013 第二章 エグザイルシステム 遺跡 (一)

ALCHERA-片翼の召喚士-
第二章 エグザイルシステム 遺跡(一) 013




 敵からの攻撃が全て無効化されていく。自分が食らう筈のダメージを気にせず戦える。これほど爽快な戦闘は初めてのことで、いつもよりガエルの気分は高揚していた。

 キュッリッキが召喚した”なにか”が、防御してくれているおかげだ。

 とくに今回のように中隊規模の兵士たちを一斉に相手にする場合、無傷でいることは絶対にありえない。まして、攻撃自体も阻まれ前進も難しいだろう。仲間全員でサポートしあっても、こんな風にはいかない。

 怪我の痛みに耐え、疲労にも屈せず得る勝利こそ最高! などど、マゾいことを考える性格でもない。いかに邪魔されず阻まれず、己の全力を叩き込めるかだ。

 日々精進と鍛錬を欠かさず、己のパワーはどこまで伸びるのか、どこまでやれるのか、それが試したくてフリーの傭兵になったのだ。

 約200人前後の中隊兵たちを、たった二人で相手にする。そのシチュエーションもより興奮に繋がっていた。

 ガエルのスキル〈才能〉は、とくにトゥーリ族ではもっとも多く生まれて持ってくる中の一つ『戦闘』だった。

 この『戦闘』スキル〈才能〉は大雑把に、肉体を武器にする武術系と、武器を扱う武術系に分けられ、さらに細分化し調べていく。

 大抵一人ひとつだけの得意な体術や武器使いなどになるが、稀にその系統の複合スキル〈才能〉を持って生まれてくるものもいる。レアスキル〈才能〉の次に貴重なスキル〈才能〉持ちだった。

 ガエルとヴァルトは肉体を武器にする武術系の、複合スキル〈才能〉持ちだった。

 スキル〈才能〉は個人個人で差がある。磨いて伸ばすか、生まれつき高いか低いか並か。なのである程度強さはランク付けされ、とくに『戦闘』スキル〈才能〉はランクが重視された。

 ライオン傭兵団が世間に名を轟かす理由の一つが、一部例外を除き、皆最高ランクのスキル〈才能〉持ちだからだった。

 スキル〈才能〉のない者が同じことを真似てもたかが知れている。本気で修行を積んでも、低レベル者と同等がいいところだ。スキル〈才能〉のあるなしは大きい。

 嫌でも戦闘と向き合うことになる軍人や傭兵たちの中には、『戦闘』スキル〈才能〉を持たない者もいる。頭数合わせの徴兵たちだ。そうした者たちとスキル〈才能〉持ちでは、戦闘力に歴然の差があり、そこからランクレベルになると、軽い喧嘩でも命懸けになってしまう。

 最高ランクの肉体武術系複合スキル〈才能〉を持ち、さらに熊と人間二つの特徴を兼ね備えるのトゥーリ族であるガエルのパワーは、一般兵じゃ防ぎきれたものじゃなかった。

 ガエルが拳を振り下ろすたびに複数の人間が雑草のようになぎ倒され、蹴りを入れるたびに宙を舞った。直接拳を叩き込まれた兵士は、兜が割られ頭部が爆ぜる有様だ。

 さらに剣術の最高ランクスキル〈才能〉を持つメルヴィンも、ガエルに劣るものではなかった。

 長剣、短剣、変わり種の刀身でも、一刀でも二刀でも自在に使いこなす。食事のときに使うナイフですら凶器に変わる。

 白刃が風を生み、生首が青空に弧を描いて跳ねあがる。四方八方から襲いかかる敵を、円を描くようにしながら剣を繰り出していった。

 ソレル兵たちの身につけている防具は、薄くした鉄と厚い革をなめしたものを組み合わせたもので、この湿気を多量に含む中で着用するには風通しも悪く暑苦しいだろう。きっちりと縫い目も防備されているため、剣で斬り裂く為にはスピードやパワーが必要だった。

 それが判っているメルヴィンは、無用な斬り合いをせず一閃で終わらせるために、正確に頭部と首の付け根を狙い跳ねていった。それが難しい場合は、フランベルジェで急所を突いて致命傷を与えていた。

 あたりを赤い濃霧のように舞う血飛沫や、断末魔と恐怖で沸き起こる悲鳴、怒号や爆音などが麓を騒がす。

 魔法使いたちの放つあらゆる魔法攻撃も全て防がれ、弾かれた魔法が味方にあたって惨劇がさらに広がる。まさに一方的な殺戮の場と化していた。

 ナルバ山の麓はあっという間に凄惨な姿に塗り変わり、ブルニタルはあまりの光景に口元を抑えた。

 信じられないスピードで死体の山が築かれていく。仲間たちの武勇はよく知っているつもりだったが、ブルニタルは殆ど後衛に徹しているため、前に出て彼らの戦闘を見たことがなかった。

 ブルニタルとは反対に、キュッリッキは無感動に死体を眺めおろし、ソレル兵たちを倒し進む二人の背中に視線を向けた。

 返り血も全て見えない防御で弾かれ浴びていない。アルケラから招いた友達の働きぶりに、キュッリッキは嬉しそうに目を細めた。

 フェンリルの上で戦場の状況を検分していたキュッリッキは、ある程度二人が前進したら、そこへ闇の沼を召喚し、死体を全て飲み込ませた。あまりの死体の多さに、真っ黒でタールのような沼が、愉悦の為に波打って大きく揺れた。

「以前見せてもらった、ソープワート軍を飲み込んだものですね…」

「こんなにじめじめ暑いんじゃ、すぐ腐って異臭が酷そうだから。お掃除お掃除」

 周囲の死体は消えたが、異臭はまだその場に漂っている。ブルニタルは胃の辺りを抑えながら、前に座るキュッリッキに視線を向けた。

「あんなに多くの死体を見ても、大丈夫なんですね」

「見てて気持ちのいいもんじゃないけど、見慣れてるし。戦場だったらアタリマエの光景でしょ」

「私はここまで凄い場面を見たことがありませんから……」

 ふいっと視線を反らせる。

「そっか」

 ブルニタルの知識は深く情報分析なども的確にこなしていたが、現場を知らずに上辺の知識しかないのかな、そうキュッリッキは思った。

「まあ……無理に見慣れなくてもいいけどねこんなもん。吐くんだったら後ろ向いてお願いね?」

 ブルニタルはこらえきれずに後ろを向き、フェンリルに被害が及ばないように吐瀉した。





 数十分が過ぎ、ソレル兵達の姿もまばらになっていった。中には混乱に乗じて敵前逃亡する者もいたが、そこを見逃すキュッリッキではなく、フェンリルの前脚で無残に殴り殺されるだけだった。

 キュッリッキが後方で後始末をしながら残飯処理も行っていることで、ガエルとメルヴィンはひたすら前進あるのみだ。

「後ろを気にせず、刺されることも不意打ちを食らうことも気にせず、ひたすら殴り倒せるのは気分がいいもんだ」

 まったく息もあがっていないガエルは、スタートと変わらぬ勢いで拳を振り上げていた。ずしりとした低い声が心なしか弾んでいる。

「ホントですねえ。おまけにさっきから感じてますが、少しも疲労がないんですよ。これもキュッリッキさんの召喚した何かの力なんでしょうか」

「恐らくそうだろうな。ヴァルトがこれを知ったら、さぞ悔しがるだろう」

 ガエルは野太い笑みを浮かべた。

 メルヴィンも露を払いつつ次の敵に斬り込みながら、悔しがるヴァルトを想像してにこりと笑んだ。

「たまには自慢してやろうかな」





「カーティスさん聞こえますか?」

 ブルニタルは血の気のひいた顔で、キュッリッキの小鳥に話しかける。

 見るに堪えないほどの無残な死体の山、湿度を含む空気にのった濃厚な血臭、フェンリルが攻撃して爆ぜる人間の残骸。それらを延々見せつけられながらも、次第にブルニタルも慣れが生じてしまっていた。

 慣れてしまった方が、何倍も精神と身体が楽だった。

『こちらカーティスです』

 やや間を置いたあと、のんびりとしたカーティスの声が、小鳥の嘴を通じて伝わってきた。

「こちらはまもなく麓の中隊の処理が終わりそうです」

『えっ!?』

 小鳥の嘴から、カーティスとその周辺にいる仲間たちのどよめきも伝わってきた。

『もう目的地に着いて作戦発動しちゃっているんですか?』

「はい。とっくに」

『やいブルネコ!! いくらクマがちょっとだけ強くったって、中隊相手にそんな張り切れるもんか!』

 カーティスを押しのけて通信用の小鳥に食いかかるヴァルトの姿が、容易に想像できるくらいの、騒々しい声が伝わってきた。

「メルヴィンもいるよ」

『そんなの判ってる! キューリは黙ってろっ!』

 キュッリッキは「べーっ」と舌を出しそっぽを向いた。

「キューリさんの召喚のおかげで、移動もスムーズにすみましたし、召喚のサポートを受けた二人は鬼神の如き暴れぶりです。戦闘を開始してまだ1時間も経っていません」

 報告を続けるブルニタルの声は弾んでいた。

『なんだそのサポートってええ!! ずりいいぞーーークマああああ!!』

 頭髪を掻き毟りながら絶叫する、ヴァルトの姿が目に浮かぶ雄叫びだった。

『俺もそっちがよかったな……』

 ボソリとタルコットの声が小さく聞こえてきた。

『おいカーティス! こっちはオレサマが翔んで行って一人で全部処理してやる!!』

『ダメですよ、救出部隊と足並み揃わないと意味がないんですから』

『どうせ陽動すんだったら足並み揃わなくてもいいじゃんか! クマ野郎に負けるのだけは許さん!!』

『怪我したらどうするんですか。マーゴットさんも一緒じゃないと危ないでしょう』

『そんなド下手くそ女居ても居なくても関係ないだろ!』

『ちょっとそれ、聞き捨てならないわ』

『最低ランクの魔法使いがイキがってんじゃないっていってんだ! 下手くそ!!』

『私は上手いから同行しているんです。頭の足らない人に言いがかりつけられたくありません』

 キュッリッキとブルニタルは同時にため息をついた。

「ブルニタルさん、キュッリッキさん、終わりましたよー」

 こちらのほうに歩いてきながら、メルヴィンが笑顔で手を振った。

「お疲れ様ですメルヴィン、ガエル」

「お疲れさま~」

 メルヴィンから若干遅れてガエルが合流した。

「なんだか、ヴァルトさんとマーゴットさんの声が聞こえて来てましたが」

 キュッリッキが無言でブルニタルの指にとまる小鳥を指す。

 嘴を開けっぱなしの小鳥からは、ひっきりなしにヴァルトのわめき声が炸裂していた。

『こらクソベアー! 随分オイシイ戦闘楽しんでたそーじゃないか!!』

「フフッ、俺が3分の2、メルヴィンが3分の1ってところだな。雑兵相手じゃ準備体操にしかならなかった」

「ですね~。チートな楽しい戦闘でした」

 勝ち誇ったガエルに続いて、メルヴィンが意地悪く続ける。二人の報告は、明らかにヴァルトの神経を逆撫でしまくっていた。

『キューリてめー! こっちにも同じようなサポートつけろ!!』

「黙ってろって言われたしー」

 キュッリッキは嫌味たっぷりに意地悪く言った。ヴァルトの反応がおもしろすぎる。

『きぃいいいいいい!!!』

『えーと、このままだとヴァルトが大暴走しちゃいそうなので、縛り上げますから、あなたたちはエグザイルシステムの確保をして、そこで待機していてください』

 離せ弱小どもー! という雄叫びがバックコーラスとして流れていたが、カーティスはスルーして続けた。恐らくタルコットとルーファスが押さえ込んでいるのだろう。

『確保とシステムの状態を確認したら、ベルトルド卿に一旦報告を入れておいてください。こちらの作戦が終了次第連絡をいれますから、よろしくお願いします』

「判りましたカーティスさん」

『では後ほど』

 ぐおおおおおおおっというヴァルトの叫び声が最後になり、小鳥は嘴を閉じた。

 カーティスサイドの状況が脳裏に浮かんで、4人は疲れたような笑いを吐き出した。




第二章 エグザイルシステム 遺跡(一) 013 続く


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012 エグザイルシステム 遺跡(一)

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