014 第二章 エグザイルシステム 遺跡 (一)

ALCHERA-片翼の召喚士-
第二章 エグザイルシステム 遺跡(一) 014




 ソレル兵たちの居なくなったナルバ山の麓は、恐ろしい程に静まり返っていた。

 山自体にも山麓にも満足な緑は生えておらず、小動物たちが生息している形跡もない。大きな岩もなく、殺風景な場所だった。

 キュッリッキが綿毛たちに周囲を警戒させているので、異変があればすぐ判る。確保部隊の4人は堂々と山に足を踏み入れた。

 遮るものもないなだらかな裾野には、人工の道が敷かれていた。ソレル兵たちが作ったのだろう。簡素なものだったが、土や小石に足をとられることもなく、快適に登ることができた。

 5分ほどゆっくり登ったところに、ぽっかりと大きな穴が開いている。穴の上下左右は大きな岩でしっかりと固定され、自然に空いた穴ではないことだけは確かだった。ソレル兵たちが手を加えたものでもないようだ。

 ブルニタル、メルヴィン、ガエルの順で穴に入っていったが、最後尾で穴に入ろうとして、キュッリッキは足を止めた。

(うん? なんだろう…)

 ほんの微かな違和感が肌を嬲っていく気がして、キュッリッキは眉をしかめた。両腕に抱えられている仔犬姿に戻ったフェンリルも、落ち着かない様子でみじろぎしていた。

「なんだろうね、今の」

 腕の中のフェンリルに話しかける。フェンリルはキュッリッキを見上げながら、判らないといったように小さく唸った。

 危険感知はキュッリッキより広く速い。そのフェンリルが警戒していない、大丈夫なのだろうと判断することにした。

 先を行く3人の後ろ姿はすでに見えなくなっており、キュッリッキは慌てて彼らを追った。





「うわー凄~い」

 あまり広くない穴の中を通ってくると、大きく開かれた場所に出て、キュッリッキはたまらず声を上げた。

「空洞の中にこんな立派な遺跡があるとは」

 ブルニタルも感嘆しきったように、辺りを見回している。

 山に穴を開けて掘り進み、広大な空洞を作ったのか。何のために。

 捕らえられた研究者たちか、ソレル兵たちによってか照明が設置されていたので、広場の中は明るい。そのぶん高い天井が薄暗くなっていて、どのくらいの高さがあるのか判らなかった。

 厳かな石造りの神殿が、空洞の中の半分を埋めている。惑星ヒイシのいたるところで発見される遺跡の神殿と同じものだ。

 どんな神が祀られていたのか、それすら判っていないほどの古代の遺物。ブルニタルは独りごちるように呟いていた。

 ブルニタルのスキル〈才能〉は『記憶』である。一度でも目にし、耳にし、口にし、体験したものは二度と忘れない。絶対的な信頼性に基づくもので、この記憶スキル〈才能〉持ちは様々な場所で活躍している。

 しかし何故かブルニタルは、その記憶スキル〈才能〉のスペシャリストであるはずなのに、いつも小さな手帳にメモを取る癖がある。そのことを不思議に思ったキュッリッキが、少し前に突っ込んだことがあった。

「いくら記憶スキル〈才能〉があるといっても、動揺していたり感情が昂ぶったり追い詰められると、うまく記憶を辿れないことがあるので、本当に大事なことや重要なことは、メモをとるようにしているんです」

 そう真面目くさって説明してくれたことがある。

 随分デリケートなスキル〈才能〉なんだな、とキュッリッキは思った。

 神殿に4人が見入っていると、キュッリッキの腕の中からフェンリルが飛び出し、奥を目指して駆け出してしまった。

「フェンリルどこいくの!?」

 驚いたキュッリッキが慌てて追う。気づいたメルヴィンもキュッリッキを追いかけた。

 広場の奥にはさらに穴があり、そこにフェンリルは飛び込んだ。そしてすぐ出てきてキュッリッキのほうを向くと、フサフサと尻尾を振った。

「なんか見つけたっぽいなあ」

 穴の手前で止まり、尻尾を振るフェンリルを抱き上げる。

「いいもの見つけたの?」

 目線の高さに抱き上げて問いかけた。

 キュッリッキの目をじっと見て、フェンリルは鼻をひくつかせた。

「誰か居るんだね」

 その様子を後ろで黙って見ていたメルヴィンは、手近にあった篝に入っていた木の棒を取り出し火をつけて、キュッリッキより先に穴の中に踏み込んだ。穴の中は真っ暗だ。

「先に行きますので着いてきてくださいね」

「はーい」

 キュッリッキは素直に返事をすると、メルヴィンの背に張り付くようにして進んだ。

 そう距離は進まず直ぐに目的の場所に着いたようで、メルヴィンが足元にぐっと灯りをかざすと、ひと組の男女が倒れている姿が浮き上がった。

「あれっ?」

 メルヴィンの後ろから顔を出すと、キュッリッキは驚いて男女に飛びついた。

「ちょっとハドリーとファニーじゃない!! どうしたのよねえ起きてってばっ!!」

 意識を失ってる二人の胸ぐらを掴むと、容赦のない勢いでブンブン振り回す。振り回されるたび頭がゴチンゴチンと当たって痛そうだ。

「キュッリッキさんそれはちょっと…」

 メルヴィンがやんわりと止めるが、聞く耳持たずで二人をブンブン振り回したあと、女のほうを乱暴に投げ出し、あいた片手で男性の髭面に往復ビンタを連打。容赦なし。

「い…いででっ……痛い痛いいい加減にしろコラッ!!」

 さすがに気づいた男のほうが、キュッリッキの手を振りほどこうとして身をもがいた。だが、腕も身体も厳重に縛り上げられていて、身体をクネクネと動かすだけだった。

「気がついたんだねハドリー!」

 にぱっと笑顔のキュッリッキを、ハドリーは冷ややかに見やってため息をついた。

「もうちょっと優しく起こしてくれ」

「あはは…ゴメンゴメン」

 ちっとも反省してないキュッリッキをもう一度睨んで、ハドリーは身体を横に向けて腰を上げる。

「この短剣で縄を切ってくれ。それとファニーを起こしてやらねーと」

「うん」

「オレがやりましょう。これ持っててくださいキュッリッキさん」

 黙って成り行きを見ていたメルヴィンが、灯りをキュッリッキに手渡して、ハドリーの腰にある短剣を引き抜いた。

「これだけ頑丈に縛っていたら、キュッリッキさんの力じゃかえって君を傷つけてしまいそうです」

「確かに…」

「えー…」

 心外だなぁと文句を垂れるキュッリッキを無視して、縄から解放されたハドリーは、往復ビンタされた頬を痛そうに撫でる。

 メルヴィンは女性のほうの縄も切りはずしてやると、抱きかかえて軽く揺すった。

「ちょっと起こすの待ってくれ」

 ハドリーが軽くメルヴィンの手を抑えて止める。

「?」

「そいつが目を覚ますと喧しいから、先に色々話しておきたいことがあるんだ」

「……判りました」

 メルヴィンは頷くと、そのまま女性を抱き上げた。





「メルヴィン、キューリさん、どこ行っていたんですか」

 二人が戻ってくると、ブルニタルが不機嫌そうに迎える。そして人数が増えていることに気づいて、メガネをクイッとかけ直した。

「すみません、ちょっと人を助けたもので」

 メルヴィンは苦笑いして、抱えている女性を軽く持ち上げ、顔でハドリーを示す。

「アタシの友達が二人、穴の中で縛られてたの!」

 キュッリッキはハドリーの腕を掴んで引き寄せた。その様子を見て、ブルニタルは無言で頷いた。

 メルヴィンは抱えていた女性を、近くの壁際にそっと寝かせる。

「リッキーがここにいるってことは、あんたらライオン傭兵団だな」

 ハドリーは淡々とした表情で、ブルニタルと向き合った。

「助けてくれて助かった。礼を言う。俺たちは考古学者のシ・アティウスに雇われたフリーの傭兵だ」

「シ・アティウス……あ、ベルトルド氏の部下ですねそのひと」

「ああ、副宰相の部下だと言っていた」

「副宰相?」

 オウム返しにキュッリッキが聞き返すと、ハドリーが首をかしげた。

 二人の様子でピンッときたのか、ブルニタルは小さくため息をもらした。

「皇国の副宰相の名をベルトルド、そのベルトルド氏はウチのボスのことですよ」

 たっぷりと間をあけて、キュッリッキとハドリーの驚愕の一声が広場に轟く。

「宰相よりも実権を握っていると言われてる副宰相が親玉なのか……」

「そんな偉いひとには見えなかったよ~!! …エラソーだったけど」

 キュッリッキの言いように、思わずメルヴィンとガエルが吹き出す。ブルニタルはどうにか堪えて咳払いをした。

「で…だいたいの見当はつきますが、話を進めてください」

 ブルニタルがハドリーに先を促す。

「すまん。―― 俺たちは普通に『ゲート』でアルイールからこの山まできたんだが、研究者たちが調査をはじめて翌日すぐに、ソレルの軍人たちがやってきて研究者たちを拘束して連れて行っちまった」

「翌日すぐですか…」

「うん。抵抗もロクにできず、俺たちは縛り上げられてあの穴の中へ放り込まれてしまっていた」

 ハドリーたちを雇ったシ・アティウスなる考古学者は、ここへは何度か来ていて、大掛かりな調査を開始しようと、研究者たちと護衛を引き連れて訪れたようだった。

 調査を開始して半日ほどで、ハドリーはシ・アティウスから封書を渡され首都アルイールへつかいに出された。

 夜半に戻ってきても、研究者たちは灯りを消さずにずっと遺跡を調べ続けていた。

「その封書が例の報告書ですね」

「ソレルの動きが不審過ぎますねえ……」

 メルヴィンは腕を組んで考え込んだ。ブルニタルも顎に手を当てて考え込んでいたが、尻尾をひと揺らしして、メルヴィンに目を向けた。

「”普通ではないエグザイルシステム”が関係しているのでしょう。一度確認してからベルトルド氏に報告しなくては」

「ですね。ハドリーさん、この遺跡で見つかったエグザイルシステムのある場所はどこですか?」

「その神殿の中の最奥にある。俺も調査のために一度中に入ったけど、仕掛けやらはなにもなかったな」

「判りました。すみませんが案内をお願いできますか?」

「了解」

「では行きましょうみなさん」

 ブルニタルが率先して神殿に足を踏み入れる。ハドリー、メルヴィン、ガエルが続いたが。

「ね……え」

 それまで口を挟まずおとなしくしていたキュッリッキが、フェンリルを抱きしめたまま身をこわばらせ、上ずった声で4人を呼び止めた。表情が明らかに沈んで強ばっている。

「あのね…アタシここで待っててもいい?」

「どうしたんです?」

「えっと……」

 細い肩が僅かに震えている。

「なんか神殿に入るの怖い…」

「灯りも持っていくし大丈夫ですよ?」

 ブルニタルが呆れたように首をかしげてみせた。それでもキュッリッキは足がすくんだようにその場から動かず、足元に視線を貼り付けていた。

 なおも言い募ろうとブルニタルが口を開く前に、ハドリーがブルニタルの肩を掴んだ。

「なあ、どうしてもリッキーも連れて行かないとダメなのか?」

「……いえ、とくには」

「なら俺たちだけで行こう。ファニーのやつも目を覚ますかもしれないし、誰もいないんじゃ可哀想だしな」

 キュッリッキがああした態度に出るときは、きまって何かを敏感に感じ取っていることをハドリーは知っている。そして無理強いしないほうがいいことも判っていた。

「ファニーが目を覚ましたら、ちゃんと説明してやるんだぞ」

「うん」

 ハドリーはキュッリッキに優しく笑んで、3人を促して神殿に入っていった。

 4人を見送ったあと、キュッリッキは寝ているファニーのそばに座り込んで、神殿の入口を見つめた。

「なんでこんなに”怖い”って思うのかな……」





 神殿の中は極めて単純で、長方形をやや細長くしただけの、箱のような作りをしている。内装も殆どしておらず、石を積み上げ敷き詰めただけの味気ないものだった。芸術的価値を無理に見出そうとするなら、円筒に削られた石の柱だけだろうか。

「これじゃあ迷いようがありませんね」

 ブルニタルはややつまらなさそうに、見たままの感想を述べた。

「本当に…」

 頷きながらメルヴィンも同意する。入口から一直線に歩いてるだけだった。これなら案内は必要なかったかもしれない。

「あんたらの言ってた”普通じゃないエグザイルシステム”とやらは、多分それのことだろう」

 ハドリーが前方を指すと、ほのかな灯りにうっそりと浮かんだ先には、祭壇のようなものが見えてきた。

「これがエグザイルシステム…ですか?」

 間近で見るそれは、彼らの知っているエグザイルシステムとは明らかに異なるものだった。



第二章 エグザイルシステム 遺跡(一) 終わり


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Comments 2

八少女 夕

あら……

リッキーにも怖いものがあるのですね。
というか、すごいから怖いものも敏感に感じ取るのかしら。

そういうところにリッキーなしで入っても大丈夫かしら。
怖いってことは、なにかありそうですよね。
続きをすぐに読みたいような、お布団を被ってやり過ごしたいような……。

個人的に熊ちゃんガエルを応援中です。

2014-03-16 (Sun) 02:14 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: あら……

八少女さんこんにちわ~(*´∀`*)

キュッリッキさんの怖いものは虫の蜘蛛です(笑)
姿を見ただけで全速力で逃げます☆

今回の怖いものの正体は、あとでとんでもない形で登場するですw
そこを丁寧に書けないときっとずっこける自信があります(・_・;)
もうちょっとお待ちください(´∀`*)

ガエルは傭兵団の中では、一番かっこよく一番年長さんですw
ユズキがクマのぬいぐるみ大好きなので、一家に一つほしい・・・て思うような見た目かもしれません(*'-')

2014-03-16 (Sun) 16:28 | EDIT | REPLY |   

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