010 第一章 ライオン傭兵団 仲間(四)

文章の神がご降臨して書けたぶんは、今回ので終わり(・_・;) 物語内の時間的には大したことなかった><;


やっと、ライオン傭兵団のボスがご登場です。ドSコンビ登場です。

ALCHERA 片翼の召喚士

若そうに見えるけどおっさんです。縮小しているので、バストアップ絵をご覧になりたいかたは、イラストクリックしてください。






ALCHERA-片翼の召喚士-
第一章 ライオン傭兵団 仲間(四) 010




 アジトの建物なぞ家畜小屋にしか思えないほど、ベルトルドの屋敷は大きく広大だった。宮殿の一画だと言われても、キュッリッキは疑いもしなかっただろう。

 青いマーブル模様の入った大理石の床は鏡のように磨き上げられ、壁や柱に施された彫刻も見事だった。安物の綿のワンピース姿では申し訳ない気持ちになってしまう。せめて麻にすればよかったかも、などとちょっと思った。

 物珍しさを隠しもしないキュッリッキの様子を見て、アルカネットは自然と笑顔が漏れた。

「可愛らしいお嬢様ですね。ハーメンリンナは初めてですか?」

「はいっ」

 アルカネットに話しかけられ、思わず声が裏返ってしまう。

 ベルトルドの屋敷の執事をしているという。見た感じは30代に差し掛かるくらいだろうか。カーティスやルーファスと同じくらいに長身でスラリとしている。

 柔らかな笑みを絶やさないその風貌は優しく、アルカネットという名の通り、綺麗な紫色の髪と瞳が印象的だった。

 執事と聞くと堅苦しく年寄りじみた印象のあるキュッリッキだったが、アルカネットのような執事だったら、日々穏やかでいいだろうなあ、と思えた。

 とくに誰も咎めていなかったが、あまりにもキョロキョロしすぎたのをみっともないと感じ、キュッリッキは顔を赤らめて俯いてしまった。

 そんなキュッリッキの様子に、3人とも微笑する。

 無駄に長いと思える程の廊下を歩いて、やはり広々とした応接室に通された。

「すぐにお飲み物をお持ち致します」

 恭しく一礼すると、アルカネットは応接室をあとにした。

 青い天鵞絨張りの長椅子に座り、キュッリッキは全身から吐き出すようなため息をついた。

「ぷはあ…緊張したー」

「あははははは。そんなに緊張するようなところじゃないって」

 腹をかかえて笑うルーファスを、捨て犬のような顔で睨む。

「ベルトルド卿もアルカネットさんも、あまり細かいことには五月蝿くありませんから。最低限の礼儀さえ守っていれば大丈夫ですよ」

 そうカーティスに言われて、キュッリッキは肩の力を抜いた。

 ちらりと二人を見ると、自然とこの屋敷の雰囲気に馴染んでいる。

「二人共なんだかこういう場所に慣れてる感じだね」

「俺たちもともとこの国の騎士・軍人だったからね」

「戦争も内戦も起こらないような、平和な平和な皇都勤めでしたから。嫌でもハーメンリンナ暮らしが長かったんですよ」

 カーティスとルーファスは、互をみやってヤレヤレと肩をすくめた。

「俺は宮殿騎士やってて、カーティスは軍で魔法部隊の指揮官をしてたんだ。毎日あくびに耐えながら」

「あなたはまだマシだったでしょう、宮殿行事に出動して馬に乗ったり剣を構えたりするイベントがあって」

「げえ……親衛隊より泣けてくるほどの見世物しかやってなかったんだぜ」

 ソファの一つに座り、だらしなく脚を投げ出し、ルーファスは泣きそうな顔で天井を仰いだ。

「俺は何しに騎士になったんだろう、宮殿のお飾り? 貴婦人たちの見世物? いっそ内紛でもおきねーかと、毎日戦の神に祈ったもんだぞ」

「そんな物騒な祈りを捧げてもらったら困るなルー」

 批難するでも咎めるでもなく、静かな声に言われて、ルーファスは露骨に「げっ」といった表情(かお)でドアのほうに顔を向けた。

「あはは…すいませんベルトルド様」

 ルーファスは慌てて立ち上がり、恭しく頭を下げた。

「相変わらずなやつだ」

 口元に笑みをたたえ、ベルトルドと呼ばれた男は颯爽と部屋に入ってきた。

「待たせて済まなかったね。古狸たちのくだらない戯言にまともに付き合ったせいだ」

 そう言って、ベルトルドは立ち上がっている3人に座るよう手振りで示した。

「実りのない会議ですか」

「ああ。老人たちの退屈しのぎの井戸端会議だ。いい加減後輩に座を譲って隠居してもらいたいのだが、つまらんことには知恵が回る連中だからな。俺なぞ身を縮めて黙って聴いているしかない」

 ベルトルドはキュッリッキの傍らに座った。

「ハーツイーズで会った以来だね。ライオン傭兵団に入ってくれて礼を言うキュッリッキ」

 差し出された手を、キュッリッキはぎこちなく握った。大きく力強い手に少しドキリとした。

 ハーツイーズでベルトルドと会った時、キュッリッキはドリアにパクついている最中だった。

 いきなりやってきて、食事中の彼女にライオン傭兵団に入れと一方的に言い切った。

 風貌は端整で口調も穏やかだったが、どこか否定も拒絶も受け付けない迫力が全身に張り付いている。その迫力に気圧されて、スカウトを受け入れてしまった。

 今もその迫力は健在だが、近寄りがたい雰囲気ではなかった。

「ヴァルトが彼女には『キューリ』というあだ名を進呈していますよ」

 何気なくカーティスが付け加えると、

「だからアタシはイヤなんだってばそのあだ名!!」

 と、キュッリッキはベルトルドの手を握ったまま猛反発。その勢いでベルトルドの手をぎゅっと強く握り締めてしまった。

「はっ!すみません……握ったままだった」

 慌てて手を離して俯く。耳まで真っ赤になって冷や汗がふき出した。

 その様子に、ドア近くに控えていたアルカネットがクスリと笑んだ。

「天下の召喚士様にも遠慮がないなヴァルトは。だが呼びやすそうなあだ名を考えついたものだ」

「ちょっと褒めないでよっ!」

 ガバッと顔を上げて、今にも噛み付きそうな勢いでまくしたてる。その様子に、ベルトルドは愉快そうに笑った。

「ベルトルド卿は面白いあだ名を知ると、それで呼びたがるんですよ」

 カーティスは困ったような表情で首を振った。

「おかげで私のあだ名はキューリさんより酷い酷い」

 そんなカーティスを見て、ベルトルドは意地の悪い笑みを浮かべてキュッリッキに向き直った。

「カーティスという名はちょっと言いにくいだろう。それでヴァルトにあだ名を考えるよう言ったら、1分も経たないうちに『カス』というあだ名を考えついてくれた」

 同時にルーファスとアルカネットが吹き出した。キュッリッキは口の端を引きつらせるだけだった。笑いたいのか呆れたいのか複雑な気分だ。

「あやつのユニークさは認めるが、傭兵団のリーダーを『カス』呼ばわりは出来ないからな。ヴァルトの案は却下だ」

「そうしてください。まだ『クズ』と言われるほうがマシです…」

(アタシはどっちも却下よ…)

 想像していたよりもだいぶ砕けた人物なのか、キュッリッキは上目遣いでベルトルドを見上げた。

「あだ名の件はまたの機会に検討しようか。では本題に入る」

 カーティスとルーファスは真顔に戻ると居住まいを正した。





「遺跡に関連するものが多く出土する小国ソレルで、ひとつのエグザイルシステムが見つかった」

 一旦区切ると、ベルトルドはアルカネットに手を差し出した。

 携えていた書類の束を主に渡すと、静かにもとの場所に控えた。

「ただのエグザイルシステムだったら、つなげてしまえば良かったのだが、どうも普通のものじゃないらしい」

「ほほう…」

「研究員たちを派遣して調べさせたのだが、普通のものじゃないという報告をえた直後、ソレルの兵隊たちに捕まったそうだ」

 書類をめくりながら、ベルトルドは感情の伺えない声で言い放つ。

 キュッリッキは首を伸ばして書類を覗き込む。真っ白な紙には丁寧な文字で、その件の報告が綴られていた。

「以前からソレルの動きには不審な点が多い。今に始まったことではないにしろ、そう黙認ばかりもしていられない」

 まだ興味深そうに書類を覗き見るキュッリッキに、ベルトルドは書類を手渡してやった。

「今回は俺の依頼で動いてもらう。研究員たちの奪還、エグザイルシステムの確保、ついでに少々暴れてもらって構わない」

「国の機関で動いた連中の奪還だったら、軍を動かしたらラクなんじゃないんです?」

 ルーファスが手を挙げながら言うと、ベルトルドはわざとらしい困った表情を作って腕を組んだ。

「ルーは今の軍のトップを知らないだろう」

「ええ……ブルーベル将軍お辞めになったんです?」

「キャラウェイだ」

 ルーファスの顔が大きく歪んだ。

「………世も末だ」

「それはまた…」

 ルーファスとカーティスは顔を見合わせて、露骨に嫌味たっぷりとため息を吐き出した。

「あの禿げ豚に任せたら、エグザイルシステムは破壊され、研究員たちは不慮の事故で死に、遺跡の数々が木っ端微塵に消える。そんなことになったら、俺は奴の首を即刻切り落とすぞ」

「ですよねえ…」

 ドアのほうからも異口同音の声があがった。

「人員は任せる。全員連れて行ってもいい。詳細も全部お前に丸投げするから好きにやってくれて構わん。ただし、キュッリッキは必ず連れて行くようにしてほしい」

「判りました」

「キュッリッキ、連絡用にその足元の仔犬を置いていってもらえるかな?」

 ベルトルドはキュッリッキの足元に顔を向ける。何もいないはずだが、キュッリッキは非常に驚いた顔でベルトルドを見上げた。

「見えるの?」

「ああ。銀色の毛並みが綺麗だな。召喚したものだね」

 ベルトルドは優しげに笑んだ。

「見えないように言ってあったんだけど……バレちゃってたみたいだよ、フェンリル」

 いつの間にか姿を現した仔犬を、キュッリッキはそっと抱き上げて膝に乗せた。フェンリルはそよそよと尻尾を泳がせた。

「俺のスキル〈才能〉はサイ〈超能力〉だからな。存在しているものは視えてしまうのさ」

「そうなんだ…」

 召喚スキル〈才能〉と同様、サイ〈超能力〉スキル持ちもレアだ。

 膝の上でキュッリッキに頭を撫でられるままでいるフェンリルは、動かずじっと目だけをベルトルドに向けていた。アイスブルーの瞳には感情の色が伺えない。

「んー、この子はアタシの相棒だから置いてくことはできないけど、連絡用に何か欲しいなら別の子を召喚するよ?」

 やや驚いた表情(かお)で、ベルトルドは頷いた。

「一度にいくつも召喚出来るものなのか」

「うん。普通にいくつでも出来るけど……」

「それは凄い。宮殿でふんぞり返っているお抱え召喚士どもとはレベルが違うようだ」

 ベルトルドは満足そうに頷いた。

「あ」

「どうした?」

 キュッリッキはフェンリルを両手で抱き上げると、ベルトルドの眼前につきつけた。

「この子今は仔犬モードになってもらってるけど、ホントはおっきな狼なんだからね!」

 フェンリルは鼻を鳴らすと、小さな口をあけて欠伸をした。



第一章 ライオン傭兵団 仲間(四) 010 続く


011 ライオン傭兵団 仲間(四)

009 ライオン傭兵団 仲間(四)

目次へ戻る


関連記事

Comments 0

Leave a reply