葉植物が所々に置かれて、目に優しく明るく綺麗だ。

 広々としたリビングに通された3人は、新たな4人の人物に迎えられた。

「リューディア!?」

 いの一番に素っ頓狂な声を上げたのは、白い毛が混じった頭髪の男だった。そして、それに呼応するかのように、次々に「リューディア」と声があがる。

「チガウわよ、パパ」

 ずいっと身を乗り出し、片手を腰に当てたリュリュがぴしゃりと言い放つ。

「小娘も困ってるでしょ。この子はキュッリッキっていうの。そしてこっちはメルヴィンよ」

 紹介されて、二人は軽く会釈した。

「そ……そうか…」

 驚きの表情を浮かべたまま、男は自らに言い聞かせるように何度か頷いた。

「紹介するわね。こっちがアタシのパパでクスタヴィ、ママのカーリナ。こっちはアルカネットのパパのイスモ、ママのレンミッキよ」

 イスモとレンミッキは、ベルトルドの記憶で見た姿とあまり変わっていない。二人もまたアイオン族だ。

 一方リュリュの両親は、すっかり年老いている。しかし、記憶で見た若い頃の面影は健在だった。

 紹介された4人は動揺はそのままに、それぞれ短く挨拶をして座った。

「さあ、3人とも座りなさい」

 リクハルドがすすめてくれたソファに、3人は並んで座った。

 丸いガラスのテーブルを挟んで、7人は向かい合って黙り込んだ。相変わらず両親たちはキュッリッキをマジマジと見つめ、その視線に落ち着かない気分で、キュッリッキは内心ため息の連続だ。

 延々会話の糸口が見つからないまま、静かなリビングには波の音と、時折小鳥のさえずる声が聞こえてくるだけだった。

「喉が渇いただろう。俺特製のスペシャルハーブアイスティーをどうぞ」

 大きなグラスに琥珀色のアイスティーがなみなみと注がれ、氷がカランっと音を立てて涼しげだ。

 リクハルドは3人の前にそれぞれ置くと、一人用のソファに座る。

「お待たせー……って、なあにこの辛気臭い雰囲気は」

 サーラはリビングの雰囲気にちょっとひきつつ、リクハルドの座るソファの肘掛に腰を下ろした。

「まあ、アタシたちが来たのは、辛気臭い用事でなんだケド…ね」

 リュリュは軽く肩をすくめ、そして足元に置いてあったカバンの中から、二つの小さな柩のような箱を取り出し、テーブルに並べた。

「察しは付いていると思うケド、こっちはベルトルド、こっちはアルカネットの遺灰が入っているわ」

 サーラ、リクハルド、イスモ、レンミッキの4人は、形容しがたい表情で、我が子の遺灰の収められた箱を見つめていた。

 ベルトルドとアルカネットが死んだ旨は、あらかじめサーラとレンミッキに伝えてある。詳細は報せていないが、葬儀の都合で連絡する必要があったのだ。

「そう…。こんなになっちゃったのね…」

 サーラはベルトルドの柩を手に取ると、そっと頬ずりした。

「俺たちより早く逝くんだろうな、とは、もうだいぶ前から漠然と思っていたんだよ。片方の翼を引きちぎって、リューディアちゃんの墓前に供えたって姿を見たときに」

 リクハルドは悲しげに顔を歪め、我が子の柩に片手を乗せる。

「死ぬなら好きな女の上で励んで死ねよ、って言い含めておいたんだけどなあ。違うんだろ?」

「ええ、残念ながらチガウわ…」

 悲しみの表情と言動が一致しないリクハルドを見て、メルヴィンは内心、

(親子だ……)

 と、ため息をついた。

「アルカネットは、どの人格で死んだのかしら…?」

 目に涙をいっぱい浮かべたレンミッキが言うと、リュリュはキュッリッキを見た。

「えと、優しいアルカネットさんだよ」

 アルカネットが多重人格であったことは、キュッリッキはまだ聞かされていない。しかし人格、という言い方で、薄々察しが付いていた。

「そう……」

 涙をこぼしながら、レンミッキは我が子の柩を胸に押し抱き、イスモは妻の肩を抱き寄せ泣いていた。

「強大な魔法スキル〈才能〉を持ち、訳のわからない人格が色々出てきて、怖かったんだ…。自分の子だというのに。だから家を出て遠い学校へ進学すると聞いたときは、正直ホッとしてしまった。――手元に置いて育てた時間のほうが短いのに、やっぱり悲しいな」

 後から後から、涙がこぼれて服を濡らしていく。

 イスモの本音は、リュリュやサーラ達にも理解出来た。たとえ我が子だとしても、深い部分まで理解しあうのは難しい。ずっと離れて暮らしていたからなおさらだ。こんな灰の姿で帰郷されてしまい、イスモもレンミッキも、沢山の無念と後悔を噛み締めていた。

 リュリュはゆっくりと、これまでの経緯を語りだした。

 ベルトルドとアルカネットの両親には、聞く義務がある。そして、包み隠さず報告する義務もまた、リュリュにはあった。

 一連の事件の始まりは、このシャシカラ島から起こったのだから。



 リュリュから話を聞き終えた6人の親たちは、様々な表情をたたえて黙り込んでしまった。

「オレたちのリューディアの死が、二人をそこまで追い込んでしまったなんて…」

 真っ先に口を開いたクスタヴィは、沈んだ表情で、手にしていた古ぼけた写真をそっと撫でる。

「気にすることはないのよクスタヴィ。ベルトルドもアルカネットちゃんも、もう立派な大人よ。自分たちで選んだことで死んだのなら、本望でしょう」

 どこか拗ねるような顔をしながら、サーラはきっぱりと言い切った。

「それに、なんの関係もなかったキュッリッキちゃんを巻き込んで、辛い目に遭わせてしまったことを、あの子の親として心からお詫びするわ。本当にごめんなさいね」

 サーラに頭を下げられ、キュッリッキは小さく首を横に振った。

「大丈夫なの。ベルトルドさんもアルカネットさんも、謝ってくれたし。今はメルヴィンが一緒にいてくれるから、もう大丈夫」

 キュッリッキはメルヴィンの手をきゅっと握ると、サーラに柔らかく微笑んだ。そんなキュッリッキの顔を見て、サーラは救われたように微笑み返し、何度も頷いた。

「あの子がここにいたら、ジャンピング・ニーパットからムーンサルトプレス、とどめにパイルドライバーね」

「あらあらサーラちゃん、逆エビ固めも使っておかなきゃ…」

 握り拳で物騒なことを言うサーラに、レンミッキが暗い笑みを浮かべて参戦する。

「ベルトルドとアルカネットが生きてここに帰ってきたら、100パーセント実行されるところだよ」

 小声でリクハルドが言い、イスモも同意するように深く頷いた。

「深い血のつながりを感じるかも…」

 薄笑いを浮かべ、キュッリッキは呟いた。ロキの血は、この二人の母親が継いでいるのだから。

「ところでリュリュ、今日は泊まっていけるんだろう?」

 遠慮がちにクスタヴィが割って入ると、リュリュは壁にかけられた時計に目を向ける。

「そうねえ……今から急げば船に間に合うから、泊まっていく必要はないかしら」

「そんな」

 カーリナが悲しそうに声を上げると、

「もう! 泊まっていきなさい3人とも!」

 ずずいっと身を乗り出し、サーラが奮然と言う。

「リュリュちゃんは自分の家へ、キュッリッキちゃんとメルヴィン君は、ウチに泊まってちょうだいね」

「皇都復興やら他にも業務があ…」

「いい加減もう、許してあげなさい!」

 両手を腰に当てて、サーラは深々とため息をついた。

「あれからもう31年も経ったのよ。二人はずうっと反省しているし、それに私たちも老いたわ。外見はどうあれ、寿命はヴィプネン族もアイオン族も、同じなのよ」

 クスタヴィとカーリナは、縋るようにリュリュを見つめた。

「ベルトルドもアルカネットちゃんも死んでしまった。この島の子供で生きているのはリュリュちゃん、あなただけになってしまったわ」

「サーラおばちゃん…」

「全部でなくていいの、ちょっとずつ話をして、今度帰ってくるときに笑顔でただいまって言えるように、今日から話し合っていきなさい」

 リュリュはちらりと両親を見て、小さく嘆息した。そしてサーラを見上げ、苦笑し頷く。

「そうね、そうするわ」

 サーラはにっこりと笑った。

「でも、明日には帰らせて。アタシほんとに仕事が山積みなのよ、ベルとアルのせいで」

「そのことはもう、ごめんなさいね。この箱、生ゴミ捨て場に埋めてきていいわよ」

 我が子の遺灰の詰まった箱を取り上げ、リュリュに差し出す。

「……さすがにお墓に埋めてあげて、サーラおばちゃん…」

「あら、そう? 残念ねえ」

(やっぱり親子だ……)

 メルヴィンは背中で汗をかきながら、内心げっそり呟いた。

「さあさあみんな、こっちへおいで。ベルトルドとアルカネットのお別れ会をしよう」

 キッチンからリクハルドが大声で呼んだ。

「昨日から沢山料理を仕込んであるんだ。沢山食べて、沢山飲んで、懐かしい話でもしようか」

「そうね、そうしましょ」

 サーラはキュッリッキとメルヴィンの手を取ると、ニッコリと笑った。

「さあ、いらっしゃい」


最終章:永遠の翼 シャシカラ島の家族 つづく



134 最終章:永遠の翼 葬儀のあとで

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