009 第一章 ライオン傭兵団 仲間(四)

ALCHERA-片翼の召喚士-
第一章 ライオン傭兵団 仲間(四) 009




「うわあ………」

 ルーファスに手を引かれたまま門をくぐったキュッリッキは、目の前に広がる光景に目を見開いた。

「すごーい、ねね、これは湖? キラキラしてる!」

「いやいや、水じゃなく、ちゃんとした地面なんだよこれ」

 ルーファスにそう言われて、キュッリッキは改めて目を凝らす。

 目の前にはまるで湖が広がっているような、水面のような光沢と輝きを放った地面だった。

 水面のような地面に立ってみせて、カーティスはキュッリッキに笑いかけた。

「水ではなく地面です。濡れてもいませんよ」

 両手を広げておどけてみせる。

 ルーファスの腕から離れると、小走りに駆けていって、軽くジャンプして煌く地面を踏みしめてみる。靴底から伝わって来るのは、硬い石の感触だった。

「うわあ、ホントだあ~」

 いつになくキュッリッキは無邪気にはしゃいでいた。あまりにも素直すぎるその様子を見て、二人は顔を見合わせ笑みを浮かべた。

 傭兵団に来たばかりのキュッリッキは、常にどこか身構えたような、緊張した空気をまとわせていていた。話しかけてもぎこちなく固くて、ヴァルト考案の『キューリ』というあだ名をあえて使ってからかうことで、どうにか解れてきたように見えた。

 キューリと言われるたびに、キュッリッキは本気で反撃してくるので、みんなもだんだんと、ただ『面白い奴』と思うようにはなっていたが。

 彼女が自分なりに溶け込もうと努力しているのは感じていた。一生懸命歩み寄ろうとしているのは判っていたので、今日はいい機会かもしれないと二人は思っていた。

 この先一緒に仕事をしていくうえで、壁を作られると連携が取りづらく、命の危険もあるからだ。

「それにしてもよ、遅くね?」

「遅いですねえ…。渋滞でもしているんでしょうか」

 待ちくたびれたように、ルーファスとカーティスはひたすら東のほうを見つめていた。

 キュッリッキもつられて東に視線を向けたが、光る地面が煌めいているだけだ。

 二人が何を待っているかは判らないが、キュッリッキは早くこの中を探検してみたくてしょうがなかった。

 城砦の門の外側は、キュッリッキには見慣れた街並み、しかし壁と門を隔てたその中には、不思議な光景が広がっている。

 うんと高い壁の内側には、そのぶんだけ大きな影が出来てさぞ暗いだろう、といつも思っていた。しかし外側の街よりも明るいのだ。

 城砦の内側の壁は、光を弾いて真っ白に光っている。鏡が照り返すよりも柔らかい光だった。その柔らかく明るい光が、城砦内全体を照らしている。地面はその光を受けて、煌く水面のような景色を生み出していた。

 キュッリッキの立っている位置からは、光る地面以外は、街らしきものは見えない。だだっ広い湖のような広場だけだ。ただ遠方に蜃気楼のような、何かの影のようなものが浮かんで見えていた。

 退屈な空気が漂い始めた3人のそばに、音もなく一隻の無人のゴンドラが音もなく到着した。

「ようやくベルトルド卿のゴンドラが迎えにきましたよ。これに乗っていきます」

 まだ光る地面に関心を寄せているキュッリッキの手をひいて、ルーファスとカーティスはゴンドラに乗り込んだ。





「何もしてないのに、船が勝手に地面を滑っていく…」

 船上で動き回ってもピクリとも揺れないゴンドラのヘリにつかまって、キュッリッキは地面を覗き込んだ。

 光る地面は青みを帯びた黒色をしていて、光を弾いて煌く素材が石に含まれているという。その上を、艶やかな白で塗装されたゴンドラが、音も立てず滑るようにして緩やかに進んでいた。

 水の上を進む船よりも安定していて揺れなかった。

「詳しい仕組みは知らないんですが、磁力を応用して動かしているそうですよこれ」

 これ、と言ってカーティスはゴンドラを指した。

「ここの地面もそうした効果があるとかどうとか、まあ、人工的に作られたものらしいですね」

「そうなんだ…」

 説明されても、キュッリッキにも判らなかった。

「ハワドウレ皇国は色々な研究が大好きな国ですしね。イルマタル帝国やロフレス王国よりも、ずっと科学の面では大進歩していると、ヴィプネン族は思っているようですが」

「俺たちもヴィプネン族だろ」

「まあ。ただそう考えるヴィプネン族は、この城砦の中に住んでる人々だけですけどね」

「種族的になんも特徴ねえからな。知恵だけでも先をいきたいんだろうさ」

 ルーファスが笑い飛ばした。

「アイオン族は空を翔ける翼がありスキル〈才能〉がある。トゥーリ族たちは人間と動物二つの能力を有していて更にスキル〈才能〉もある。ヴィプネン族はスキル〈才能〉だけ、だから二つの種族に負けないよう研究することにだけは旺盛さ」

 若干侮蔑を込めた視線で、すれ違うほかのゴンドラをみやった。進むにつれて、すれ違うゴンドラの数も増えてきた。

「城砦の中の連中は、城砦の外の世界を知らないし知ろうともしない。つまんない連中だ」

 時折すれ違うゴンドラには、立派な身なりの紳士や着飾った美しい貴婦人たちが乗っていた。貴族階級や資産家たちなのだろう。優雅に周りの景色に溶け込んで見えた。

「ルーさんはここの人たちが嫌いなの?」

「ああ、反吐が出るほど大嫌いさっ」

 あぐらをかいた脚の上に肘をついて吐き捨てた。

「ふーん…」

「でも」

「でも?」

「巨乳のねーちゃんたちは大好きだ」

 ニシシッと笑うルーファスを見て、キュッリッキは口の端を露骨に引き攣らせた。

 自分は大の巨乳好きだ! と、前に言われたことを思い出し、キュッリッキは自然と自分の胸元に視線を向けてため息をついた。

 どんなに食べても太らない体質は、胸のほうにも均等に肉が回らないらしい。

 実はとてもとても巨乳に憧れている。必死に胸周りの肉をかき集めて寄せて上げているが、かき集めるほどの無駄な贅肉がないため、無駄な努力に終わっていた。

 ゴンドラは緩やかな速度で迷いなく進み、北の区画へ進路をとった。

 城砦の中の街ハーメンリンナは、中央に広大な敷地を有する宮殿と、その四方に区画を分けられていた。

 東は貴族たちの屋敷があり、西は資産家たちの住まいや高級店が並び、南は軍事に関する施設があり、北は政治や研究に関する施設があった。

 門から延々1時間近くはゴンドラに揺られている。全てが物珍しいキュッリッキにとっては楽しい時間だったが、カーティスとルーファスは、明らかにうんざりした表情(かお)をしていた。

「自分で走ったほうが絶対早い」

「全くですね」

 向き合うように座っているカーティスとルーファスの真ん中に座して、へりにしがみつきながら景色を楽しんでいたキュッリッキは、ふとあることに気づいてルーファスに顔を向けた。

「そいえば誰も歩いていないのね。みんな船に乗ってるわ」

「徒歩禁止なんだよここ」

「えっ」

「自分の足で歩くのも走るのもダメ、当然転がるのもダメだな」

「生き物は全部ダメですね」

「うへぇ……」

 なにそのヘンな決まりは、といった表情(かお)をするキュッリッキに、ルーファスは同意するような笑みを浮かべた。

「ヴァルトに言わせると『潔癖症の道路』だそうだ」

 思わずキュッリッキは吹き出した。

「ピッタリな表現」

「全くだな」

 退屈なゴンドラに、しばし笑いが満ちた。




 やがてゴンドラは数々の屋敷の門の前を通り過ぎ、北の最奥にある一際大きな屋敷の前に停まった。

「やあっと着いた」

 カーティスとルーファスがゴンドラから降りていると、屋敷の方から歩いてきた若い男が、彼らに向けて優雅に一礼した。

「お待ちしておりました」

「こんにちはアルカネットさん」

「ご無沙汰してます」

 カーティスとルーファスが挨拶を返す。

 アルカネットと呼ばれた男は微笑で応えると、まだゴンドラに乗っているキュッリッキに手を差し出した。

 その手に助けられながら、一度ゴンドラのへりにあがり跳び降りる。

「ありがとう」

「どういたしまして。こちらのお嬢様が?」

「ええ、新入りの召喚士です」

 まるで高価なものでも見るように、感極まった表情でアルカネットは頷いた。

 この男に限った事ではなかったが、キュッリッキが召喚スキルを持っていることが判ると、皆こんな表情をする。

 キュッリッキにしてみたら、あまり嬉しい感触ではなかった。

「ではこちらへ。ベルトルド様は会議が長引いていて、少々遅れます」

「判りました」



第一章 ライオン傭兵団 仲間(四) 続く


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Comments 2

八少女 夕

ようやく追いつきました〜

こんばんは。

このお話、とても面白いです!
実は、私はゲームやファンタジー小説にほとんど縁がなくて、この分野の小説を読む上でのいわゆる常識の部分が完全に欠落しているのですが、全く問題なくついていけています。ひと言で済ませないできちんと説明してくださっているからだと思うのですが、反対に説明が長すぎると筋がわかりにくくなるところを、絶妙の長さと的確な表現で記述してあるので、全く違和感なく楽しめます。

仲間のキャラ、まだ全員を把握していないのですが、それぞれをきちんと書き分けていらっしゃるので、エピソードが増えたらきっと全部憶えられると思います。キュッリッキさん、もし最強の美人というだけだったら面白みなくなると思いますが、複雑な育った環境や片翼であるコンプレックスが、とても魅力的なヒロインにしていますね。

ちょうとお話が進みはじめた所で追いついたので、今後も楽しみにしていますね。

P.S. カテゴリー別の記事の表示順は、「古い順」になさった方がいいかもしれません。カテゴリーで読もうとするのはたいていまとめ読みをしたい方ですので、古い順に並んでいれば、続けて次のお話が読めるのですよ。

2014-03-02 (Sun) 03:18 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: ようやく追いつきました〜

八少女さんおはようございます~(*´∀`*)

執筆やよそ様のご訪問などあるのに、拙いウチの小説読んでくださって、ありがとうございますありがとうございます><!!

追いつかれちゃいましたヽ(*´∀`)ノ

勿体なさすぎる、でも報われるような嬉しいお言葉の数々、本当にありがとうございます!!
途中で投げずに続けて書いてきてよかった・・・です(;ω;)

説明や解説のあくどさは気を付けないとですが、架空世界をどう伝えていくかが、作り物世界の苦労のしどころですよね。なので日常的なものやあえて創る必要がナイものなどは、既存の単語や内容を使いまわしています。
表現に行き詰まったら、絵に描いて訴える奥の手が・・・! をなるべくしないように、文章で伝えていけるように頑張ります><;

傭兵団という設定上、あまりにも少ないと寂しいので人数がワラワラ多いですが、今後それぞれに活躍の場を与えていくことになりますので、好きになってもらえるキャラが出てくると嬉しいです(^ω^)
次やっとドSコンビも出てくるし!

キュッリッキはかなり複雑なジョシなので、そのあたりを丁寧に書いていかないと、物語がずっこけるので難しいです。今まで書いたことがナイタイプなので、妙に感じる部分を見つけたら、是非指摘をお願いします!

でも本当に、読んでもらえて感想書いてもらえて、今とってもとっても嬉しいです(*´∀`*)

あと、カテゴリーの記事表示、早速直してみました!
言われてみると、確かにそうですよね・・・あまり小説連載の記事掲載したことがないので、とても参考になりました!
アドバイスありがとうございます(´∀`)

よーし続きがんばろーっ!!(…起きたら・・・;)

2014-03-02 (Sun) 04:48 | EDIT | REPLY |   

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