003 第一章 ライオン傭兵団 仲間(一)

第一章 ライオン傭兵団 仲間(一) 003



「そ~~~~~~~いっ!」

 ヴァルトは元気に掛け声をあげると、キュッリッキを藁束の上に放り投げた。

 上空三メートルから勢いよく放り投げられ、顔面から藁束に突っ込んで、盛大に舞ったホコリと藁くずにまみれてしまった。

「俺様ナイスコントロール!」

 腕組をしながら満足そうに頷く。

(いつか……絶対……ぶっ殺す!!)

 よろよろと上体を起こし、キュッリッキは心の中で拳を固く握った。

 ホコリと藁くずの舞がおさまるのを見計らってヴァルトは降りてくると、キュッリッキの横に着地し胡座をかいた。

 家畜の餌用にまとめられた大きな藁束が、いくつも無造作に置かれた倉庫裏の一画だった。人気もなく辺りを気にする必要もない。

「で……話ってなに?」

 身体についたホコリと藁くずを叩き落としながら、藁束の上から飛び降りる。

「オマエ、あの片翼の出来損ないだろ?」

 ヴァルトは胡座をかいた上に肩肘をついて、じっとキュッリッキを見おろしている。

 キュッリッキはそんなヴァルトを険しく睨み上げた。

「……同族なんだから知ってるでしょ」

「まーね。オマエ結構有名だったから」

 ヴァルトは言葉を一旦切ると、視線をキュッリッキから空へと向ける。

「アイオン族は完璧であらねばならない。欠陥品はクズ同然、アイオン族を名乗るのもおこがましい。飛ばない鳥を鳥とは言わない。アイオン族の面汚し」

「……」

「三代前のおーさまがきっぱり宣言しちゃったせいで、オマエみたいな奇形児は風当たり冷たかったんだろうな」

 キュッリッキの脳裏に浮かぶ幼い頃の光景。

 空を見上げている少女、ボロをまとって悲しげに、すがるようにただただ空を見上げていた。

 キュッリッキはそっと目を伏せた。




 世界には大きく分けて三つの種族が住んでいる。

 肌の色や髪の色、瞳の色や体格差などは様々だが、突出した身体的特徴を持たず、固有能力も持たない人間であるヴィプネン族。もっとも人口が多い。

 動物や魚などの能力を有し、またその姿もそれに近い人間のトゥーリ族。唯一鳥類だけはいない。

 そして、背に2枚の巨大な翼を有し、天空を自在に翔け風を読み、ほとんどのものが優れた容姿を持つアイオン族。

 翼は自在に身体から出し入れ可能で、翼をしまっている状態ではヴィプネン族と見分けがつかない。気位が高い上に選民意識が強く、他種族を見下す傾向があり、それを隠しもせず露骨に振舞う者が多いことから、アイオン族を快く思わない者が多い。

 その極みとも言えるアイオン族の第57代皇帝アルファルド。

 この男が帝位に就く際に、

「アイオン族は完璧であらねばならない! 欠陥品はクズ同然であり、アイオン族を名乗るのもおこがましいのである。飛ばない鳥を鳥とは言わないであろう!!」

 拳をふるい、民衆の前で熱弁した。

「予の治める国にそんな欠陥品はいらぬ、アイオン族の面汚しは即刻排除すべし!!」

 そう布告を出した。

 身体に障害を持つ者は容赦なく駆逐され、惑星ペッコに悲劇の嵐が吹き荒れたが、アルファルドが死んで皇太子のレムリウスが帝位を継ぐと、無慈悲な布告は即排除された。

 しかし40年以上も続いた悪習はアイオン族に深く根付き、すぐにはぬぐい去られず、それはいまだに暗い影を落とし続けていた。

「翼見して」

 ヴァルトは何の感情もこもらぬ声で言う。

 キュッリッキは複雑な表情を浮かべ、きゅっと下唇を噛んだ。両手の拳を握り、肩を震わせる。無言で恨めしそうにヴァルトを睨みあげた。

 そんなキュッリッキの視線をものともせず、ヴァルトは青い瞳でただ、キュッリッキの瞳を見つめ返した。

 素の色は緑系だろうか。瞳は虹色の光彩を放ち、不思議な色に染まっている。

 ヴァルトは自由都市に住んでいた頃に、両親から聞かされた奇形児の話を思い出していた。

 アイオン族に生まれ落ちた、稀少中の稀少、召喚スキルを持った奇形児の少女のことを。

 本来なら、種族をあげてその誕生を祝い称えることになっただろうに、奇形児として生まれてしまったため、種族をあげて蔑まされる羽目になった。

 その少女の名を、キュッリッキといった。

 両親はその話をするとき、少女のことを痛々しそうに話していた。

 悪習の名残から、奇形児のことをそんな風に話すアイオン族は殆どいないが、アイオン族の治める惑星ペッコから離れ、他惑星で暮らすアイオン族の中には、そうした偏見を持たない者が少なからず居た。

 ヴァルトの両親も、偏見とは無縁の性格をしている者たちだった。

 そんな両親たちに育てられたヴァルトも、偏見意識は殆どない。蔑まされる少女を可愛そうだとも思ったし、出会うことがあれば、力になってあげたいとも思っていた。

 そしてなにより興味深いことがあった。それを確かめたくて、キュッリッキを攫うようにして人気のないここまで連れてきたのだった。

 ヴァルトは何も言わず、キュッリッキが翼を出すまで黙って見おろしていた。

 キュッリッキはヴァルトを睨み続けていたが、やがて観念したように目を伏せると、小さな溜息をこぼした。

 両手を胸の前で交差させ、腕を抱く。僅かに前のめりになるようにすると、腕を抱いた手に若干力を込めた。

 ヴァルトは大きく目を見開いた。

 そこには、見事な翼が右側に一つと、朽ち果てたような無様な翼が左側に一つ。

「噂は本当だったんだなあ……」

 上ずったような声でヴァルトは呟いた。

 その呟きを、キュッリッキは片翼のことだと思って顔を俯かせた。

「瞳と同じように、翼も虹色の光彩をまとっているのか~。キレーだなあ」

「え?」

「オマエの噂話を聞いたとき、その翼の色の話も聞いたんだ。召喚スキルを持つと翼の色までチガウもんなんだなって」

 アイオン族の翼は本来白色をしている。クリーム色系をしていたり、青みがかっていたり、個人差は多少あるものの、真っ白な翼をしているものだ。しかし、キュッリッキは生まれ落ちた時から、翼にも虹色の光彩が散らばっていて、それは珍しいと噂になった。

「会うことがあれば、一回見たかったんだ~。過去アイオン族に召喚スキルを持った奴がいたって話は聞いたことないしな」

「そういえばそうね…」

 キュッリッキは僅かに考え込むように首をかしげた。

 そもそも自分以外の召喚士に出会ったことがないから、よく判らない。

「あんがとな! もう仕舞っていいぞ」

 大満足そうに鼻息をつくと、ヴァルトはふとキュッリッキの背後に目を走らせた。

「おーーーい! そこでなに覗き見してるんだ覗き魔!!」

「!?」

 ヴァルトは藁束の上に立ち上がり、片手を腰にあて、もう片方の手を前方に伸ばして、人差し指を積まれた木箱にビシリと向けた。

「あれ~、判っちゃった~?」

 ヘラリとした笑い声と共に、木箱の影からザカリーが姿を現した。

「バレバレだろーが、バカだな!!」

 ヴァルトは腕を組んで仁王立ちしながらザカリーを睨みつけた。

 ザカリーは降参のポーズを取りながら二人のそばにくると、いまだに翼を出しっぱなしのキュッリッキに、物珍しそうな視線を向けた。

「まさかアイオン族だったとはねぇ~。珍しい色の翼だし、今日はびっくりさせられっぱなしだよキミに」

 興味津々の笑みをキュッリッキに向けたが、返ってきたのは怒りに染まった殺意に満ちた視線だった。

 キュッリッキはザカリーに色々と言ってやりたいことがたくさんあったが、怒りと屈辱でうまく言葉が出せない。頭の中はパニックに陥っていた。

 自分がアイオン族であることはずっと隠してきた。片翼の奇形の為飛ぶことが出来ないからだ。

 アイオン族が他種族からどれほど嫌われているかは、これまでの傭兵生活でよく知っている。高慢ちきで気位の高い種族、だと。

 そんなアイオン族であるキュッリッキの奇形の翼を見たら、これみよがしに侮辱を受けるに違いなかった。

 同種族からも散々受けてきたのに、他種族にまで侮辱されるなど、キュッリッキには耐えられない。

 他人に翼を見せることに、激しい抵抗はあったが、ヴァルトは同種族の者同士で事情も知っていることから、嫌だったけども見せたのだ。それなのにヴィプネン族であるザカリーにまで見られてしまった。

 屈辱と怒りで殺気を放つキュッリッキを見て、ヴァルトは軽く首を横にふると、藁束から勢いよく飛び降りた。そしてポンッとキュッリッキの頭を叩き、間隔を置いて、もう一度ポンッと頭を叩いた。

「すまんかったな。ザカリーに気付かなかった」

 そう小声でキュッリッキに言うと、ザカリーとキュッリッキの間に立ち、キュッリッキを背に庇うような位置でザカリーを見おろす。

 ヴァルトはザカリーより頭3つぶん背が高かった。更に翼を広げたままなので、完全に視界を遮られてキュッリッキが見えなくなった。

「見ちゃったモンはしょーがないが、このことは黙ってろよ!!」

 仁王立ちに腕組のポーズ。更にふんぞり返っている。

 ザカリーはバツが悪そうに頭をカシカシかくと、上目遣いにヴァルトを見た。

「言いふらすことじゃないから、黙っとく」

「アタリマエダ!!」

 更にヴァルトはふんぞり返った。

「まあ……なんだ、オレは先にアジトに戻っておくよ」

 身体をずらしてキュッリッキを見ようとしたが、がっちりとヴァルトにガードされて見えなかった。

「あきらめろん!」

「へいへい」

 ザカリーはジャケットに手を突っ込むと、のらりくらりとその場をあとにした。

 歩きながら、キュッリッキの背に見えた翼を思い出す。大きな翼と、翼の形を成していなかった無残な翼を。

(片方の翼がいびつだったな…)

 話は聞こえてこなかったが、キュッリッキのあの怒り様と、ヴァルトの庇うような姿勢から、見てはいけなかったものを見てしまったということだけは察しがついた。

 ヴァルトがキュッリッキを抱えて飛んでいくのが部屋から見えたので、気になって着いてきてしまったが、興味本位で見るものじゃなかったのだと、少し後悔の念が押し寄せてきて、ザカリーは軽い憂鬱気分に陥った。




第一章 ライオン傭兵団 仲間(一) 終わり



004 ライオン傭兵団 仲間(二)

002 ライオン傭兵団 仲間(一)

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Comments 2

稲田 新太郎

言わないでおこうかなと思ってたけど、やっぱり言おう。
この子、うちのヒロインより不幸じゃない?

2014-06-24 (Tue) 02:44 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: タイトルなし

稲田さんおはようございます(*´∀`*)

>この子、うちのヒロインより不幸じゃない?

言われてしまったあ((((;゚Д゚))))!!

よそのお子さまに不幸な生い立ち度には引けを取らない自信はあります!w
でも、ウチも彼女が最後は幸せになるようなシーンを用意しています(^ω^)
途中かわいそうなメに合いますが!w

2014-06-24 (Tue) 05:55 | EDIT | REPLY |   

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