018 第二章 エグザイルシステム 遺跡 (二)

今回から遺跡(二)に突撃です。


そしていきなりキュッリッキさん大ぴんちです(・ω・)


なんでそんなにザカリーに突っ慳貪なのかも今回で明らかに。





ALCHERA-片翼の召喚士-
第二章 エグザイルシステム 遺跡(二) 018



「なんだか急に、賑やかになったわね…」

 ファニーは傍らのハドリーにそっと囁く。無言で相槌を打つと、ハドリーは遺跡の中を見渡した。

 突如ソレル兵に捕らえられ連行されてしまった皇国の研究者たちを救出するため、副宰相の命令で送り込まれてきたというライオン傭兵団。たった一日で作戦を成功させ、今こうして団員全てがここに集結している。戦闘員は一人で一個大隊・一個師団級の戦闘力をほこると噂されていた。

 装備、武器、パッと見ただけでも、相当の品だと判る。その上チートスキル〈才能〉者だらけときた。フリーの傭兵たちにとって憧れであり、嫉妬の対象でもあるのだ。

 そんな連中の中に、親友のキュッリッキが入った。

 元々フリーでチマチマ稼ぐには、勿体無いスキル〈才能〉の持ち主なのだ。本来なら国に召し上げられるほどの貴重なスキル〈才能〉である。

 しかし当人はそれについては全く意識しておらず、仕事は選ばず依頼があれば受け、小さい傭兵団でも期間限定雇用でもなんでも入っていった。それは友人であるファニーの影響が強いせいもあったし、キュッリッキには自分が特別な存在だという自意識がないからだ。

 ようやくそのスキル〈才能〉に相応しい場所に入れたのかと安堵して、ハドリーはつい親のような気持ちになってしまい苦笑する。

 合流したライオン傭兵団のメンバーたちは、遺跡の中で各々の武勇伝を語り、笑い、盛り上がっていた。

「ファニーちゃんって言ったっけ、こんな可愛い子を縛って穴ぐらに放り込んでおくとか、ソレル兵も酷いことするよねー」

 所在無げに隅に座っていたハドリーとファニーのところに、ルーファスが近づいてきて、ファニーの隣に座った。そしてすかさず擦り寄り強引に手を取って握る。

「どこに住んでるの? 仕事終わったら飲みに行かないか」

「えっと…」

 顔を近づけてきて囁くように言うルーファスを、ファニーは顔を引きつらせながら少しずつ避ける。ハドリーは素知らぬ顔で明後日の方向を向いていた。

 キュッリッキはその様子を遠巻きに見ながら、少しふくれっ面になった。

(ファニーがちょっとくらい胸おっきいからって……)

 ルーファスは巨乳専と豪語するだけあって目ざとかった。ファニーに目を留めると、すぐにちょっかいを出し始めていた。

 別にファニーにちょっかいを出すのは構わなかったが、キュッリッキには顔を見るなり、頭をクシャクシャと撫で回して褒めるだけ。いい子いい子するとか、殆ど子供扱いに等しい。

 ファニーはキュッリッキより3つ年上だったが、その扱われ方の差に、なんだか酷く不満があるのだった。

「召喚士というのは君かね?」

「はい?」

 ふくれっ面のまま顔を向けると、衣服が血まみれの無表情な男がキュッリッキを見おろしていた。顔や頭の血は拭われていたが、白衣にはべっとりと黒々とした血が染み付いていて、その姿にギョッとする。

「私はアルケラ研究機関ケレヴィルの研究員をしているシ・アティウスという」

 差し出されたシ・アティウスの手を握り返し、キュッリッキは僅かに首をかしげた。

(アルケラ研究機関? ってなんだろう…)

「ケレヴィルの方だったのですか」

 そばにいたカーティスが呟いた。どこの所属かは知らなかったようだ。

 不思議そうにシ・アティウスとカーティスを交互に見やるキュッリッキに、カーティスは頷く。

「あなた方召喚士たちだけが覗き〈視る〉ことができるというアルケラについて、色々と研究をしている機関が皇国にはあるんですよ。そこの機関名をケレヴィルといいます」

「太古にはこの世界に存在していたという神の国アルケラ。突如姿を消し今となっては召喚スキル〈才能〉を持つ者だけがアルケラの実在を確認できるだけにとどまっている。もはや空想世界のことだと思われ伝説化されてるが、アルケラが存在していた形跡がこれら遺跡には遺っていてね。そうしたものを調べることを仕事にしている」

 カーティスの言葉を継いで、シ・アティウスが説明をしてくれた。

 神の国、神の世界、幻の世界。アルケラという名すら知らないひとが多い中、実在している証明が出来るのは召喚スキル〈才能〉を持つ者だけ。その召喚スキル〈才能〉を持つ者の存在すら稀なのだ。

「あのね、あのね、アルケラは、ちゃんとあるんだよ」

 キュッリッキは抱えていた小さなフェンリルを見せて、どこか必死に訴える。

「この子だってアルケラから来たし、さっきの鳥たちもだよ。幻じゃないの、アルケラはあるの」

 その様子に、初めてシ・アティウスは相好を崩した。

「もちろん我々も信じて研究をしている。そうでなければ危険な思いをしてまでこの遺跡を調べにこない」

「うん」

「君は宮廷のどの召喚士たちよりも強い力を秘めているようだね。正直召喚士がそんに凄いことができるとは知らなかったくらいだ」

 これには他の研究員たちも頷きあった。

 他の召喚士たちを知らないキュッリッキには、やはり違いがピンとこなかった。自分と同じようにアルケラの住人たちと話ができて、通じ合い、こちらの世界に招き寄せられるものだと思っていたから。

 一度、他の召喚士に会ってみたくなっていた。

「いずれはケレヴィルの施設で色々調べさせてもらいたいくらいだ」

「こんな狼っ子調べてたら、噛み付かれちゃいますよ」

 おどけたようにザカリーが話に割って入ってきた。

 殆ど条件反射のように肩を怒らせると、キュッリッキは噛み付くような顔でザカリーに振り向いた。

「なによっ!」

「ホラッ」

 からかうように身体を避けてみせる。

 あの日キュッリッキの秘密を覗き見したことで、以来話しかけてもまともに話してくれず、声をかければそっぽを向くか無視をされ続けていた。

 可愛い子専を自負するザカリーは、10歳も年下のキュッリッキを気に入っている。

 背も小さく華奢で、本人は全く自覚していないが、キュッリッキは美少女なのだ。アジトの近所でもすぐ評判になった。手を出そうとする輩も多い界隈に、ザカリーとしては気が気じゃないのだ。

 まだ女の顔よりも、あどけない表情をくるくるさせるキュッリッキに、笑いかけて欲しくて必死にちょっかいを出すが、なかなか成功しない。

 こうしてからかったときくらいしか、顔を合わせてくれようともしないので、ザカリーとしてはキュッリッキを怒らせるしか手段がなかった。

 一方キュッリッキはザカリーに話しかけられるたびに、心底ビクビクしていた。アイオン族であることが、みんなにバレるんじゃないかと。彼は秘密を話すんじゃないか。その不安が態度を頑なにさせている。

 ザカリーのことは、好きとか嫌いじゃない。ただただ不安で不安で、その存在自体が怖くてたまらない。ヴァルトも同じように秘密を知る者だが、同じ種族で事情も知っているから、無闇にバラすことはないだろうと信じられた。

 もちろんザカリーには秘密をバラす気など、そんなつもりは毛頭ない。だが、キュッリッキがザカリーを信用していないことだけは判っていた。

 不安を隠すために、態度が強気になり険悪になる。

 理由は知らないまでも、ザカリーが話しかけるとキュッリッキの態度が意固地になるのはカーティスにも判っていたので、ザカリーを軽くたしなめる。

「あんまりキューリさんを、からかわないで下さいよ」

「だってよ、退屈なんだもん。なあ」

 ザカリーは強引にキュッリッキの肩を抱き寄せた。

「退屈だしさ、神殿の中で楽しいことしようぜ」

 神殿の中、と言われて、キュッリッキの表情が咄嗟に強張る。

 その様子を怪訝そうに見て、ザカリーは首をかしげると、なにか思い当たったように頷いて頬を掻いた。

「あー……なんか神殿が怖いとか言ってるんだっけか」

「……」

 キュッリッキは身を固くしたままむっすりと黙り込む。

「だって、何もなかったんだろ? 例の意味不明のエグザイルシステムらしきものだけがあったとかでさ」

 ザカリーがシ・アティウスに顔を向けると、無言の肯定が返ってきた。

「大丈夫だって。俺が一緒にいてやるからよ」

 にやけたような笑顔を向けながら言うザカリーの顔を、キュッリッキは力いっぱい引っぱたく。

「ザカリーのバカ! 大っ嫌いなんだからっ!!」

 遺跡の中に轟くような大声に、何事かと皆一斉に二人の方を向いた。

 叩かれた頬に手をあてながら、さすがにザカリーもムッとしてキュッリッキを睨みつける。これまでの不満が、一気に感情を昂ぶらせた。

「ったく……何なんだよ、いっつもふくれっ面でよ! あのことは別に」

 そこまで言いさして、内心で舌打ちする。

「おい」

 ヴァルトが声を上げた。

 今まで怒っていたキュッリッキの表情が急に怯え出し、大きく見張った目からは大粒の涙が溢れだした。

 たよりなげな身体を震わせ、ポロポロと落ちた涙がフェンリルの頭で弾ける。

 フェンリルはキュッリッキの腕の中で、表情を険しくさせザカリーを睨みつけていた。

「いや……そんなつもりはないからその」

 慌てて取り繕うが、ザカリーは狼狽し、言い訳を必死に考えるが思いつかない。つい口走りそうになったことを激しく後悔した。ちょっとからかっただけで、こんなに泣かれることになるとは、どうしていいか判らなくなった。

 二人のやり取りを、みな困惑を浮かべながら見ている。キュッリッキとザカリーがよく喧嘩していることは知っていたが、泣かせるところはさすがに初めて見る。

 キュッリッキは一度しゃくり上げると、踵を返し神殿へと走り出した。

「あ、おい」

 ザカリーはキュッリッキの肩を掴み損ねて空ぶった。

 あれだけ怯えていた神殿に駆け込んでいってしまった後ろ姿を唖然と見やり、遺跡内にはどうしよう、という空気が重く漂った。

 発する言葉を探すように沈黙を続けるその場に、突如地震のような振動が襲った。

 立っていた者たちが、思わずよろけるほど大きい。

「何故地震が!?」

 シビルが声をあげるとほぼ同時に、神殿からキュッリッキの悲鳴が聴こえてきた。

「キューリ!」

「キュッリッキさん!?」

 悲鳴に弾かれ、何事かと全員神殿に駆け込み、そこで一様に目を剥く。

「おい、なんだこれ!?」

 ギャリーは驚いて思わず声を上げる。

 それまで何もなく、縦長一直線だった暗い神殿の中には、いくつもの壁や柱が出現していて、複雑な様相を呈していた。

 突如様変わりした神殿内部に唖然と驚く一同に、更にキュッリッキの切羽詰まった悲鳴が届く。

 ハッとしたようにカーティスの指示が飛ぶ。

「ケレヴィルの皆さんは外に出ていてください。キューリさんのお友達とブルニタルも。捜索は我々だけでやりましょう」

 みな黙って頷いた。

「作戦のときの班で別れて探しましょう。ルーファスとハーマンとランドンはメルヴィンの班へ移って。急ぎますよ」

 カーティスの指示で3班に分かれると、それぞれ神殿の内部に突入した。





 キュッリッキは生まれて初めてだと思うくらいの悲鳴を、喉から絞り出した。

 突如目の前に巨大な怪物が現れたからだ。

 柱の影から現れたそれは、あまりにも異様な様をしている。生臭い息と唾液を滴らせ、黄色く濁った目には血のような紅い瞳が斑点のように張り付いている。大きな口は耳まで裂け、黄ばんだ鋭い牙が何本ものぞいていた。

 人面をした巨大なライオンのような怪物は、仰け反り見上げるほどに大きい。硬い甲羅に覆われた長い尾が、せわしなく揺れ動いている。獲物を見つけた愉悦に浸る怪物に、すぐさまフェンリルで応戦しようとしたとき、足元にいたフェンリルが突然何かに吸い込まれるようにかき消えたのだ。

 驚いてすぐさま再召喚しようとしたが、目を凝らしても何も〈視え〉ない。

「アルケラが〈視え〉ない……なんで?」

 視線を前方に彷徨わせ、キュッリッキは激しく狼狽えた。

 怪物は距離をゆっくりと取って前脚を動かしている。キュッリッキはジリジリと壁際に後退していった。

 何度も試してみたが、その目に見えていたアルケラは何も映らず、ただただ目の前の怪物の姿をその瞳に映し出すだけだった。

 召喚が使えなければ、キュッリッキには戦う術が何もない。

 武術も剣術も使えない。まして護身用の短剣すら持ち歩いていないのだ。逃げることしか出来ない。

 怪物はすぐには襲いかかってくる様子はなく、キュッリッキの出方を探っているようだった。

 知性があるのだろうか。それならば、タイミングを見て逃げ出せばいい。

(いまだ)

 キュッリッキは素早く翻って駆け出した。

 不意をつかれた怪物も、すぐさま前脚を跳ね上げ走り出した。





 花崗岩で作られた神殿には、どこにも窓がない。もっとも山中を掘った洞窟の中に建てられているのだから、明かりなど射すはずもなかった。

 最初の調査では、だだっ広い長方形のような長い部屋しかないと言っていたが、今はあちこちを石の壁で区切られ、大小様々な部屋ができ、通路の壁に据えられた篝には、小さな灯りが点っていた。

 壁には幾何学模様のようなレリーフが埋め込まれ、カビ臭さは一切なく、石はじっとりと冷気を含んで湿っていた。

 その中を、キュッリッキは闇雲に走り逃げ回った。時折石畳の切れ目に足を取られそうになるが、たたらを踏みながらも転ばずひたすら走った。

 怪物は追いかけっこを愉しむかのように、わざとキュッリッキとの距離を取って追いかけている。明らかに遊んでいた。 

 怪物のそんな様子にも気づかず、キュッリッキの頭の中は混乱してぐちゃぐちゃだった。急にフェンリルは消える、アルケラが〈視え〉なくなる、召喚が使えない、神殿の中は複雑構造で出口がわからない、見たこともない怪物に追いかけられている。

 パニックに陥っていた。

 こんなことは初めてだった。

 フェンリルが初めてキュッリッキの元へ来た時から、一度も消えることなくずっとそばにいてくれたのだ。それに当たり前のように〈視え〉ていたアルケラが、〈視え〉なくなるなんてことも今までなかった。

(どうしよう、どうしよう)

 心の中に、不安と恐怖が広がっていく。どうしていいか判らず、涙が溢れて視界を曇らせた。

 ついさっきまでザカリーと喧嘩をしていたことなぞ吹き飛んでいた。

 怪物はゆっくりとだが、確実にキュッリッキを追いかけてきていた。獲物を追い詰め遊ぶかのように。

 大きく開けた明るい場所に出て、そこで石畳に滑って転びそうになる。前につんのめり倒れそうになったところを、追いついてきた怪物に激しく背中を強打された。

「うぐっ」

 数メートルほど吹っ飛ばされ、石畳に打ち付けた肩から背中で滑るように落ち、息が詰まった。全身に痛みが走り小さく呻く。

 逃げるために急いで起き上がろうとするが、思うように身体が動かない。意志とは裏腹に、手足に力が入らない。急に全力で走ったこともあり、筋肉が震えている。

 大きく息を吸い込むと胸が軋んだ。肋骨にヒビでも入ったのだろうか。痛みで一瞬視界がぐらりと揺れた。

(逃げ…なきゃ)

 か細い腕に力をこめて、それでも身体を起こして立ち上がろうとするが、すでに怪物は目の前に立っていた。

 足元の小さな獲物が逃げられないことを悟ったように、裂けた口がイヤらしく歪んで広がった。どす黒い長い舌が牙の隙間から垂れ落ち、鼻を塞ぎたくなるほどの異臭を含んだ唾液が床に滴り落ちた。

(誰か……)

 痛みと恐怖で涙が止まらなかった。

(お願い…誰か助けて……)

 怪物は目を細めると、鋭い爪を備えた前脚を上げ、勢いをつけて振り下ろした。



第二章 エグザイルシステム 遺跡(二) 続く



019 エグザイルシステム 遺跡(一)

017 エグザイルシステム 遺跡(一)

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Comments 2

ふぉるて

No title

こんばんは~(*^ ^*)

いきなりキュッリッキちゃん大ピンチ!!Σ(・□・;)
これからどうなるんでしょう~~(><)e-330 どきどき

次回がとっても気になりまする(;><)

ではでは~~☆

2014-03-27 (Thu) 01:39 | EDIT | REPLY |   

ユズキ

Re: No title

ふぉるてさんおはようございま~す(*´∀`*)

ちょー大ぴんちですよー><!!
ザカリーが一生涯後悔し続ける事態になっていきまする。

このイベントをこなさないと、御大が登場できないので(笑)
なるべく早く書けかけ催促されてます(;ω;)w

2014-03-27 (Thu) 04:55 | EDIT | REPLY |   

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